2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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建材情報交流会ニュース

 第48回
「木材利用の最新動向と将来展望」

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基調講演
「官庁施設における木材利用について」

  高木 香子氏 国土交通省 近畿地方整備局 整備課 営繕技術専門官
 


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■官庁営繕の役割は、防災や利便のための施設整備
 官庁営繕は国土交通省の組織の一つです。官庁営繕の役割・目的は、官公法によると、災害の防除、公衆の利便、公務の能率増進を図ること。これに基づいて私たちは施設整備を行っています。
 具体的には狭あい化や老朽化した施設の建て替え、耐震性能が不足している施設の耐震改修、施設の集約化です。ハートビル対策、省エネルギー化なども行っています。施設整備は営繕部で行いますが、実際の施設管理はそれぞれ入居している各官署が行い、営繕部はそれに対し技術的な相談、指導をしています。
 施設を調査し、調査・保全結果に基づいて施設整備の企画を行い、企画に基づく設計、工事発注、工事監理を行っています。技術基準等は本省で整備され、私たち地方整備局の営業部が実際に建物を整備していく実行部隊に当たります(図1)。
 近畿地方整備局の営繕部で整備した事例を紹介します。堺地方合同庁舎、大阪高等検察庁が入っている大阪中之島合同庁舎、PFI事業で整備した大津びわ湖合同庁舎、内装に木材を使用したハローワーク阿倍野、大阪府警察学校、京都府警察学校の本館。
 1991(平成3)年完成の神戸地方裁判所は、明治37年にできたレンガ造の部分に歴史的な価値があるということで、外観をそのまま残すファサード保存という方法が取られました。レンガ造の上にはガラスのカーテンウォールを施した建物が新しく建設されました。
 彦根の地方気象台は昭和7年のもので、全国で3番目に古い気象台。創建当時の姿に戻そうと復元している事例です。舞鶴港湾合同庁舎は耐震改修の事例です。
 他に、堺市の国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)、国立国会図書館関西館、中之島にある国立国際美術館、京都地方合同庁舎、税務大学校大阪研修所、国立京都国際会館などがあります。2013(平成25)年に完成した谷口吉生氏設計の京都国立博物館・平成知新館は、展示室の床、展示通路の壁などに木材を使っています。

■木材利用促進の法律制定で大きな方針転換
 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が2010(平成22)年に制定されました。それ以前の、公共建築物の防耐火に係る経緯をまず説明します。昭和25年の「都市建築物の不燃化の促進に関する決議」で、「新たに建設する官公衙(かんこうが)等は原則として不燃構造とすること」とされました。
 昭和30年の「木材資源利用合理化方策」では「耐火建築の普及奨励を推進し、国および地方公共団体は率先垂範すると共にその建築費用の低下を図るため構造部材の規格化と設計の標準化の施策を推進すること」と書かれています。
 昭和25年の決議には「わが国の建築物がほとんど木造であって火災に対してまったく対抗力を有していない」、昭和30年の方策にも「森林の過伐傾向ははなはだしく、…木材資源の枯渇を招く」といったような表現がなされています。木材ではなくコンクリートで建物をつくろうという方針が昭和25〜30年頃に示されていたことになります。耐火建築物をつくるべきという考えで50年、60年来ていたので、国もあまり木材を念頭に置いていませんでした。
 従って「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は実務上の大きな方針転換だったと認識しています(図2)。国は率先して公共建築物における木材の利用に努め、そのための基本方針を定めることが法律で定められています。基本方針においては「建築基準法その他の法令に基づく基準において耐火建築物とすること、または主要構造部を耐火構造とすることが求められていない低層の公共建築物において積極的に木造化を促進する」と記載されています。つまり耐火建築物とすることが求められていると積極的に木造化を促進する対象とはなりません。
 官公法の規定は建築基準法よりも厳しく、建築基準法上は耐火建築物を求められなくても官公法では耐火建築物にしなければならない場合があります。規定が厳しいだけでなく、災害応急対策活動に必要な施設など木造化になじまない施設もあり、木造化の対象となる施設が少ないのが現状です。
 木造化が難しくとも、内装の木質化は積極的にやっていきましょうというのが私たちの方針で、特にエントランスホールなど国民の目に直接触れるところは原則、木質化することになっています。
 「5つの環境づくり」が営繕部の取り組み内容です。@制度環境づくりは国土交通省の木材利用計画。A財務環境づくり。予算要求する際に使う、新営予算単価というものがあり、その中に木造の単価をつくっています。B技術環境づくり。法律ができてから、標準仕様書やガイドライン、整備指針などを、整備しています。C人的環境づくり。この中に出前講座もあるのですが、今日はその出前講座の一環で来ています。D情報環境づくり。ホームページなどによる情報発信にも営繕部では取り組んでいます(図3)。

■木造計画・設計基準??構造計算もしっかりと
 木造計画・設計基準とは、木造の事務所建築の設計に関して必要な技術的事項および標準的手法をまとめたものです。木造ではないときの建築設計や構造設計の基準はもともとありましたが、法の制定を受けて既存の基準で不足している木造に関する基準もつくることになりました。設計関連基準の中に「木造計画・設計基準」があるのですが、2011(平成23)年5月に制定されています。
 木造計画・設計基準の概要は「官庁営繕が行う木造の官庁施設の設計に関し、必要な技術的事項および標準的手法を定める」というもの。ポイントとしては、耐久性、防耐火、構造計算、構造材料があり、構造計算では「事務所用途の荷重に対応するため、原則として構造計算を行う」こととなっています。もともと木造は住宅が多く、法律も住宅用途の荷重を念頭に定められているものもあります。しかし事務所用途の建築物に木造住宅の設計手法や方法を必ずしも適用できないため、通常構造計算は必要ないものでも事務所用途の荷重に対応するため、原則として構造計算を行うこととしています(図4)。

■官庁施設における木造耐火建築物の整備指針
 2013(平成25)年3月に策定された「官庁施設における木造耐火建築物の整備指針」は、官公施設としての性能は確保しつつ木造耐火建築物を適切に設計等する手法をまとめたものです。耐火建築物とすることが求められる場合は積極的に木造化を促進する対象から外れるのですが、基本方針では耐火建築物とすること等が求められる公共建築物であっても、木材の耐火性等に関する技術開発の推進状況等を踏まえ、木造化が可能と判断されるものについては木造化を図るよう努めるものとするという記載もあります。とはいえなかなかコスト面、構造計画で困難なのが現実です。そういう背景の中でまとめられた整備指針というわけです。 整備指針は本編と資料編に分かれています。本編第3章の木造耐火建築物の整備に関する技術的事項では、メンブレン型建築物、燃え止まり型建築物、鋼材内蔵型建築物、木質ハイブリッド型建築物などを取りまとめ、第4章で平面混構造、立面混構造、平面・立面の併用構造の技術的事項をまとめています。資料編ではケーススタディを行い、具体的に注意すべきところをまとめています。

■木造事務庁舎の合理的な設計における留意事項
 2015(平成27)年5月に策定された「木造事務庁舎の合理的な設計における留意事項」は、建設コストなど、事前に把握して設計内容に反映しておくべき事項を留意事項としてとりまとめたものです。
 官庁施設の計画・設計時に「木造計画・設計基準」等の基準類と共に活用することになっています。第2章の木材調達に関する留意事項では、必要な木材の概数量、建設地域で入手が容易な木材・困難な木材を調べて記載しています。調査結果では、木材の使用量は1uあたり0.2〜0.25?で、うち構造材が75%前後となりました。さらに、入手が容易な製材の長さ、断面とそのコスト傾向もJAS工場で調査し、結果を掲載しています(図5)。

■公共建築木造工事標準仕様書
 「公共建築木造工事標準仕様書」は低層木造の事務所建築を対象に標準的な品質、性能および施工方法を示したものです。もともと1997(平成9)年に木造の住宅を想定して制定されたもので、木材利用の促進に関する法律および基本方針を受け、主な対象用途を住宅から低層の事務所用途の官庁施設に変更し、平成25年版より名称変更しています。平成28年版として関係法令やJIS、JASの改正に合わせた見直しを行いました。この基準では今のところ耐火建築物は対象す。
 木造工事標準仕様書は、公共建築工事標準仕様書と併用する構成になっています。

■地方公共団体との連携
 地方公共団体との連携も行っています。「公共建築物における木材利用の導入ガイドライン等の検討」は、47都道府県と20政令指定都市でつくる全国営繕主管課長会議の付託事項です。木造計画・設計基準等は事務所用途の建築物を中心に記載していますが、事務所用途以外の公共建築物における木材の利用を促進するためにガイドラインを策定しました。
 @取組事例集(平成24年7月公表)とA導入ガイドライン(平成25年6月公表)の二つがあり@は事務所用途以外の公共建築物94件の木材利用の取組に関する事例を、Aは事務所用途以外の公共建築物の事例をもとに収集してまとめたものです。事例集は、関係者の理解を「構築」、「発注上の課題」、「維持管理上の課題」、「その他」、とテーマ別に分けて紹介しています。 テーマ「発注上の課題」を具体的に説明します。設計施工一括発注方式による木材乾燥期間の確保等ということで、浜松市の例を記載しています。私たちが発注する際は、設計・施工は通常分離して発注することが多いです。木造となると木材の調達、乾燥にかなりの時間がかかるため、工事を発注した後に不要な待ち時間が発生することがあります。そのため、この浜松市の例では設計・施工を分離ではなく、設計・施工一括発注方式を取り入れました(図6)。
 もう一つの「公共建築物における木材利用の導入ガイドライン」。こちらでもテーマ別に事例を収集しています。大分県中津市の小学校の体育館は、合理的な工法や材料を選択した事例で、伝統工法を採用して特殊な金物に頼らず構成されています。
 木造建築物の一部に非木造の耐火建築物を挟み込むことで、耐火建築物としなくてよくなった事例も紹介しています。他に維持管理を考慮した設計・施工などが事例として紹介されています。
 建築部位の設計では、どこにどんな樹種を使ったかの具体例を収集しています。資料に載せているのは梁の樹種。柱・梁・外壁はスギが多く、床は色々な種類が分散しているという結果でした(図7)。
 2015(平成27)年から2016(平成28)年度にかけても本省では検討会を行っており、今は保全に関する調査を行っています。平成27年度の成果として、「木材を利用した官庁施設の適正な保全に資する整備のための留意事項(案)」というものがホームページにアップされています。今日紹介した技術基準等も国土交通省ホームページに掲載されています。

■木造、内装の木質化の事例紹介
 最近畿地方整備局で木造や内装等の木質化の整備事例を紹介します(当日映像のみ)。京都の農林総合庁舎の倉庫。木造であることが分かりづらいですが、法が施行された後で、耐火建築物が求められる建物ではなかったので木造化しています。皇宮警察京都護衛署の警備待機所。木造は京都に多くなっていますが、京都御苑の児童公園休憩所は2010(平成22)年につくられたもので木造です。同じく京都御苑の中にある堺町休憩所で、これは法施行前で、下がS造で上が一部木造です。
 木造の事例は以上で、次に内装の木質化事例です。京都地方合同庁舎のエントランスホールは、壁に木が使われています。先ほども外観をご覧に入れましたが、堺地方合同庁舎のエントランスホール、大津びわ湖合同庁舎のエントランスホール。そしてハローワーク阿倍野の事務室です。こちらはハローワークという性質上、来庁者が多いので天井に木材を使っています。京都国立博物館は、展示室の床、廊下の壁、休憩スペースの壁を木質化しています。
 木造・内装等の木質化の整備を行うことは、国の職員として達成すべきミッションであると同時に、建築に携わる者として、よりよい建物をつくるためのツールであると私たちは考えています。

 


「CLTの可能性と展望」
 中島 洋氏 一般社団法人 日本CLT協会 業務推進部長
 

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■CLT関連の告示制定により、一般使用が可能に
 つくば市の建築研究所にCLT実験棟があります。今年の4月に完成し、木肌が見える形でCLTを体感可能な建物になっています。従来の木造では難しいこともCLTならできるということを示すつくりにしています。月1回公開し、すでに1,000人以上の方が訪れています(図1)。
 CLTはCross Laminated Timber の略称で、「直行して積層した木材」という意味です。木の板を並べて接着剤を塗布し、90°横にした状態でまた木を並べて接着剤を塗布。基本的には奇数層、一番外側の層が同じ方向を向いた形の材料です。
 JAS上の名称は直交集成板です。もとはヨーロッパ発祥の材料で、日本では5年ほど前から研究開発がスタートしました。大きなパネルであることが特徴で、建物の壁、床、屋根に使います。今年4月にCLTに関する建築基準法告示が制定され、一般的に利用できるようになりました(図2)。
 CLTはひき板を原料とした木質の構造材で、木質としては新しい材料です。接着剤を塗ってプレスする前の工程までは集成材と同じような工程でひき板を製材し、長い材料をつくる場合にはフィンガージョインで長くします。
 新しい材料なので耐火試験など色々な実験が行われています。燃えているところは1,000℃以上になっていますが、反対の部分は25℃。非常に分厚く断熱性能もあるので、例えば隣の部屋で燃えていてもなんともなく、そのまま逃げられるのです。鉄のように一気にぐにゃっとなることもなく、その間に避難することが可能です。ヨーロッパでは、1990年の時点ではどこの国も2階建て以上は木造で建ててはいけないというルールがあったのですが、2020年にはどの国でも5階建て以上で木造を可能とする取り組みがなされています。

■海外の状況と事例
 CLTの特長は、プレファブ化できること、そして軽量であることです。写真はロンドンの建物で、1階から8階までCLTが使われています。RC造と比べて建設期間が3分の2になり、建物も重量も半分以下になって、基礎費用は25%削減できたということです(図3)。
 海外の事例を紹介します。オーストリアにある5階建ての高齢者施設です。1階部分はRCですが2階から5階の部分がCLTで建てられているものです(図4)。高齢者福祉施設なので、個室で同じような部屋が5mくらいのスパンで並んでいるわけですが、CLTはこういう建物に非常に向いています。この建物の場合は、CLTを工場に持って行き、工場で部屋の形に組み立て、配線、配管をしてフローリングと壁紙を張った状態にして現場に運び、クレーンで上へ積み上げて建てていきました。
 オーストリアの7階建ての集合住宅。これも1階はRCで2階から上がCLTの構造になっています。 同じくオーストリアで、ショッピングモールの建物。屋根の下地材にCLTが使われています。敷地面積12万uの大きな建物で、端から端まで1km弱あり、CLTは8,000㎥も使われています。CLTが採用された理由は、環境負荷が少ない材料であるという点のほか、CLTはある程度の断熱性を持っており、材料自体は高くなるけれども冷暖房のランニングコストを考えた場合、CLTにしたほうが効果的だと判断されたからであると聞いています。
 アメリカで行われたコンペの話です。昨年の9月に結果発表があったのですが、CLTなどの分厚い木材を使って高層の建物を建てるコンペがありました。賞金は3億円です。アメリカでも高層の建物を木造で建てていこうという方針が示されており、そこで選ばれたものが2件ありました。一つはニューヨーク・チェルシー地区に建られる予定の10階建てコンドミニアムです。ニューヨークでも中心地に建てられる予定ということで、何年か後になると思いますが、完成すると話題になるのではと思っています。
 もう一つは西海岸で選ばれたもので、こちらも高層で12階建てです。商業施設やオフィスが入る建物ということですが、アメリカでもこういう先駆的な事例を国が後押しして建てていこうという動きが出てきています。
 次はカナダですが、ちょうど今建設中です。18階建てブリティッシュコロンビア大学の学生寮です。1階部分がRCで、2階から18階の部分が集成材とCLTを使った建物です。現在7階か8階部分まで出来ており、柱は集成材、床はCLTで構成している建物です。
 CLTは、カナダやアメリカでは建築の材料だけでなく、現場の敷板や資源開発をするときの仮設の道路でも数量が出ていると聞いています。世界中でのCLT生産量の推移グラフを見ると、20年前はほぼゼロだったのが今は65万㎥ぐらいになっているので、非常に早いスピードで伸びていることが分かります(図5)。

■日本のCLT開発の背景と事例
 日本は戦前・戦時中の伐採で木がなくなり、使えなくなっていましたが、今は人工林が増えてきています。CLT開発の中心国のオーストリアは、きっちりと木材を利用する仕組みができています。日本の森林率は世界的に見ても高く、せっかくの資源を使っていこうと動いているところです。スギを中心に、ヒノキ、カラマツも使いながらCLT開発を進めています。 現時点でCLTのJAS認定工場は全国に五つあります。日本で今つくれる一番大きなサイズのCLTは3m×12mで、4階分の壁が1枚でできるような大きさなので、色々な使い方ができると思います。 CLTで建てられた国内の建物事例を紹介します。昨年3月に完成した高知県おおとよ製材社員寮は、CLT構造で建てられた最初の建物です。
 エネマネハウス2014で芝浦工業大学が建てた福島県の「母の家」会津若松実験棟。軸組構造ですが、寝室など頑丈にしておきたい部分はCLTで、というコンセプトで建てられました。
 神奈川県にある整骨院も軸組構造で、CLTは2階の床部分に使っています。最初に紹介したつくばCLT実験棟のように、2mくらい出っ張った部分をCLTで構成しています。
 三重県の個人住宅ではふんだんにCLTを使用しています。北海道の集成材をつくっている会社で実験的に建てたセミナーハウスは、大を取った建物です。北海道の仮設の移動店舗は、北海道のカラマツ材を使った建物です。
 高知県の漁業協同組合事務所の建物。高知県はCLTに対して熱心な県で、尾ア知事は「CLTの先進県になる」として、3年前に協議会を立ち上げました。以来高知県にCLT建物を建てていこう、という取り組みがなされており、今年の1月に完成しました(図6)。ハウステンボスの「変なホテル」2期棟。ロボットが受付する変わったホテルですが、この建物はCLT構造で大臣認定を取って建てた建物です。
 奈良市の障がい者支援施設は、先週完成して展覧会をしました。1階はRCで2〜5階の壁の部分にCLTを使っています。これも大臣認定を取って建てました。

■E-ディフェンスでの震動実験
 2011年くらいからCLTの開発とともに実験も行われてきました。代表的なものが震動台実験です。兵庫県のE-ディフェンスで行われたものですが、この試験体は5階建てで、CLT自体は大きいパネルではなく1m幅のパネルを金物でつないで構成しています。
 神戸海洋気象台で観測された地震波を再現した揺れで実験しましたが、かなりの揺れにもかかわらず壊れることなく無事終了しました。1m幅なので金物で均整をとり、金物を伸ばして建物自体壊れないよう工夫するという設計方針でつくった試験体でした。
 3階建ての試験体でも行いました。大きいCLTの1枚のパネルをくり抜いたような形のもので、がっちりとしたつくりです。同じ地震波の揺れですが、全く不安を感じさせない様子が見てとれます。このように、実際の実験と構造的な検討をして今回の4月の告示に結びつけられました。

■都道府県単位の取り組みについて
 木材資源が多い県はCLTに非常に熱心に取り組んでおり、各府県でCLTに関する協議会などが立ち上がっています。去年8月、高知県の尾ア知事と岡山県真庭市の太田市長が発起人となった「CLTで地方創生を実現する首長連合」が設立されました。今後は、市町村で国に対して提言していきます。設立の際には小泉進次郎衆議院議員も来てくださいました。最初は14市町村でしたが今は41まで増えています。
 今年5月には、自民党の有志議員による「CLTで地方創生を実現する議員連盟」ができました。会長は石破茂地方創生担当相です。石破大臣自身は昨年の8月にCLTの先進地であるオーストリアを訪問しました。先ほどの事例で紹介した5階建ての高齢者福祉施設も視察してCLTの造もご覧になり、CLTを推進していただいています。議員連盟設立後には「CLTに関する省庁連絡会議」もできました。
 新しい材料で地方創生に資するため、資源を使って産業を生み出していくためには、費用面の後押しも必要だろうということで、来年度あたりにはCLTを使った公共建築への補助も出てくるのではと思います。CLT協会では、ワーキンググループをつくり、さまざまな検討項目の項目別に1〜2カ月に1回程度、会員企業が集まって話し合い、標準の仕様をつくっています。協会の今後の取り組みも色々と考えています。今年4月にCLT関連の告示が出されたことで、「どうやって設計していけばいいのか」「CLTはどういう材料なのか」などの問い合わせが増えています。そこで、CLTのコンシェルジュとなる方に来てもらい、構造に詳しい方を紹介したり、基本的なことを教えたりして対応することにしています。また、CLTに興味のある方は会員になっていただければと思います。

 


「日本の森林再生に貢献する地産外消」
 山口 秋生氏 越井木材工業梶@技術開発室 室長

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■付加価値の高い商品開発で森林資源の価値を追求
 日本の森林蓄積量は年々増加しています。このように蓄積してくると、山の手入れをしなければなりません。大きく育ったものは切って、また植林して山を再生していく。そして木材を使えるところにはどんどん使っていこうという背景から、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」ができたわけです。
 育ってきた木が増えている、それをどう使えばいいのか。私たちは、より付加価値の高い商品の開発によって森林資源の価値を追求していこうと考えています。例えばデッキ、木製サッシ、外装材です。これは構造材ではなくて見付け材で、グレードからいくと上小節(じょうこぶし)という材料を使います。
 その分値段も高く買えます。例えば普通のスギの製材品が4万円/㎥なら、上小節だと8万円/㎥になり、その分を山に還元できます。ただ、単に丸い木材を四角い製材にしただけでは、腐ったり燃えたりなどの問題があります。だから、そこに新しい技術を付与して使えるようにしてきたわけです。
 都市部は人口が多く、住宅地も多い。またビルはRC、S造の建物が多くヒートアイランド対策が必要となっています。大阪府・大阪市ではヒートアイランド対策の施策をいろいろと行っています。今までは屋上緑化や壁面緑化などがあったのですが、ただ木材を外に張ると、腐る、割れる、反るといった問題があったので、それを当社の「サーモウッド」とい技術で解消していきました。
 都市部の例ですが、東京の麻布図書館や大阪のいくつかの建物では外壁に木材を使っています。それによってコンクリートの躯体に熱が蓄積されるのを防ぎ、その分夜の放熱が少なくなるためヒートアイランド対策ができます。
 国産材を活用したヒートアイランド対策協議会をつくり、基礎データを集めて「木材を利用すればヒートアイランドの防止になる」と大阪府・大阪市に提言をしています。昔使われていた木製サッシは、なかなか使用に耐えるものがなく淘汰されていったのですが、新しく今の要求水準に合う木製サッシを開発しています。
 山間部から切り出した木材に付加価値を付けて需要の高い都市部で使用する。それだけ木材の使用量が多くなれば山に還元できるので、当社は山間部と都市部の共存共栄に貢献していこうと活動しています(図1)。
■木材の新技術・サーモウッド
 サーモウッドは木材の熱処理です。腐らないという性質を付与するには、従来は防腐剤という薬剤を加圧注入したり塗ったりしていました。熱処理には、薬剤を使わず水蒸気利用、窒素雰囲気下、ホットオイル中の処理など色々なグループがあります。サーモウッドは水蒸気を利用した熱処理です。
 サーモウッドは16年ほど前にフィンランドで生まれました。「サーモウッド」という特許はフィンランドのサーモウッド協会が持っています。私ども越井木材工業は、日本での実施権を取得し、日本の国産材を商品開発しているわけです。
 しかし日本の樹種はスギ、ヒノキ中心で、北欧とは違います。加えて日本にはシロアリもいて、湿潤状態で腐りやすい。そこで当社はフィンランドのサーモウッド技術を活かし、それを日本の気候風土に合わせて国産材に適用しました。
 サーモウッドにすると、耐久性が向上します。また、長期間デッキとして使っていると、反ったり、釘が浮いたりしてくるのですが、サーモウッドなら寸法安定性が付与されるのでそういうことが少なくなります。
 なぜ熱を加えるだけでその効果が出るのか。木材の中のセルロース、ヘミセルロースという成分には、OH基と呼ばれるものがあり、これが外の水とくっつきやすかったのです。熱処理をすることによってOH基が少なくなり、外部の水と結合しにくくなります。そして、木材をアタックする木材腐朽菌の、アタックする点が少なくなります。熱を加えることでこのような化学変化を起こし、耐久性と寸法安定性が付与されてきたのです(図2)。処理することで、比重が低くなる、つまり軽くなります。比重が小さいということは、それだけ空気層が多くなるので、熱伝導率が低くなります。
■サーモウッド処理材の性能
 各種データをご覧ください。平衡含水率は、普通の木材を高湿度(90%)のところに置いたらどれくらい含水率が上がるかという試験です。無処理だと18%くらいまで戻すのですが、温度が高くなるに従って含水率が低くなっていきます(図3)。
 収縮率のデータ。木材は板目と柾目では縮み方が違うのですが、これも熱を230℃くらいまで加えることによって普通の無処理の木材に比べて半分以下になります。
 防腐性能は、無処理の場合に比べると220℃くらいから効果が出始め、240℃くらいになると防腐薬剤の加圧注入したものとほとんど変わらないということです。日本のJAS規格では3%以下が一つの基準になっているのですが、それをクリアできるわけです。
 またホロセルロースというものがあります。ヘミセルロースと普通のセルロースを合わせたものがホロセルロースですが、含有率80%くらいのものが熱を加えるに従って60%くらいに下がっていくということです。
 JASやJISはなかなか難しいものですから、2007(平成19)年に日本住宅・木材技術センターの優良建材認証を取りました。今のところスギだけだったのですが、その後ヒノキの試験を実施すると、スギと同じような形で温度が高くなるとともに寸法安定性が増しました。耐久性も220℃くらいから出始め、240℃くらいでは3%以下になりました(図4)。 今、国立競技場で話が出ているカラマツですが、これもスギと同じような形で温度が高くなるに従って、寸法安定性能も同じように出てきました。ヒノキはAQ認証を取得しましたが、カラマツも取得の準備を進めています。
■木製サッシの製品化および事例紹介
 耐久性、寸法安定性プラス熱伝導率が低くなるということは、サッシの材料に向いているのではないかと考えました。木製サッシには枠が木のものとアルミのものと2種類あります。オフィスの木質化も可能になり、屋外の競技施設にも使えます。普通のスギなら硬さが足りませんが、それをサーモして圧密して屋外用のイスなどに使っています(図5)。
 長野県長野市の善光寺では、柱と軒天に信州のスギを使っています。柱は防火処理もして、上はサーモ処理をしています。新潟県上越市の上越妙高駅では、天井と通路に槍杉をサーモ処理しものを使っています。
 愛媛県西条市の市庁舎では外壁にサーモを使っています。これも地元四国産のスギです。去年オープンした、建築家の伊東豊雄氏設計による岐阜メディアコスモスではデッキ、枠材に使っています。信州大学の中央図書館では、長野県産のスギを集成材にして、それをサーモ処理して使っています。
 東京都港区では、「みなとモデル」という取り組みで木材を使う方針が取られています。浜松町駅にできたみなとパーク芝浦では、内装や外装に使っています。ランニングコースの周りを木材で囲っています。
 大阪市東住吉区のキンチョウスタジアムでは、観客席を木質化しています。セレッソ大阪も「もっと木材を使おう」という考え方のもと、キンチョウスタジアムを森にしようという思いで、3カ年計画で進めています。今年度もまた観客席の木質化を進める計画です。
 また、中之島フェスティバルタワーでは、最初にできたタワーが、13階から外に出られるようになっており、スカイロビーが設けられていますが、その床が木製のデッキです。
 御堂筋・淀屋橋駅前の淀屋橋オドナでは2階部分の回廊が木質化されています。
 当社は、中国にも製品を輸出しています。6年前に上海事務所を開設しました。中国市場での戦略は、メイドインジャパンが根幹です。日本で生産した、中国では生産していない高付加価値性製品を中国で販売することにこだわっています。現地生産品との差別化を進める為に、ブランド化に取り組んでいます。
■サーモウッドの防火性について
 都市部での木材使用には火の問題がありますが、熱処理では防火性能が付与できません。建築基準法では、建築場所、建築部位によって、難燃、準不燃、不燃を使用しなければなりません。そこで防火については難燃剤を加圧注入しています。大量の薬剤を入れないと性能が出ないため、一つひとつ品質管理をしていかなければなりません。
 今年7月12日に防火木材を生産している会社が8社集まって防火木材利用推進協会を設立しました。協議会で品質管理の勉強をし、外部に対して防火木材の需要拡大をしようという取り組みを始めています(図6)。
 最後に地産外消の具体的な事例を紹介します。東京・柏の葉に三井ガーデンホテルができました。北海道に三井の森という森があり、そこのカラマツを使いたいという話がありました。そこで北海道のカラマツを熱処理して、それをホテルの軒天やベランダデッキに使ったということです。
 東京の麻きて、これを集成材にしてルーバーに使っています。大阪の茨木市でも、三重県産材、奈良県産材のスギを外部のルーバーに使っています。
 技術の問題と施工事例をお話ししましたが、山間部から切り出した木材に防腐処理や熱処理などの付加価値を付けて需要の高い都市部で使用する。そうすることで利益を山間部に還元することができ、日本の森林再生に貢献できるという思いで活動しています。この活動には引き続き取り組んでいきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。



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