2007けんざい
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建材情報交流会ニュース
 第36回
「耐震・減災の最新動向」

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
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「耐震総合安全性の考え方」
 NPO法人耐震総合安全機構 理事(元神戸大学教授)
  長尾 直治 氏 

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■総合安全性に着目して結成された JASO
1995 (平成7)年の阪神大震災のあと、 JIA (日本建築家協会)、 JSCA( 日本建築構造技術者協会)、JABMEE (建築設備技術者協会)の有志が、 JARAC (建築耐震設計者連合)を設立。 それを引き継いでNPO法人化したのがJASO (耐震総合安全機構)です。 主に東京で、マンションの耐震性を調べ、アドバイスを行っています。
 JASOは、阪神大震災の経験から、ハードだけでなく、コミュニティの視点、生活者の視点、そして危機管理、避難生活のことを真剣に検討する必要を感じました。 総合安全性の観点が必要だと考えたのです。

■耐震総合安全性の考え方とは?
 東京を中心に首都直下地震が起こると、数百万人の長期避難者が出ます。 避難者が安心して生活できるためには、建物だけでなく、町やコミュニティを含む総合的な視点が必要ではないか、というのが耐震総合安全性の考え方です。
 そこで建築家、構造家、設備技術者などハードの専門家のほかに火災、防災、地震保険、エレベーター、家具の耐震性、市民生活の研究者などが集まり、主にマンションを対象にして震度6級の地震でも避難せずに住み続けられる条件を考えました。
 エレベーターが止まると、水くみが大変です。高架水槽がやられるとトイレが流せず、結局、避難生活に陥ってしまう。ライフラインも途絶する。それから生活復旧に不可欠なコミュニティ。 阪神大震災のときも、近所の人たちによって倒壊家屋から引張り出された方々は助かったのですが、自衛隊が来てから助けられた人たちは(救援が遅れ)ほとんど亡くなられました。隣近所のコミュニティというのはとても大事なのです。都市の普通のマンションでは隣近所のことは分かりませんから、コミュニティはないのも同然です。
 去年の東日本大震災で、 津波や長周期地震動や液状化、天井材などの非構造材の被害、 BCP(ビジネス・コンティニュイティ・プラン)、さらには原発事故なども考えなければいけなくなりました。

■スケルトンとインフィル、両方の耐震性が大事
 建築物で第一に大事なのは、構造体が丈夫であること、次に仕上設備、非構造材などの耐震性です。これはスケルトン(構造躯体)の耐震性とインフィル(内装・設備)の耐震性、 と二つに分けて考えることができます。人命保護の観点ではスケルトンが大事ですが、生活保護の観点ではインフィルが大事なのです。
 建物の耐震性能は、地震外力による建物の状態を、検証して決めます。 60m以上の超高層ビルは、 コンピューターでシミュレーションします。
 地震の強さは、レベル1 と2の2段階に分けられます。レベル1 は、建物の耐用年数中に一度はありそうな地震動で、少なくとも構造体に損傷のない状態が求められます。 レベル2 というのは、来るかどうか分からないような大地震動で、少なくとも人命を守れる状態、具体的には柱が折れない強度が求められます。
 耐震安全性の考え方を示した図があります。 建物を「基準級」・「上級」・「特級」という3グレードに分けており、横軸は地震動のレベルを表します。 阪神淡路大震災はレベル2地震動より少し上。 図からは、 レベル2の地震動が来ると「基準級」の建物は大破、「上級」の建物は中破、「特級」の建物は小破で収まる、 ということが分かります。

■地震後も住み続けられるような耐震性能を追求
 構造設計には、人命保護、財産保全、機能維持という3つの目標レベルがあります。「基準級」の建物が中破なら、人命保護ができるかもしれない。さらに、「上級」の建物なら、小破で済むので財産保全や機能維持もできるかもしれない、と考えます。
 ところで地震に強い構造には、耐震構造、制振構造、免震構造の3つがあります。「耐震」は、揺れに頑強に耐える構造。「制振」 は、揺れを吸収するダンパーを入れる構造。 「免震」 は建物と地面(床)の間にゴムのようなアイソレータを入れて地震動が伝わらないようにする構造です。
 ある建物を例にとって説明します。 東京の建物で、下がオフィスで上がホテル。 上級と特級の中間の耐震性能が求められたものです。 この建物には制振部材というものが入れ込まれています。 低降伏点鋼というスチール部材が、地震エネルギーを吸収するのです。
 次に外力。 実際の地震で観測された大きな地震波を想定します。 さらに、その建物の敷地にどんな地震が起こるかという模擬地震動を考えます。 例えば、東京湾にある活断層の中で影響しそうなものを考えて、地震波をつくってコンピューターで揺する、といった解析をします。 東京では、東京湾北部断層の直下地震や南関東大地震などが模擬地震動に使われます。
 外壁は、 脱落して人命にかかわる被害が発生しないよう取り付けています。設備やダクト類、事務所の天井、 OAフロア、エレベーターなども、耐震実験で確かめられたものを使います。
 つまり、住宅が住宅として住み続けることができるためには、スケルトンとインフィル両方が丈夫でなければならないのです。 「建物の耐震性能(耐震設計メニュー)」という図があります。建物全体のグレードは、「特別級(特級)」と「上級」と「基準級」の3つ。スケルトンの性能は、 S1∼S3級、インフィルはI1∼I2級まで。 S 1級とI 1級を満足すれば建物のグレードは特別級、といった具合です。

■施工によって性能に大きな差が出る非構造部材
 今日は仕上材に関係する方々が多いので、インフィルについて考えます。インフィルの性能は、強度と変形追従性の2つです。 強度は局部水平震度で表現され、変形追従性は層間変形角で表現されます。
 ただ、仕上材は非常に種類が多く、変形追従性能が不明なものも多いと思われます。 石膏ボードや天井材やガラスなどの単体はもちろんですが、天井の吊り材にしても、照明器具やスプリンクラーなどが取り付けられた複合材としての性能は、なかなか分かりません。
 変形追従性が少ないRC造の雑壁は、 神戸の地震でもすいぶん壊れました。 これは構造の専門家から見ると、柱や梁が壊れていないので人命にかかわる被害ではない、大破ではないとみなします。 しかし住み手にとっては、資産価値まで考えると十分に「大破」なのです。 特に、 鉄骨造は非常に変形しやすい構造なので、構法によって損傷性状が大きく変わります。
 阪神大震災では、建物の上部にある高架水槽が被害を受け、とても困りました。下層で震度6でも、上層の方は震度7以上になり、局部水平震度は増幅されます。
 よく使われている「後施工アンカー」ですが、これもしっかり留めるだけでずいぶん被害が違います。 こういう非構造部材は、施工によって性能に大きな開きが生じます。
 ところで、天井には問題があります。2003(平成15)年の十勝沖地震で天井が落下したため、これに対応するべく、大規模空間を持つ建築物の天井について国交省の通達が出ました。 しかし東日本大震災でも、たくさん天井が落ちました。大規模空間だけではなく、普通の鉄骨造の建物です。一般的な建物もそれなりに対応しなければいけないのです。 また、変形追従性が悪くてドアが曲がった例もあります。
 JASOでは、 こう した非構造部材の耐震性について“適合マーク” のようなものを出せないだろうかと考え、制度をつくりました。その第1号が玄関ドアです。天井などでもこうしたことを考えたいと思っています。

■家具の転倒は重傷を招く―上層階ほど危険
 家具の転倒も、けがや火災を招いたり、避難できなくなったりして危険です。阪神大震災のときは、マンションの下層階では家具の転倒率は20%ぐらいでしたが、上層階では60%強でした。 負傷率も下が7%であるのに対して上が25%でした。
 低層階と上層階の揺れの違いですが、上層階へいくほど揺れが増幅されていき、下が5強でも上は6強、下が6弱なら上は7 くらいになります。優先的に対策をとりたい家具は、長いもの、重たいもの、上下2段に分かれているものなど、ひっくり返りやすい形のものです。寝床に落ちそうなもの、避難路をふさぎそうなもの、高いところのものも注意です。
 家具の固定は、(構造壁が共有物である)マンションではなかなか難しい。 設計会社や施工業者への問い合わせ、住民同士の取り決めが必要になり、管理組合がかなり積極的に関与する必要があります。
 止める場合は、 L型金具やベルト・チェーン、突っ張り棒、足元のストッパーや粘着マットなどの固定具を使います。また、揺れの周期が長い「長周期地震動」 は、とても変形の大きい地震なので、キャスターのついた家具は、 ものすごい勢いで動きます。

■倒壊、火災…地震の危険度は総合的に判断すべし
 地震危険度は総合的に考えないといけません。 最近はいろいろな自治体から、総合的な耐震の考え方をまとめたものがたくさん出ています。大阪市、神戸市でも出ていますが、東京都の「地震地域危険度」 というマップでは、火事の危険度や震度の大きさ、地盤の悪さなどを全部引っくるめたうえで、「総合危険度ランク」別に各行政区域・町・丁を赤や黄色で印づけています。 「危険度ランクが高い地域は、優先的に予算をつけて直しましょう」ということです。
 東京では、火災による消失家屋数は全壊家屋の約9 倍にもなると見られています。 死亡者数については、焼死が約70%(約4,700人)、建物損傷が約26%(約1,750 人)という予想があります。倒壊死の危険性を強調するあまり、焼死者対策を怠るという愚を犯すべきではありません。
 東京都の災害発生時行動マニュアルでは、「地震発生後2分間はまず自分の命を守ろう」 としています。そして、2分∼5分、5分∼10分、1 日目、3日目……など、それぞれの対応の指針を示しています。 特にコミュニティが大事です。例えば自治会をどう作っていくか、なども課題の一つでしょう。

■南海地震が起こると、 大阪市内にも津波が来る
 東日本大震災では、倒壊しないと思われていたようなビルが津波で倒壊しました。 特に関西圏で言われている南海地震では、津波が大阪市内まで来そうです。津波は大阪市内で2m∼3mだといわれていますが、地震が起こってから中之島に津波が来るまで約2時間あります。 だから2時間の間に水門を閉め、ガスの元栓を閉めてから逃げる。 地下にいる人でも2時間あるから、普通ならみんな逃げられます。その2時間をどうやって使うかは、大変大事だと思います。
 大阪市の咲洲庁舎では、東日本大震災で極めて大きな揺れが起こりました。建物と地盤の固有周期が一致して共振したからです。地盤と共振しないように造る――今までの構造設計ではあまり意識しなかった考え方ですが――ことも、これからは大事になってくるかもしれません。

■コミュニティづくりなど、街の耐震安全性が課題
 総合耐震性は、建物の耐震性だけでなく街の耐震安全性が大事です。スケルトンが第一ですが、住み続けるためにはインフィルが機能しなければなりません。インフィルは天井内外装、家具、什器、高架水槽、エレベーター、給水、排水、照明、通信システム、多岐にわたりますが、耐震性能を工学的、物理的な指標でいいますと、先述した強度と変形追従性の2つです。
 高層建築は一般的には安全です。 でも、倒壊はしなくとも避難は階段しかないので、地震後の生活を考えるとエレベーターが不可欠です。 しかし、エレベーターの耐震性は現在のところ、あまり高くありません。だから、電気と機械なしでは生活できない高層住宅では、避難生活が長くなります。しかも、上層階は家具の転倒・移動などが起こりやすいのです。コミュニティも貧弱なところが多いのが現状です。
 このように、高層集合住宅はよいのですがまだまだ課題も多いと思います。 地震後も建物に住み続けられる条件をきちんと洗い出すことが必要ですが、 “コミュニティの成熟度” といった要素も重要な評価項目だと思います。 また、地震対策はこれから10年、20年と考えていかなければいけません。 マンションの住人も高齢化していくでしょうから、ボランティアをうまく組み入れたり、地震保険を適切に利用したりすることなどが大事になってくるでしょう。


「免震積層ゴム支承について」
 東洋ゴム工業
 テック製品開発部 第3開発グループ長
  水谷 裕 氏

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■予測地図に示されていた東日本大震災
 こういうテーマではいつも出てきますが、1995(平成7)年1 月17 日早朝の阪神大震災。 当時私は愛知県に住んでいましたが、東海大地震かと思ったくらい、かなり揺れました。もともと関西の会社ですから、被害にあった社員がたくさんいましたし、仮設住宅に入った者もおりました。
 そして去年の3月11 日、東日本大震災。 震源は東北地方ですが、関西地方もある程度揺れました。 この地震では、地震の被害はもちろん、津波による被害が非常に大きかったですね。
 地震調査研究推進本部の資料に、 「今後30年間に震度6以上の地震が起こる確率の高い地域」 が赤で示されているデータがあります。基準が2010年の1月なので、この時点で東日本大震災のデータはまだ出ていません。 中部圏に関東圏、そして東北も一部赤くなっています。 東北の赤い部分はまさに、実際にこのデータが出た翌年の東日本大震災によって、大きな被害にあった地域です。

■年々増加している免震建物
 免震建物は阪神大震災の前からある程度は注目されていました。 一般社団法人日本免震構造協会のホームページを見ると、免震建築物計画推移が掲載されています。
 建物全体としては1991 (平成3)年∼2010(平成22)年に2,728棟が計画されていました。 その中で集合住宅の棟数はざっと半分く らいの1,228棟。 病院が323棟、これも同じような傾向で、順調に右肩上がりになっています。 戸建て住宅で免震構造にしている方もいらっしゃいます。 ご自分の家を建てるときに、免震構造を考えた方もいらっしゃるかもしれません。4,173棟が登録されています。
 レトロフィットの数は107棟。レトロフィットとは、現存の建物を残しておいて、 その下を工事して免震構造にすることです。 今私たちがいる、この中央公会堂も実はそうなんですが、手前味噌ながら当社の免震装置が入っています。
 ただ、レトロフィットの工事は工期が長引きがちで、数年かかる例もあります。また、大半の場合は工事期間中に移転が必要と思われます。

■耐えるか?弱めるか? 耐震、免震、制震の違い
 建築には「耐震」「免震」「制震」の3つがあります。 「耐震」は、読んで字のごとく、建物自体を強くして揺れに耐えるということですが、家具などの大きいモノが揺れで転倒することもあります。「制振」は揺れを制することですが、やや大きな揺れだとやはりモノが転倒することがあります。一方、「免震」は、揺れから免れるということで、モノは少し揺れるだけです。
 構造的には、「耐震」は構造躯体を強固にすることで耐える、 「制振」は建物内部にダンパーなどを入れて振動を制する、 そして「免震」は、 上部建物と基礎の間に免震装置を設置して地震力を低減させる、となります。イメージ図がありますのでご覧ください。
 免震装置の種類としてはまず、建物と建物の間、 もしくは建物と地盤の間に入れ、荷重を支える 「支承」があります。当社がつくっている積層ゴム支承だけではなく、鋼球とレールを使った「転がり支承」、板と板の間で免震層を滑らせる「弾性すべり支承」もあります。
 もう一つは、減衰力を付加する免震装置であるダンパーです。 オイルダンパーや鋼材ダンパー、鉛ダンパーなどがあります。東日本大震災のときは、こうした各種免震装置を使っている建物があまり揺れなかったということで、メディアも注目するようになりました。
 こうした免震装置は、基礎部分のほか、柱頭部分、建物と建物の中間層に設けることもあります。 どこに入れるかは、設計者や施主の考えで変わります。

■共振をいかに防ぐかが、 免震のポイント
 そもそも、地震でなぜ建物が揺れるのでしょうか。卓越周期という言葉があります。地震動波の中で、建物に大きな影響を与える周期のことで、大体1秒以下であることが多いです。 この卓越周期と建物の固有周期が重なると共振が起こり、振動が非常に大きくなります。 これが、地震で建物が揺れる原理です。
 では、建物の固有周期はというと、戸建て住宅の場合で0.1∼0.5秒ぐらい、鉄骨の工場や建物で0.5∼1.0秒ぐらい、高層RCマンションで0.6∼0.9秒ぐらいと、こちらも通常は1秒以下です。ということは、 もしこれらの固有周期を1秒以上にできれば、卓越周期との共振は避けられるということになります。
 免震装置の原理は、実はこれだけです。 同じばねの免震装置では、大きな荷重を支えられる方が固有周期は長くなります。そして同じ荷重を支える免震装置では、小さなばねの方が固有周期は長くなります。固有周期と卓越周期が一致して起こる共振をいかにして防ぐか、 というのが免震の考え方なのです。

■ゴムと鉄板を積み重ねて地震力を吸収する支承
 免震建物のモデルを見ると、建物と免震層との間に積層ゴム支承やダンパーを入れているのがわかります。
 当社の造っている積層ゴム支承は、フランジと呼ばれる厚い鉄板と、薄い内部鋼板とゴムを重ね合わせてゴムカバーをした中身でできています。 これを免震積層ゴム支承といいます。 
 造り方は、まず鉄板をブラスト処理します。 その後ゴム加硫用接着剤を塗り、乾燥させてからゴムを重ね合わせます。 重ね合わせた状態で加硫プレスに入れ、熱と圧力をかけて数時間じんわり焼くと、当社の免震積層ゴム支承になります。 厚めのステーキを中までじんわり焼くのと同じで、大きなものほど焼き加減が難しいのですが、そこが当社のノウハウでもあります。
 なぜゴムと鉄板を積み重ねるのでしょうか?  ゴムだけで鉄板のない状態の場合、 鉛直方向に建物の荷重がかかると、フワフワして浮き沈みが大きくなってしまいます。 また、横方向の力が加わった場合は、ゴムがつぶれて建物が傾斜する恐れもあります。 そこで鉄板を入れると、積層ゴムの変形が抑えられて鉛直方向の荷重に十分耐えられますし、地震でせん断方向に揺れたときでも、変形性は維持できるというわけです。

■特性の違う2種類の積層ゴム
 積層ゴムには大きく分けて2つあります。まず天然ゴム。天然ゴムは減衰が少なく、線形性に優れ、安定した復元力機能があります。通常は別置きダンパーと併用して使われています。
 ちなみに、「減衰」 とはゴムが跳ね返らない力のことです。 鉄球なんかをポンと落として跳ね返すのは普通の天然ゴムで、「減衰が少ない」。逆に、跳ね返らないときは、「減衰が高い」といいます。
 もう一つのゴムは高減衰ゴムです。 ベースの天然ゴムにシリカと石油系樹脂を大量に混ぜ、減衰を高くして、復元力と減衰性能を持たせています。 立地条件にもよりますが、別置きダンパーが不要になり、配置計画がコンパクトになるのがメリットです。

■促進試験で60年後の変化を予測
 免震ゴムはどのくらい使用できるのか、これはよく質問を受けます。海外の例ですが、ニュージーランドの橋梁の場合、100年以上使用しているものもあります。保存性に優れたゴムを外側に回し、中には普通のゴムを使うことで、硬化による劣化を防いでいるようです。日本の法律では、60年間特性を保持しなさいと定められています。
 当社では、促進試験によって60年経過後の特性を予測しています。 20℃で60年相当の劣化を調べる試験ですが、ゴムの性質は数%ダウンするものの、免震に必要な性能は確保されることが分かりました。そのようなゴムを当社は選んでいるということです。
 また、免震層は建物の下にあるので、大雨や洪水で免震装置が水につかる場合も多々あります。 そのため、5%程度の塩水、酸、アルカリに60日間浸水させる試験を行っております。
 当社では、このような条件でも有効な、強度的にも物性的にも問題ない製品だけを世の中に出しています。皆さんの扱っておられる各種建材と同様、いずれも建築基準法に則って大臣認定を取得しております。

■点検による免震層の維持管理も重要
 免震装置を入れても、建物側と地面側に一定のすき間を空けておかないと、いざというときに免震の機能を果たしません。当社でも、免震システムの外観チェック、寸法変化、ボルトの緩み具合などはきちんと点検します。 この点検は、お施主さんおよび設計事務所からお話をいただいて、それに協力するという形をとっています。
 最後に、当社の技術センターの免震システムをご紹介しましょう。この建物は、免震層が建物の下ではなく中間にあります。下に実験室と倉庫、上にオフィス、その真ん中に免震(中間層免震)を使っています。 この場合、常に屋外にさらされているので、耐候性が非常に重要です。 屋内の場合はそれほどでもないのですが、屋外・屋内とも耐火被覆材を使っています。外から見えますので、興味のある方はぜひ一度ご覧になってください。


「次世代の耐火被覆材と不燃断熱材」
 エスケー化研
 耐火断熱営業部 防耐火技術チーム
  藤原 武士 氏

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■地震に耐えても火災で崩壊する危険がある
 震災対策ではまず耐震が注目されますが、いくら耐震で揺れないよう対策していても、(阪神・淡路大震災のように)出火によって建物が崩壊したり、大規模火災に発展する危険性は大いにあります。今回は、耐火と不燃の2つに分けてお話をします。
 建築基準法では、 “不特定多数が利用する公共性の高い建築物、もしくは防火地域・準防火地域内に建つ一定規模以上の建築物は、 耐火建築物にしなければならない” と定められています。
 通常RC(鉄筋コンクリート)造はコンクリートなので燃えません。 S(鉄骨)造の場合、鋼材温度が600℃程度になると耐力が低下、荷重によって座屈し建物が崩壊するため、耐火被覆を施すことになっています。
 耐火性能は、「火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊および延焼を防止するための性能を有するもの」となっています。そして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの、またはその認定を受けたものとなっています。

■建築基準法改正後の耐火構造認定について
 2000 (平成12)年の建築基準法改正では、 「仕様規定から性能規定へ」というテーマが掲げられました。その結果、耐火構造の認定もかなり変わりました。
(1 )それまで耐火構造認定はJISで規定されていましたが、 ISO国際基準の載荷加熱試験が導入されました。これはあとで詳しく試験方法を紹介します。
(2)耐火性能検証法。これは旧法時代、「特認の38」といわれ、建物を設計するときに各部屋の燃えるものがどれだけあるかを計算し、その部屋の火災時間を計算する検証法です。 メーカーにとっては少々つらいのですが、耐火被覆の厚みが薄くなったり、3時間耐火がなくなったりして、被覆を軽減できます。
(3)旧法では耐火被覆は 「燃えてはならない」 とされていましたが、燃えるものでも耐火性能があればよいということになり、耐火塗料が認可されました。
(4)ロックウール工業会やケイ酸カルシウム工業会などで取られていた通則認定が廃止され、 すべてが個別認定となりました。
(5)旧法の認定番号は個別に出されました。 「G-1 065」は順番に 「梁(G)の1 時間耐火(1)の連番65 (65)」 の意味です。現行法では非常に分かりやすくなり、「FP060 BM-9 001」は、「FP(fireproofの略)の1時間耐火(060)、梁(BM=Beam)の連番001」を意味します。2 時間耐火なら「120」、柱ならCN(=Column)となるわけです。

■現行法の耐火認定基準は 「鋼材が崩落しないこと」
 現在の耐火構造認定の実際の試験は、実物大の梁・柱を使い、 長期許容荷重をかけながら加熱します(載荷加熱試験)。 認定基準は、 規定時間内に座屈や崩壊をしないことです。
 一例を挙げます。 当社の材料で、 1989 (昭和64)年に認定をとった湿式耐火被覆材「セラタイカ2号」について、現行法での試験を受け直しました。
 試験方法は新旧ともほぼ一緒ですが、旧試験では荷重をかけていません。 また、判定基準は 「鋼材の平均温度が350℃以下」です。
 現行法では「崩壊しないこと」が条件なので、判定基準は温度ではなく 「たわみ量」です。火災が終わった後で崩壊しないよう、加熱停止後も荷重をかけたままで加熱時間の3倍の時間放置します。 3時間加熱した場合、 放置は9時間で、 計12時間の試験です。
 試験被覆は同じ30o厚ですが、 旧法で2時間耐火だったものが、現行法では3時間耐火になりました。逆に言えば、同じ2時間耐火認定でも、現行法なら膜厚を薄くできるのです。 これは他社製品も同じです。 新旧法の違いを簡単にまとめました。 判定基準は事実上緩和されていますが、、試験体の断面寸法以上しか適用できない点ではデメリットとも言えます。

■昔ながらのロックウールと次世代の耐火塗料
 国土交通大臣認定の耐火被覆材には、大きく分けて6つあります。主流は、「吹付けロックウール」「巻付け工法」「ケイ酸カルシウム板」です。一方、非常に薄く画期的な次世代被覆材として「耐火塗料」「耐火シート」があります。
 「吹付けロックウール」は最もシェアが高く7、8割程度。非常にコストが安く、柱、梁、壁、床と認定も多いですが、施工環境には問題があります。「湿式耐火被覆材」は、軽量モルタルのように水と材料を練り合わせて吹き付けます。 粉じんの飛散などはなく、白セメントを使っているので仕上がりがきれいなのも特徴です。「巻き付け工法」 は、シェアが拡大している材料です。「ケイ酸カルシウム板」 は、板を張るだけなのできれいに仕上がり、工場、倉庫、立体駐車場などでよく使われます。
 次世代被覆材の「耐火塗料」は、普通の塗料と同じように吹付けやローラーで仕上げることができます。膜厚(被覆厚)は薄いのですが、火災時に発泡し厚くなり、鋼材の温度上昇を抑えます。
 通常の耐火被覆材と耐火塗料の違いは、同じ1 時間耐火でも鋼材のサイズによって膜厚が変わることです。たとえば、300o角の角形交換で6o厚のもの(X)と19 o厚のもの(Y)では、 Xが膜厚3.25oに対しYは1.00oとなります。 同じ熱を受けても、薄い方が鋼材温度が上がりやすいので、鋼材サイズをいろいろ変え、塗り厚も変えて試験を行っています。 現場では、電磁式膜圧計で膜厚を測り管理します。
 一方、「耐火シート」は、柱や梁に貼り付けるだけで施工が可能です。耐火塗料のような膜厚管理は不要で、仕上がりも湿式にはないスッキリしたものです。 今、建築現場では、吹付けロックウールのような手間のかかる施工ができる専門工が不足しています。 本製品のように、施工が簡単な耐火被覆材の需要は今後も増えると考えています。

■可燃断熱材への着火による火災拡大防止のために
 次は、不燃断熱材のお話です。火災で断熱材のウレタンフォームが燃えて甚大な被害が出たという報告が時々聞かれます。 ウレタンフォームは通常、内装制限で壁や天井で覆われており、火災が起こっても容易に着火しないようになっていますが、1 回着火してしまうとすぐに火が回ってしまいます。 そこで、2009(平成21)年に全国消防長会から建築業協会や建築士会を含む各方面へ要望書が提出されてからは、断熱材に使う可燃性合成樹脂発泡体(=ウレタンフォーム類)は、不燃材料として国土交通大臣の認定を受けたもの、または不燃性能を有するよう処理したものを使用する傾向にあります。
 また、東京都の 「建築設備行政に関する設計・施工上の指針」では、天井チャンバー方式、つまり天井裏を空調などで使うとき、天井は原則として下地、仕上げとも不燃材料にすることが推奨されています。 天井裏の断熱材はむき出しになので、チャンバーに火災が起こったら、 そこに火が回るおそれがあるあるからです。

■火災から建物を守るのが耐火、人を守るのが不燃
 「耐火」と「不燃」の違いは、建物を守るか、人を守るか、の違いです。耐火の基準が「火災から建物の崩壊を守る」のに対し、不燃の基準は、「中にいる人が火災時に逃げられる」ことに置かれています。建築基準法では「不燃」について、「建築材料に通常の火災時における加熱が加えられた場合に、加熱開始20分間次の要件を満たしているもの」として、○20分間燃焼しないもの○防火上有害な変形、溶融、亀裂その他の損傷を生じないもの○避難上有害な煙またはガスを発生しないもの、と要件を規定しています。
 2000 (平成12)年の基準法改正では、 不燃認定の試験方法がJISからISOに変わりました。コーンカロリー計試験機で試験体を加熱し、 加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/u以下であること、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/uを超えないこと、防火上有害なガスが出ないことなどを確認します。

■「不燃断熱材」か「有機系断熱材+不燃材」か
 不燃断熱材の用途ですが、 廊下などの共用部や地下駐車場、工場、倉庫など、内装制限がかかるところで、不燃断熱材を使うのか、有機系断熱材(ポリスチレンボードなど)を施工して不燃の天井部材や湿式の材料を吹き付けるかに分かれると思います。 不燃断熱材の断熱性能は有機系断熱材よりも劣るため、冷蔵倉庫などの断熱性が必要なところは、「不燃断熱材単体」より「ウレタンフォーム+不燃材」を選択する例が多いようです。
 最後に、不燃断熱工法の比較です。当社はウレタンは扱っていませんが、「セラミライトエコG」という不燃断熱材があります。 発泡スチロールに断熱性能を持たせ、結合材はセメントです。熱伝導率は0.04で、次世代ウレタンフォームの0.026よりも劣ります。厚みもウレタンフォーム25oに対して、約1.7倍の43oも吹く必要があります。
 ただ、 内装制限がかかっていれば、 断熱材の上に不燃材料を吹く必要があります。断熱材25o+不燃材15 oなら総厚みは40oになり、不燃断熱材43oとほぼ同等となります。かつ、コスト的には「セラミライトエコG」にメリットがあるということで、適材適所で使い分けられています。 

 
 
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