建材情報交流会

  • 【第68回建材情報交流会】基調講演「建材メーカー×建築家の協働から生まれる-設計から広報まで、次世代のアイデア戦略-」(7月23日開催)の講演録を公開しました
    2026年8月28日
    第68回建材情報交流会 基調講演
    「建材メーカー×建築家の協働から生まれる -設計から広報まで、次世代のアイデア戦略-」
    眞野 サトル氏
    ARCHIXXX眞野サトル建築デザイン室
    優良製品・技術表彰選考委員(公益社団法人 日本建築家協会近畿支部 青年委員長)

    新しいものは、決して一人では生み出せない

     私は普段、オフィスや店舗、住宅を中心に設計活動をしております。「新しいものは、決して一人では生み出せない」というのが自身のフィロソフィなのですが、これは現場で日々痛感しています。「設計をする人」と「ものをつくり販売する人」の間の壁を取り払ったときに、新しいビジネスの可能性が生まれると考えています。
     自己紹介がてら、私のこれまでの活動についてご紹介します。私は2000年に独立して事務所を開設しましたが、地道に建築設計に取り組みながら、2016年、建築家の伊東豊雄さんが主宰する「伊東建築塾」に参加し、建築に携わるいろいろな方々と共に3年ほど学んでいました。そこで愛媛県大三島の柑橘農家の方と出会って意気投合し、2017年から「いろいろ柑橘の会大阪」を開催するようになりました。これは建築と関係のない活動なのですが、その方のつくる柑橘、農業のお話や考え方、全てに感銘を受けた私は、毎年その方を大阪にお呼びして会を開いております。また2019年からは修成建設専門学校特任講師を務めています(図1)。

    空きスペースの活用で社会や地域に貢献

     海外の主要諸国の住宅年数を見ると、日本の住宅の多くは築年数がかなり浅いことが分かります。また日本では1軒の家に平均1.99人しか住んでおらず、家のスペースが空いてしまっています。私は、このような若い建物や空いたスペースをもっと活用していくべきだと思いました。設計者として、既存の建物を活用することで社会貢献ができればと考え、最近は特にリノベーションの仕事に力を入れています。
     京丹後市では丹後織物の空き工場をリノベーションしました。これは、工場の所有者から家(自宅)の設計を依頼されたときに、せっかくなら空き工場をリノベーションして住んでみませんかと提案したものです。外壁をめくって断熱材を入れ、風よけと視線よけを兼ねたルーバーのパネルを市松状に貼りました。平屋で柱が少ない内部空間になっており、冬の寒さ対策として、内側にポリカーボネートの建具を入れ子状に設置して、断熱性能を高める工夫をしました。
     大阪の住吉区帝塚山で手掛けた古民家再生プロジェクトは、もともと堺のある企業が取得された物件でした。事業主と用途について熟考を重ね、最終的に「ここを本社にする」という提案が採用され、本社オフィスとしてリノベーションされた事例です。改修にあたり、周囲のまち並みとの調和を崩さないよう、外観はできるだけ残すよう努めました。内部はガラリと雰囲気を変え、キッチンやギャラリーコーナー、私がデザインした掛け軸を飾った床の間などもしつらえました(図2)。

     徳島県阿南市では、地域再生コミュニティプロジェクトを手掛けました。空き家を所有するご家族の方からの「何か地域のために役立てたい」という相談から始まったものです。ジビエや野菜、清流で採れるアユといった地場産の食材が豊富だったので、地場の産物や加工品の販売店に加え、地元の誰もが気軽に過ごせるコミュニティスペースを備えた施設を提案し、和風建築の趣を残したままリノベーションしました。

    「協働」は単なる作業の分担ではなく、掛け算である

     さて今回のテーマである「協働」についてですが、「共同」が「1+1=2」という足し算のイメージであるのに対し、「協働」は掛け算であり、単独では成し得ない相乗効果で価値を増幅させるイメージです。良いものをつくってもなかなか売れないというのはよくあることですが、これからの時代、誰とどんな文脈でつくり、どう届けていくかを考えることがますます重要になっていくのではないかと思っています。それはわれわれ設計事務所もメーカーも同じではないでしょうか。
     そこで今回は協働という掛け算が、どう「①発想」され、どう「②実践」され、どう「③展望」を広げていくのか、3ステップでお話しいたします。
     まず「①発想」ですが、これは「デザインをするアイデアの出し方」です。面白いアイデアは「余白」から生まれます。何かを必死で考えても、思い浮かぶことは大体皆同じです。むしろ考えつかなかったこと、つまり「余白」の部分にこそ新しい可能性があるのでは? 「思いつかないことを思いつこう」というのが私のポリシーになっています。
     そのためには、働く場所の環境づくり=「職育」が大事です。違和感やアイデアを拾い上げるためには、日常的にコミュニケーションを取れる環境が必要であり、私もオフィス設計を依頼された際には常に「職育」を念頭に置いて、居心地のよいオフィスにすることを提案しています。「職育」における重要な要素の一つが「緑視率」。人の視界に占める緑(本物の植物)の割合が10~12%のときに、最もリラックス度が高まってパフォーマンスが最大化するという実証データがあります。緑視率をポイントに設計した事例が(株)丸喜の新築工事です。オフィス内に多数の植物を配置、約3年を経て現在は緑が繁茂した癒しの空間になっています。
     働く人にとって使いやすいトイレを、と考えて提案したのがヤンマー(株)の工場トイレ改修工事におけるオールジェンダーのピクトデザインです。誰にでも分かりやすく視認性が良いピクトサインを目指し、多種多様なピクトを提案しました。横から見てもサインが分かるよう、立体的なピクトサインも考案しました(図3)。

    発想が“実践”に変わった、5つの現場

     次に「②実践」です。発想が実践へと変わった事例として、会員企業様との協働を紹介します。

    事例1 ケイミュー(株)

     まずは九州支部会員のケイミュー。同社が「グランネクストシンプル」という屋根材の新製品を出されたとき、「まだ使用事例がないので何かに使ってもらえないか」という相談を受けました。ちょうど当時われわれは平野区にある電気工事会社のオフィスを設計していたので、そこに使うことになりました。本来は屋根材ですが、外壁にも対応可能だとのことで、外壁と屋根を覆った事例として設計。こちらでも緑視率12%を目指して多くの植物を入れました。外から見ても緑の多いオフィスであることが分かります(図4)。

    事例2 八紘電機(株)

     東大阪市に本社を構える特注照明器具メーカーで、3案件の協働事例があります(図5)。1件目は本社の新築工事。ファサードには同社開発による、タイマーで色や光が変化する調色機能を持つLED照明を設置しました。最上階に設けたショールームは、左側に約1.5m飛び出させるというユニークな形状になっています。1、2階は吹き抜けの作業スペースで、2階の吹き抜けに面した場所に打ち合わせコーナーが入っているので、上から吊った照明を下から見上げたり真横から確認したりすることができます。この本社社屋の一番の目的は社員のコミュニケーションです。よって3階には食堂兼ラウンジスペースを設け、大きなキッチンを中心に据えて、社員の方々が休憩時間にリラックスしたり、食を介したイベントを楽しんだりしています。
     2つ目が金箔と錫(すず)箔を混ぜた「TIN」というスタンドライト。金箔は世界で最も薄い金沢箔を使っています。金箔は厚みがあると光が透けないのですが、1万分の1㎜まで薄く延ばした金沢箔は、青い光を外側に透過させる特性があります。これを生かして私が設計を行い、同社と協働で開発した全く新しい照明器具です。
     3つ目は「Hollow-Luce」。Hollowが空洞、Luceが光を意味する、光源を持たない照明器具なのですが、下からアッパーライトを当てることで本体を光らせる仕組みになっており、まるで照明器具が浮いているような印象を与えます。

    事例3 (株)ユニオン

     ユニオンとはドアハンドルを協働で開発させていただきました。きっかけは、以前当事務所が設計した住宅のオープンハウスに同社の開発担当者が来られたことでした。「こんな感じの透明なドアハンドルが欲しいんですよね」「当社でできますよ」と話が進んで、一緒に開発することになりました。素材から取り付け方までいろいろなアイデアを出していただきながら完成したのが、アクリル製の引き戸ハンドル「hikari-te TH-2900」。透明なので中の光が外に漏れ出て、室内が明るいと廊下側でもハンドルが光ります(図6)。
     注目すべきは、取り付けにビスも接着剤も使っていないことです。穴を開けてはめ込むだけでしっかり固定できる施工性の良さも大きな特徴の一つです。

    事例4 中井産業(株)

     障子など木製建具のメーカーである和歌山の中井産業は、「KITOTE」というブランドで、和の空間だけでなく洋室にも合う障子を展開しています。われわれは同社と組んで、ショールームづくりと広報に携わらせていただきました。あるレストランの設計で、外国人の目を引くような、光る障子を入れたいと思って探し求めていた中で同社にたどり着いたのが最初の出会いです。
     そこからお付き合いが深まり、「KITOTE」ブランドの発信に力を入れていきたいということを知りました。ただお聞きすると、広報に割く人手がないため、社長自身がやらざるを得ない状況であると。さすがに社長が広報を一手に担うのは大変過ぎるだろうと思われました。そこで広報も含めたブランディングを協働でやっていきましょう、ということになり、ショールームの設計をさせていただきました。
     外国へもっと拡大させたいとの意向から、立地は大阪よりも東京がよかろうと、不動産探しから始めました。たまたま文京区で見つけた空き倉庫が非常に良い物件だったので、そこをショールームにリノベーションしたのです。壁や床には和歌山の木材会社の不燃木材を使用。リビングやバーカウンター、ホテルラウンジなどのシチュエーションを想定した空間をつくり、ショールーム内を歩きながら「KITOTE」の障子を体験できるようにしました。全商品を収めたストックを設置し、商品を引き出してはめ込むことで、各シチュエーションと合わせた雰囲気を見られるという、ライブ感のあるショールームとなっています(図7)。

     設計事務所の仕事は通常ここで終わるのですが、われわれは広報戦略も一緒に考えていき、海外への発信を意識してInstagramを開設。以前から社長が更新されていたInstagramとFacebookはあるにはあったのですが、今回ゼロから刷新し、当事務所とKITOTEで管理・運用しております。開設からまだ1年弱ではありますが、Instagramを見て障子を購入したり、わざわざショールームに足を運んだりしてくれる方々が増え、徐々に効果が出てきていると感じます。また、こうした発信からつながりが生まれ、最近は露出度の高い路面のショーウィンドウに製品を展示させてもらうなど、展示品としてのオファーが多くなっております。Instagramや口コミ発信の継続が奏功し、BtoBのつながりが広がったのは非常に面白いと思います。

    事例5 修成建設専門学校

     私が講師を務める西淀川区の修成建設専門学校も本部会員で、事務局の改修を手掛けました。以前は役所の窓口のような雰囲気のオフィスだったのですが、イメージを一新したいという依頼を受けました。どうせやるなら学生とのワークショップで進めたいと思い、テーブルのデザインをみんなで考えました。組み合わせることで形にバリエーションが生まれ、設置スペースに合わせて使いやすい形状がつくれるテーブルが完成しました。
     また数年前に図書館が閉鎖されたため本の置き場がない、という先生方の声があったので、事務局内に受付カウンターを兼ねた本棚をつくりました。照明は、全体を均一に照らす全般照明ではなく、タスクアンドアンビエントで必要な場所だけに光を当てるようにしています。天井に張られていたボードは全て剥がして非常に解放感のある空間を実現できたと思います。そしてここでも緑視率を重視し、12%まではいかずとも、かなりの緑が視界に入る空間づくりに努めました(図8)。

    「メーカー×建築家」の協働で業界の未来をつくる

     発想→実践ときて「③展望」につながるわけですが、このように「メーカー×建築家」の協働でできることはまだたくさんあります。実際に私もいろいろなメーカーとコラボレーションしながら、商品づくりや空間づくり、場所づくりのお手伝いをさせていただいています。そんな中で実感するのは、人手不足、資材高騰、環境問題など建築業界の課題は、メーカーだけで解決するのではなく、設計事務所や建築家など立場の異なる人たちも交えて、共に考えていくべきだということです。
     課題はチャンスでもあります。これまでは「良いものをつくれば売れる」時代でしたが、これからは「誰と、どんな文脈でつくり、どう体験させるか」が問われます。お互いが一緒に伴走しながら取り組むことで、もっと良いものを生み出すことができるのではないでしょうか。
     メーカーの皆さまが持つ圧倒的な「技術と素材の力」、そして設計事務所や建築家が持つ「空間全体を俯瞰し、暮らしをデザインする視点」を結び付ければ、建材を価値ある空間体験へと昇華させることができます。発注者と受注者の関係性を超えて、共に未来をつくるパートナーになっていきたいと私は思っています。
     最後に再度強調したいのは「発想し、実践し、展望する」、この3つの繰り返しこそが協働になるということ。アイデアやプランは、思いついたことよりも、実は思いつかなかったことに、必要なことや新しいものが潜んでいる可能性があります。ぜひ皆さまと協働して、これからの建築業界や社会にインパクトを与えられるような仕事をしていきたいと思います。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -