私の建築探訪

  • 2023年12月4日
    ヨドコウ桜スタジアム
    ピッチからメインスタンドと北スタンドを見る
    ピッチからメインスタンドと北スタンドを見る
    大規模な改修を終え、2021年4月にオープンしたヨドコウ桜スタジアムはJリーグ・セレッソ大阪の本拠地です。約2万5,000人を収容し、国際規格にも適合するスタジアム。当協会会員である淀川製鋼所「ヨドコウ」を冠していることで、会員の皆様にはなじみ深いことでしょう。段階的な改修で進化を遂げながら、多彩な機能を備え地域のコミュニティを創出する役割も果たしています。 「けんざい」編集部

    「セレッソ大阪」と「ヨドコウ」の桜が一つに

     ヨドコウ桜スタジアム(大阪市長居球技場)は、「長居」駅下車すぐの広大な長居公園内にあります。サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールなどのスポーツ興行のほか、各種イベントを開催したり企業や一般の方々に施設を提供するなどして、多目的に親しまれているスタジアムです。
     旧称はキンチョウスタジアム。2021(令和3)年の改修を機に株式会社淀川製鋼所(ヨドコウ)が名命権を得て現在の名前に改称されました。
     「ヨドコウさんのブランドマークが桜で、100周年を見据えた『桜(SAKURA)100』というビジョンを打ち出されており、セレッソ大阪の桜(「セレッソ」はスペイン語で桜を意味する)とイメージがぴったり重なりました。スタンドの屋根材がヨドコウさんの製品だったこともあり、ご縁を感じてパートナーシップを結び、命名に至りました」。スタジアムの指定管理者である一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブの施設運営部部長・間宮淳さんは命名の経緯をこう説明してくださいました。

    段階的な改修を経ながらチームと共に成長・進化

     スタジアムの歴史は古く、1987(昭和62)年に長居陸上競技場(現ヤンマースタジアム長居)の隣に建設されました。セレッソ大阪が本拠地にしたことに合わせ、2010(平成22)年を第1期として3度の改修工事を経てきました。立ち見席を新設・増設したり、芝生席を椅子席に変更するなどして、段階的に改修を行って良好な観戦環境を築いています。チームの成長と共にスタジアムも成長・進化していると言えます。
     ヨドコウ桜スタジアムとなった直近の第3期改修は、メインスタンドの新設や北スタンド(ホームゴール裏)の大幅拡張などで話題になりました。メインスタンド最前列からピッチまでの距離は約5.8m。これは日本一の近さであり、選手にとってもサポーターにとっても臨場感と一体感を味わえる設計になっています。
     「バックスタンドでは最前列にも車いす席を設けました。ゲーム全体を見渡せる2階席に加え、車いすでもピッチレベルでの観戦を楽しんでもらえればと設置しました。観戦スタイルに合わせて選んでいただければと思います。キッズルームを新設し、トイレも増設して誰もが快適に過ごせるスタジアムを目指しました」。
     南スタンド(アウェイゴール裏)は露天ですが、このおかげでフィールドへの十分な日照量が確保できるため、天然芝の生育に大変よいそうです。
     「全面に屋根を設置すると芝の育成に支障が出て、2~3年毎に張り替える必要が生じますが、ここではこのまま育てていこうと思っています」と間宮さんは言います。
     とはいえ観戦されるお客様にとっては屋根がほしいところ。「将来的には観戦環境の改善やキャパシティ増強の観点から改良を加えていくことも必要かもしれません」とのことで、さらなる進化が期待できそうです。

    スポーツ興行以外でも多目的な用途で利用できる

     ヨドコウ桜スタジアムは、地域に資する多機能型スタジアムでもあります。同クラブでは、スポーツの試合・観戦以外でもスタジアムを利用してもらえるよう、数々のイベントやプログラム、教室を企画・主催しています。メインスタンド・バックスタンドの内部には、多目的な用途に対応した施設や設備が整えられており、誰もが利用できるようになっています。
     試合当日に観戦ルームとなる「VIPルーム」「スカイボックス」「ラウンジ」が、試合のない日は会議室やコワーキングスペースとしてリーズナブルな価格で貸し出されており、会議や研修・商談などビジネス利用に活用されています。ラウンジは厨房を備えた大空間で、企業・団体の催事や飲食を提供するパーティーにも利用できるそうです。
     バックスタンド側の練習室やグラウンドの一部を占める人工芝部分を利用してスポーツ教室・クラブを多数実施しているほか、学習塾、プログラミング教室、書道教室、英会話、そろばん教室などスポーツに限らず多種多様な講座を開講しています。
     「グラウンドの人工芝や、Jリーガーたちも利用するロッカールームでヨガ教室を開催したこともありますが、そのプレミアム感が大好評でした」と間宮さん。
     人工芝にテントを張って行うキャンプイベントはファミリーに大人気です。選手ロッカールームでシャワーを浴びたり、ピッチレベルで寝泊りしたりできるなんて、特にサッカーファンの子どもたちにとってこれほどわくわくできる経験はないでしょう。
     「イベントや教室は現在は当クラブが企画・主催していますが、これからはどんどん一般の皆様方が主体的に『こんなことに使いたい』と積極利用していただきければと思っています」と間宮さんは期待を込めて言います。チームと共に、地域と共に、これからもスタジアムを育てていこうという思いが感じられました。

    ヨドコウ桜スタジアム 【所在地】 大阪市東住吉区長居公園1-1
    【TEL】 06-6609-5658
    【URL】 https://www.sakura-stadium.jp/
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -