建材情報交流会

  • 2024.3.6 第62回 建材情報交流会(講演録)
    2024年5月15日
    基調講演
    「SDGsと建築材料 我々は何をすべきか?」
    岩前 篤氏 近畿大学 副学長 / 建築学部 建築学科 教授

    ■SDGsの背景―地球上で起きている諸問題

     今世界規模で電力が不足しています。日本では電気代が上がり続け、欧州でも電力の安定供給が困難になり、2023年4月にフィンランドにある欧州最大級の原発が本格稼動を始めました。2023年の各国の電力需要を見ると、中国、アメリカはもちろん、日本もかなり大きく、一人当たりの消費量も大きいことが読み取れます。地球上ではすでに電力争奪戦の様相を呈しています(図1)。
     大気汚染も深刻化しています。欧州では大気汚染が原因で多数の子どもが早世しています。特に顕著なのがイタリアと中東です。タイのチェンマイでも在宅勤務要請が出るほどの大気汚染がありましたが、原因は森林火災(野焼き)です。工業地帯ではなくむしろ農村地帯や森林で大気汚染が進んでいる状況です。アメリカ西海岸でも大気汚染は深刻で、やはり原因は山火事。気候変動による異常乾燥が原因です(図2)。事態を深刻にしているもう一つの背景が水不足です。水不足のために山火事を消せず、大気汚染は拡大の一途だといいます。
     国連の発表によると、過去8年間の気温は観測史上最高を記録し、氷河の融解が劇的に進行しています。2021年のCO2世界平均濃度は産業革命前の約50%増です。かつてスキーでにぎわった東部フランスのアルプスでは2、3前から雪が降らなくなり、スキー場の廃業が続出しています。日本も似たような状況にあります。
     カナダでは2021年に49.5℃という記録的高温で約70人が死亡しました。冬季オリンピックが行われるような国でもこれほど異常な高温になっています。昨夏も700人近い人が熱中症で亡くなりました。日本で約1,100人だったのでこれに比肩します。カナダは他にも問題があって、不動産価格が高騰して路上生活者が急増しています。人口急増に伴う住宅不足もかなり深刻な状況です。空き家率が0.1%しかなく、日本の10%と比べるといかに住宅不足かよく分かります。ちなみに日本の空き家率は2030年には30%を超えると予測されており、両隣のどちらかは空き家になる計算です。住宅関係の皆さまは、空前の住宅建設ラッシュとなっているカナダに行けばいくらでもビジネスチャンスがあります。

    ■エネルギー消費量は地球のキャパを超えている

     地球の人口は2022年に80億人を突破しました(図3)。地球全体の穀物生産量から試算した人口の限界は150億人で、そこに到達するのは2100年辺りです。今すでにエネルギーの争奪戦になっているのに、食料の争奪戦も加わってしまうのでしょうか。この点に関してはそこまで深刻ではありません。出生率の低下が人口増の限界突破を阻止するからです。日本よりも出生率の低い国はたくさんあり、世界全体的に見ても少子化になっています。このような状況から、世界人口は100億人程度でピークアウトするのではないかという予測があり、食料争奪戦に陥る可能性は少ないという見方が優勢です。
     とはいえ、エネルギー消費量はとうに地球のキャパシティを超えています。地球誕生から今日までを1年とすると、人類誕生は大晦日の20時11分で、その後23時59分58.6秒に産業革命が起こります。ここからわずか1秒あまりの間にわれわれは地球全体の6割のエネルギーを使いました。こんな短時間で膨大なエネルギーを使っていることが大きなポイントです。
     ここまでの状況が今のSDGsにつながる背景です。世界各地で多くの課題が深刻化して、現在なお進行中であるのがわれわれの地球の姿です。

    ■次なる新たな目標への検討はすでに始まっている

     SDGsは国連によって定められた17の目標です(図4)。2000年以降の急速な気候変動、貧富の差の拡大、紛争の増加、難民・避難民の数が第二次世界大戦以降最高の水準になっている中で、2015年9月にニューヨークで開かれたサミットでSDGsが提唱されました。2016年から2030年までの15年間の行動計画を定め、ゴールに対する達成度を測っていきます。今2024年なので、国連ではSDGsの次なるゴールが検討され始めています。またそれに合わせていろいろなことが変わっていくのだと思います。
     元々SDGsなどの環境行動はEU主導で始まりましたが、その壮大な目標はアメリカやロシア、中国に対するポジション取りの意味合いもありました。アメリカは「できないことはしない」を貫き、できる範囲だけを堅実に進めます。一方日本は実行可能性を打ち遣って、実際は無理だろうと思いながらも「やります」と言います。
     SDGsは素晴らしいゴールですが、現実的なことを言うと、振り回されると本末転倒になります。特に、経済性を犠牲にして環境行動に走ると持続性がなくなるので、あっという間に行動は終了してしまいます。日本ではカーボンニュートラルを宣言して、2030年は温室効果ガス50%削減を目指すと言っていますが、今のままではおそらく難しいでしょう。そもそも「温暖化」と言っているのは日本だけで、世界は「気候変動」を使います。スパイク状の気候変動が経済活動や社会活動に影響を与えているから対策が必要なのだと考えられています。
     そして資源の枯渇、電力不足、富の偏在、種の存続の危機、このような事象を背景としてSDGsという行動が主張されています。ただ世界全体の達成度は全く芳しくないため、次はかなり違った角度での目標設定が出てくるだろうと思います。

    17の目標の背景と目指すもの(抜粋)

    貧困をなくそう(ゴール1)

     1日1.9ドル未満で暮らしている人を貧困層といいます。現在、世界の10人に1人が貧困で、地域格差がどんどん開いています。先進国ですら約3,000万人もの子どもが貧困の中で暮らしています。貧困の原因には、失業、疾病、紛争、災害、教育不足などがあります(図5)。
     100万ドル以上の資産を有する人を富裕層といいます。2020年末時点で、全世界の富の46%を上位1%の富裕層が占めています。実は日本の富裕層の数は世界2位で、365万人いるのです。さらに資産3,000万円以上の超富裕層は2.1万人。このような数字だけを見ると日本は豊かな国だといえるでしょう。
     貧困層も富裕層も、そしてわれわれも住んでいる世界が全く異なり、富の偏在はエスカレートしています。これが貧困の背景です。

    すべての人に健康と福祉を(ゴール3)

     幼児の死亡率は2016年の世界平均で約560万人、5人に1人の子どもが5歳までに死亡しています。死因の1/3が肺炎、下痢性疾患、マラリアとなっており、ワクチン接種を受けられないことが背景にあります。ここにも富の偏在の影響が出ています。

    質の高い教育をみんなに(ゴール4)

     教育の最大の目標は貧困からの脱出です。子どもの貧困は親から受け継がれているわけですが、この貧困スパイラルを脱出するための方法の一つが教育なのです。基礎的な読解力を身に付ければ低所得国の約1億7,000万人の子どもが貧困から抜け出せ、母親が中等教育を受ければ約1,200万人の子どもを発育阻害から救出できます。日本では一見、収入と教育があまりリンクしていませんが、海外ほどではないにせよそれなりにリンクがあります。義務教育に関しては、無償の教育体制の整備は社会のスパイラルアップの基本です。

    安全な水とトイレを世界中に(ゴール6)

     水不足は世界で深刻化しています(図6)。雪解け水を飲料水の原料としている欧米では、雪不足が水不足を招いています。世界の80%の地域で排水処理されない汚染水が流され、汚染された水しか使えない人は約18億人、トイレのない人が約24億人、不衛生な水で亡くなる子どもは年間約180人に及びます。毎日10kmの道のりを重い水を汲んで運ぶ子どもも依然として多く、世界で9億人以上が安全な水にアクセスできない状態です。水不足は今後確実に進行するので、ビジネスを考えるなら水不足対策は非常に大きな可能性があるといえます。

    エネルギーをみんなに そしてクリーンに(ゴール7)

     地球上のエネルギーのほとんどは太陽起源です。水力も風力も火力も太陽がもたらした恩恵で動いています。唯一太陽起源でないエネルギーはウランです。原子力はクリーンで大変効率のよいエネルギーですが、結局は使えば使うほど減っていき、再生できません。しかし太陽は無限に利用できる。ここをよく理解しておく必要があると思います。もっと太陽の力を上手に利用する方向に向かったほうがよいのではないでしょうか。

    人や国の不平等をなくそう(ゴール10)

     これはフェアトレードという、働く人の不平等をなくす取り組みです。労働者が搾取されない持続可能な仕組み、これすなわち建築の人件費につながる話だと私は思っています。建築は人件費が相当を占めますが、果たしてそれが正当に払われているかというのが、SDGsの項目の一つになっています。例えば高品質・低価格を売りにしている住宅会社の裏で一番割りを食っているのは職人の方々です。この構造は、建築業界ではまだまだ大きな課題として残っていると思います。

    住み続けられるまちづくりを(ゴール11)

     これからますます人は都心に集中していくので、都心を将来の姿に合わせて設計しておく必要があります。大阪は万博を契機にいろいろな施策が実行されています。私は御堂筋の車線減少に大賛成で、御堂筋は全部歩行者専用道路とセントラルパークにすべきだと考えているくらいです。それぐらい大改造しないと30年後の大阪の未来はないのではと感じます。今はインバウンドツーリズムで持ちこたえていますが、基幹産業が厳しくなってインバウド頼みはもう危険です。われわれ自身でいかに拡大再生産のスパイラルをつくっていくかが課題で、その中で魅力的なまちをつくることが大事。例えばJR大阪駅を地下化すれば地上がフラットになりアクセス性が高まります。ベルリンでは実際にやっています。SDGsの名の下にJRに働きかければよいのです。

    陸の豊かさも守ろう(ゴール15)

     日本にはこれほどの森林資源がありながら全く経済活動につながってきません。カナダのブリティッシュコロンビア州では森林の持続的生産管理を行っており、伐採量を成長量以下にコントロールしています。そして切った分を必ず植林することが義務付けられています。残念ながら日本では民間所有林が圧倒的に多いので、こうした管理ができません。また建築でも木造化が進んでいますが、単にビルを木でつくるだけでは脱炭素になりません。これは後述します。

    ■SDGsと付き合うためのヒント 利益の確保が第一

     SDGsにどう取り組んでいくべきか、ヒントを申し上げるなら、「SDGsを利用していかに利益を上げるかを考える」ということです。SDGsは「制約」ではなく「利用するもの」であり、「感情」ではなく「ロジック」です。日本人は感情で環境配慮に動きます。それで割り箸を環境破壊だとして排除するという失敗をしました。割り箸は間伐材や端材の有効利用だったのに、理解不足から社会悪とされて生産は中国に移りました。
     「SDGsはよく分からない」と言われますが、それで結構です。水だの低炭素だのいろいろなキーワードが出現しますが、いかにそれらを利用するかが大事なのであって、制約と考えてはいけません。「SDGsでラベリングすればより売れる」ぐらいに考えればよいのです。難しく考えても割り箸のように失敗するだけです。

    ■バンクーバーで学んだ木造建築の考え方

     木材についてもう少し言及いたします。先日、木造建築視察のためにカナダのバンクーバーへ行きました。2018年に建てられた代表的なマスティンバー(CLTなど木材を積層圧着した木造建材)建築である「ブロックコモンズ」は、ブリティッシュコロンビア大学の学生寮で、18層の当時世界一高いハイブリッド木造ビルでした。まずRCで18層を組んでから水平構面をCLTの柱と床デッキで組み、CLTベースの外壁パネルを組み込みます(図7)。
     見学したほかの現場では、鉄柱やアルミフレームが使われていましたが、その分木を使うからニュートラルになっているとのことでした。このような考え方には非常に学ぶところが多かったと思います。日本はこれから大変な難産を繰り返しながらCTLで階層を上げていくことになりますが、木にこだわり過ぎてかえって木の需要にブレーキをかけていることにもっと気付くべきなのではないかと思わされました(図8)。
     建材製造時や施工時に発生するCO2をエンボディドカーボンといいますが、このエンボディドカーボンを日常運用で相殺し、長い時間の中でマイナスにしていくことでライフサイクルCO2(LCCO2)を減らしていくというのが今の考え方です。
     単に建物に木を使うだけでは脱炭素にならないと言いましたが、それは木が生きている間だけ(一時的に)吸収したCO2を固定しているからです。枯れて倒れたり、腐ったりしたら、固定していたCO2が再び空気中に放出されます。つまり空気中のCO2量を減らすには木を植えて増やすことが必要となります。10本の木を建材化しても、生えている木が家に変わっただけで、地球に存在するCO2量は変化しません。その10本分を植林して初めて20本分のCO2を固定できたことになります。これを繰り返すことで木が増え、その内部に固定されるCO2の量も増えていくというわけです。森林の持続的生産管理が実現しているカナダでは自動的にこの状態がつくり出されています。

    ■最後に

     企業としては、SDGsと向き合うことは悩ましいと思いますが、結局は胸を張って利用するのが得策です。言ったもの勝ちの精神で、難しく考えず積極的に活用してくださいというのが私からのメッセージです。

    報告1
    「住宅性能表示制度に対応した等級別断熱材とリフォーム事例」
    小島 祐介氏 旭ファイバーグラス(株)関西支店 住建グループリーダー

    ■2025年、断熱等級4&一次エネ等級4の省エネ基準適合義務化がスタート

     当社はグラスウール断熱材の製造販売を行うメーカーです。住宅向けでは「アクリアシリーズ」というノンホルムアルデヒドのグラスウールを販売しています。
     2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅に対する省エネ要求がますます高まってきています。いよいよ来年の2025年から、省エネ基準の断熱等級4および1次エネ等級4相当の適合義務化が開始されます。等級4はまださほど高くはない基準ではありますが、その5年後の2030年には、ZEH水準に求められる断熱性能の適合義務化が始まります。これは断熱等級5および一次エネ等級6相当です。
     2022年時点のデータですが、ZEH水準(断熱等級5)を満たした住宅比率を見ると、注文住宅では48.1%、建売の分譲住宅では6.6%でした。ただし断熱等級5が新設されたのは2022年4月であり、同年10月に上位等級の断熱等級6、7がやっと新設された状況であるため、2023年実績ではもっと断熱等級5の住宅比率は高まっていると推測されます。それでも2022年の時点で注文住宅の約半分が、断熱等級5を満たしている状況です。
     次に、あくまでも試算ではではありますが、断熱等級別に暖冷房費を比較しました。「6地域」に相当する大阪(近畿)における数値です。最も低い断熱等級3は、今では少ないですが、計算上で年間13万1,330円です。来年の2025年に出荷される断熱等級4になると7万8,499円。等級5、6、7と上がるにつれて暖冷房費は下がっていきます。

    ■なぜ、住まいを断熱するのか?

     「なぜ断熱するのか?」といわれて最もイメージしやすい理由は、「CO2排出量の削減につながるから」「エネルギー使用量が減るから」だと思います。厚い断熱材と高性能のサッシを使うと光熱費の削減につながるし、エネルギー使用量も減るためCO2排出量削減・地球温暖化対策にもなります。
     しかし断熱の大切な目的はもう一つあります。それは「住まいの温度差を小さくし、快適に暮らすため」です。もちろん自分の住まいなので、低コストに越したことはありませんが、快適や健康も重要な要素になってきています。冬場は暖房が効きやすく暖かいほうが快適に感じますし、健康面でも呼吸器系・循環系の負担が少なくなります。つまり病気になりにくく、快適に健康的に暮らせる「温度差の小さい住まい」も、断熱の大きな目的といえるわけです。

    ■グラスウールとはどんな材料か

     住宅用断熱材の面積シェアを見ると、グラスウールが53%と約半分のシェアを有していることが分かります。グラスウール断熱材はガラスの繊維です。原料は砂ではなく、市中から分別回収されたガラス瓶や、他業種で出た廃ガラスなどのリサイクルガラスです。
     これらを粉砕したリサイクルカレットという細かいガラス片を溶かして、綿菓子をつくるように機械で繊維化して製造しています。当社工場内でも、製造過程でグラスウールの端材がかなり発生するのですが、そのような端材も再度窯の中に入れて溶かし、またグラスウールにします(図1)。
     市中から回収したり事業者から購入したリサイクルカレット、および工場内の端材をリサイクルしたものがグラスウール原料の80%を占めています。そのような点から、グラスウールは省資源、ゴミ削減に貢献する材料であるとわれわれは考えています。
     原料としては一部ですが、ビルや工場など規模の大きな建築現場からも多量のグラスウール廃材が発生します。こちらは広域リサイクル制度を利用して、当社が現場まで向かい、10t車が一杯になるぐらいの廃材を引き取って工場に持ち帰り、リサイクル窯で溶かしてまたグラスウールにします。このようなリサイクル活動としての取り組みも進めています。
     1本1本のガラス繊維が断熱性能を持っているわけではありません。布団やダウンジャケットと同じ仕組みで、繊維によって保持された空間(動きにくい空気の小部屋)が熱を伝えにくくしています。繊維の太いセーターよりもカシミヤのように繊維の細いセーターのほうが暖かいのと同様に、グラスウールでも繊維を細くすればするほど断熱性能が上がります。
     省エネに寄与するために技術的な研究にも取り組んでいます。具体的には繊維径と熱伝導率の比較資料をご覧ください(図2)。熱伝導率は低ければ低いほど高い断熱性能を示します。
     一番左の写真が一般のグラスウールでやや旧型のもの。イメージは黄色い昔ながらのグラスウールです。こちらは繊維径がおよそ8ミクロンです。熱伝導率でいうと0.05。真ん中の「アクリアネクスト」は、繊維径が4ミクロンと、およそ半分になっています。繊維を細くすることによって繊維に含まれる空気の小部屋数が増えるので、断熱性能が上がります。熱伝導率でいうと0.038まで下げることができています。こちらは断熱等級4や5で、一般的に使用されている製品シリーズです。
     そして断熱等級6や7になるとさらに熱伝導率が0.34や0.32と低く、繊維径は約3ミクロンまで細くすることができています。
     等級6や7では、できるだけ断熱材の厚みを稼がなければなりません。要求される熱伝導率を満たすためには、壁の中に105mmの製品を充填し、比較的空間がある天井裏に250mmの製品を入れて家全体の断熱性能を上げる必要があります。これが250mm厚のマット状の製品「アクリアαR71」です。断熱計算を行っていて、「もう少し断熱性能を上げたい……」といったときは、ぜひこれらを設計でご検討いただければと思います。

    ■要求される等級によって断熱材の組み合わせが変わる

     仕様基準をご説明します。まず断熱等級4の使用例(組み合わせ)ですが、2025年には認可されるものの、先述のようにそれほど高い基準ではなく、天井155mm、壁と床が90mmの組み合わせで等級4を実現できるようになっています。等級5についても、天井が170mm、壁が105mm、床が90mm。こちらも壁、天井、床の隙間を利用することで等級5をクリアできます(図3)。
     等級6までいくとUA値0.46が必要となるため、少し工夫がいります。先述の、繊維径を3ミクロンまで細くした「アクリアα」シリーズを使えば、壁の中に105mmを入れれば等級6が実現できます。天井は、かなり厚いですが155mm×2層、あるいは250mmを使います。壁は等級6となると、外断熱と併用のパターンもありますが、繊維径を細くした「アクリアウールα」(熱抵抗値が3.3)なら、壁の中に105mmを入れれば、外断熱なしで壁の中の充填断熱だけで、等級6が実現できます。
     等級7はUA値0.26なので、外張り断熱併用でなければ難しくなっています。グラスウールのみの組み合わせを仕様として例示していますが、一般的には外張りの部分は発泡系の断熱材を併用いただくケースが多くなっています。

    ■床下から充填できる床の断熱リフォーム施工例

     断熱リフォーム例をご紹介します。子育てエコホーム支援事業で毎年補助金が交付されていますが、この床下断熱リフォームの問い合わせや出荷が今非常に伸びています。昔の住宅は床に断熱材が入っていたとしても薄かったり、場合によっては断熱材自体が入っていなかったりという住宅が結構あります。
     当社製品は床下に潜って床下側から施工でき、幅も床下収納庫から入れられるサイズになっています。写真のように、ちょうど大引きの間に入れます(図4)。
     ここで非常に重要なのが、床の断熱材を大引き間に充填するのに加えて、壁と床の間にある隙間を防ぐことです。昔の住宅で床下に根太がある場合、床下の空間と壁内部の空間がつながっているため、床下の冷気が壁の中に流れていき、壁の断熱性が下ってしまう事例が多く見られます。  従って、根太に形成されている壁と床下間の隙間を「アクリアマット」や気密テープ、ウレタンなどで埋めます。これを気流止めといいます。気流止めによって外壁側の断熱性能も向上させることができます。
     床の断熱リフォーム効果をサーモグラフィーでご覧ください。無断熱の住宅で6.8℃だった冬場の床表面温度が、床下から潜って断熱材を施工することで、13.5℃まで上がりました(図5)。床の表面は足の裏が直接触れるため、温度が上がれば体感的にも満足いただけると思います。

    ■次世代の断熱材、真空断熱パネル

     ここまで当社のグラスウール製品について話しましたが、最後に3年ほど前に開発した建築用真空断熱材についてご紹介します。真空断熱材とは、アルミと樹脂フィルムの複合フィルムでつくられた袋の中に、高密度のグラスウールを真空パックした高性能の断熱材です。これは断熱材の周囲を真空技術によって真空状態にして、芯材として中に入っている断熱材の周囲を真空状態にし、気体による熱伝導率を限りなくゼロに近づけることによって断熱性能を飛躍的に高めています。
     当社はグラスウールメーカーなので、その技術を生かして中の芯材と真空包装を一貫で生産しています。真空断熱材は、建築業界ではまだ一般的でなくこれからの普及ですが、家庭用の冷蔵庫にはすでに一般的に使われています。一昔前の冷蔵庫は壁が厚かったのですが、今の製品は非常に薄くなっており、庫内の容量も拡大しています。実は日本国内で製造される冷蔵庫にはほぼ、真空断熱材が壁内に充填されています。
     注目すべきは優れた断熱性能です。建築用の「VIP-Build」は熱伝導率が0.004で、通常販売されている断熱材の中では聞いたことがないような数値です。一般的に断熱性能が優れた断熱材として選ばれるフェノールフォームの80mmと、この「VIP-Build」16mmでは、断熱性能(熱抵抗値)が同じなのです。真空にすることで飛躍的に断熱性を高めることができた画期的な製品です。採用例は徐々に増加している状況です。まだ出始めの製品ではありますが、今後こちらにもご興味を持っていただけたらと思います(図6)。

     
    報告2
    「SDGsと建物の断熱・省エネに貢献する開口部について」
    齊藤 孝一郎 氏YKK AP株式会社 技術研究本部 環境・エネルギー・解析技術グループ 専門役員

    ■SDGsに資するバリューチェーンの取り組み

     YKK APは、窓、玄関ドア、エクステリア、ビルのファサード、リフォーム商品、産業製品を製造しています。
     当社のバリューチェーンは、「研究・開発・検証」から「商品使用」までの6フェーズでのさまざまな活動が最終的な付加価値に貢献しています。例えば私の属する「研究・開発・検証」のフェーズではものづくりを支える技術を創出しており、その取り組みがSDGsのゴール3「全ての人に健康と福祉を」とゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献できると考えます。

    ■CASBEEの性能評価にSDGs評価が追加される

     開口部の機能とSDGsへの貢献について説明いたします。建物の環境性能評価システムは、アメリカではLEEDやWELL、イギリスではBREEAM、日本ではCASBEEがあり、各国さまざまです。BREEAMとLEEDは、全世界で多くの建物が認証されており、加点方式になっています。CASBEEは、環境品質と環境負荷のバランスや比率で評価され、ほぼ日本でしか使われていない性能評価です。
     CASBEEは環境負荷だけでなく、室内の快適性や景観配慮を含めた建物の品質の総合的な評価システムですが、そこに新しくSDGs評価が追加されました。「建物の環境効率」、「建物のLCC2(ライフサイクルCO2)評価」、そして「建築環境のSDGs評価」、これら三つが最終的に5段階で評価されます。CASBEE全体像からは、さまざまな建物要素、範囲で評価が行われていることが分かります。そこに「CASBEE-戸建(新築)」、「CASBEE-建築(新築)」、「CASBEE-不動産」に「SDGs対応版」が新設され、SDGs評価ができるようになっています。

    ■CASBEEのSDGs評価で開口部が貢献できる部分

     開口部(窓)にはさまざまな性能があり、「JIS A 4706 サッシ」の規格の中で規定されています。耐風圧性、機密性、水密性、開閉力、遮音性などのほか、断熱性に関してはかなり高性能の規格が追加されています。遮熱性を表す日射熱取得性も追加されています。
     CASBEEのSDGs評価では、現状規定されていない窓の性能として、例えば結露防止性、防火性、眺望性、知的生産性への影響に至るまで評価可能にしていく必要があると考えます。
     「CASBEE-戸建」のSDGs評価部分の中で、開口部が貢献するであろう項目を洗い出しました。
     ゴール3「全ての人に健康と福祉を」では、健康維持増進のために温熱環境の確保、光・視環境の向上、空気衛生環境の向上などが効果的です。遮音性や安全・安心に関しても、内外を繋げる部材として貢献できます。
     ゴール4「質の高い教育をみんなに」では、「自宅学習に適した建築環境の計画と供給」で住宅に適した温熱、空気、光、音環境の部分で貢献できます。ゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」では、「省エネルギー対策・パッシブデザイン」で開口部がしっかり効果を発揮できます。
     ゴール8「働きがいも経済成長も」では、健康性・快適性・安全性に関して、省エネと快適環境を両立維持するスマートウェルネスに貢献できます。ゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、「建物のレジデンス性能の向上」で役に立てます。当社は開口部だけでなく、耐風シャッター、防災安全ガラス、耐震フレーム、耐震防犯ドアなど多種の商品を取り扱っています。米国ではハリケーン対応の樹脂窓も製造しています。  ゴール10「人や国の不平等をなくそう」では、ユニバーサルデザインやバリアフリーを実現する商品を提供しています。ゴール11「住み続けられるまちづくりを」では、防災・減災面で耐震改修が相当するでしょう。また現地調達推進は、木製窓で地域材の積極利用。環境性能評価もしっかり分析して取り組んでいます。ゴール12「つくる責任つかう責任」では、持続可能な生産体制の整備に取り組んでいます。
     ゴール13「気象気候変動に具体的な対策を」では建物のLCCO2の低減、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」は木材資源の活用、ゴール16「平和と公正をすべての人に」は外部から視線を遮るプライバシー確保や防犯性の高い商品の提供で貢献できます。最後のゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」では、商品のシリアルナンバーによるトレーサビリティの確保などです。
     このように、開口部をはじめとした建材は多くのSDGsゴール実現に貢献できることが分かります。
     当社ではさまざまな社会課題を解決する商品を開発し、活動しています。例えば、気候変動や災害に備えた商品として、エネルギー性能を高めるための高断熱な製品で脱炭素を実現します。防災・減災ではカーポートやシャッター。地域災害の最小化を図るための耐震性のある耐震フレームや建物が歪んでも開く耐震玄関ドア。人口動態の変化に対応した省施工商品では、簡単に施工できる改修商品、作業を省力化する治具、ユニバーサルデザイン商品など。健康・快適/安全・安心に貢献する商品として、温熱環境を改善するシェード、換気商品である通風ドア、快適空間をつくる換気框などがあります。

    ■「断熱等級6」がこれからのスタンダードになる

     2022年に断熱等性能等級の上位等級が新設されました。われわれは、断熱等級6から7の間ぐらいの性能にすれば、最も明確な効果を持つ建物ができるのではないかと考えています。今後は断熱等級6もしくはやや上辺りがスタンダードになるのではないでしょうか。
     図1の左側は各断熱等級の室内温度を表した画像ですが、等級4では窓や壁の下側が青く、まだ断熱性能が不十分です。等級5、6、7と上がるにつれ、部屋の表面温度が一様になっていきます。右側の表は冬季暖房シミュレーションで、省エネ基準の等級4レベルに対して暖房エネルギーが等級7で1/4になり、等級6では半分以下になります。最低室温も等級が上がるにしたがって暖かくなっていくことが分かります。
     上位等級5、6、7にはどんな開口部が適用するのでしょうか。4~7地域では、等級7は「APW430」という樹脂窓で実現できると考えます。トリプルガラスのダブルLow-Eでアルゴンガス入りの複層ガラスです。等級6は「APW330」樹脂窓、等級5ではアルミ樹脂複合窓で実現できます。5~7地域で断熱性能の断熱等級を実現する窓と断熱材の組み合わせも紹介します。今回は「APW430」など当社の窓と、先ほど発表があった旭ファイバーグラス様の断熱材で表現してみました(図2)。

    ■内窓を設置、断熱改修効果の検証(学校建築)

     今回、先ほど基調講演をされた岩前先生と断熱改修窓で検証を行いました。「先進的窓リノベ事業」という環境省の補助事業の対象商品となっている窓の断熱改修3タイプのうち「内窓設置」を行いました(図3)。
     断熱改修による効果の一つに「健康」があります。改修前は8℃だった起床時の平均室温が断熱改修後20℃に上がったことによって、血圧が降下したという研究報告があります。また窓の結露も抑制されます。アルミ製の窓では結露が発生しますが、樹脂窓(トリプルガラス)では表面温度も上がるので結露し難くなります。従ってカビやダニの発生が抑制され健康への影響も少なく、カーテンも汚れにくくなります。
     断熱改修効果を検証したのは大阪の某大学研究室です(図4)。研究室の窓に内窓を設置して効果を評価するものです。東側と南側にある窓を改修するに当たり、3次元モデルをつくり、室内側からの意匠性にも留意しました。右側は熱伝導の解析で、表面温度を予測しました。計算では、改修前が6近辺の熱貫流率(断熱性能)だったものが内窓を設置することによって、1.5や1.9まで性能が向上することが分かりました。
     これを元に研究室の熱負荷をシミュレーションしました(図5)。上段が暖房期と冷房期・中間期の窓からの熱の出入りです。共に開口部からの熱の出入りは50%以上削減されることが分かりました。下段が対象室の空調負荷を示しています。外壁は無断熱なので窓だけでは対応し切れず、6~7%の削減です。このように予測を進めていきました。
     測定は近傍の上下温度分布とグローブ温度(放射と対流を同時に評価)です。それとは別に、ガラスの表面温度とそこで室内外に流れる熱流も測定しています。
    ①グローブ温度の測定結果:測定期間で同じ外気温になる部分で比較し、週末の無暖房期間に着目しました。すると、内窓なしでは室温が15℃以下になり、内窓ありでは17℃以上をキープしました。内部発熱のない期間でも温度低下を抑えられることが確認できました(図6)。
    ②ガラス熱流量の測定結果:熱流が大きく下がっている部分がありますが、朝に日が昇る際、東面で内→外ではなく外→内に熱が流れるためです。結果から、熱流のレベルが内窓改修を施した場合にかなり少なくなっていることが確認できました。
    ③ガラス表面温度の測定結果:こちらは内窓なしと内窓ありの差が一層明確でした。表面温度が7℃ぐらいにまで下がる場合もあったのが、内窓設置後は15℃以上になりました。利用者である先生方、学生方からは、「暖房をつける頻度が減った」「外の騒音が気にならなくなった」などの声が聞かれ、室温以外の要素も含め、室内環境がかなり向上したことが確認できました。
     今後、窓の断熱改修によるエンボディドカーボン(アップフロント=製造・建設段階)とオペレーショナルカーボン(暖冷房によるCO2排出量)の比較にトライアルしていく計画です。

    ■持続可能な社会を実現するYKK APものづくり精神

     YKK APでは、窓の効果や納得感が伝わる「体感ショールーム」を全国8カ所に展開しており、プロユーザー、エンドユーザーがきちんと効果を体感して適切な窓を選んでいただけるようにしています。また、研究・開発・検証のための三つの設備を富山県黒部市に設置しています。一つは技術情報の創出と研究を行う「YKK AP R&Dセンター」、二つ目が商品の評価・検証を行う「価値検証センター」、そして三つ目がプロユーザーの課題解決に役立つ技術情報を発信する「パートナーズサポートスタジオ」です。この3機能のサイクルを回して、よりよい商品づくりに取り組んでいます。
     当社のものづくりの原点は「善の巡環(ぜんのじゅんかん)」(他人の利益を図らずして自らの繁栄はない)という考え方で、これはSDGs実現するために必要な考え方の一つではないかと思っています。これまで以上に「事業を通して社会を幸せにすること」に取り組んでいきます。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -