2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
ホーム お問合せ
会員団体出展者専用ページ 協会の概要 会員名簿 業種別名簿 品目・業種別分類表 統計資料 関連リンク
建材情報交流会ニュース
 第24回
“建材の可能性”
 多様化する建築を支える建材の最新事情

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会にお問い合わせください。

 

「建築物の要求性能に基づく建築材料の評価・選定手法とマテリアルデザイン」
 東京大学 准教授 博士(工学)
  大学院工学系研究科建築学専攻  野口 貴文 氏

資料はこちら(PDFデータ)

■いかに建築を美しく老化させるか
 建築の一生は、よく人間の一生にたとえられます。一つの建築は、企画・設計から材料製造、建設を経て誕生し、当初の運用計画や設備設計に基づいて使用されることで、成長・発展します。やがて、加齢による劣化が起こりますが、適切な維持保全計画があれば、寿命は永らえます。時には、瀕死の建築がリノベーションなどによって蘇生することもありますが、いつかはその役割を終えて解体という死を迎えるわけです。
 さて、建築物の加齢は、日射、風雨、微生物、塩分、さらには地震などの劣化因子に、長期間さらされることで起こり、汚れやサビ、ひび割れ(クラック)といった老化現象を生み出します。しかし、それがすべてではなく、中にはツタに覆われた老建築のような美しい老化も見られます。地球環境問題に直面している現代、いかに美しく建築を老化させることができるか、というのは非常に大きなテーマだといえるでしょう。

■要求性能から材料を考える
 「いつまでも美しい建築を」「地震に強い建物を」といった要求を満たすために、建築を創る側は何をすべきか。これを考えるとき、北欧で提案された考え方が参考になります。つまり、人間の要求性能をヒエラルキーに沿って展開するという発想です。
 この場合、最初に対象の目的を考え、それを機能的要求、さらに性能的要求へと解釈します。そして、要求されている性能が発揮されることが分かっている仕様(適合みなし仕様)に落とし込む。または、新しい仕様については、適切な方法によって要求性能が発揮できることを検証した上で採用します。(図1)
 これを建築に当てはめますと、空間に対する「目的」を建築物の「機能的要求」として解釈し、さらに構成要素(構造体・部材・材料・設備など)の「性能的要求」へと解釈する。また、これらの要求を規定する方法としては、適当と考えられる既存の建築仕様(「適合みなし仕様」)を採用するか、適切な検証方法によって確認された新しい建築仕様を使う、ということになります。設計者と建築主とのやり取りで決定されるのは、この「性能的要求」のレベルで、指定された仕様に基づく現場での施工作業は、一番下のレベルに当たります。
 このヒエラルキーで大事なことは、建築物の目的・設計因子を、性能として読み解くということ。たとえば地震に強いとか、いつまでも美しい建築、といった要求に、耐震性とか耐候性、防汚性といった性能で応えるということです。もうひとつは、性能が要求に適合しているかどうかを判断する試験・解析方法を生み出すことです。これらの条件がそろえば、性能指向型の建築設計法が構築できることになります。

■要求性能に基づく材料設計の課題
 こういうヒエラルキーを念頭に置くと、要求性能に基づく材料設計とは、「建築物のライフサイクルの中で、要求されるさまざまな性能を満たすように、(建築材料にかかわる)設計因子を最適に決定する手法」であり、「材料の設計因子が発揮するであろう性能を、その評価に従い最適化する行為」といえるでしょう。その場合、3つの課題が浮かんできます。
●課題1/抽象的な要求性能の定量化
 要求性能は、「地震に強い」「いつまでも美しく」など抽象的に表現されることが多い。しかし、これを実現するには、定量的な指標を設け評価する必要がある。そのような新しい評価手法の構築は可能か。
●課題2/複数の要求性能を満たす最適解の発見
 建築物は、常に複数の性能を求められる。優秀な設計者はそれらに対する最適解を見つけてきたが、これを設計手法として一般化することはできるか。
●課題3/無数の組み合わせからの最適解の発見
 建築材料・構法・工法の組み合わせは無数にある。その中で、最適な解を見出し、検証することは可能か。
 私は、これらの課題はいずれも解決可能であると考えています。以下、いくつかの例をご紹介いたします。

■課題1への回答@建物の「汚れ」の定量的評価
 外壁の「汚れ」は、壁面の材質や汚れの状況、さらに見る人の主観によっても大きく変わります。たとえば、壁面に垂れる雨染みは「汚れ」とされやすいのに、スクラッチタイルについた泥汚れやシミは「汚れ」と意識されにくい。その結果、必要な維持管理が遅れると、建物の寿命や街の景観にも影響します。
 これを避けるには、外装材のテクスチャを考慮しながら、建築物の汚染度を「定量的」に評価し、それに基づいて維持管理を行うことが考えられます。
 このような「定量化」は、大量の人間を投入して行う官能試験や、汚れを単なる色差ととらえる方法では不可能です。そこで考えたのが、二次元フーリエ変換による汚れ度の抽出・評価という方法です。

■二次元フーリエ変換による「汚れ」の評価
 二次元フーリエ変換とは、色の濃淡の繰り返しを波と見立て、画像をこの二次元波の合成されたものと捉える変換方法です。たとえば、スクラッチタイルの外壁なら、全体を大きな波のパターンとして捉え、その中に、個々のスクラッチタイルの特性が、小さな波として複合化されていると考えるわけです。(図2)
 この方法を使って、いろいろな外壁の元画像を二次元フーリエ変換し、さらにパワースペクトル画像(PSP)に置き換えると、さまざまなテクスチャの特徴を、振幅(周波数)・波の方向・波の強さの違いとして抽出することが可能になります。さらに、周波数ごとのパワースペクトルの大きさをプロットしていくと、テクスチャによって、また同じテクスチャでも汚染の状況によって特定のグラフが得られます。(図3)
 コンクリート壁面についてこの方法を試してみますと、きれいなコンクリートと汚れたコンクリートでは、中周波数領域のグラフの傾きが違う。また、同じ汚れたコンクリート面でも、細かい汚れが全体に広がっている状態(分散化汚れ)と、大きな汚れが部分的に目立つ状態(局在化汚れ)では、グラフの形が違うことが分かります。このことは、主観的に使われていた「汚れ」という評価を、定量的(客観的)な指標に基づいて
抽出・評価できる可能性を示しています。(図4)

■課題1への回答A素材の「光沢」の定量的評価
 材料表面に対する要求性能も、定量化が困難な項目のひとつです。たとえば、「きれい」とか「明るい」とかいう評価を、どう定量的な指標に置き換えるか。ここでは、光沢感に焦点を絞ってお話しします。
 材料表面の光沢感を示す値(鏡面光沢度)はJISでも規定されています。ただし、客観的光沢と呼ばれる量的な指標であり、心理的な光沢感とは必ずしも一致しません。理由は光の挙動にあると考えられます。
 ある建材に当たった光は、さまざまなふるまいを見せます。入射光に対して正反射する。拡散反射で分散する。建材に吸収されるものもあれば、透過するものもあります。建材ごとに表面を仮想分割して、測定された物性を記述していくと、同じ建材でも、表面の光の物性は場所ごとに違うことが分かります。では、この微細な相違を定量化できれば、心理的な光沢感により近い指標を提案できるのではないか。そこで考えたのが、材料表面における微小面の凹凸を考慮したTorrance-Sparrowモデルの適用です。
 これは、Computer Vision(CV)の分野でよく用いられるもので、基本は二色性反射モデルです。まず、物体表面における光の反射を@鏡面反射成分A表面で
2回以上反射された成分B内部反射成分(物体表面を透過して色素などの粒子により散乱された後の反射)C微細面での回析光成分の4つに分けて考えます。このうちAとCは非常に小さいので無視し、@とBの和によって、物体からの分光反射成分を定義するわけです。このモデルは、表面の幾何学的情報を含むため、より正確に鏡面反射成分を表現できると考えられます。
 このモデルをもとに、タイル、金属、石、すりガラスなどの材料に光を当て、鏡面反射光の強度およびその分布の広さに注目してグラフにプロットしてみました。すると、本磨き仕上の花崗岩のように光沢の強い素材ほど、鏡面反射光の強度が大きい。一方、光沢の弱い水磨き仕上げの花崗岩では、測定された反射光もそれほど強くありません。(図5)
 また、反射光の柔らかさと鏡面反射光の分布の広がりにも、明確な相関関係があります。たとえば、型地肌仕上げのチタンとフロストガラスを比べると、反射光の強さはあまり変わりませんが、反射光の分布の広がりはフロストガラスが広い。これは、フロストガラスの光の方が柔らかい、という実際の印象にもよく適
合します。すなわち、心理的な光沢感に近い評価を数値として抽出・表現できることが分かったわけです。

■課題1への回答B「印象」の定量的評価
 視覚的印象の定量的評価を行うには、人間の「印象」についても、「美しい」「汚い」「明るい」「暗い」といった相対的評価ではなく、客観的・数値的な指標が必要です。
 そこで、こんな仮説を立てました。私たちが、何かを見て興奮したり、疲れたり、リラックスしたと感じるとき、私たちの生体には意思とは無関係に何らかの変化が起こっていると考えられる。これは、自律神経の関与による生体反応ですから、同じ自律神経に支配されている循環器系統(心拍・血圧)、呼吸器系統(呼吸波形)、瞳孔反応(瞳孔面積)の生体情報を測定し、その変化を追えば、私たちの「印象」を生体反応として定量化できるのではないか。この仮説に基づいて、非常に簡単な実験から始めました。(図6)
【実験1 視覚刺激に対する生体の反応】
 色タイルと黒バックの映像の繰り返し、正弦波(縞模様)とゆらぎ模様の繰り返しという二つの試験体を用意し、10秒間隔で信号を反転しながら計2分間、モニターで見てもらいました。これは、何かを見たときにどんな変化が起きるかを知るための実験です。被験者は20〜36歳の男女36人です。
 その結果ですが、色タイル→黒バックを繰り返した場合、被験者ごとに個人差が大きい。また、縞模様→ゆらぎ模様の繰り返しでは、被験者ごとに傾向が異なることが分かりました。
【実験2 視覚刺激に対する累積的な反応】
 同じ被験者に、色タイルあるいは縞・ゆらぎ模様を5分間凝視してもらい、心拍数がゆっくりになるといった生体反応がないかを確かめました。まず、縞・ゆらぎ模様をずっと見てもらった場合、心拍数データにあまり差はありません。一方、色タイルの場合は被験者によって明確な差が出ました。たとえば、ブルーが好き、落ち着くという被験者にブルーのタイルを提示したところ、瞳孔面積の縮小や心拍数の低下という
 以上の結果から、次の結論が出てきます。@刺激を与えると、それは生体情報にも変化が現れるA嗜好性の高い視覚刺激(先の実験ではブルータイル)を長時間見た場合、生体は選択的な反応を示す可能性がある。すなわち、個人の生体情報を元にすることで、「きれい」「明るい」という主観的な言葉を使わず、視覚刺
激に対する適性を評価する手法を構築できる可能性がある、ということです。
【実験3 視覚刺激のランダムな変化に対する反応】
 色刺激をランダムな間隔で切り替え、心拍および瞳孔の反応を見ています。被験者は20代の男性2人、女性1人で、1人ごとに3〜7秒の間隔で40回、切り替
 まず、単純な画像を使った場合、瞳孔面積は黒→白、緑→赤のように、コントラストや色の変化がはっきりしているものほど、大きく変化します。(実験3-1)
 次の実験では、タイルなどの実画像と、その属性をコンピュータで処理し再構成した画像で比較してみました。ここで興味深いのは、実画像でも再構成画像でも瞳孔の変化は類似している点です。(実験3-2)
 これは、実物の建材がなくても、各種の属性を再構成した画像によって建材を表現できる可能性を示している。ある建材が人々に好まれるかどうか、サンプル
を作らなくても、コンピュータで事前に反応を探れる可能性があるということです。
 最後の実験では、輝度を統一した無彩色信号(灰色)と再構成画像を切り替えてみました。すると、瞳孔の変化は実験3-2よりも大きくなる。また、赤タイル系の試験体では被験者全員に共通して変化が見られますが、赤・緑タイル系タイルでは被験者ごとに反応が異なるという結果が得られました。(実験3-3)
【結論】
 以上の実験が示しているのは、@生体としての人間には、視覚情報を入力とし瞳孔反応を出力とする入出力関係があるAその関係は、人間が「比較的共通に持っている入出力関係」と「被験者ごとに異なる入出力関係」で構成されている、ということです。
 「共通する入出力関係」からは、赤色=「刺激的」「警告・注意」、青色=「クール」「落ち着き」といった、多くの人間が共有しやすい初期的印象を評価できる可能性があります。一方、「異なる入出力関係」からは、個々人の嗜好性を評価できる可能性があります。

■課題2・3への回答/多条件における最適解の発見
 建築物にはさまざまな性能が求められますが、それは複数の階層で構成されています。外壁タイルのように、材料の性能がじかに性能にかかわる場合もあれば、耐震設計のように、素材の強度→空間の耐震性→建物の耐震性と段階的に構成される場合もあります。
 建築設計とは、こうした複数の階層構造の中で、最適解を見つけるプロセスといえます。従来、専門家が経験的・推論的に行ってきたこの過程を、支援システムでサポートできないか。そこで考えたのが、遺伝的アルゴリズム(GA)の適用です。

■遺伝的アルゴリズム(GA)とは何か
 遺伝的アルゴリズムとは、「自然界における生物の進化の原理(選択淘汰・突然変異)に着想を得たアルゴリズムで、生物の進化を模した確率的探索・学習・最適化の手法」です。環境に適合するものは次世代に残る。残れないものは、そこで学習し環境に合うよう自分を変換する、というプロセスをとります。(図8)
 最初の世代として、ランダムにいろいろな属性を持つ建材を用意します。この中からお互いを「交配」させ、要求性能に合うものを残すことで、次の世代の建材を生み出していきます。さらに、思い切った属性の変化、つまり「突然変異」によって、要求性能に合う建材が生まれる可能性もある。こうした「交配」と「突然変異」を何世代か繰り返すことで、最適解となる建材を見つけていくわけです。(図9)
 もちろん、次の世代に残すべき完全最適解が見つからない場合もあります。そのときは、トレードオフの関係にある要素に注目し、さまざまなバランスでよい評価値をとるパレート最適という概念を導入して、それに近い解を求めます。
 こうして得られた解に対して、性能評価関数というモデルを使って、最終的な性能評価を行います。以上のプロセスをひとつにすることで、性能指向型の材料設計の体系化と支援システムの構築を行ってみました。その例をいくつかご紹介します。

■応用例@コンクリート調合支援システム(mixGA)
 コンクリートに求められる性能は、強さ、作業性、耐久性、コストなどさまざまです。その成分は、水とセメントと骨材、混和材ですが、成分の組み合わせも要求性能も多い中で、最適の調合を選ぶことは非常に難しい。そこで、遺伝的アルゴリズム(GA)を適用した調合支援システムを考えてみました。(図10)
 遺伝子のデータとしては、材料の種類という質の部分と、コンクリート1㎥中の体積という量の部分に分けて考えています。材料物性に関しては、材料別に詳細なデータベースを用意しており、各遺伝子の情報にリンクしたデータが読み込まれるようになっています。
 コンクリートに要求される各性能については、高精度の性能予測関数を準備し、調合と材料物性データを基に予測します。その上で、最適解となるコンクリート調合が得られるまで、交配と突然変異を繰り返しました。そこで得られた最適解集合を、二つの性能評価関数で探っていった結果、いくつかの最適解に到達できました。
 このシステムについては、研究室のホームページで公開していますので、興味のある人はご覧ください。
http://bme.t.u-tokyo.ac.jp/

■応用例A壁材の性能指向型選定手法(wallGA)
 一つの壁には、外装材、構造材、断熱材など、多彩な素材が組み合わされています。しかも、耐水性、遮音性、断熱性、経済性など、求められる性能は多い。そこで、多彩な素材の中から、複数の要求性能を同時に満たす最適の組み合わせを選び出す、選定システムの構築を試みました。(図11)
 遺伝子として使ったのは、外装材、下地材、機能材、内装材などの物性値です。約100種類の素材について、カタログからデータを収集し、これを9ビットのレイヤーに変換しました。このレイヤーを8つ(計72ビット)集めることで、さまざまな外壁を遺伝子型として表現しています。その際、評価基準となる各性能予測関数に対して影響のある物性値(またはその組み合わせ)の優劣に従い、材料IDをあらかじめ並び替えておきました(ID順位戦略)。環境条件も設定した上で、作った個体(遺伝子型)は1040個になりました。
 これらの個体について、100世代にわたり交配と突然変異を繰り返したところ、4つの最適解が出てきた。これを性能評価関数で評価したところ、すべての要求性能をほぼ満足する外壁の最適解が得られました。

■応用例BRC建築の維持保全計画支援システム
 RC建築にとって致命的な鉄筋のサビを防ぐには、コンクリートの中性化を防止することが重要です。そこで、必要なメンテナンス作業を「表面塗装の塗りなおし」「モルタル部の更新」「コンクリート部の更新」の3つに単純化し、いつ、どんなメンテナンスを行う
のが適当か、最適解を求めてみました。(図12)
 ここでの遺伝子データは、5年、10年という補修間隔と補修方法をセットで表現する方法を採っています。また、中性化に関しては、モルタル・コンクリートおよび仕上材のそれぞれについて、二酸化炭素の移動を解析し、その状態に応じて補修時期を決定するように設定しています。
 この条件で、2つのケースについて遺伝的アルゴリズムの手法で最適解を求めました。耐用年数およびコストに関する評価関数で評価したところ、それぞれについて最適解を得ることができました。

■ナノテクノロジーから建築ゲノム構想へ
 建築物について、われわれは通常m単位で認識しています。それを構成する柱、壁といった部材についても、大体同じ単位です。その部材を構成する材料になると、これはcm単位、mm単位となります。
 では、その材料を構成する成分はどうか。これはもうマイクロ・ナノ単位になってくる。今、世界の建材開発の情勢を見ますと、ナノテクノロジーを駆使して新たな素材を開発するのが当然になりつつあります。
 そこで思うのですが、こうしたナノレベルの化学成分を遺伝子とみなし、その形質や情報を制御することで、材料を制御する。部材を制御する。さらに、建築の性能と一生を制御するという考え方ができるのではないか。こういう建築ゲノム構想というものを、ゆくゆくは展開していきたいと考えております。

 


「新しい板ガラスの世界」
 日本板硝子梶@営業本部 建築板硝子部
  主席技師 立花 正敏 氏

資料はこちら(PDFデータ)

■サッシ枠から飛び出したガラス(1993ごろ)
 15年ほど前まで、ガラスといえばほとんどがサッシ枠に収めて使うものでした。当時、単体で使われていたのは、強化ガラス製の自動ドア程度です。
 しかし、1993年(平成5)あたりから、サッシ枠に収めず、単体で使われることが多くなってきます。
●Aオフィスビル(東京都)
 1階まわりのガラス壁は、サッシ枠ではなくピースフレーム+エッジポイントで構成されています。また、ガラス階段は、ガラスの4コーナーに穴をあけ金具で支持するDPG工法が使われました。構造物ではない部分をガラスだけで構成したのは、このビルが多分、日本で初めてだろうと思います。(図1)

■カーテンウォールへの応用(1998ごろ)
 98年(平成10)ごろから、壁面全体をガラスのカーテンウォールで構成するガラススキン構造、あるいはフレームレス構造と呼ばれる建築が出てきます。
●Bオフィスビル(千葉県)
 縦横に並べた面ガラスを、PFGと呼ばれる金具で連続させ、内外壁面を構成したダブルスキン構造。正面入口のリーフフィンキャノピーも強化ガラスです。

■多彩なガラスカーテンウォール(1999〜)
 99年(平成11)以後は、フレームレス工法への関心も高まり、実際の建築も大分増えてきます。
●Cメーカー本社ビル(東京都)
 高透過ガラスと通常フロートガラスの中間の透過度を持つ半高透過ガラスを採用し、透明度の高いファサードを構成したダブルスキン構造のビルです。
 ガラスをサポートする金物部分も極力小さくして、その支持力に頼らない構造です。そのため、ガラスカーテンウォールとしては初めて、実物大の模型を作って振動台実験を実施し、安全性を確認しました。
 また、ガラス面には月の満ち欠けがデザインされた飛散防止フィルムを貼付。万一の飛散防止、日照遮蔽、プライバシー確保を目指しました。
●D大学(神奈川県)
 吹抜になった建物正面がフレームレスのガラス壁になっています。縦方向はガラスのリブ(耐風梁)で支持し、横方向はテンションワイヤーの構造の一部にガラスを使い、耐風梁の役目を負わせています。
●E展示施設(東京都)
 ご要望は、ガラスメーカーのみでファサードを構成するために、H4500mmのガラスで500kg/uに耐えるものを、という内容でした。そこで、溝型ガラス2枚をH型鋼のように組み合わせて強軸方向に使い、フランジ面を外側にして並べることで対応しています。
●F展示施設(京都府)
 ガラスファサード内にガラスの構造体(ガラスBOX)を造った事例です。天板と欄間はブーメラン型の強化ガラス(ステフィナーガラス)で固定し、剛性を確保。欄間ガラスはDPG工法で支えています。
●Gオフィスビル(東京都)
 巨大な柱で支えられたアトリウム内に面ガラスを配した事例です。柱材の間隔が11m以上あるため、ガラス製の耐風梁とガラスリブ(スティフナー)で面ガラスを支持。これらの支持材は、フロートガラス(FL19)を2枚使った合わせガラス製です。(図2)
●バイエル社コンツェルンセンター(ドイツ・ケルン市)
 ヘルムート・ヤーンが設計し、2005年5月に竣工したダブルスキン建築です。平面計画は緩やかな円弧状で、エントランス・正面・背面と3種類のカーテンウォールが使われています。(図3)
 この建物では、開閉式のルーバーや外気導入口を設けることで、難しいとされる外部の空気の導入に対応しています。また、風圧に対しては、ワイヤーを使った独特のテンショナーで対応していますが、これは台風のないドイツならではの構造と思われます。
 以上のように、現代建築では強化ガラスの存在は非常に重要です。ただし、思わぬ形で自然破損を起こすと、建物の崩壊につながる恐れもありますので、そういう場合は、強化合わせガラスやフロートガラスを使うと、ご要望にお応えできると思います。こういう部分にガラスを使いたいというご要望がありましたら、窓口やインターネットでぜひご相談ください。

 


「日本における内装タイルの可能性」
 兜ス田タイル ハイセラ事業部 商品企画課
  課長 平田 幹人 氏

資料はこちら(PDFデータ)

■世界の主流はインテリアタイル
 タイルは英語ではCeramic Tileと表記します。紀元前27世紀からあり、不変で装飾性にすぐれた仕上材です。また、目地があることも、大きな特徴です。
 タイルがすぐれた仕上材とされるのは、その素材的な特性(耐久性、化学的・物理的安定性、メンテナンス性にすぐれる)、およびデザイン的な特徴(色彩、目
地デザイン、コーディネート性に富む)によります。ただ、欧米に比べて日本では、素材の特性は注目されても、デザイン上の特徴をうまく生かしきれていない、というのが私の印象です。
 また、統計データを見ても、日本はタイルの消費・生産両面でいわば後進国です。消費・生産量は世界の23位前後。市場規模、1人あたり使用量では、スペイン、中国、イタリアやアメリカ、フランスはもちろん、アジア各国(タイ・ベトナム・韓国・台湾)よりも下位にあるという状況です。
 これは、タイルの大半が外装材に用いられるという日本のタイル文化の特性も関係していると思われます。ちなみに、欧米やアジア諸国では、内装材(インテリア)としてタイルが多用されています。
 ただ、最近の住空間や商業空間では、欧米のインテリアを取り入れてデザインする動きが多くなっており、一般の人がインテリアタイルに触れる機会も増えています。メディアでもよく紹介されますので、今後は内装タイルに対するニーズも増えていくのではないか、と期待しています。

■「CERSAIE」に見る内装タイルのトレンド
 世界では毎年、多彩なタイルが開発されていますが、その発信地となっているのが、世界最大のセラミックタイル見本市「CERSAIE」(チェルサイエ)です。世界のタイルトレンドは、ここで作られるといっても過言ではありません。(図1)
 最近のトレンドとしては、●タイルの大型化(600角、600×1200角)、●レクタングル(長方形)●寸法をそろえることで目地をほとんどなくしたレクティファイ●不整形の面白さを見せるタンブル●石、金属、皮革、木材などの多彩な質感●インテリアに合わせやすいナチュラルカラー、などが挙げられます。また、セラミックの薄板をグラスファイバーで裏打ちし、1m×3m×3mm厚に仕上げた超薄型タイルも開発されており、注目されています。
 最後になりますが、海外ではタイルだけのショールームが普通に見られます。そこに一般のお客さんが出かけて、自宅に使いたいタイルを選ぶ、そんな文化があるわけです。当社としては、そういう文化が日本にも根付くことを願って、高級タイルショップやショールームを展開しております。機会がありましたら、ぜひ一度ご覧になってください。

 

 
 
建材情報交流会ニュース一覧へ
 

 


Copyright (C) 2007 JAPAN BUILDING MATERIALS ASSOCIATION. All rights reserved.