2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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建材情報交流会ニュース
  第11回「建材情報交流会」”高齢化社会 PART-U ― 福祉のまちづくり

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
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「大阪府の福祉のまちづくりについて」
 大阪府建築都市部 建築指導室 技術吏員  井本 毅 氏
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ハートビル法と福祉のまちづくり条例
平成6年に施行されたハートビル法とは、建築主に対して、高齢者や障害者などが安心して利用できる措置を講じることを義務づける、または努力義務とする法律です。
 ハートビル法の対象となる建築物は以下のものです。
 特定建築物:多数の者が利用する建築物(学校、事務所、工場、共同住宅など)
 特別特定建築物:特定建築物のうち不特定多数のものが利用するもの及び主として高齢者、身体障害者等が利用するもの(デパート、病院、老人ホームなど)
 今回説明するのはいわゆる改正ハートビル法(平成14年7月12日改正公布、平成15年4月1日改正施行)です。対象になる建築物の範囲を広げ、特別特定建築物の建築などについて利用円滑化基準への適合義務づけと、認定を受けた特定建築物の容積率算定の特例、表示制度の導入など支援措置の拡大を講じています。
 基準については、利用円滑化基準(最低限のレベル)と利用円滑化誘導基準(望ましいレベル)との2段階の基準があり、出入口、廊下、エレベーターなどの寸法や、設備等が規定されています。例えば廊下の幅は車いす利用者が通れる幅を確保しなければならず、前者の基準では120cm以上、後者の基準では原則180cm以上となっています。
 増築した場合は、増築部分とそこまでの経路(利用円滑化経路)も基準の適用範囲になります。
 利用円滑化誘導基準を満たすと、所管行政庁に認定申請することができ、認定されると、表示制度、容積率の特例、税制上の特例措置、低利融資、補助制度といった支援措置が受けられます。
 次に、大阪府福祉のまちづくり条例(以下、まちづくり条例)について説明します。これは福祉のまちづくりのため府、事業者の責務および府民の役割を明確にし、都市施設を安全に利用できるよう整備して自立支援型福祉社会を実現することを目的としています。平成5年に施行され、現行のものは14年に改正(15年施行)されたものです。ハートビル法に基づいて制定されたのではなく、府独自の条例ですが改正するなかでハートビル法との基準の整合が図られてきました。
 14年の改正では、条例施行後の急速な高齢化の進展、障害者の社会参加意識の高まり、交通バリアフリー法の施行などの社会的変化やそれに伴うニーズに対応するため、より幅広い対象者への配慮、特定施設の拡大、整備基準の追加を行ないました。
 特定施設には、建築基準法施行条例第55条に該当する施設(特別な配慮を要する特殊建築物)を含みます。
 まちづくり条例にも、整備基準(最低限の基準)と誘導基準(望ましい基準)の2つの基準があります。
 都市施設:不特定かつ多数の人の利用に供する建築物、道路、公園、駐車場、旅客施設すべて。規模の大小、既存、新設問わない
特定施設:都市施設のうち、事前協議や改善計画の作成などの手続きが必要な施設
まちづくり条例の対象・基準はハートビル法をほぼカバー
ハートビル法と、まちづくり条例・建築基準法施行条例(福祉関係規定)の関係は、まず、まちづくり条例の都市施設が最も大きなくくりであり、そのなかにハートビル法の特別特定建築物なり建基法施行条例の特別な配慮を要する特殊建築物なりが包含されています。大ざっぱな見方をすればほとんどの対象施設、整備基準をまちづくり条例でカバーできていることになりますが、今後状況に応じてこの法律、条例の整合をはかることになるかもしれません。
バリアフリー促進のためさまざまな取り組み
 大阪府の福祉のまちづくり施策、事業についてご説明します。まず1つめは都市施設の整備・改善です。府有、市町村施設については、まちづくり条例に基づいた高齢者、身体障害者に配慮した施設整備とし、民間施設については事前協議・完了届によって条例の担保性を確保しております。
 また、既存民間施設についても、改善状況を報告してもらうよう定期的に依頼しております。2つめは福祉のまちづくり関連計画と委員会です。障害者に配慮した施策を促進するため、第3次大阪府障害者計画を策定しました。ほかに、学識経験者や各種団体、行政で構成されたメンバーが年1回、福祉のまちづくりの状況報告をして意見交換する大阪府福祉のまちづくり推進委員会なども設置しています。3つめは、府民に情報開示、PRするための広報・公聴です。バリアフリー化された施設を表彰する「大阪・心ふれあうまちづくり賞」の実施や、研修会・講習会の開催、またホームページによる情報開示などを積極的に行なっています。

「福祉のまちづくりに求められるサイン計画」
 日本サイン(株) CR本部 デザイン部 課長 吉田 恵三 氏
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ユニバーサルデザインを基本としたサイン計画
 現在のサイン計画の基本になっているユニバーサルデザインは、ひとにやさしいまちづくり整備要項、ハートビル法、交通バリアフリー法と続く時代の流れをくんでいます。
 アメリカのロン・メイス(1941〜1998)が提唱したユニバーサルデザインの7カ条(わかりやすさ・幅広い対応・安全性・親しみやすい・美しいこと)が、今日のサイン計画の視点に活かされています。
 このような視点が明確にサインで表現されている事象として、図柄をシンボル化したピクトグラム(絵文字)があげられます。ピクトグラムは、国際的には米国のAIGA(アイガ:American Institute of GraphicArts)やISO(国際標準化機構)が代表的です。
 サッカーのワールドカップがあった平成13年、日本でサイン整備の大きな動きがあり、交通エコロジー・モビリティー財団(通称:エコモ財団)が、125項目からなる標準案内用図記号を制定、14年3月にその中の104項目がJIS規格化されました。この図案は社団法人日本サインデザイン協会(SDA)監修のもと中川憲造氏が作成したもので、版権フリーでホームページからデータがダウンロードでき、今日的な状況に対応するよう配慮されています。
まちづくりにに求められる福祉対応サイン
 今日のサインには、小さい文字が読みづらい高齢者も含め、可読性・視認性が求められ、文字の大きさや位置の設定および色彩計画は重要なファクターとなっています。
 視覚障害者のための点字サインは近年、非常に整備が進んでいます。約30万人いる視覚障害者のうち点字を読める方はわずか1割に満たない状況であるとは言われていますが、弱視程度なら識別しやすい丸形や三角などの分かりやすいサインや「音サイン」を取り入れるなどの取り組みが各自治体で進んでいます。
 「音サイン」については国土交通省からかなり具体的なガイドライン(旅客施設における音による移動支援ガイドライン)も出されています。
ほかにも身近な事例では、鉄道駅の日、英、中、韓の4カ国語表記など多国語言語表記が最近見受けられ、駅番号化の取り組みも行なわれています。
現在日本サインデザイン協会(SDA)で行なっている福岡市地下鉄駅のトータルデザインは、駅の設計をサインの概念からスタートさせた初めての試みであり、この2月に開通する予定です。
最後に当社の事例を一部紹介いたします。大阪市内の鉄道や公共サインなどは皆様もよく目にされていると思います。地下鉄サインでは市交通局の指導のもと、点字・音声・多国表記・駅番号化等の整備が進んでいます。また公共サインに関しても、通りの名前を入れた柱に市街地図をつけたサインは大阪市が整備を20年来やってきたもので、今は市内の主要道路全てに整備されています(図2)。

「高齢者・障害者にやさしい水廻りプランニング」
 (株)INAX スペースプランニング課 宮崎 芳徳 氏
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トイレのリニューアルによるバリアフリー
 今回はトイレについて、公共施設での障害者の利用に配慮したものと、住宅・福祉施設における高齢者の利用に配慮したもの、二つのテーマで解説します。
 ハートビル法、交通バリアフリー法、その他条例、改正などでさまざまな動きがありますが、トイレは公共施設でも住宅でも、現在は建物のバリアフリーを切り口にしたリニューアルが増えています。
 まず予備知識として、障害にはどのような種類があり、それがトイレの行為にどう影響を及ぼすのかを述べます。障害は身体障害、知的障害、精神障害に大別され、トイレでは身体障害者への配慮がメインです。
 脊髄損傷、脳血管障害などの原因による手足の不自由のため歩けない、衣服の着脱ができない場合、車いすのスペースや手すり、介助者が入れるスペースが必要になります。また、心臓疾患、肝臓疾患など外からは見えないのが内部障害です。数年前からクローズアップされているのが、オストメイト(大腸がん手術で腸を切除したため人口肛門を腹部に装着した人のこと。腹部に穴を開け便をパウチにためる)に配慮したものです。専用の汚物流しや湯の出るハンドシャワーなど、オストメイトが安心して利用できるための設備が大きなポイントです。
 障害者に配慮したトイレにはこのようにいろんな機能が詰まっていますが、パブリックトイレのポイントは広いこと、器具と位置が使いやすいこと、介助スペースがあることなどがあげられます。
 当社では「多目的トイレプラン集」を作成して、空間の幅・奥行きサイズに応じたレイアウトプランを紹介しています。設定する条件に合わせていろんなバージョンを用意できます。大便器ブースにただたくさんの設備を詰め込むのではなく、例えば百貨店の場合、レストラン、子供服、婦人服、それぞれの売り場のフロアに応じてバリエーションを持たせることによって建物全体をバリアフリーにするといった最近の流れを考えたものです。
身体状況に合わせてトイレスペースを確保
 次に住宅・福祉施設における高齢者の利用に配慮したトイレについて。
 自立・歩行可能な高齢者の場合、最低1,250mm×1,250mmの空間と、手すりと介助スペースを確保します。自立・車いす利用の高齢者の場合は、移乗のための縦手すり、長時間楽に使用できる肘掛付背もたれ、車いす用として1,000mmのスペースが必要になります。また、自立ではなく何らかの介助が必要な人の場合、立ち座りが難しいため洗面台での手洗いが困難になり、手を伸ばし、肘を乗せて洗える大型の洗面台が必要であり、介助者が余裕を持って動けるよう最低1,800mmの奥行きも確保します。このように、高齢者の身体状況によってトイレ内の大きさも変わります。
 これまではパブリックにせよ高齢者福祉施設にせよ、手すりをつけて車いすが入ればよいという考え方でしたが、身体状況を細分化し、どんな人にでも対応できる細かい配慮を盛り込んだトイレがこれからの流れになると思います。

「自動回転ドアのガイドラインを受けての対応」
 ナブテスコ(株) ナブコカンパニー 建材部 課長 板舛 克彦 氏
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欧州から導入以降、事故発生までは需要急増
 元来引き戸の文化であった日本に欧州から大型自動回転ドアが導入されたのは平成2年です。それまでもホテルなどでは小型のものがあったのですが、大型が導入されると回転ドアのイメージは一新され、大きく需要が伸びました。特に14年、六本木や汐留に見られる都心の再開発時代に急増しました。その理由には、通行ブースが広い(定員2〜7人)こと、風除効果が高いこと、非常時にドアが開いて避難が可能なことというメリットがあげられます。
 しかし、16年3月に自動回転ドアに挟まれて児童が死亡するという事故が起こって以来、自動回転ドアの設置や運用はストップしました。回転ドア事故の要因分析からわかる3つの危険とは、「挟まれ」「衝突」「巻き込み」。「挟まれ」は、ウォール固定部とドア羽根に挟まれることで、今回の死亡事故は挟まれによるものでした。ドア面が後ろから迫って来る「衝突」では、高齢者が転倒して骨折したケースがありました。「巻き込み」は床部分とドア羽根の間で起こります。
 事故防止のため国土交通省と経済産業省が中心となってガイドラインを定めることになり、業界もその作成に協力しました。ガイドラインでは、事故防止対策は@建築設計者・発注者、A製造・供給者、施工者、B管理者及びC点検整備者等の関係主体それぞれで講じなければならないとし、既存現場でも全ての大型自動回転ドアで防止対策が必要としています。
 建築設計者・発注者には、回転ドアだけでなく普通のドアも併設することなどが求められます。
 製造・供給者、施工者で講じるべき対策として、「挟まれ」「衝突」「巻き込み」それぞれで具体的方策が示されています。例えば挟まれるおそれのある危険領域への防御柵またはセンサーの設置。衝突に対しては、最大回転速度を秒速65cm以下にする。最も厳しいイギリスで秒速75cm(欧州では秒速1m)以下ですから、それよりも厳しくしたわけです。
 そのほか、これまでは子どものいたずら防止のため高い位置にあった非常停止ボタンを、視認しやすく誰でも操作できる位置に設置すること、ガラスの安全対策・停電時の閉じ込め対策・感電対策の実施なども定められています。また、管理者には、製造・供給者の提供するマニュアルに基づいて運用・管理することが求められます。
潜在需要あり。必要なのは分かりやすい安全
 既存現場では、各社が対応策についてお客様に説明に行くなどかなり対応に苦慮しました。現在、順次安全対策工事が実施されつつあります。
 当社では、回転ドアの潜在需要はあると見て、目で見て分かる安全機構を提案中です。非常時にドアが折れて逃げられる「ドア折れ機構」や、重い現行機の軽量化による安全設計を現在進行中させています。これからの社会には「分かりやすい安全」が重要なのです。
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