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2025年6月27日【特集 グラングリーン大阪⑤】グラングリーン大阪の設備設計思想<前編>
ーランドスケープ計画にフィットし、表には出ず地下で働くエコエネルギー設備たちー環境性能やサステナビリティを評価する国際的指標で最高レベルの認証を取得 大阪駅前で進められてきた新しいまちづくりプロジェクト、うめきた2期の「グラングリーン大阪」。
2024年に一部エリアで先行まちびらきが行われ、25年3月に南館がグランドオープンし、多くの人々でにぎわっています。
本特集では「グラングリーン大阪」の中でも特に、中核機能施設「JAM BASE」、ランドスケープ構想、設備設計思想の3テーマにわたり、各事業をご担当された方々にインタビューし、コンセプトマインドや具体的取り組みについてうかがいました。
第5回目はグラングリーン大阪の「設備設計思想」の前編です。サステナビリティなまちづくりを可能にした最先端技術を解説いただきます。ランドスケープデザインに呼応したサステナビリティに取り組む
緑豊かな都市公園とイノベーション創出を担う施設群がシームレスにつながるグラングリーン大阪は、価値を生み出し成長しながら持続的なまちづくりを目指しています。本プロジェクトでは事業者JVが一体となり、環境配慮や新エネルギーなど最先端の技術を積極的に導入して、このまちを次世代の新しい都市モデルとして国内外に発信すべく取り組みました。
「『みどり』と『イノベーション』の融合」をグランドコンセプトに掲げるグラングリーン大阪は「みどり」を中心として開発されることになりました。地区面積約9万㎡のうち約4.5万㎡を都市公園「うめきた公園」とし、生物ネットワークの形成を想定して約3万㎡に約320種、1,600本以上の樹木で大規模な緑の空間をつくり出すことが計画されています。
本特集で取り上げる「ランドスケープ構想編」でも触れていますが、うめきた公園はランドスケープ・ファーストの考え方に基づき、緑を中心とした豊かなランドスケープの形成を通じてサステナビリティに取り組むことを謳っています。
今回は「設備設計思想編」として、さまざまな最新環境負荷低減技術やそれらを活用した設備・施設について、導入経緯や思想と併せて紹介します。目に見えるものだけが設備ではない
まちづくりのコンセプトにフィットする技術や設備のプランニングはどのように行なわれていったのでしょうか。株式会社日建設計エンジニアリング部門設備設計グループ・アソシエイトの藤井拓郎さんは次のようにご説明くださいました。
「環境配慮の技術や設備として一般市民の方々がよくイメージされるのは太陽光発電パネルや風力発電など。そのようなものが散りばめられていると、そこだけを見て『環境配慮しているな』と感じるでしょう。ただ『公園の緑を最大限に生かす』という考え方に照らすと、公園の中に風力発電が立っているといったような、設備が目立つプランニングではよいまちにならないのではないか? ランドスケープ計画にマッチした技術を組み込んだ設備計画が最適解ではないか? そう考え、うめきた2期地区でどんな技術が使えるかを検討しました。設備自体が前面に出て緑の計画がかすんでしまうようなプランニングは避けたかったのです」。
このようにしてグラングリーン大阪の設備設計の計画は、ランドスケープのデザインやまちづくりの思想を基本とし、地区形状や地質、所与の環境と技術を組み合わせた“最適解”を目指したのでした。
実際に、グラングリーン大阪の平面・断面イメージと各種導入技術や設備を合わせて見てみると、表層で目立つものはなく、多くが地面の中や地下深くで機能していることが分かります。グラングリーン大阪で採用されている環境負荷低減技術 国際的指標でも高い評価を受けたグラングリーン大阪のサステナビリティ
グラングリーン大阪は都市公園を含む複合開発として、環境性能やサステナビリティを評価する国際的な指標において最高レベルの認証を取得しています。
国際的な環境性能認証制度「LEED-NDプラン認証」(まちづくり部門)とランドスケープのサステナビリティを評価する「SITES予備認証」で同時にGOLD評価を取得したほか、「DBJ Green Building 認証」、「ABINC ADVANCE認証」、「ZEB Oriented認証(事務所部分)」「CASBEE スマートウェルネスオフィス認証」も取得。
個々の建物や技術ではなく、まち全体としての“最適解”を追求して取り組んだ蓄積の結果がこれらの高評価に結びつきました。
株式会社日建設計 設計グループ・ダイレクターの岡隆裕さんは、「一つひとつを取り立てて説明するのは難しいのですが、欧米で最も権威ある国際的認証を得たことで、グラングリーン大阪のサステナビリティの取り組みが客観的に評価され、対外的にもアピールできるようになったと思います」と話します。取得した6つの環境認証
上:左からLEED‐NDプラン認証(GOLD評価)、「SITESSITES予備認証(GOLD 評価)
下:左からABINC ADVANCE認証、DBJ Green Building認証、CASBEE スマートウェルネスオフィス(Sランク認証)、ZEB Oriented 認証(事務所部分)所与の地形やインフラを最大限に活用し、まち全体で環境負荷の低減を目指す
グラングリーン大阪のランドスケープ計画やデザインにマッチした設備設計とはすなわち、緑豊かな風景や憩いのパブリックスペースに設備類が干渉しないような設計です。この難題に取り組んだ事業者JVの建築チームや設備チームは、さまざまな取り組みにチャレンジしています。
「国内外に数えきれないほどの技術がある中で、どのような技術を採用するかというのは、設備に携わったメンバーで検討しました」と藤井さんは言います。
「見えないところで機能させる」技術の代表例が「帯水層蓄熱」。グラングリーン大阪の周辺一帯は地下水が豊かなので、水を多く含む厚い「帯水層」が地下に存在します。これを活用して効率的な冷暖房を行う技術のことです(詳しくは後述)。
「下水熱利用」も見えない技術の一例。道路直下を通る下水管を利用するという着眼点も興味深いものです。これは下水の熱を利用する技術なのですが、下水管と熱交換した水を送るのにもエネルギーを使うため、道路に近いうめきた公園内の建物に使うことでエネルギー消費をできるだけ抑える工夫がなされています(詳しくは後述)。
こうして、所与の地形やインフラをうまく利用し、ランドスケープ計画とも調和させながら、それぞれの設備を組み合わせてまち全体で環境負荷低減ができるような設計計画が試みられました。
グラングリーン大阪が目標に掲げているのは、2030年までにまち全体で35%のCO2を削減すること。環境省の提言する「2030年までに26%削減」を超える目標値です。実際にどれだけエネルギーが使われてどれだけのCO2が出るのか、まずはウォッチしていくとのことでした。大規模な緑の空間と最新技術の相乗効果で、環境負荷低減にどの程度寄与できるかが楽しみです。潤った大地の恵みを生かした「帯水層蓄熱」
ランドスケープコンセプトで謳われている「緑の潤った大地」という言葉にあるように、地下は帯水層に恵まれています。帯水層蓄熱はまさに大阪の地層のポテンシャルの高さを利用した技術。地下45m~55mの帯水層に、夏期の冷房運転時の熱源機器からの温排熱を蓄えて冬期の暖房運転に有効利用し、冬期の冷排熱を夏期の冷房運転に利用するという仕組みになっています。
省エネルギー、CO2排出削減、ヒートアイランド現象の緩和に効果があるとして大阪市でも帯水層蓄熱の普及が推進されています。
藤井さんが、このシステムについてさらに分かりやすく説明くださいました。
「地下に掘った2本の井戸を一対とし、一方に約13℃の冷水、もう一方に23℃の温水をためておきます。夏場にエアコンを動かすと熱が外に排出されますが、この排熱を空気中に出さずに地下へ送って、温かいほう(図で赤く示した井戸)にため続けます。冬場はこの温水を汲み上げて暖房に使います。すると今度は冷気が排出されるので、それを冷たいほう(図で青く示した井戸)に返してまたためていくわけです。そして夏場は、冬場にためておいた冷水を汲み上げて冷房に使い……というように、温排熱と冷排熱が外に出ることなく循環するので、排熱の再利用で効率的な運転が可能な上に、大気への放熱が抑えられます。これがヒートアイランドの抑制効果につながります」。
「帯水層蓄熱は日本では比較的新しいシステムですが、最先端はオランダの技術。本場のオランダではこの20年で急速に普及してきました。今、このようなオランダの技術をどんどん日本に取り入れようと、産学連携で取り組まれているところです」と岡さんは言います。帯水層蓄熱の図解 汲み上げの検証実験を実施、規制緩和につなげる
帯水層蓄熱の配置場所にも検討が重ねられました。設備機器は、当然エネルギーを多く使う建物のそばにあるのが最も効率的ですが、グラングリーン大阪は真ん中が公園で建物群が南北に大きく離れています。そこで南北それぞれに1対ずつ配置するという、大規模な設備設計にチャレンジしました。また温度差のある2本の井戸が近すぎると熱がお互いの間を移動してしまうので、ちょうどよい塩梅に離して掘られています。
この技術は国家戦略特区という制度の枠組みで導入されていますが、この規模では日本初の事例であることも注目すべき点です。
「地下水を過剰に汲み上げると地盤沈下のおそれがあるため、都市圏には揚水規制があります。そこで今回の導入に当たり、実際に現場で汲み上げの検証を行いました。この設備は汲み上げた水が戻される仕組みなので、地盤沈下のリスクはきわめて低いことが確認でき、国家戦略特区として揚水規制が緩和されたのです。この規制緩和によって帯水層蓄熱が実装できたのですが、実は導入まで長い期間を要した計画でした」(岡さん)。帯水層蓄熱 工事の様子 左:南賃貸棟 右:北賃貸棟 下水インフラのポテンシャルを生かした下水熱利用
先述のようにほかにも下水熱利用、地中熱利用、雨水貯留など、表に見えない部分でのエネルギー活用がいろいろな形で試みられています。
下水道を利用した下水熱利用は、南北公園間を横断する本管直径2.2mの下水インフラのポテンシャルを生かしたシステムで、大阪市で初めての民間業者による事例となりました。下水道管内に設置したパイプから下水を採取し、公園内施設のヒートポンプ給湯システムの熱源水として利用するという仕組みです。
「これも最適な配置をみんなで検討しました。下水管はうめきた公園ど真ん中の地中。そこから遠い賃貸棟へ熱交換した水を運ぼうとすると、配管を長く延ばす必要がありますし、それだけでエネルギーを食ってしまうわけです。そこで、道路から比較的近いサウスパーク内の施設で使うことにしました。一つひとつの設備・技術に対してこうして最適な運用法を検討していきました」と藤井さんは言います。
後編でも引き続き、興味深い導入技術の紹介をしていきます。下水熱利用平面図とイメージ図 下水熱配管工事の様子(2023年12月) 株式会社日建設計エンジニアリング部門設備設計グループ・アソシエイト 藤井拓郎さん 株式会社日建設計 設計グループ・ダイレクターの岡隆裕さん