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  • 2025年6月23日
    【特集 グラングリーン大阪④】ランドスケープ構想<後編>
                 ーランドフォームの上に広がる色彩ガーデン、植栽計画では生物多様性にも着目ー
    ノースパークの先行開園区域では日本のクラフツマンシップを表現した石垣が見られる
    ノースパークの先行開園区域では日本のクラフツマンシップを表現した石垣が見られる
    大阪駅前で進められてきた新しいまちづくりプロジェクト、うめきた2期の「グラングリーン大阪」。
    2024年に一部エリアで先行まちびらきが行われ、25年3月に南館がグランドオープンし、多くの人々でにぎわっています。
    本特集では「グラングリーン大阪」の中でも特に、中核機能施設「JAM BASE」、ランドスケープ構想、設備設計思想の3テーマにわたり、各事業をご担当された方々にインタビューし、コンセプトマインドや具体的取り組みについてうかがいました。
    第4回目はグラングリーン大阪の「ランドスケープ構想」の後編です。技術面にもフォーカスし、ランドスケープデザインを深掘りします。
    「けんざい」編集部

    外からは見えないエコエネルギー施設

     後編ではテクニカル面にもフォーカスして、グラングリーン大阪のランドスケープデザインを深掘りしていきます。
    約4.5万㎡もの面積で計画されているうめきた公園は、デザイン自体はシンプルながらも、過ごしやすく愛されるパブリックスペースにするための工夫がこらされています。まず注目したいのが、さまざまな環境負荷低減技術が駆使された設備・施設類が公園内に露出していないことです。
    設備技術の詳細や具体例は別記事で紹介する「設備構想編」で詳しく触れますが、過ごしやすい「みどり」の空間としてのパブリックスペースを実現するため、これらを来街者の目に触れさせないという設計思想を根底にレイアウトデザインされていることは、「見えないよう配慮されているがゆえ」とはいえ、意外に知られていません。

    地盤が沈まないようランドフォームを軽量化

     公園を平地のまま整備するのではなく、ランドフォーム(盛土)を配置することで高低差をつけて、奥行きを感じさせる風景を創出したというお話を前編で紹介しました。このとき、地盤の整備に苦労があったといいます。
     「地下水が豊富な潤った大地であるという地盤の性質がかえって弱点になりました。ランドフォームを載せると沈下するリスクがあったからです。そこで圧密沈下シミュレーションを行って、沈下リスクの有無を検証してから設計に着手しました。沈下が懸念されたエリアには、EPSと呼ばれる発泡スチロールの軽量材と軽量土を活用して、ランドフォームの軽量化を図りました。ノースパークの滝に石垣をしつらえた区画では、ランドフォームの軽量化だけではなく、石垣下部に地盤改良も実施していますと株式会社日建設計都市デザイングループ・ランドスケープ設計部長の小松良朗さんは説明します。
     ちなみに前述の石垣の設計は、直角の石壁が徐々に開きながら丘に溶け込んでいく難しいディテールを建築工法と土木工法を組み合わせて設計し、3Dモデルやモックアップ制作、中国での石材検査などを経て実現しました。

    日本の四季感と生物多様性を重視した植栽計画

     ランドフォームを施したのには、他にも理由がありました。これについて小松さんは、「この土地はもともと、極めて豊富な水生植物帯があったので、土壌に合うのは河畔林といって、川辺に生息する樹木がメインでした。しかしそれでは日本ならではの四季感を演出する多彩な植栽が難しくなるので、土を盛って丘をつくることで解決できないかと考えました。丘の低いエリアには、この地に適した河畔林系の樹種を植栽し、丘の上方へいくにつれ、四季を感じられる高木を植えました」と話します。
     日本らしさ、大阪らしさ、うめきたらしさを感じることができる植栽とはどんなものだろうか――? 大阪のサクラの新名所をつくり、モミジやカツラなど紅葉の美しい樹木により四季感を感じる植栽計画としました。また、ツツジやシャクナゲ、アジサイなど日本で古くから親しまれている花木類を、繊細な配色で演出することで、一年中四季の美しさを感じられる「色彩ガーデン」を計画したといいます。
     「植栽計画は、生物多様性とも大きく関わってくるため、かなりの熱量で取り組みました。植物図鑑ができるほどのリストを作成し、コロナ禍の中何度もGGN(協働で取り組んだアメリカのランドスケープデザイン事務所)とやりとりを繰り返しながら2年をかけて立案。最終的に、在来種を中心とした日本らしさを感じさせる植栽計画ができ上がりました。また、グラングリーン大阪ができることによって大阪の生物ネットワークが形づくられていくような計画も行いました。具体的にはグラングリーン大阪の近辺に位置する大阪城公園、淀川、梅田スカイビル足元の「新・里山」での生物調査です。そこに生息する鳥や、チョウ、トンボなどが好むような植栽を選定し、飛来を誘引するような環境をしつらえることはできないかと。こういったことも意識しながら植栽計画や設計を進めていきました」(小松さん)。
     豊かなランドスケープの形成は生物多様性の確保に寄与します。グラングリーン大阪による樹林率の増加によって大阪の生物ネットワークが充実すれば、私たち来街者にとってもメリットが大きくなります。都心の駅前にいながら、鳥のさえずりや虫が奏でる音色に心癒される時間を味わうことができるのです。

    思い思いの使い方で各々の居場所を見出す来街者

     先行まちびらきから半年を経た現在。シビック・プライドを醸成し、過ごしやすく愛着を持ってもらえる都市公園はどの程度育成できているのでしょうか。来街者はコンセプトをどう受け止め、つくり手が込めた思いをどう感じたのでしょうか。
     3日で50万人を超えたというニュースが報じられていましたが、噴水で水遊びに興じる子どもたちの姿が印象的で、まちが開かれて、多くの人々がそれぞれの居場所を見つけているように見えました。
     「ビジョンやデザインは、意図して仕掛けているというよりも、市民の方々や社会が欲しいもの、必要としているものを提供させていただいていると我々は思っています。それが結果として受け入れられるかどうかということ。現時点ではおおむね良好な手応えを感じて安堵しています」と三菱地所株式会社関西支店グラングリーン大阪室・室長の神林祐一さんが言います。
     「お子様連れのご家族、とりわけ母親と小さな幼児の組み合わせが目立ちます。ベビーカーの赤ちゃんは想定の数倍。他には高校生からオフィスワーカーまで、女性の二人連れが多いんですよ。そういう方々が夕方から夜にかけてふらりと立ち寄ってくれる。お金を使うでもなく、何か活動したりでもなく、ただ思い思いの時間を過ごされているだけなのですが、そんな光景を目にしたとき、『ああ、行きたいと思ってもらえる場所になっているんだな』とすごく嬉しくなります。『どう使ってもらうか』を考え抜いたと先ほど申し上げましたが(前編)、まさに、そんなふうに使ってほしかったんだ、と改めて感じました。」(神林さん)。
     公園は、みんなの日常の一部、人生の一部になって育っていくもの。楽しいとき、悲しいとき、いろいろな場面で自由に使ってほしいというのが神林さんはじめ運営者や設計者の思いです。

    グラングリーン大阪がエリア価値向上のモデルケースになることを期待

     グラングリーン大阪のように、都市の中心部やターミナル直結エリアにパブリックスペースを創出しようという取り組みは非常に注目度が高く、今後もこのトレンドは加速することでしょう。
    「多くの市民の方々にとっての憩いの場をつくる、そのこと自体も大事ではありますが、憩いの場でありながらもビジネスと高次元で融合し、施設利用者や来街者と共に成長しつつあるのがグラングリーン大阪です。たとえ立派なビルを建てたとて、それ単体でエリア全体の価値を上げるような開発プロジェクトを実現するのは困難でしょうし、すぐに忘れ去られてしまうでしょう。グラングリーン大阪が、憩いのパブリックスペースとビジネス(イノベーション創出)の融合で周辺エリアも含めた地区全体の価値向上を実現できたというモデルケースになっていくことを期待しています」と神林さんは言います。
    「『みどり』と『イノベーション』の融合」というグランドコンセプトはまさにこれからのまちづくりを表現しているのだと、改めて気付かされます。まだまだ成長を始めたばかりのグラングリーン大阪。全体まちびらきを迎える頃にはまた変化を遂げていることでしょう。どんな姿になっているのか楽しみです。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -