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  • 2025年6月4日
    【特集 グラングリーン大阪③】ランドスケープ構想<前編>
                 ーまち全体をランドスケープ・ファーストでデザイン、憩いのパブリックスペースを創出ー
    「芝生広場」と大屋根イベントスペース(ロートハートスクエアうめきた)
    「芝生広場」と大屋根イベントスペース(ロートハートスクエアうめきた)
    大阪駅前で進められてきた新しいまちづくりプロジェクト、うめきた2期の「グラングリーン大阪」。
    2024年に一部エリアで先行まちびらきが行われ、25年3月に南館がグランドオープンし、多くの人々でにぎわっています。
    本特集では「グラングリーン大阪」の中でも特に、中核機能施設「JAM BASE」、ランドスケープ構想、設備設計思想の3テーマにわたり、各事業をご担当された方々にインタビューし、コンセプトマインドや具体的取り組みについてうかがいました。
    第3回目はグラングリーン大阪の「ランドスケープ構想」の前編です。
    「けんざい」編集部

    ランドスケープコンセプト「緑の潤った大地」

     2024年9月6日、大阪駅前の大規模総合開発となるうめきた2期地区開発プロジェクト「グラングリーン大阪」の先行まちびらきが行われました。2025年春から2027年春にかけては施設や公園が順次開業し、2027年度には全体まちびらきを迎えるというのが今後のスケジュールです。
     グラングリーン大阪は、西日本のラストフロンティアと呼ばれたJR貨物の操車場跡を、自然と都市の融合拠点にしようという壮大なプロジェクトです。南北に広がる長い扇形の敷地約9万㎡に、4.5万㎡の都市公園「うめきた公園」を含むまちが計画されています。今回は、この都市公園を中心としたまちのレイアウトやデザイン、つまりランドスケープデザインがどのような考え方で構想されたのかを紹介します。
     うめきた公園のランドスケープ構想の背景にあるのは、グラングリーン大阪のグランドコンセプトとなっている「『みどり』と『イノベーション』の融合」という考え方です。「みどり」を前面に出すという方向性は、計画当初から産官学で意見交換を重ね、何を新しいまちづくりの魅力にすべきかについて検討を尽くした上で着地したものでした。
     ランドスケープ設計者として携わった株式会社日建設計都市デザイングループ・ランドスケープ設計部長の小松良朗さんは、コンセプトについてこう語ります。
     「ランドスケープコンセプトは『大阪本来の緑の潤った大地』です。大阪市は緑が少なく、大阪を訪れた人からもそのような印象を持たれていました。だからこそこの大阪駅前の一等地に豊かな緑の空間をつくることがプロジェクトのミッションとなったのです。平仮名の『みどり』は、植物だけではなく、全ての人に開かれ誰もが使えるパブリックスペースという意味合いを包含しています。この『みどり』をまち全体に展開させるという大きなコンセプトが要件として与えられていたので、それを踏まえてランドスケープを設計しました」。

    ランドスケープ・ファーストとはどんな考え方か

     グラングリーン大阪は、まち全体が「ランドスケープ・ファースト」でデザインされています。大阪駅直結の一等地に4.5万㎡もの都市公園を計画したこと、公園を中心に建物もランドスケープの一要素としてとらえ一体的にデザインしたこと、こうした点がランドスケープ・ファーストと言われるゆえんです。「『みどり』と『イノベーション』の融合」というコンセプトにフィットするためには、ランドスケープ・ファーストの考え方が不可欠でした。 「緑の潤った大地」というランドスケープコンセプトからも分かるように、水も非常に重要な役割を果たしています。
     「すぐ近くを流れる淀川は、もともと流域の水生植物帯が大変豊かなエリアでした。今ではアスファルトとコンクリートに覆われたこの一帯も、地面を一枚めくると、豊富な地下水をたたえた潤いの大地が広がっています。まち全体が潤った大地の上にあり、その中から建物が“生えてくる”ようなイメージを持ってデザインされており、建物群はそれぞれに少しずつ角度を振って多様なスペースを生み出しながら配置されています」と小松さん。
     このように、淀川流域の歴史や「水の都」という立地特性を生かして、自然環境と都市空間の両方を引き立てるランドスケープデザインが計画されていったわけです。

    世界的ランドスケープ建築集団との協働で計画進行

     では、ランドスケープデザイン計画はどのように進められていったのでしょうか。
     「まずアメリカのGGN(グスタフソン・ガスリー・ニコル)というランドスケープデザイン事務所がデザインリードを手がけ、我々日建設計は公園と北館、南北分譲棟のランドスケープ設計を行い、南館は三菱地所設計のランドスケープチームと設計JVを組んで、ランドスケープ設計を行いました」と、小松さんはチーム体制について説明くださいました。
     GGNは世界的に活躍するランドスケープデザインのエキスパート集団です。シカゴのミレニアムパークにある「ルリー・ガーデン」をはじめ多数の代表作品を有し、受賞歴も豊富でグローバルに注目されています。
     「GGNにはコンペの段階から入ってもらっていました。デザインリードとは、マスタープランや考え方を構築し、まち全体のデザインをリードするような存在です。うめきた公園はGGNが日本で手掛ける初めてのプロジェクト。大阪城の石垣に見られるような日本の伝統的なクラフツマンシップ、土地の歴史や風土、「水の都」として築いてきた都市文化などを踏まえてデザインに落とし込みました。我々はGGNがデザインに込めた思想をしっかり共有しつつコラボレーションし、日本ならではの技術や四季が感じられるような設計を行うといった役割分担で、同じ方向を向いて取り組んできました」(小松さん)。

    海外視察を通して考え抜いた「愛される公園とは?」

     ランドスケープ・ファーストの考えに基づき、民間宅地を含めた敷地全体を一つの「みどり」の大地としてとらえ一体的かつシームレスに計画された都市公園は国内で例がありませんでした。そこで事業者と設計者の皆さんは海外事例に学ぼうと、世界のさまざまな公園を視察しました。
     「大規模ターミナル駅前に大きく広がるパブリックスペースの事例は海外にもほとんどなく、都市の中で利用されているパブリックスペースや公園を主に視察しました。シカゴのミレニアムパーク、ニューヨークのブライアントパーク、他にはポートランドなどにも足を運び、実際に目で見て一利用者として場を体験するだけでなく、マネジメントについてヒアリングもさせてもらいました。海外を視察して感じたのは、利用者が緑豊かなパブリックスペースを快適に使いこなしている状態、これが真に豊かな都市の風景であるということ。その光景があまりにも強く印象に残ったため、このようなパブリックスペースを何としても大阪で実現したいとの思いで取り組んできました」と小松さんは振り返ります。
     「私が海外視察で印象に残ったのはデザインや機能よりむしろ哲学的な考え方の部分でした」と語るのは、三菱地所株式会社関西支店グラングリーン大阪室・室長の神林祐一さんです。
     「私は、公園が地元の市民や観光客からどのように活用されているかという視点で海外の公園を見てきました。公園を愛し、公園で過ごす時間が大好きだからまちに愛着がわく、という順番で公園が人々のシビック・プライドの源泉になっていることを確認できたような気がします。季節感の演出やテクニカル面ももちろん大事なのですが、『どんな公園が愛されるのか』『どう過ごしやすい公園にするのか』という考え方から取り組みました。そこは本当にみんなで考え抜きましたね」(神林さん)。
     実際に先行まちびらき後は、初日から3日間で約50万人が訪れる賑わいぶりでした。いかに愛してもらえるかを真剣に思索したからこその成果だったのではないでしょうか。
     「ブライアントパークもミレニアムパークも、目を引く造形の現代アートなどは多く置かれてはいましたが、公園自体はいたってシンプルで、凝ったデザインでつくられているわけではありません。やはり過ごしやすさを考え尽くして設計されからだと思います。今後うめきた公園を運営していく中でも常にそこの部分は意識していきたいと思っています」と神林さんは語ります。

    土を盛って丘をつくる。ランドスケープデザインの特徴とは

     グラングリーン大阪は、北街区と南街区、およびその中心に位置するうめきた公園という3つのパートで構成されており、誰もが自由にアクセスできる多様で寛容なパブリックスペースとなることを謳っています。
     公園の中央を市道である大阪駅北1号線が走っているため、公園も南北パートに分かれる形になっています。これを「分断」とはとらえず、むしろランドスケープの特徴として生かすことでユニーク性が付加されました。
     サウスパーク(南公園)は都市的な広場空間。天然芝と水盤のある「芝生広場」では、大屋根のイベントスペース(ロートハートスクエアうめきた)との一体利用で1万人規模のイベントも開催可能です。一方ノースパーク(北公園)は緑が多い自然豊かな空間となっており、池や滝を配した憩いの空間「うめきたの森」がコアの一つ。サウスパークはJR大阪駅方面へ、ノースパークは新梅田シティ方面に対して開かれているのも特徴です。
     見る場所によって景色の変化が感じられるよう、南北の公園には最大高さ3mのランドフォーム(盛土)が施されました。ランドフォームはさまざまな効果をもたらすキーポイントです。立体感が生まれて日本庭園のような奥行きが感じられるだけでなく、南北公園をまたいでランドフォームをうねらせることで、「芝生広場」「うめきたの森」「ステッププラザ」という3つのコアが生まれます。ステッププラザは道路自体を公園の一部として活用した階段状のパブリックスペースです。これも道路を「分断するもの」ととらえられないための工夫の一つです。
     公園は南北で異なる特徴を持っていますが、一体的に見えるようにしつらえられています。道路に架かる上空通路「ひらめきの道」とランドフォームの上に植えられた6種のサクラが南北をつなぐ役割を果たすのです。
     こうしたランドスケープデザインを実現するためには、緻密な調査や新しい技術が欠かせません。後編では、技術面にもフォーカスしながらランドスケープを深掘りしていきます。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -