講演会 講演録

  • 2022年6月10日
    香港・グレーターベイエリアにおける「和空間」と今後の展望
    (KENTEN2022特別講演)
    香港貿易発展局
    大阪事務所長 リッキー・フォン 氏

    香港の現状~GDPは成長、富裕層が多く親日

     香港の人口は現在739万人で、2043年には822万人に到達する見込みです。その理由には、後述する都市開発のほか、政府の優秀人材を取り込む計画(優秀人材入境計画)などがあります。香港のGDP成長率はデモやコ
    ロナで一時的に低下しましたが、2021年度には回復し、2021年の1人当たりGDPは約5万米ドルとなり、以降も成長を続けています。
     香港の大きな特徴の一つに、富裕層の多さがあります。超富裕層(純資産3千万米ドル(約33億円)以上)が住む都市のランキングで2位、富裕層(純資産500万米ドル(約5億5,000万円)以上)のランキングでは4位です。これは、香港人口の122人に1人が純資産5億5千万円以上を保有していることを意味します。さらに香港の約98%の人が「日本が好き、もしくは大好き」とアンケートで答えています。富裕層が多く、かつ親日なマーケットが香港にはあるのです。

    富裕層に好まれる、居心地のよい「和の空間」

     香港の建築デザイン業界はコロナ禍においても好調です。香港や中国で住宅を購入するときはスケルトンで引き渡し、そこから内装を行います。一般家庭は内装業者に発注することが多いですが、富裕層はインテリアデザイナーに依頼し、テイストや素材など自分の要望を伝えてデザインしてもらいます。
     コロナ禍で在宅時間が増えて居心地のよさが求められる時代になり、富裕層では近年「和の空間」が定着しつつあります。3人に1人は来日経験がある香港では、旅行で訪れた居心地のいい日本を自宅でも表現しようとする人が増えてきました。木を多用するほか、インテリアとしての伝統工芸品も人気です。
     最近の富裕層の住居の内装事例を見ると、インテリアや家具など、日本の家庭のような雰囲気が好まれていることが見てとれます(図1)。富裕層は内装にもお金をかけますから、日本では高いとされている日本産の建築資材、木材や建具などを香港の住宅に使うのは難しい話ではないことが分かります。

    進む都市開発~年間1万9,000戸の住宅建設計画

     香港では2022年〜2023年度にかけ、土地売却計画、鉄道不動産、開発計画、民間開発・再開発プロジェクトおよび都市再生局のプロジェクトを合わせて約1万8,000戸の住宅供給が見込まれ、商業用地では約30万㎡の商業用床面積の供給が見込まれています。そして2022年以降5年間で年平均1万9,000戸を超える民間住宅を建設する計画です(過去5年間の年平均比+14%)。
     ランタオ島東部で2025年に始まる「East LantauMetropolis(ELM)」というプロジェクトでは、居住人口約110万人を見込み、約1,700ha(東京ドーム約364個分)の土地に約40万戸の住居を建設します。
     New Territoriesという地域で進められている「NewTerritories North Development(NTN)」 で は、25万5,000人の居住と21万5,000人の雇用を見込んでいるほか、研究開発拠点や高付加価値物流ハブ、環境保護産業等新産業育成が計画されています。

    香港国際空港は、都市空港から空港都市へ

     香港国際空港では、「エアポート・シティ」が開発されており、「都市空港」から「空港都市」への進化が図られています(図2)。現在、アリババと共同で最新のテクノロジーを備えたスマート・ロジスティクス・ネットワークの構築を進めており、アリババグループの物流の要「菜鳥網絡(Cainiao)」が香港国際空港に15億米ドル、総床面積38万㎡(東京ドーム約8個分)のロジスティクスセンターを建設する計画です。
     また、4社目となる香港拠点の航空会社「大湾区航空(Greater Bay Airlines)」が2022年内の就航を目指して誕生しました。大湾区航空の設立により、中国本土の一線都市はもちろん、二線都市以降の都市ともつながり、さらには香港を経由して日本へ来ることも容易に想像できます。

    香港の今後~グレーターベイエリア(GBA)構想

     大湾区(GBA=グレーターベイエリア)は、香港・マカオ・広東9都市の地域発展計画で、人口は8,600万人。GBAのGDP(約1.7兆米ドル)は韓国のGDP(1.63兆米ドル)を超える計算です。
     2018年に高速鉄道と香港珠海澳門大橋が完成し、今までの交通にかかっていた時間を大幅短縮しました。2024年には深圳から中山へのバイパスも完成し、さらなる利便性向上が見込まれます(図3)。
     香港は、中国全土で600万元(約1億2,000万円)以上の資産を持つ富裕層世帯数で北京、上海に次いで3位につけており、富裕層世帯の比率では圧倒的トップとなっています。このランキングの上位8位の半数がGBAの都市です。
     空港の発展と航空路線の進化や交通の利便性向上とも合わさって香港との移動が促進されることによって、香港・GBAのマーケットはさらなる進化が見込まれることでしょう。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -