講演会 講演録

  • 2022年6月9日
    建築物省エネ法とその必要な技術 ─ 2022 年改正のポイントと今後の展開 ─
    (KENTEN2022特別講演)
    協力:公益社団法人大阪府建築士会
    株式会社イワギシ
    取締役 岩岸 克浩 氏

    改正建築物省エネ法の概要

     国土交通省では、建築物のエネルギー消費性能の向上を図るために、2015年に「建築物省エネ法」(「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」)を公布しました。さらに、2021年4月からは、世界的な温暖化ガス排出規制の流れを背景に、バージョンアップ版というべき改正建築物省エネ法(「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」・以下、「改正省エネ法」)が完全施行されています。まず、この内容からご紹介しましょう。
    ※「建築物省エネ法が改正されました」国土交通省住宅局
      https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/shoenehou.html
     建築物省エネ法の枠組みは、建築物を住宅と非住宅に分け、それぞれを大規模(床面積2,000m2以上)・中規模(同300m2以上2,000m2未満)・小規模(同300m2未満)に分類し、必要な対応を定めるというものです。現行の改正省エネ法では、次のような対応を定めています。
    ○非住宅建築物の場合
    1)大規模(特定建築物)建築物:省エネ基準への適合判定(適判)を義務付け(適合義務)。適判をクリアしない場合、建築確認済証・完了済証が交付されず、着工も開業もできないため、特に注意が必要です。
    2)中規模建築物:大規模建築と同じく、省エネ基準への適合判定(適判)を義務付け(適合義務)。
     改正前は、所管行政庁に対する省エネ計画の届出のみ義務付けられていました(届出義務)。これが適合義務になったのは、このカテゴリー全体のエネルギー消費量が多く、国の抑制方針に効果があると判断されたためです。
    3)小規模建築物:省エネ基準への適合に努力することを義務付ける(努力義務)だけでなく、建築士から建築主に対して、省エネ基準への適否などの説明を行うことが、新たに義務付けられました(説明義務)。
    ○住宅の場合
    01)大規模・中規模住宅:届出義務の対象。不適合建築に対する指示・命令などを強化する一方、一定の条件を満たす住宅については届出期間を着工3日前に短縮するなど、審査手続きの合理化が導入されています。
    02)小規模住宅:非住宅の場合と同じく、努力義務に加え説明義務が導入されました。
    ○計画変更や増改築への対応
     適合義務の対象建築物で建築確認取得後に建築計画を変更した場合、適判を受け直すか、軽微な変更説明書などの作成・提出が必要です。手続きをせず、完了検査で設計図書通りでないと分かった場合は、検査済証が発行されない恐れもあるのでご注意ください。
     また、既存建築物を増改築して省エネ適判を受ける場合、既存部分のBEI(一次エネルギー消費性能、基準は1.0)を1.2と仮定し、新旧部分の面積按分で全体のBEIを算出することが定められています。
    ○建築業界の対応と今後の国の方針
     導入が進む省エネ基準ですが、現場の対応は十分とはいえません。2018年に、日本建築士全連合会が中小工務店および建築士を対象に実施したアンケート調査によれば、適判に必要な省エネ計算(一次エネルギー消費量・外皮性能)ができるという解答は、全体の約5割にとどまっています。
     一方、国はこの方針をますます進めていく姿勢です。今年4月22日には、現行の改正案よりさらに厳しい再改正案が閣議決定されています。特に、省エネ適合基準については、今後すべての新築住宅・非住宅に適判導入を義務付けると明記されています。
     繰り返しますが、省エネ適判については、要件をクリアしなければ建築確認が降りず、住宅を建てることができなくなります。今まで主に小規模住宅を扱ってきた地域の建設会社や工務店でも、今後は適判クリアのための準備が必須です。

    建築物省エネ法の計算および申請方法

     省エネ適判では建物全体のBEI(一次エネルギー消費性能)及び外皮基準(住宅のみ)を算出し、それを基準値以下に収めることが必要です(図1)。
     この計算用のプログラムは建築研究所HPで公開されています。おおまかな手順は、
     1)建築研究所HPの該当ページで、申請建築物の概要に合った「モデル建築法入力シート」(エクセル版)をダウンロード→建物概要・仕様を入力し、CSVデータとして出力
     2)同じHPの「モデル建物入力支援ツール」を立ち上げ、CSVデータを入力
     3)出力されたPDFデータを他の書類とともに申請、となります。
     注意点として、このプログラムは頻繁に改定されます。古いバージョンで計算すると、申請時に受理されないもしくは、再計算を求められる恐れがあります。必ず最新版であることを確認の上、ご使用ください。
     また、各項目を入力して必要なデータを出力するには、一定の労力と手間が必要です。〆切間際に取組むと時間切れになる恐れもあるので、くれぐれも余裕を持って作業を行ってください。
    ※建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報|国立研究開発法人 建築研究所
     https://www.kenken.go.jp/becc/#5-1

    2022年改正のポイント

     今回の改正では、省エネ性能評価方法の簡素化が大幅に取り入れられました。特に戸建住宅の場合、BEI基準に加え、UA値(外皮平均熱貫流率)とηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)に基づく外皮性能基準もクリアする必要がありますが、外皮性能については一定のモデルに基づく固定値が導入されました。同様の簡素化は、BEIの計算についても行われています。また、共同住宅については、住戸ごとに外皮基準の適合性を判定した上で、全住戸と共用部の合計でBEIの適合性を判定することになっていましたが、あまりにも複雑なため、改正建築物省エネ法の施行時点で、基準をフロアごとに簡略化した簡易評価方法(フロア入力法)が導入されています。
     なお、非住宅建築物では外皮性能は問われません。しかし、外皮性能を高めることはBEIの向上にも寄与するので、検討をお勧めします。評価基準は、ペリメータゾーン(建築物の窓や外壁に面するゾーン)の年間熱負荷計数(PAL*)で、建築研究所から計算プログラムが用意されています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -