講演会 講演録

  • 2026年10月6日
    建築・建材展大阪2026セミナー
    「私の建築デザインと社会活動」
     (協力:公益社団法人 日本建築家協会 近畿支部)
    萬野 光雄 氏
    (公益社団法人 日本建築家協会 副会長 兼 近畿支部長)

    一つの立体を「切る・ずらす・外に引っ張る」

     われわれ建築に携わる者は、多くが業務と両立しながらまちのいろいろなところに関わって社会活動を行っています。本日はその両方の活動についてお話しします。昨今カーボンニュートラルやSDGsという言葉が飛び交っていますが、建築家たちはずっと以前からそのようなことを心得て仕事をしてきました。私は、長い寿命で人と共に生きる建築、いわば持続可能な建築とは何かを考えながら建築づくりに取り組んでいます。
     建築ではまず立体構成を考えます。例えば一つの立方体を縦や横に切り、互いをずらしたり外側に少し引っ張ると隙間が生じます。そこに別の素材を組み込むと、アトリウムやピロティ、吹き抜けなどをつくることができます。ここから実際にどんな建築ができ上がるのか。
     例えば「伏見の家」は縦に切って二分した立体をガラスの廊下でつないだものです。名古屋に計画された高層タワーの設計案は、円柱を縦と横に切って引っ張り出すことで隙間をつくり、そこに金属やガラスを入れるという、上下左右にシンメトリーなタワーでした。
     「六角通りの京町家」は木造ラーメン構造で、横から見ると細胞分裂のように同型の家が並んでいます。同じものを連続させるのは建築の基本です。実は予算の関係上、設計だけで現在休止状態なので、実現を心待ちにしているところです。
     「PHANTOM」は永久回廊のインテリアデザインで、これも同じパターンを連続して展開させたものです。同じ柱が連続して続く廊下の先には、さらに廊下が続いているかのような壁画を配置しました。壁画面には人工大理石の巾木を入れて「ここから先は絵の世界」であることを示したのですが、衝突しそうになる人が続出したため、やむなく進入禁止のポールを立てることになりました。

    持続可能な建築は、内部が「がらんどう」である

     昨年完成した「能仁寺門前の家」は、ベーシックな家型の角を切り取って端にくっつけ、大きな屋根に切り込みを入れてバルコニーをつくる……というコンセプトで設計がスタートした住宅です。
     特徴は、一つの大きな「がらんどう」であること。何世代にもわたって大きな空間を自由に使い続けられる「がらんどう」こそが持続可能な建築ではないか、というのが私の持論なので、そのような考え方で提案させていただきました。平面図を見ると、家族の軸線とお母さんの軸線を中心としたシンメトリーなワンルーム建築であることが分かります。
     当初バルコニーの予定だった空間はゲストルームに変更しました。ガラス張りにしたかったのですが、予算の都合に加え、温室のように暑くなるためガラスは却下となりました。ゲストルームの反対側の屋根にはトップライトを設けていますが、この高さから富士山が見えるから、という施主の希望によるものです。しかし後になって、残念ながら最低110mの高さがないと富士山は見えないことが判明しました。
     内部では大きな「がらんどう」の空間が実現しています。私の考える持続可能な建築について、一つの形が見えたような気がしました(図1)。

    シンメトリーな建築デザインを常に意識

     今まさに進行中の「宇治田原の家」は、非常に特徴的な屋根を持っています。正方形の板に、ゴシック建築の教会の床の目地のような割り付けで切り込みを入れ、外側を押し下げた形状です。中心に生じた正方形の隙間には薪ストーブの煙突が立っています。躯体部分も、二重構造の立方体を外側だけ持ち上げたオーバーハングにしました。これは防犯と野生動物に対する防御を兼ねたものです。最近、クマの目撃もありましたからね。
     ご紹介してきたように、一つの立体を割ったり伸ばしたり、ずらしたりする発想で建築をつくってきました。とりわけシンメトリーであること、持続可能な建築であることを意識しています。

    JIA京都による「建築と子どもたちワークショップ」

     日本建築家協会(JIA)京都地域会では、社会貢献活動の一環として、子どもたちを対象としたワークショップを2004年から行っています。私がこの活動に参加したきっかけは「ワークショップをするので建築模型を貸してほしい」という話でした。このときは実際に小学校に出向いて子どもたちと一緒に建築の模型を手づくりする出前授業を行いました(図2)。

     「まち歩き」も実施しています。安全のために黄色のユニフォーム(Tシャツ)を着てもらい、ポラロイドカメラを持って京都のまちを歩き回るフィールドワークです。商店街に老舗や専門店がずらりと並ぶ錦市場では、子どもたちがお店の方々にインタビューしていろいろな話をうかがいます。毎回「100年先まで残したい京都の風景」「海外の子どもたちに伝えたい京都の風景」といったテーマを付与して、ポラロイドでまちの風景を収めて戻ってくるわけです。祇園のまち歩きは、祇園の真ん中に建つ小学校を借りて行いました。ポラロイドを持った子どもたちが祇園のまちを歩き回るわけですが、今は海外の方々を含め大変な人だかりなので、思うような風景を撮るのは少し難しいかもしれません。
     南禅寺ではポラロイドではなく使い捨てフィルムカメラとスケッチブックを持って歩いてもらいました(図3)。この時は水路閣にも足を運んだのですが、ちょうど秋だったのでとても美しい風景が見られてよかったと思います。コロナが明けてすぐの時期だったので、できるだけ長時間部屋にこもるようなワークは避けました。撮った写真はみんなでずらりと机に並べ、その中から数枚を選んで発表会を行います。

     木屋町通の小学校では、高瀬川で灯籠流しを行いました。子どもたちがLEDの灯籠をつくって三条から小学校まで流すのですが、真夏の暑い時期で水量が足りず、川にダムをこしらえて流しました。灯籠はどれも京都の風景を表現した力作で、ラジオ局の取材も受けました。

    20年先の京都のまちをデザインする

     京都の山と鴨川だけの状態から建築をつくって配置してジオラマをつくる「まちづくり」も行いました。私が市長を務め、みんなで会議をして駅や道路などの場所を決めていくのですが、子どもながらに景観や高さ制限をしっかり意識していることに感心しました。
     コロナ禍の時期、「うちで踊ろう」という呼びかけがありましたが、私たちはペーパークラフトで建築をつくる「うちで建築つくろう!テレワークショップ」を実施。子どもたちにペーパークラフトの材料を送り、YouTubeで企画の内容や制作の手順を解説。完成した作品写真を送り返してもらうという活動です。このように、コロナ禍の中でも途切れることなく活動を続けてきました。
     今年のワークショップでは「〇〇を営む京町家の設計2」というテーマで京町家の模型づくりにチャレンジしてもらう予定です。1/50の模型で、夏休みの宿題にはもってこいだと思います。
     なぜこのようなワークショップを行うのか。毎回テーマは違いますが一貫して京都を教材にして、創造力の向上を目的としています。私は「私たちは20年先の京都のまちをつくっています」というビジョンを宣言したことがあります。子どもたちは成長したら、いずれまちの風景に触れたり、関わったりして生きていくことになるわけです。今の子どもたちは20年先のまちをつくる主役です。このワークショップが子どもたちの刺激になり、美しいまちをより良いまちをつくってくれることを願っています。このような未来を思い描いて今後も活動を続けていきたいと思っています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -