建材情報交流会

  • 第66回建材情報交流会「にほんの あらたな てしごと/2025年優良製品・技術表彰 受賞製品紹介」(10月21日開催)講演録
    2025年12月16日
    基調講演
    「にほんの あらたな てしごと」
    橋口 新一郎 氏
    株式会社橋口建築研究所 代表取締役、大阪芸術大学・近畿大学非常勤講師
    優良製品・技術表彰 選考委員(公益社団法人 大阪府建築士会)

    古代の技術・敷葉工法×茶室の空間芸術

     大阪狭山市の中心部にある大阪府立狭山池博物館は、安藤忠雄さんの設計で知られており、狭山池というため池をつくるための“堤”の断面を収蔵しています。この堤を造成する際に用いられたのが「敷(しき)葉(は)工法」という飛鳥時代の土木技術なのですが、そこから着想を得た茶室を博物館の広場で制作・展示しました。
     敷葉工法とは、池の底や周辺の土を積み上げ、その土の間にアラカシなどの枝葉を敷いて、土と枝葉を何層にも積層させていく工法です。もとは中国、そして朝鮮半島を経て日本に伝わった技術だそうですが、飛鳥時代に既に使われていたのです。この1400年前の土木技術と700年前の空間芸術としての茶室を組み合わせてみたら面白いのではないかと考えました。
     ベニヤを型枠にして博物館中央の円形広場に並べ、それを土台として、約1カ月半をかけ、崩落による修復部分を合わせた約24tの土とアラカシの枝葉を積み上げました。制作は私一人で行ったわけではなく、一般公募で参加してくださった方々、ボランティアの方々、博物館の職員の方々など延べ約120人の方々に手助けいただき、約45日をかけて完成させました。
     完成時は、出土したときの飛鳥時代の堤のように表情の青々としたアラカシの枝葉が土のところどころに見えていました。4面の壁は、土とアラカシの枝葉を入れた壁(敷葉工法)、土と砂だけを攪拌した壁、さらには壁の厚さや形状など、4面とも異なる構成でつくりました。こうすることで、古代の技術が現代的にどう表出するのかという実験にもなると考えました。
     結果、敷葉工法を用いなかった面だけが崩れてしまいました。要は成功した面と失敗した面が生じたわけです。この成功した面と失敗した面を同時に見せることで制作過程も伝わりますし、「成功と失敗の間に正解がある」と考え、そのまま展示することにしました。
     最終的に、排水と乾燥が不十分だった面、つまり敷葉工法でない面だけが崩れたことから、アラカシの枝葉を敷くことで水はけがよくなって乾燥が進み、うまく土が固まることが分かりました。これは古代の敷葉工法を茶室として表現した芸術作品ですが、土の粒子や圧縮率などを詳しく分析すると、今後の土木技術の発展にもつながっていくのではないかと思っています(図1)。
     茶室内部は土と枝葉が積層した表情が美しく出ています。積層の内部表現もある程度デザインできるとは思いますが、「ここは何㎜厚で」という工業的単位ではなく、自然の造形です。長い歴史と想像し得ない造形を感じたとき、人の心は動かされるのだと思います。

    工業製品で表現した「ボール紙とベニヤの茶室」

     ここからは、私がこれまで培ってきたデザインや創作についてご紹介します。一つ目はボール紙とベニヤでつくった茶室で、2008年に私が専門学校で指導していた学生らの卒業設計展で展示したものです。展示会場の中央がぽっかり空いていましたので、そこにダンボールで茶室をつくったらどうだろう? という当時の校長先生のアイデアから始まりました。アイデアというよりは、本当にただの思い付きといった感じで「ガムテープでペタペタ貼ればできるだろう?」と。
     デザイナーとしてはそういうわけにもいかないので、学生らと一緒に、図面や模型づくりから発注、制作へと進めていくことになります。ダンボールもベニヤも、ホームセンターで安価で手に入る工業製品ですが、そこに「手仕事を加えると、空間は劇的に変化するんだ」ということを学んだプロジェクトでした(図2)。
     例えば床の間には30~40cmの段ボール短冊を約3,000本ぎっしり敷き詰めました。みんなで手が腱鞘炎になるまで、刻んで刻んでつくったものです。普通ならスタイロフォームなどを下地に嵩(かさ)上げして、上辺だけを整えることもできるのですが、人間の感性は想像以上に鋭いので“嘘をついた”表情はすぐに見破られてしまいます。そうならないよう、真摯で正直なものづくりを心掛けました。おもてなしの心も学ぼうとお茶会も開催。
     「花おのみ 待たらん人に山里の 雪間の草の 春をみせばや」という藤原家隆が詠んだ歌は、千利休が茶の心を伝えるときに好んで引用したと言われています。ただ心を静めるだけでなく、革新的な強い意志を持った心こそが茶の心である、と伝えたかったようです。そういう意味では、ボール紙とベニヤでつくった茶室もあながち間違いではないなと、勝手に納得しています。
     この茶室が新聞に取り上げられたのをきっかけに、後に京都国立近代美術館でも展示されることになりました。そのため、室内外の意匠に少しバージョンアップを加えました。二畳台目の狭い空間ですが、天井に間隔が異なるルーバーをしつらえて空間に視覚的な広がりをもたせる工夫も行っています。床の間が少し寂しかったため、百均で購入した絵の具で一輪の花を描きました。この茶室ができたのは2011年の東日本大震災の直後だったため、体育館をダンボールで仕切り、避難生活している被災者の方々を思い、何とかデザインで豊かな空間を創出できないかとの思いで描いたものです(図3)。
     この茶室ではとても印象的な出来事がありました。本当に仕込みでも何でもないのですが、3歳ぐらいの女の子が、その一輪の花が描かれた床の間の前で正座しながら「生命を感じる」と言って去っていったのです。こんなことが起こるんだなと思わされました。

    シルクロードを体感できる茶室

     「新しい茶室をうちでもつくってくれませんか」と依頼くださったのが尾道にある平山郁夫美術館でした。そこで私は、平山郁夫が描いたシルクロードの風景をテーマにした茶室をつくりたいと考えました。砂漠や遠景の山々という、人の手によらない外観の造形に対して、内部はキューブの空間と円錐の天井を施し、人が手仕事を加えなければできない形、つまりシルクロードを東へ西へと行き来した物資として表現したものです。
     アプローチ(露路)を含め、にじり口から入って茶道口を出ることで疑似的にシルクロードを体感できるといった仕掛けです。この茶室はコストが合わず、実現しなかったのですが、またいつかお目見えする機会はあるだろうなと思っています。

    伝統産業を救う「和紙の茶室|蔡庵」

     次に手掛けたのは和紙でつくった茶室です。平山郁夫美術館ではシルクロードの茶室の代わりに先述のボール紙とベニヤの茶室を展示したのですが、そこに越前和紙を生業にしている方と、表具会社の方がいらっしゃいました。二人の若い社長は、「和室が無くなると、私たちの仕事は無くなるんです」と。
     私はすぐ越前に飛び、全ての工房を訪ね、職人全員と対話し、彼らがつくる美しい和紙を目にしているうちに、クリエイターとして、何とかしたいと思うようになりました。紙は、神に授けるというくらい大切なものですし、一本の筋が入るだけで「商品としての価値」を失ってしまいます。そこで、紙をビリビリと破いてくしゃくしゃにして広げてみました。職人さんも案内くださった社長さんも“ドン引き”していましたが、「伝統や文化は一足飛びにできるものではなく、革新的なことが繰り返されてやっと形になってきましたよね」と申し上げると理解してくださり、これを使って茶室をつくることになりました。それから、街中を歩いていると、和紙の原料である楮(こうぞ)の樹皮を剥いだ枝が山のように転がっていたので、それを茶室の構造体として用い、提供していただいた廃版になった襖(ふすま)紙を短冊状に分割したものを串刺しにして積み重ねることにしました。
     奈良の西大寺で催される大茶盛式に合わせて展示させていただきました。朝から庭につくり始めて、15時頃に3分の2の高さまで積み上がったので、17時頃には終わると思っていたのですが、次第に積み上げた高さより沈んできたんですよ。そこで初めて、和紙が夜露を吸い出して重くなったことに気付いたんです。モックアップは室内でつくっていたので夜露は問題なかったんですね。結局、夜中の1時までやっても3分の2までしか届かず、えらいこっちゃと。疲労困憊だったので3時間だけ寝て、お茶会は10時からでしたが10時半まで作業をして、何とかギリギリの高さになりました。
     建築は、家を建てたり店を開いたり、ハッピーなときに依頼があるものですが、ジリ貧の伝統的な技術や感性を復興させることができるんだと思って。私は建築家としてそういうことがやりたかったんだ、と逆に気付かされて、ものに対する考え方がガラッと変わりました。
     大茶盛式では1日約3,000の人が見に来てくれ、大人から子どもまで多くの人に手で触れてもらい、中に入ってもらいました。日本の伝統産業についても伝えることができ、これが一つの成功体験となりました(図4)。

    現代建築への応用「姫嶋神社|参集殿」

     和紙の茶室で考えさせられたことを、今度は現代建築に応用したいと考えました。伝統をそのまま継承するだけでなく、現代的な解釈や革新を加えることで新たな価値を生み出し、日本の建築産業に寄与することが今後重要になっていくのではないかという確信がありました。
     その事例の一つが「姫嶋神社|参集殿」です。大阪市西淀川区にある、ほぼ無名の神社でした。資金やネームバリューはないけれども、強い思いだけはある、そんな神社。そこで私は、「参集殿というぐらいなので、地元密着でたくさんの氏子さんが集まれる場所にしましょう」と宮司さんと一緒に考えました。
     手漉き和紙の張り方を工夫することで現代的なデザインの障子をつくったり、アルミの鏡面材を使って漆塗りのような表情に仕上げたりと、材料を適材適所で使うことによって、神秘的な空間をつくることができるのではないかとチャレンジしました(図5)。
     宮大工がつくるとなると、膨大なお金がかかりますが、一般に流通している材料を用いたので、寺社建築としてはかなりコストを抑えることもできました。神社庁の方々が見学に訪れるなど注目度が高まり、今では全国から参拝者が訪れる「やりなおし神社」として高名な神社となりました。神社の“売り上げ”である社入は、この建築から2年で300~400倍に。集まった収益は、参拝者に見える形で還元するということで、現在も新しいプロジェクトが進行しています。

    年老いた犬に快適な老後を過ごしてもらうために

     手仕事が入ることによって現代建築に何か不思議な空間が生まれないか――そう考えて手掛けたのが「老犬ホーム|World Animal Care Center」です。これは大阪府高石市にある、日本で初めての高齢犬専門の介護施設です。人が高齢になるとペットの飼育が困難になります。今や人間関係の希薄化に反して人とペットとの関係は濃くなっているため、ずっと家族として面倒を見たいと思う人は多いのですが、自身が高齢のためできない……という状況が社会問題化しています。それを解決したいと思って始めたプロジェクトです。
     ワンちゃんも高齢化に伴い白内障や腰痛を患います。また、そもそも夜行性の動物なので、真っ昼間に散歩すると眩しくてしょうがないわけです。色も青~黄色は認識できますが、他は灰色に見えています。そう考えると、「彼らが快適と感じる空間と、我々人間が快適と感じる空間は異なるのではないか」と思い、そこから設計が始まりました。和紙の茶室以来、和紙はもう私にとって得意材料になっていますから、唯一直射日光が入る吹き抜け空間に暖簾(のれん)状の和紙を並べました。こうすることで、連続した和紙の間を透けたり繰り返し反射しながら通り抜けた太陽光は、手に触れることができるような柔らかい光となって空間に充満するわけです。もしかしたら、ワンちゃんにとって快適な空間になっているのではないかと思っています(図6)。

    機械と手仕事のコラボ「織物の茶室|霞庵」

     襖には、和紙だけでなく、織物に和紙を裏打ちした高級なものがあります。その織物を製造する会社は、京都の木津川市にあり、工場を訪ねると、工夫に工夫が重ねられた織物の機械と、洗練された手仕事がうまくコラボレーションしており、その姿を見たときに、とても美しいなと感じました。でも、その美しい姿を一般の人はなかなか目にする機会がないですし、そこで働いている人も日常過ぎて、美しさに気付いていないのです。そんなもったいないことはないと思い、ここで感じたことをそのまま表現したものが、織物の茶室です。
     織物の茶室は、下鴨神社・糺(ただす)の森で展示した後、京都国立近代美術館、建仁寺、泉涌寺、さらにはニューヨークのジャービッツセンター、ロンドン芸術大学、キュー王立植物園など国内外の多くの場所で展示され、和紙の茶室と同様に、形を変えることで人の興味に訴求し、日本の伝統的な技術や感性、その素晴らしさや大切さを伝える機会をもたらしました(図7)。
     展示だけではなく、いろいろな所で講演やレクチャーもさせていただきました。面白かったのが、イギリスのある小学校で、1年生の児童26人を対象に行った授業です。彼らは日本のことをネットを通じて大変よく勉強しており、千利休も当然のように知っていました。
     全員が自分なりに工夫したオリジナルの茶室の模型をつくっていて、それら一つひとつにコメントさせていただきました。その後で、まさに今日お話ししたようなことを6歳児に分かるよう伝えたのですが、授業の最後に投げかけた「将来建築家になりたい人?」という質問に、26人全員が勢いよく手を挙げた瞬間、「ああ、やってよかったな!」と思いました(図8)。

    インテリアに使用される和紙素材の感覚評価

     制作を続ける中、次第に和紙の価値をより明確に伝えたいと思い始め、和紙素材の研究にも取り組みました。和紙は、手漉き和紙だけでも3,000種類程あるのですが、これだけあると、売り手も買い手も明確にこれが欲しいということを言い表すことが難しいんですね。
     そこで大学院に入って、手漉き和紙と機械漉き和紙について、透明感、高級感、親しみ感、明清感などの「感性評価」と、厚さ、透光率、色相・明度・彩度、摩擦係数、摩擦係数の変動、表面粗さ、圧縮剛性、圧縮エネルギー、回復性などの「物理特性」との相関を明確にする研究を行い、和紙の特性を示す共通の評価軸をつくることで、売り手と買い手の距離やベクトルを近づける試みを行いました。これは、学会で論文として発表されていますので、ご覧いただくことができます。
     こうした取り組みは、伝統技術や感性を残す手法の一つだと思います。和紙だけでなく、漆や木の表面など、他の伝統的な材料にも応用できると思います。
     伝統技術は継承者の減少で危機にさらされています。私はそのような地域で、生産者や職人の方々が協力して資金を出し合い、継承者を残していくための仕組みを提案する活動もしています。伝統技術を継承しながら、伝統に革新を融合させて新たな価値を生み出すことが重要だと思います。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    経済産業省 製造産業局長賞「難燃WOOD 塗るだけ」
    大成建設株式会社、大日本塗料株式会社、信越化学工業株式会社、越井木材工業株式会社

    塗るだけで木材の難燃化が可能に

     この製品は木材の難燃化を実現する塗料で、当社大成建設(株)および、大日本塗料(株)、信越化学工業(株)、越井木材工業(株)の4社で開発しました。
     ご承知の通り、近年木造建築や木質化が増えています。当社が手掛ける建物は大規模なものも多く、内装制限の規制に抵触するケースも出てきます。この問題に関し、設計部門から「不燃木材もあるが少し使いにくいと思う。“塗るだけ”で燃えないような木材ができればよいのだが……」という声が出て、それが「難燃WOOD 塗るだけ」の開発に着手するきっかけとなりました。

    木本来の意匠性を損なわず、装置や施設も不要

     木材の表面に透明な塗料を塗るだけで、火災時に「炭化断熱層」という膜を形成して木材の難燃化を実現します。木目はそのままで、木材の意匠性を損なわずに難燃化を実現することで、建築物の耐火性能の向上と木材の利活用促進に寄与します。
     塗った状態を見ると、木目がはっきりと見えており、木質感が分かる仕上がりになっています。国土交通省による不燃材料の試験方法に則って実施した試験では、一般木材では、燃焼時に3層のCLTの2層目まで炭化したのに対し、本製品を塗布した難燃木材(準不燃)では炭化が1層目の途中までにとどまっていました。
     製作方法は、まさにその名の通り「塗るだけ」です。一般的なスプレーガンで施工要領書に基づいて塗布すれば、準不燃性能を有する難燃木材が完成します。特別な設備や装置を必要とせずに難燃木材の製造が可能。従来の装置に入らない大型のCLTなども準不燃レベルに難燃化することができます。「塗るだけ」というこれまでにない手軽さで製作できる本製品は、革新的な木質材料用塗布材と言えるでしょう。

    一般木材や従来不燃木との性能の差を試験で検証

     不燃木や準不燃木としての性能評価を得るためには、先述のように国土交通省の大臣認定を受ける必要があります。検証には、コーンカロリーメーターという装置を使った燃焼試験を行うのですが、その結果をご覧ください。ピンクの線は10分間でどれだけ燃えたかという総発熱量を表し、時間とともに熱量が上がってくるのが分かります。赤い線は合格基準ラインで、総発熱量8MJ(メガジュール)/㎥までとなっています。
     このグラフから分かるように、当製品を塗布した木材(上)は約5MJ/㎥、一般木材(下)は約40MJ/㎥となり、当技術を使用した難燃木材は熱量を約8分の1に抑えることができています。
     燃焼後も、一般木材の場合は炭化とともにひび割れが生じ、熱によって次から次へと木の成分が分解されて可燃性のガスが発生して完全に燃えてしまいます。一方当製品を塗布した木材は、塗料によって炭化断熱層が形成されるため、それが内側の木材を守ってくれます。
     グラフの青い線は、どの程度燃えているかを表す発熱速度という値で、これが高いと炎が出て燃え盛っている状態、低いとあまり燃えていない状態となります。こちらも、3分ほど経過すると膜がきっちり形成されて全然燃えなくなります。
     また、従来の不燃木や準不燃木は、薬剤に含まれる成分が結晶化して白くなる潮解(ちょうかい)や白(はっ)華(か)という現象が起こります。こちらも、白華現象促進試験を行った結果、従来品では白華が起こりますが、当製品を塗布した木材では、同条件下でもほとんど白くなりませんでした。
     このような優れた性能が認められ、国土交通大臣から建築基準法における「準不燃」の認定をいただいております。実績としても、少しずつ成果が表れてきている状況です。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <優秀賞>日本建築協会賞 「Archi Design」
    パナソニック㈱ エレクトリックワークス社

    建築的視点で電気設備を考えるビジョン

     「Archi Design(アーキデザイン)」は、建築的視点で電気設備を考えるビジョンとして、2024年にスタートしました。製品シリーズの名称ではなく、全体に一貫させる思想を表します。「Archi Design」が目指すのは、「空間価値」と「環境貢献」の両立です。空間価値においては、電気設備は建築視点で徹底的に美しい黒子となって、空間を背景に取り組んでいくことを目指します。天井を見渡すと照明器具や空調機器などさまざまなものがありますが、われわれはこれを統一した一つの世界観でつくっていこうと考えて日々活動しています。
     設計士の方々から言われるのは、電話帳のようなカタログからこまごまと選ぶ作業から解放されたいということ。当社はこのような状況を変え、設計者視点で「迷わず選べて、ここから選べば間違いなく整う」という世界をつくっていきたいと考えています。
     環境貢献においては、サーキュラーエコノミーはもちろんのこと、設計だけでなく物流や施工でもメリットをもたらすことを目指します。そして建築の時間軸で設備を考えていくことに取り組んでいます。建築100年時代と言われる中、設備は20~30年で必ず更新タイミングがくるので、更新性を担保することが大事です。

    メーカーの責任として、バラバラを徹底統一

     「Archi Design」は、当社内だけではなく、われわれのお客さまを代表する建築設計者と共に立ち上げました。実際の現場で何に困っているかをまずヒアリング。例えば天井には色、形、サイズ、ツヤの違うものが配置されており建築を“散らかして”います。壁面も同様で、バラバラな操作機器類を苦労してまとめています。これは、バラバラな製品をつくっている設備メーカーの責任だと痛感いたしました。照明、配線、空調など、現状ある製品を揃えるような検討が行われていなかったのです。そして他社製品と競うよりも全体を統一させることに価値があるのではないかという考えに至り、社内事情ではなく徹底的な顧客目線にシフトし、あるべき姿を可視化・言語化し各方面にプレゼンテーションを行い賛同を得て、プロジェクトを始動させました。
     バラバラだった電気設備の色、形、デザインをまず揃え、埋め込み穴もφ75に統一、かつ手間の削減も図ります。各メーカーが勝手に埋め込み寸法を設定している現状に比べ、プラットフォームをつくれば施工の手間が劇的に軽減される上、部品のリサイクルも可能です。

    統一することで、地球に優しくも施工性もアップ

     環境貢献では、例えばスポットライトの小型化を図ることで、製造時の金型から材料の新規投入量、輸送時のパレット積載効率などを含めて環境に優しいものづくりが実現します。他にも、梱包内容の最適化によるインク使用量の削減および作業性効率アップ、取扱説明書・施工説明書の電子化による紙の使用量削減、モジュール設計による更新性の向上が期待できます。
     天井電気設備の施工性の検証も行いました。埋め込み穴がバラバラのものを施工する時間と比較して、75φに統一した場合の施工時間は約3分の1になりました。住宅1棟、マンション1棟の施工で考えると、圧倒的な効率アップにつながります。
     「Archi Design」では、スポットライト、ブラケット・ペンダント、ダウンライト、ライン照明、間接照明から、マンションの非常用照明、分電盤、スイッチ、コンセント、配線器具、HEMSのモニターや蓄電池など建築設計者が選ぶ電気設備を一貫した考え方で展開します。当社は「今まで皆さまの建築を散らかして本当に申し訳ございませんでした」という気持ちで、設計者の「あたりまえにあって欲しかった姿」の実現に向け、今後は背景に徹することで建築を整えてまいります。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <優秀賞>大阪府建築士会賞 「ホールドワン 省施工吊りバンド『SST』」
    因幡電機産業株式会社

    省施工ニーズの高まりから新しい吊りバンドを開発

     私たちはエアコン空調部材をメインに、さまざまな製品を販売しております。今回は「ホールドワン 省施工吊りバンド『SST』」を出品いたしましたが、開発の背景は次のとおりです。
    まず外部環境として、建設業界の「人手不足」問題があります。2035年までに、施工に携わる人は2020年と比べて約3割減少すると見込まれています。さらに「働き方改革」の一環として、建築現場にも週休2日制を導入する動きが進み、「2024年問題」として注目されました。加えて、「生産性の向上」も求められています。これら3つ要素を背景に省施工ニーズが一層高まり、当社は吊りバンド分野へ新たに参入することといたしました。製品名の「ホールドワン」には、「新しい時代をつかむ」という想いが込められています。

    従来の5工程からワンタッチ施工への大変革

     「ホールドワン」の施工手順は非常にシンプルです。まず、配管を「ホールドワン」の下から差し込み、押し上げるだけで仮保持が完了します。その後インパクトドライバーなどでボルトを締め付けて本締めすれば施工が完了するという画期的な機構です。
     では既存製品はどのような手順なのかというと、概ね5工程に分かれています。対して「ホールドワン」は配管を下から押し上げてボルトを本締めするだけのわずか2工程です。実際に施工してみると分かりますが、既存の吊りバンドは非常に煩雑で、小さなボルトやナットを落とすことも多く、施工に手間がかかります。
     既存製品の5工程を簡単に説明しますと、①ナットを外します。バンド部分はナットで締め付けられており、まずはそれを外して開く必要があります。②外したナットを製品に付け直します。③配管をバンドで留めます。④再びナットを取り付けます。⑤本締めします。この5工程は何十年も変わっていない施工手順です。
     そのような中、建設業界では人手不足などの課題が顕在化し、今後も深刻化が懸念されています。そこで省施工の必要性が高まり、当社では「従来の吊りバンド施工をどうすれば省施工化できるか」をテーマに開発へと踏み出しました。
     当社基準で施工時間を比較したところ、既存の一般的な吊りバンドでは施工に約82秒を要したのに対し、「ホールドワン」では約22秒で完了し、約70%の時間削減を実現しました(※当社施工体験比)

    今後吊りバンド以外にも「ホールドワン」を展開

     改めて「ホールドワン」の特徴をまとめます。
    ① ワンタッチ施工。
    ② ナットの着脱が不要で作業効率アップ。
    ③ 配管を押し上げるだけで仮保持が完了し施工時間を短縮。
    ④ 締め忘れ防止機能で確実・安心。バンドに装着されたキャップが、ボルトの本締め時に開くことで、施工完了が一目で分かる仕組みです。
     仕様は、表面処理にユニクロメッキを採用し、SGP管など重量のある配管施工にも適しています。普段は人目に触れることのない製品です。本日の会場となっているこの中央公会堂の天井裏にも、おそらく配管を吊るために相当数の吊りバンドが設置されていると思います。従って物件全体で見れば、「ホールドワン」によって大きな省施工効果が期待できます。
     当社では、目に見えない場所で活躍する「ドレンあげゾウ『DSH-UP』」「パイプロックろう付けレス『TKL』」、全ネジをワンタッチで留める「クロスロック『FL-V』」といった省施工製品を開発・販売しています。今後は「ホールドワン」をシリーズ化し、吊りバンド以外のバンド製品も製品開発していきます。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <優秀賞>日本建築家協会近畿支部賞 「ALTRAIL(アルトレール)」
    TSUGI DESIGN合同会社

    開発者の体験から引き出された手すりのアイデア

     当社の「ALTRAIL(アルトレール)」は、いろいろな経緯から生まれた製品です。実は7年前、共同代表である私自身が脳梗塞を患い、今もリハビリ中の身です。そのような状況だと家にどうしても手すりが必要になります。しかし手すりを設置するにあたり、なかなかよい製品がなかったというのが私の感想です。
     そんな中いろいろ感じたことがあります。ケガや障害は突然やってくるということ。そして「ちょっと支えが欲しい」「高さを変えたい」といった細かなニーズが出てきます。そのようなときに、既存の住宅部材では柔軟に対応できない場面が多いことも実感しました。手すりに関しては特に当てはまると思います。
     自宅には「たて手すり」を設置しました。そもそも手すりは下地がないと設置できません。その場合、壁に補強板という大きな板を付けるのが一般的ですが、デザイン性に欠けます。しかも手すりは一度固定してしまうと高さを変えることができません。そこで、使いやすさと空間デザインを両立する部材ができないものかと考えたわけです。
     私はもともと右利きでしたが、病気が原因で左手使いを余儀なくされ、建築からプロダクトへ道を変更しました。実際に経験したことによって初めて見えてくるものがあります。そして、手すりという実用的な機能以外にも用途を持たせることができれば画期的な製品になるだろうと考えたのが「ALTRAIL」でした。

    介護福祉と建材を行き来できる柔軟な製品

     大きなコンセプトは、「身体を預けられる強度のある手すりを」「手すりにプラスアルファの価値を」「デザイン的な楽しみのある、歩行器具や家具に」という3点です。また、私たちの日常的な気付きから、「子どものつかまり立ちや高齢者にも使いやすいものにしたい」、「インテリアになる手すりにしたい」といった、空間や状況に合わせて柔軟に形を変え、ライフスタイルの変化に寄り添う製品にしようと考えながら開発に臨みました。「ALTRAIL」は、手すりの取り外しが自在で、外して他のさまざまな用途への使用が可能となる、「介護福祉と建材を行き来できる」製品です。

    デザインと機能性を両立し、空間に溶け込む設計

     本製品の特徴をご紹介します。設置後でも30mmピッチで高さ調整が可能で、用途に応じてブラケットの後付けもできます。
    5種類のカバーでインテリアにも調和します。手すりを使う期間が限定的な場合もあるので、不要になれば手すりを外して別用途に転用可能です。
    とりわけ大きな長所が、12.5mm石膏ボードに対応し、下地補強なしで施工できる点です。耐久試験も行い、壁掛けテレビや棚板の設置も可能な耐荷重設計(120㎏)となっているほか、60㎏の引き抜きや15年分7万5,000回の試験にも合格しております。
     「ALTRAIL」の活用シーンは多岐にわたり、家庭内の玄関、寝室、リビングはもちろん、高齢者住宅、賃貸住宅、施設などあらゆる空間に対応します。ブラケットは8種類を揃え、よこ手すりやたて手すり、壁掛けやフック、ハンガーパイプ、壁掛けテレビ用金具など、いろいろなライフスタイルに自在に対応します。内部に空間を設けているので配線を隠せて見栄えもスマートです。
     今回優秀賞を受賞することができましたが、「デザイン性と機能性を両立できたこと」、「空間に自然に溶け込む意匠性」、「異業種と連携して柔軟に作れる体制」 「住まい手の目線を取り入れた、インクルーシブな設計思想」といったポイントを評価いただけたのではないかと思っています。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <優秀賞>大阪府建築士事務所協会賞「イノベーションプルーフRR」
    ロンシール工業株式会社

    放射冷却と防水性能を併せ持った新素材

     「イノベーションプルーフRR」は、JIS認証品である当社の塩ビ防水シートに、SPACECOOL社の放射冷却素材を組み合わせ、両者の性能を最大限に生かしたハイブリッドシートです。真夏の日射環境においても、同素材が持つ放射特性により屋上の温度上昇を抑え、建物を涼しく保つことができます。建物内部の温度上昇を抑えることで空調負荷が低減し、結果としてCO2の排出削減、環境負荷低減に寄与する製品となっています。
     SPACECOOL素材の耐候性能は15年であり、当社の防水シートも同様に15年の耐候性を備えているため、素材が経年劣化しても防水性能は確保されます。
     製品開発で特に苦労した点は、SPACECOOL素材を当社の防水シートに積層し、一体化させる工程でした。積層の際に加わる圧力や温度、テンションや速度などによって、シワの発生や防水シートと素材の剥離など、さまざまな課題が生じました。これらをトライ&エラーで解決し、安定した性能を発揮できるよう加工方法を改善し、上市が実現しました。

    独自のテクノロジーで効果的な温度低下を実現

     SPACECOOL素材は多層構造で反射と放射を両立しています。1,000w/㎡の太陽熱が加わると、95%が反射されて50w/㎡の熱量のみが素材に伝わります。この熱を放射冷却によって宇宙空間に放射するメカニズムにより大きな温度低減効果が得られます。
     地球は常に-270℃の宇宙空間に熱を捨てていますが、近年は温室効果ガスの影響で排熱しにくい環境です。しかしSPACECOOL素材は、最も温室効果ガスの影響を受けにくい8~13㎛の波長域(大気の窓)に制御して熱を捨てる機能を持つため、昼夜を問わず屋上温度を下げることが可能となり、空調エネルギーを削減しながら、都市のヒートアイランド緩和にも貢献します。
     次に当社の塩ビシート防水工法について。アスファルト防水やウレタン防水などさまざまな防水が存在しますが、当社塩ビ系防水シートは以下の4つの点で高い評価をいただいております。
    ① 溶剤溶着・熱風溶着により接合強度が高く水密性に優れている。
    ② 平米当たり約2㎏と軽量な上、既存防水をはがさずそのまま上から改修する「かぶせ工法」が可能、建物への負荷が少なく、環境負荷低減に貢献。
    ③ 化学製品だが、基本構造が塩化ビニル樹脂なので塩害や物性変化が少ない。
    ④ 屋上で多い鳥のついばみが発生しにくい。
     長年の評価実績から、当社のシート防水はアスファルト防水と並ぶ採用数となっており、今後もニーズは増加見込みです。また10年保証を付与、当社認定の施工店による施工で、品質と信頼性を担保しています。
     次に導入事例です。大阪府「カーボンニュートラル技術開発・実証事業」の支援を受けて試験施工を実施。一般シートと比較した結果、「イノベーションプルーフRR」は夏季平均で約20℃低い屋根表面温度が維持でき、エネルギー消費量とCO2 排出量は約20%削減、1カ月で約2万円の電気料金削減効果が得られました。日本一暑いまちとして知られる埼玉県熊谷市の施工事例でも、約20℃の温度低減効果を確認しました。東京都交通局の試験施工では、従来の屋上仕様と比較して最大8.7%、平均7.8%の電力量削減効果を実証できました。
     先日閉幕した大阪・関西万博では、東ゲート案内所の屋上に採用されました。持続可能な未来社会というテーマを掲げる万博において採用されたことは「イノベーションプルーフRR」の性能と信頼性が国際的にも認められた証しであると感じております。
    従って、カーボンニュートラルが求められる現代において、本製品を新たな屋上防水のスタンダードとして普及させたいと考えています。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <特別賞>日本建築材料協会賞「Life Assist2」
    株式会社LIXIL

    住宅性能と生活価値の双方を向上させる

     当社にはさまざまな事業や製品がありますが、社内構造的にこれらがつながっていないという問題がありました。私たちが扱うスマートホームシステムは、いろいろな製品をつなげて新しい価値を生み出すものです。 LIXILがなぜこのような開発に取り組んでいるのか。当社は建材住設メーカーであり、ハードウェアによって住宅性能を向上させ健康・快適で省エネな住まいを提供しています。しかしそれだけでは足りないと考え、より生活価値を向上させるソフトウェア、つまりスマートホームシステムに取り組むことになったわけです。こうして住宅性能と生活価値の双方を向上させることを目指しています。
     しかしスマートホーム導入に関し、「費用が高そう」「工事が大変そう」「操作が難しそう」といった声が聞かれ、普及にはハードルがあります。これらを全て解決したのが「Life Assist2」です。
    (1)まずリーズナブルであること。内容によるものの、1棟当たり20万円程度の定価レベルで月額使用料は無料です。
    (2)エンドユーザーでもできる簡単工事・簡単設定。
    (3)直観的に理解できるアプリで、声での操作も可。
    (4)優れた利便性で安心・安全・快適な暮らし。
    (5)何十年でも使っていただける、建材・住宅設備で培ったLIXILの高品質。

    どこからでも操作でき、機能は自動アップデート

     「Life Assist2」にはさまざまな機能があります。HEMS機能はもちろん、プラスアルファのスマートホーム機能は特に本製品の得意とするところです。どこからでも状態が確認でき、いろいろな機器をリモート操作できて、家族の在宅や外出情報も分かるようになっています。
    四半期ごとに新しい機能やサービスをリリースしているのですが、自動でアップデートされるため、例えば今日購入されたお客さまでも最新の機能を使うことができます。これも大きな特徴の一つだと思います。

    「Life Assist2」でできることいろいろ

     とはいえ、皆さまもなかなかイメージしづらいかと思います。例えば外出時を想像してください。普通なら家電類の電源を確認、戸締りを確認しますが、「Life Assist2」なら一言スマートスピーカーに「行ってきます」と言って出れば全て自動的にやってくれます。帰宅時にお子さまを連れて荷物を持っていても、「ただいま」と言えば自動的に部屋を最適な状態にしてくれます。
     防犯機能も備えており、家族全員が外出すると自動的に防犯モードになるので子どもが最後に家を出でも安心ですし、留守中の異常を感知してアプリが知らせます。また火災報知器を検知した場合も緊急通知が送られるので、速やかに消防署や近隣への連絡をとることができます。
     最近高齢者やペットの熱中症がよく聞かれますが、家に高齢者やペットだけを残して出た場合でも、空調が自動で最適な温度に制御してくれるので安心です。
     さらには入浴準備にも対応。例えば最寄り駅に着いたら自動で浴槽洗浄し、栓をしてお湯を張ってくれるので、帰宅してすぐに入浴することも可能です。
     当社は建材・住宅設備メーカーとしてのノウハウとスマートホームシステムの技術で、両方を最適に開発することができる強みを持っています。この強みを大いに生かして人・モノ・情報をつなげ、より便利で安心な暮らしづくりや住まいづくりを目指します。
     また、企業や自治体との連携も積極的に行っていますので、ご興味がおありの方がおられましたらぜひお声がけください。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <特別賞>日本建築材料協会賞「たよレールSOTOE/MOTOE PJ」
    マツ六株式会社

    利用者に応じてカスタマイズできる屋外用手すり

     「たよレールSOTOE/MOTOE PJ」は、「たよレールSOTOE」という製品と「MOTOE(モトエ)プロジェクト」という取り組みを掛け合わせたものです。
     「たよレールSOTOE」は、屋外でも設置できる据え置き型の手すりで、TAISコードや貸与マークが付与されることで介護保険の対象となる福祉用具貸与商品です。福祉用具貸与商品は、介護事業所が介護保険を使ってレンタルし、返却後は消毒してまた別の方に貸与されるというように、繰り返しレンタルされるのが特徴です。
     本製品は4段階の高さ調整が可能で、手すりをベースプレートの中央・端部どちらにも設置できます。福祉用具貸与商品は利用者が一定でないためフレキシブルな対応が必要であり、そこをカバーするのが本製品です。また、複数製品を連結部材でつなぐことが可能で、階段のある玄関周りにも最適。階段の踏み面に配置できる、300mm程度のスリム型ベースプレートもあり、利用シーンに応じてカスタマイズできる機能も有します。
     手すりの端部はコブ状になっています。高齢者はマルチタスクが苦手で、段差に注意を奪われて手すりの終点に気付かず転倒するケースも多く報告されています。終点にコブを付けることで、ここに手が掛かると一旦動作を止めて自然に次の動作に移ることができます。また、屋外なので雨などで滑らないようベースプレートには滑り止め加工を施しています。このベースプレートが、次に説明する「MOTOE PJ」と関連する部位です。

    「たよレールシリーズ」と「MOTOE PJ」の試み

     当社は、福祉用具「たよレールシリーズ」によるリユースの取り組みで、再生可能な製品開発を通じた廃棄物の削減に取り組んでおり、その中心となるのが「MOTOE PJ」です。「MOTOE PJ」は、先述の「たよレールSOTOE」のベースプレートをリペアし、さらにメーカーが検査や部品交換を行った後に再び市場に戻す取り組みです。
     「MOTOE PJ」には二つの利点があります。一つは環境への貢献。100台当たりの廃棄物削減量は約2.7t、CO2削減量は1.4tです(※鋼材資材のみの削減量)。初年度から100台以上の受注があることから、先述の廃棄物およびCO2 削減効果が既に達成され、さらなる成果創出を見込める継続的な取り組みだと言えます。
     二つ目は、返却されたプレートに関するデータを蓄積し、ダメージの傾向や補修内容などを分析して製品の改良につなげるもので、非常に価値の高い取り組みだと考えています。福祉用具は先述の通り、異なる利用先に次々とレンタルされるので、一度メーカーの手を離れると、使われ方や劣化具合を確認するすべが今までありませんでした。「MOTOE PJ」は、リペアで戻ってきた状態から劣化具合などを確認でき、そこから製品改良にフィードバックすることで、さらなる安心・安全につなげられる大変意義深いプロジェクトです。フィードバックによる製品改良の一例として、製品に付属する不陸調整ゴムの「めくれ」が返却品に多く見られたため、粘着力の強いテープに交換する対策を講じました。
     「MOTOE PJ」には既に多くの大手介護系企業が参画しています。介護系企業にとって福祉用具貸与商品は繰り返しレンタルされる「資産」であり、長期間利用されることで収益が生まれます。「MOTOE PJ」によって、メーカーにメンテナンスされた商品を扱うことで安全担保ができる上、長く使えて収益にもつながる点を高く評価いただいております。
     当社は「たよレールSOTOE」などの福祉用具貸与手すりを含めた、バリアフリー建材を多数開発してきました。これらの商材を用いた「高齢者住宅リフォーム」と呼ばれるカテゴリを、商品という「モノ」ではなく、ユーザー様の豊かな暮らし=「コト」と捉え、今後も皆さまのお役に立つ商品開発に取り組んでまいります。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <特別賞>日本建築材料協会賞「KALuVER」
    株式会社ライフアートプランテック

    震災から得た気付き「軽く安全な建材が命を守る」

     当社の事業内容はインテリア事業と耐震対策事業に大別され、中でも自社ブランド製品として、今回受賞した「KALuVER(カルバー)」や「ECO WALL(エコウォール)」、防煙垂壁(たれかべ)「パラスモーク」など、デザイン性だけでなく特に軽さと安全性にこだわった建材の開発に注力しています。
     軽さと安全性にこだわるようになったきっかけは、2007年に発生した新潟県中長沖地震です。前年の2006年、私たちは耐震対策事業として防煙垂壁「パラスモーク」を商品化したばかりでした。そのとき震災現場で見た光景は、「軽くて安全な建材こそが人の命を守ることにつながる」という大きな気付きを私たちに与えてくれました。この経験が軽量不燃建材「KALuVER」を自社ブランド製品化する原点となりました。
     「KALuVER」という製品名の由来は、「軽い」と「ルーバー」の掛け合わせです。曲線や円形など自由な形状を実現できるほか、立体的で奥行きのある空間デザインを可能にしました。「KALuVER」はデザイン性だけでなく、機能面でも多くの特徴を備えています。次項で主な特徴についてご紹介いたします。

    軽さ、機能、デザイン性を備えた不燃天井材

     「KALuVER」の高いデザイン性や優れた機能性の秘密は、基材に使用している高密度グラスウールにあります。軽量ながらも不燃性と高い吸音性を備え、高密度だからこそ直角やアールなどの自由な部分が表現できます。リサイクルガラスが主原料なので、廃棄物削減、資源循環にも貢献できる次世代型の環境配慮建材です。
     ある使用実例では、元々仕上げ材に岩綿吸音板を使用する計画でしたが、それを「KALuVER」に置き換えたことで、天井下地と合わせた総重量が8tから4tへ、約半分の軽量化が実現しました。安全性の向上はもちろんですが、工期の短縮やコストダウンにもつながります。また昨今少子高齢化で人手不足、職人不足が問題となっている中で、高齢職人の方に重い物を持ち上げてもらうのは大きな負担になってしまうので、こうした負担も軽減したいということで活用いただいています。
     軽く安全なだけではなく、「KALuVER」はデザインの自由度にも優れています。ここからは用途や空間に合わせて選べる豊富なバリエーションをご紹介します。
    まずは形状についてですが、大きく分けて「ルーバーシリーズ」と「パネルシリーズ」の2種類があります。さらに「ストレート形状」だけではなく、「波型状」のデザインも可能で、自分だけのカスタマイズを楽しんでいただけます。 次に取り付けタイプです。さまざまな下地に合わせて取り付けタイプを選ぶことができ、新築工事だけではなく改修工事などでも簡単に施工できるのが特徴です。
     仕上げパターンも豊富で、単色は標準色に加え、お好みの特注色の対応が可能です。木目柄については100種類以上から選べるほか、不燃の天然木シートで仕上げた「NENRiN(年輪)シリーズ」など、空間のコンセプトに合わせた選択もできます。
     施工事例もご紹介します。オフィスで採用されたルーバーシリーズ導入事例では、複数組が一つの空間で打ち合わせをするとき、話し声が気にならず快適な音環境を実現できたと評価をいただきました。パネルシリーズの導入事例では、好みの色や形にカスタマイズできる点を非常に喜ばれ、軽量化による安全性の高さも好評でした。さらに高いオリジナリティを実現した実用例では、ストレート形状のルーバーを格子状に組み合わせたり、カット技術を使うことで、単なる機能材にとどまらずシンボル的なアートとして空間に彩りを加えています。
     今後も軽量で安全、環境にも配慮した建材を通して、人と地球に優しい空間づくりを追求していきます。

    2025優良製品・技術表彰 受賞製品紹介
    <優秀賞><特別賞>日本建築材料協会賞「手摺一体型太陽光パネル『ソーラーレール』」
    株式会社東急コミュニティー/日栄インテック株式会社

    バルコニーの手摺面や屋上フェンスの垂直面を利用した太陽光パネル

     「ソーラーレール」は太陽光パネルとアルミ手摺が一体となった製品です。バルコニーの手摺や屋上フェンスの更新工事を実施する際に設置可能な製品で、発電と建物の手摺機能を兼ね備えた、建材一体型太陽光発電(Building Integrated Photovoltaics)となっています。
     手摺面のガラスが太陽光パネルの役割を果たし、ガラス1枚当たり約240Wの発電が可能です。
     最大の特徴は、手摺の両面に太陽光パネルが使用されているため、直射日光のみでなく、バルコニーへの反射光も受けて両面での発電が可能なことです(平置き発電の73%を実現)。
     また、垂直発電のため、太陽光発電で不利とされている北面への設置も検討が可能です。
     これら両面発電と垂直発電を合わせることで、一般的な平置き設置の太陽光発電と比べても遜色のない発電量が期待できます。

    設備スペースで狭くなった屋上でも、垂直設置で平置きと変わらない発電量を確保

     実際に施工されている現場を見ると、「ソーラーレール」のメリットがお分かりいただけます。従来、太陽光パネルの設置は、屋上への設置がスタンダードです。しかしながら、マンションやビルの屋上には通気管や給排水設備などさまざまな設備があり、設置できるスペースが確保できないケースや、防水メンテナンスへの懸念があります。特に都心のマンションやビルは屋上面積が少ない状況です。  本製品なら、スペースを有効活用した垂直発電の提案が可能です。また、積雪により、平置き設置ができなかった積雪地域にも設置提案することができます。

    災害時、停電時の電源供給にも寄与

     この「ソーラーレール」は2024年にTUV認証(※)を取得しており、国内の補助金事業の基準を満たしている製品です。さらに東京都では2025年に「令和6年優れた機能性を有する太陽光発電システム認定書」を取得しているため、東京都からの補助金も上乗せされるというメリットもあって、ますます今後の普及拡大が期待されています。
     「ソーラーレール」は、手摺で電気をつくることで、プラスの価値をもたらします。もし明日、皆さまのマンションに停電が起きたらどうなるでしょう。そんなとき、「ソーラーパネル」があれば、復旧まで共用部分に電力を供給することによって、最低限の安全確保が可能です。常に充電が必要なポータブル電源や、燃料が必要な発電機に頼らずに済むので、災害のための準備が大幅に軽減されます。

    カーボンニュートラル社会の新しい太陽光発電

     蓄電池と組み合わせて利用することで、非常時の電力確保や建物のレジリエンス向上にも貢献します。再生可能エネルギーの活用によりCO2排出量を削減し、カーボンニュートラル社会の実現にも寄与する新しい太陽光発電システムです。
     総合不動産会社である東急コミュニティーと管財業界でトップクラスのシェアを誇る日栄インテックが互いの強みを生かすことで、設置スペースやメンテナンスなどの課題を解決するとともに、人々の安心・安全で快適な日々を守るレジリエンスの強化とカーボンニュートラルな社会の実現に寄与してまいります。
    ※TUV(テュフ)認証:第三者的な立場で機械・電子機器などあらゆる製品の安全規格への適合性について検査・認証を行う第三者認証機関。

    ※国土交通省住宅局長賞「ガラス用遮熱コーティング【ZEROCOAT】」の株式会社ZERO様は都合により講演が中止となりました。
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -