講演会 講演録

  • 2023年9月8日
    【理想のすまいと建築フェア セミナー】(講演録2023.6.8)
    建築省エネ法とZEB・ZEHとの関わり方
    公益社団法人 大阪府建築士会 理事 岩岸克浩氏

    ZEBの概要と目標―ZEBを実現するには

     「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」は、快適な環境を保ちながら高効率設備や高断熱化によってできる限りの省エネルギーに努め、太陽光発電などの創エネでエネルギーをつくり保管していくという考え方です。事務所、学校、病院、ホテルなど、災害時に自立できる建物にはZEBの要件が必要とされますが、「2020年までに新築の公共建築物等でZEBを実現」「2030年までに新築建築物の平均でZEB化を実現」というのが、約10年前に設定された目標ですが、現状では実現にほど遠いと思います。経産省では、目標達成のために「ZEBロードマップ委員会」を設置し、ZEBの定義と評価方法、実現可能性、ZEBの普及方策が検討されました。 

    ZEBロードマップ委員会で提言されたこと

    定義・評価方法~「パッシブ手法」を上手に使う

     高断熱化、日射遮蔽、昼光利用など、エネルギーを極力必要としない「パッシブ手法」を利用して省エネ化を図り、省エネ基準よりも50%以上の省エネをZEB基準として設定しています。ZEBの定義については、正味100%以上、使うエネルギーよりと新たに生み出すエネルギーの方が多い建物がZEBであり、実現は難しくコストもかかります。これには区分があり、正味75%以上で「Nearly ZEB」、50%以上の省エネが「ZEB Ready」。この三つを指して「ZEB化された建物」とし、元々の省エネ基準よりもハイグレードなものであるとお考えください。
     定義のイメージは、「エネルギー自立」です。イメージ図で言うと、元々の右側エリアから50%削減して、左側エリアに収めようというのが今のZEBの省エネの基準の内容です。

    ZEBの実現可能性~ランニングコストを抑える

     どうすればZEBが実現するか? ロードマップ委員会では、建築計画、断熱材料、設備、設計費用などについて、10,000㎡・7階建ての事務所ビルを想定して試算しました。平成25年省エネ基準相当から比較して、Nearly ZEB化を進めると52%省エネでき、ZEB Ready化を進めると50%まで削減可能となります。コストに関しては、イニシャルよりランニングのエネルギーが約2倍以上になるので、そこを抑えれば長期的には安くなります。

    ZEB実現に向けた普及方策~ZEBロードマップ

     ZEBを普及させるには、設計ノウハウの構築やガイドライン策定、低コスト化のための支援、周知のための広報が必要です。階層が増えるほど、容積率が大きくなるほど普及のハードルが上がるので、容積率や用途、階層ごとにZEB実現のための施策が求められます。

    建築物省エネ法とZEH・ZEB

     改正建築物省エネ法がすでに動いております。同改正法では省エネ性能の底上を図るとしており、全ての新築住宅・非住宅に対して省エネ基準適合が義務付けされます。300㎡未満ではありますが2025年までに全て実施する形です。またトップランナー制度を拡充したり、現行法の誘導基準の強化も図っています。建物の改修も省エネになるので、これに対して出る補助金を利用してリノベーションを行い、建物自体の価値を上げることも可能です。省エネ改修に関してはすでに低利融資制度が始まっています。再エネ設備の導入に支障となる高さ制限も緩和されています。
     2024年予定ですが建築物の販売・賃貸時における省エネの性能評価の義務付け、再エネ利用促進区域制度の策定、防火規制の合理化も図られます。また木材利用の推進や2級建築士の業務範囲見直しなどもあります。このように、対策強化や規制緩和などによってできるだけ建築物の省エネ性能を向上させていこうという流れになっています。
     皆様に関わってくるのは、省エネ部分の誘導基準の強化でしょう。これは、より高い省エネ性能への誘導を目的としてZEH・ZEB水準相当に省エネ性能を引き上げようする施策です。この部分はしっかり対応しないと苦労するところだと思います。それに伴い、共同住宅の省エネ計算が合理化されます。例えば隣に住戸がある場合とない場合(角部屋)では当然条件が変わるので、これまで見込まれていなかった熱流入も考慮した計算方法に見直されるといったものです。誘導基準も新設されました。普通の省エネ基準、ZEH基準、誘導基準を設け、基準値以下になるようしっかり計算することになります。
     設備に関するものは日進月歩で、今後多数出てくるので、そのときの一番効率のよいものを選んでいただければと思います。最も長い目で考える必要があるのは躯体の高断熱化です。ただ、厚みを入れればよいというわけではなく、適切な設計が必要です。例えば外壁のUA値が0.87→0.6になるとグラスウール32Kの厚さが161mmから約200mmに増え、かなりの厚さになります。どうしてもその部分が設計時の足かせになり、施工者にとってもより高い技術を要求されます。従って監理者側も技術を見極める目を養っていくべきでしょう。

    補助金利用とランニングコスト抑制でペイが可能に

     ZEB化の費用については、省エネ設備や断熱化で総工費は高額になりますが、補助金が出ます。負担額分はランニングでペイできるというのがZEBの考え方です。施主様にも喜ばれるはずです。
     住宅の省エネ化推進に向けて、経産省・国交省・環境省が3省で取り組んでいる支援制度事業があります。戸建て住宅はLCCM、次世代ZEH+、ZEH+、ZEHがあり、集集合住宅はZEH-M(ゼッチマンション)です。太陽光発電を含む原則100%以上の省エネ基準を満たすという要件は同じですが、補助金の額が戸建てで上限140万円/戸、集合住宅では補助金対象経費の2分の1以内。一定の条件を満たす場合は1戸当たり24万円の補助額となるので、例えば100戸なら2,400万円という形です。こうした補助金をうまく利用して有利に省エネ化をご提案されてみてはいかがでしょうか。

    「パッシブ」と「アクティブ」のベストバランスを

     では、具体的にどんな方法で取り組んでいけばよいのでしょうか。具体的な手法を、さまざまな事例と共に掲載した『建築物の省エネ設計技術』という書籍があります。私も編集に携わっておりますが、ちょうど今最新情報を更新するため改訂を行っているところです。
     機器を使ったアクティブな手法で省エネを実現するよりも、高断熱化つまり開口部や建具に工夫を施したり日射を制御して熱の出入りが少なくなるようにするほうが、長期間で持続可能な省エネにつながると思います。同書籍では、外皮性能を上げる手法や、樹脂窓、遮熱塗料なども具体的数値を示して紹介しています。例えば樹脂窓は熱貫流率0.91、UA値が1.37などの極めて優れた製品があります。樹脂建具は、以前は防火認定が降りなくて使えなかったのですが、今は高層マンションでも使えるので、こうした建材を積極的に導入してランニングを抑えることを考えていただければと思います。
     まずは熱の出入りを抑える手法をまず取り込みながら、そのときどきの最新機器を使う。ここをバランスよくまとめることが必要だと思います。今後、緩くなる方向には一切進まないので、補助金なども大チャンスととらえれば、ビジネスチャンスが生まれるのではないでしょうか。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -