講演会 講演録

  • 2023年9月8日
    【理想のすまいと建築フェア セミナー】(講演録2023.6.8)
    建築プロフェッショナルセミナー これからの住宅の課題 特に耐久性の観点から
    近畿大学副学長 岩前 篤氏
    さくら事務所ホームインスペクション関西/ユニオン設計株式会社 星野美保氏
    株式会社ハウゼコ 代表取締役社長/一般社団法人住まいの屋根換気壁通気研究会 理事長 神戸睦史氏

    <第1部 研究発表>日米加の小屋裏喚起の研究の歴史と基準策定経緯について(日本建築学会技術報告集論文から/東海大学名誉教授・石川廣三氏との共同研究) 神戸睦史氏

    研究会の概要と住宅外皮マイスターについて

     住まいの屋根換気壁通気研究会は木造住宅の外皮の耐久性向上に関する研究をテーマに活動している組織で、2024年に10周年を迎えます。住宅外皮マイスターの資格試験を創設して試験を実施、そのための教科書『住まいの耐久性大百科事典』(Ⅰ・Ⅱ)も発刊しました。本発表は、同書籍(Ⅰ)の執筆に当たって調べた日米の小屋裏換気基準の歴史が元になっています。 

    日本の木造住宅の小屋裏換気基準の問題点

     小屋裏換気は耐久性の中でも大切なポイントで、その基準も非常に重要なものです。しかし今の日本の小屋裏換気基準は長年改訂されておらず、現実と乖離している状況です。文献を調べる中で、日本の小屋裏換気基準は米国のBuilding Code(建築基準)をルーツとしているものの、日本の実情や変化に即した更新が適切になされていないことが分かりました。
     現行の基準の問題点は、「陸屋根の規定がないこと」「屋根断熱にすれば小屋裏換気しなくてもよい」「約50年間、換気率が見直しされていない」など。日本の小屋裏換気基準が導入された最初の基準書は、住宅金融公庫の「枠組壁工法住宅工事共通仕様書」です。1970年に北米から導入され、1974年に建設省告示で技術基準制定されました。1977年と1982年に改訂が行われ、今につながる小屋裏換気基準となっています。

    米国・カナダの基準は定期的に見直されている

     一方米国・カナダでは、Building Codeの小屋裏換気に関する規定は1950年から始まっており、それ以前から小屋裏結露に関する多くの実験や調査が行われています。現行のBuilding Codeの小屋裏換気基準は、米国の場合、換気口の最小有効開口面積は、換気を行う空間の面積の1/150(一定の条件下で1/300)で、カナダも同様です。両国ではBuilding Codeの小屋裏換気規定が3~5年ごとに見直され、屋根構造や要求性能の変化が反映されて現行の基準にいたります。

    米国の古い推奨値に準拠した基準、見直し必要

     「枠組壁工法住宅工事共通仕様書」の1977年改訂版を見ると、換気開口比の1/300あるいは1/150といった数値は米国・カナダの現行のBuilding Codeを採用していることが分かりますが、「吸気口と排気口を垂直距離910mm以上離して設ける場合、面積比は1/900以上」という部分の参照元が見当たらず、古い文献を当たったところ、米国で1955年に小屋裏換気口の最小推奨寸法として設定された基準であることが判明しました。米国・カナダでも基準制定当初は混乱しつつも、トライアンドエラーを経てきたことがうかがえます。そしてモデルとした米国・カナダでは時代に応じて更新されているのですが、日本ではそれを反映しておらず、当初の基準値のまま運用しています。結果、日本の小屋裏換気基準は1982年以降ほとんど変わっていないというわけです。
     米国・カナダのBuilding Codeの規定と比べると、日本の規定は適用面の不備や内容的に不適切あるいは不十分な点があり、これが見直されていないのは大きな問題だと考えます。住宅の省エネルギー性能の向上と共に、従来にもまして求められる耐久性の確保に向けて、日本の規定も近い将来見直しが行われることが望ましいと思います。

    <第2部 パネルディスカッション>岩前篤氏(モデレーター)、星野 美保氏、神戸睦史氏

    ますます厳しく求められる住宅の耐久性能

    星野 私は住宅の耐久性を診断するホームインスペクションというサービスを提供しており、今回はインスペクションの観点から言及いたします。床下や小屋裏など普段見えない部分を気にされるお客様は非常に多く、断熱性が向上している近年は特に関心が高まっています。とにかく床下と屋根は必ず見てほしいと言われます。点検口から見える範囲は問題なくても、床下にもぐるとカビだらけの場所が発覚するケースもあります。
    神戸 これからは耐久性能がさらに厳しくなっていき、危機感を持っています。例えば、外断熱を考えるお客様がますます増えてくると思うのですが、外壁材に断熱材を張る際に通気環境をよくしないと漏水や結露が起こるので、そのような部分は非常に意識しています。
    星野 神戸さんの小屋裏のお話を聞いていて、耐久性の基準がいかに重要なのかが分かりました。近年暴風雨や大型台風が多発し、通常は入らないような箇所から雨水が入るケースが増え、多くの相談を受けます。だから、そのような重要な基準の部分を、住宅のつくり手側が整理しないままいくと、想定外の事故につながりかねないと感じました。
    岩前 基本的な概念として、室内と外部の環境が変われば変わるほど、その間(建物)にはストレスがかかります。建物は今後どんどん中と外の違いを大きくしていくものになります。中は安全で快適に。これは住む人の健康維持のためですが、対して外側は気候変動などの影響もあって、冬はより寒く、夏はより暑くなるでしょう。こうして住宅が受けるストレスが増大していくため、今まで以上に耐久性が必要となります。

    経年劣化はオーナーが愛情を持ってケアを

    星野 雨漏りの問題に関して言うと、激しい豪雨で想定外の場所から雨水が侵入する場合と、経年劣化に応じたケアが不十分な場合の二つのパターンがあります。経年劣化をきちんと補修することは、家への愛情だと私は考えています。建物のせいで雨が入ってきたのではなく、愛情不足が雨漏りを招いているのです。
    岩前 やはりオーナーの責任による場合もあるということですね。
    神戸 米国でオーナー自身がいろいろと手入れしている場面を目にして、日本の住まい手は自分の家をほったらかしにしているも同然だと感じました。私の家も確かにそうだったなと。昔はもっと手入れをしながら住んでいたように思います。
    星野 これから家を建てる場合の初期の耐久性は、専門で研究されている方々にお任せしますが、経年劣化はオーナーにケアしてほしいですね。補修材料なども、優れた製品がいろいろあります。改修と改良で自宅の耐久性を上げていく努力をしてほしいと、現場でお客様に伝えるようにしています。
    岩前 私が常々思っているのは、過去の住宅と今の住宅を比較すべきでないということ。昔の木造住宅が称賛されますが、日本で木造が隆盛したのは単に木が豊富だったからです。昔の木造住宅は室内環境を犠牲にして、人は外と同じような環境で暮らしていました。建物にかかるストレスは少ないが、人にかかるストレスが大きかったのです。今は人の健康を重視し、建物の耐久性を求めるようになりました。だからこそ星野さんの言うように、住宅を愛情で守ることが大事になっていくのだと思います。住まいのつくり手は、過去の経験に頼って安心せずに、ぜひ今の情報を元にこれからの建物を考えていってほしいと思います。
    神戸 つくり手も住まい手も、共に耐久性を脅かすリスクへの対応に取り組んでいかねばなりませんね。われわれの研究会もコロナ後の再始動で精力的に動いています。今後ますます、耐久性向上のために研究を盛り上げていきたいと考えています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -