講演会 講演録

  • 2023年9月8日
    【理想のすまいと建築フェア セミナー】(講演録 2023.6.8)
    大手塗料会社における女性活躍推進と女性ネットワークの会 アンケート結果最新報告
    (協力)日本建築仕上学会 女性ネットワークの会
    有限会社クレアールソシオ 代表取締役 宮原悦子氏(司会・進行)
    芦森工業株式会社 桂嶋恵都氏
    ベクセス株式会社 池田あい氏
    一般財団法人女性技能者協会 代表 前中由希恵氏
    なかにしヘルスケアオフィス 産業医/日本産業衛生学会専門医、指導医 中西麻由子氏

    <フェムテックに関連したフリートーク>
    はじめに フェムテックとは?

    宮原 「フェムテック」という言葉が世の中に広まり始めたのは2022年からです。最近、ITと産業を組み合わせた動きである「クロステック(X-tech)」に関連する言葉がよく聞かれるようになっています。金融とテクノロジーを掛け合わせたフィンテック、食品関連ではフードテック、健康関連のヘルステックなどと同様に、「フェムテック」も「フェミニン」とテクノロジーを掛け合わせた造語で、クロステックの一つです。
     女性の健康問題が生産性や労働損失に影響しているとされ、さまざまな関連商品も出てきています。女性特有の健康課題には、月経、貧血、妊娠、更年期などいろいろなものがあり、フェムテック製品・サービスも多岐に及んでいます。月経管理アプリ「ルナルナ」、スマホなどから直接産婦人科医に相談できる「産婦人科オンライン」、更年期障害に悩む人が大豆成分から女性ホルモンを摂取できるサプリ「エクエル」辺りはよく知られていると思います。

    生理休暇を取らない・取りづらい理由は?

    宮原 女性ネットワークの会で実施しているアンケートでは、「現場の仕事を行う上で待遇面での男女差を感じるときはありますか?」という質問に対し、70%が「ある」と回答しました。「生理や月経前症候群(PMS)などで仕事への影響を感じたことがありますか?」に対しては80%以上が「ある」とのことでした。しかし生理休暇に関する質問では、ほとんどの人が「利用したことがない」と答えました。
     生理休暇を利用しない理由として、「本当に(休まないといけないほど)ひどいのか?と上司に言われる」という人もいれば、「仕事に行けなくなるほど体調が悪くならない」という人もいます。ピルを服用している人もかなりおり、ピルで多少は生理痛が楽になるというコメントもよく書かれています。私の若い頃は「ピルって避妊薬でしょ?」といったイメージがありました。
    中西 最近はピルを活用して体調管理し、月経のつらさを我慢しないようにしようという動きが出てきています。女性は毎月ホルモンの波があり、その波によって体調が変化し、自律神経系などの神経バランスの乱れが生じます。確かに昔は避妊のために飲むと思われがちでしたが、今では生活を快適にするために月経をコントロールする意味合いで使われ、副作用も比較的抑えられるようになってきました。産婦人科での処方も増え、かなり活用が進んでいる薬だと思います。また、生理休暇を取りにくいという話に関しては、月経痛がつらい人はぜひ婦人科へ行ってくださいとお話ししています。
    宮原 生理休暇を利用しない理由の中に「就業規則から削除されたから」という回答があって驚きました。これはいけないことではではないのでしょうか?
    中西 書かなくともいいんですよ。それは法律に基づいて必ず取得させなければならない休暇なので、就業規則に記載があるなしにかかわらず、上位に設定されている休暇であると考えてください。
    宮原 皆さま、この情報は共有していただき、ぜひ会社に持ち帰って広げてください。このアンケートのように、就業規則にないから利用していないという女性社員がいるかもしれません。

    妊娠したら、個々の状況から対応を選ぶことが大事

    宮原 アンケートで「現場勤務のときに妊娠が判明したらどうしますか?」という質問もしていますが、実際に体験した方々がここにいますので聞いてみましょう。
    前中 私自身はもう20年近い現場経験があり、自分は現場を分かっているんだという自信もあるので、ギリギリまで働こうかと考えていました。しかし、会社に相談したときにかなり心配されてしまったんですね。会社だけでなく、周囲にも心配をかけたり気を遣わせたりしているなあと感じたので、ギリギリではなく少し早めに休みに入ることにしました。
    池田 2002年に第1子を出産した当時、メーカーの社員でしたが、そこでは当時まだ出産時に休みを取る人が圧倒的に少なかったため、退職を選択しました。
    中西 私は2000年に第1子、2005年に第2子を産みました。まだマタニティハラスメントの概念はなかったので、平然と「代わりはどうするんだ」などと言われる状況の中、私は臨月までフルに働きました。しかし現場仕事の人と間接業務の人は状況が違うでしょうし、体への負担の感じ方もかなり個人差があるため、今はもう個別対応で対策を選択していく時代だと思います。

    キャリア中断に不安~社員へのインタビューから

    桂嶋 リアルな声を集めたいと思い、自社の女性社員と男性上司にインタビューを行いました。まず女性社員ですが、生理休暇の使用については「使ったことはない」「昔は使っていた(今は使わなくなった)」と。なぜ使わなくなったかと聞くと、「なぜ必要なのか」「生理の状態は?」などと聞かれて使いづらくなったからだそうです。しかし、もし上司が女性だったら生理休暇は取りやすいのかというと、そう単純ではないのが難しいところ。生理時の体調は非常に個人差が大きいからです。
     また、どんな制度を求めるか聞いたところ、「産休・育休から復帰したときの情報の断絶を防ぐような制度がほしい」との声がありました。長期間会社と断絶された状態から復帰すると浦島太郎状態になってしまい、情報についていけないためキャリアに影響するのではないかと非常に不安を感じるそうです。
     ある男性上司は「生理休暇もつわり休暇もぜひ取ってほしい。どんな状態だろうと私は承認する」と言ってくれ、私も安心しました。また、男女かかわらず業務が属人化していると休みが取りづらいので、みんなが健康で働き続けるためにはそこを解消していく必要があるとのことでした。
    中西 「キャリアが中断するのでは」という不安は、私もそうだったのでとても気持ちがよく分かります。産休・育休中も情報にアクセスできる仕組みよりも、その間は育児に専念して、復帰してからしかるべき支援を受けて迅速にキャッチアップできる仕組みを整えるのが大事なのではないかと感じました。会社からの「復帰後もキャリアを積めるようにしっかり応援しますよ」という言葉や姿勢が重要だと思います。

    女性にとって最も悩ましい、現場のトイレ問題

    宮原 現場で一番問題になっているであろうトイレの問題です。トイレの設置は労働衛基準で、原則的に男女分けねばならないと定められています。しかし小規模な現場ではトイレが一つだけ、それも外から丸見えのトイレしかないといったケースがかなり多いのです。
    池田 私の会社では工事現場の仮設トイレなどのレンタルを行っています。最近は、いろいろな人が仮設トイレを使いやすいようにと洋式トイレをおすすめしています。
     洋式トイレが入っている工事現場へパトロールに行くと、ほとんど便座が上がったままの状況です。女性は便座の上がったトイレを使うことに大きな抵抗を感じます。男女共に気持ちよくトイレを使うにはどうすべきか、毎回議題に上がるのですが、未だに解決しない永遠のテーマです。このような事実を皆さんに知ってもらうだけでも改善につながると思うので、私たちもこのような場で現場のトイレ事情を積極的に発信するように努めています。
    前中 私は電気工事士として現場で技能者として働くかたわら、(一財)女性技能者協会の代表理事を務めているのですが、会員同士でもトイレの話はよく話題にのぼります。共通しているのが、新しい現場が決まると必ず最初にするのが周辺のコンビニを探すことなのです。現場のトイレの有無が分からないので、トイレのありそうな場所を徹底的にGoogle Mapなどで調べてから現場に向かうのです。コンビニなどがあったとしても現場から離れていて、小型の自転車を車に積んで行ったこともあります。みんな苦労しているようです。
    池田 弊社ではハウスメーカーとの取引が多く、大手からは「今回は現場に女性の技能者がいるので仮設トイレを2台置きたい」という要請もあります。しかし一般の戸建ての現場ではどうしても2台置くのは難しく、前中さんのお話のように大変な思いをされている女性の技能者、職人は多いようです。
    中西 ある程度の人数の女性がいる職場では、男女別で横になって休憩できるスペースを設けなければならない法律もあります。生理中や妊娠中の女性が具合が悪くなったときはもちろん、男性でも腰痛や持病、あるいは高齢でつらい人が出てくるはずですし、足を伸ばして休める場所があるだけで体の負担が全然違ってきます。
    宮原 今回は女性に特化した議論でしたが、男性特有の課題もあると思います。女性も男性も働きやすい社会になってほしいと改めて感じました。今後もこのようなセミナーを各所で実施したと考えていますので、ご興味がおありの方、会社で一緒にワークショップを開催したいという企業様がいらしたらぜひお声がけください。

     
     
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -