講演会 講演録

  • 2019年5月10日
    「エンドユーザー満足度100%頭のよい子が育つ家」
    建材スペック選択理論
    空間工学理論=SSTECHによる最先端C2B建材販売ビジネス理論とは
    KEYは内なる国際化と多様で個性的な付加価値創造
    (建材研究委員会総会講演)
    一般社団法人四十万未来研究所 
    代表理事 四十万 靖 氏

    家や建材をエンドユーザーの観点で考える

     私は大学卒業以来20年間、伊藤忠商事株式会社で建材を担当していました。退職後、慶應義塾大学SFC研究所で子どもの教育学習環境に関する研究に携わり、家や建材に対してエンドユーザーとわれわれは全く目線が違うことに気付きました。2006年には『頭のよい子が育つ家』という本を出版し、多くの方に興味を持っていただきました。
     一般社団法人四十万未来研究所は、エンドユーザー向けに「家を買うときにはどうすればよいのか」について講演したり、国と共に資格をつくったりしています。私の経営するスペース・オブ・ファイブ株式会社と連携して、仕組み(メカニズム)とビジネスモデルを、工務店やハウスメーカー、マンションデベロッパー、さらに電力会社やガス会社、家具メーカーや建材メーカーなどに提供しています。
     建材メーカーがエンドユーザーに話す際、メーカーとしての立場と責任があるため、機能に終始します。しかし一般のお客様は必ずしも100%理解できないし興味も持てないため、ただのコミュニケーションストレスになっています。エンドユーザー目線で見たとき、相手が求めているのは何かを考える必要があります。
     私は子どもの教育学習について20年以上調査し、「頭のよい子が育つ家R」を提唱してきました。ここでは皆さまの建材が非常に大きな役割を果たしているのですが、今まで皆さまが考えていたこととは全く違う観点が、実はエンドユーザーにとって重要なのです。

    自分で考えて伝える力が自然と身に付く家

     「頭のよい子が育つ家R」はブランド住宅です。日本人はブランドにお金を払います。「頭のよい子が育つ家R」は、大手ハウスメーカーや大手不動産会社、工務店とのライセンス契約で販売されますが、「頭のよい子が育つ家R」というブランドにより、平均して家が5%高く売れています。その部分(ブランド)はソフトであり、仕入れがないのでそのまま利益になります。結果として建材が高く売れるという仕組み(メカニズム)が成り立ちます。
     2006年以降、私どもと契約したライセンスパートナーが建ててきた「頭のよい子が育つ家R」は北海道から沖縄まで、1,500棟(図1)。関西では、南海電鉄株式会社と組んで和歌山県橋本市に戸建てのモデルハウスをつくりました。一見すると一般的な住宅なのですが、随所に工夫が凝らされています。
     例えばLDKは、自由に落書きできるホワイトボードが取り付けられ、キッチンにいる母親と小さな子どもが書きながらコミュニケーションをとれます。そして勉強をするのは子ども部屋ではありません。子どもは基本的に母親のそばで勉強するので、洗濯なり料理なり、母親が何かをしているところへ自在に移動できる机で勉強に取り組みます。
     リビング横の和室は父親と相撲をとるための土俵を模した空間。ここで父親が全力で子どもと相撲を取り、威厳を見せるというわけです。庭のバーベキュースペースでは、父親が料理する姿も見せます。
     子どもは本棚の本を手に取りません。そこで本を手に取るきっかけをつくるために、階段を本棚にしています。このように、家中全てが勉強スペースになっているのが「頭のよい子が育つ家R」のポイントです。最近の入学試験では、例えばある事柄に対して「あなた自身の考えを述べなさい」と、思考力を求められます。思考力は、子ども部屋に閉じこもることではなく、幼少期から日常生活で、両親に自分の考えを伝えることを習慣づけることで身に付く力です。結果として、受験に合格する力もつくということです。
     このモデルハウスの事例からは、建材の機能ではなく、家が住人にどう利用されているのかがよく分かると思います。エンドユーザーが求めるのはパーツの良し悪しではなく、家としての価値です。

    空間工学テクノロジーで家の価値を定量化

     SSTECH(空間工学テクノロジー)とは、私が慶應義塾大学と東京大学で約20年間研究を重ねてつくった理論です。計67カ所のチェックポイントが100%に定量化されており、60%以上なら「頭のよい子が育つ家R」として認定します。例えばものを書く習慣をつくるボード(6%)の場合、2カ所以上の設置で、材質はガラス、ほか場所やサイズにも決まりがあります(図2)。各チェックポイントで満たされた点数を合計し、100%中何%かをスコアリングします。
     SSTECHは大きく三つのカテゴリに分かれています。一つ目は探求・表現・共有(略して3X)という言葉に集約されています。家の中では間取りや家具のレイアウト、生活動線に結び付いており、パーセンテージは62%。二つ目は五感すなわち非言語コミュニケーションで、25%。私が専門としている0歳から12歳の子どもが正確に自分の考えを伝える手段は、会話ももちろんですが「ものを書く(描く)」ことです。三つ目が省エネ・安心・安全といった家の健康環境で、13%。
     2017年からは、SSTECHを進化させた取り組みを進めています。私が今着目しているのは工務店です。20世紀は工務店が集まって一つのブランドをつくり、海外で建材を低価格でつくっていました。今はエンドユーザーと工務店の双方向の関係づくりが大切です(図3)。ではエンドユーザーにとっての「分かりにくさ」をどう解決するか。
     一昨年あるVRメーカーと一緒に取り組んでみました。住宅は3次元なのに、図面という2次元でコミュニケーションをとること自体間違っています。VRのよいところは大体のイメージがつくことです。キッチンの高さやスイッチの位置は図面では分かりません。VRを活用することでコミュニケーションストレスがかなり緩和されることが分かってきました。

    マスターアーキテクトが家のプランを添削・指導

     さらに、「マスターアーキテクトシステム」という、工務店とエンドユーザーの間に選ばれた建築家が入ってコミュニケーションをとるスキームを導入することにしました。丹下健三氏に師事した建築家の松岡拓公雄先生と共に考え出したものです。
     まず、松岡先生が継承する丹下健三氏の建築哲学に基づく「マスターコンセプト」というコンセプトが登場します。これは分かりやすくいうと「ライフステージに合わせたコミュニケーションをとりやすい家づくり」と定義づけることができます。空間とコミュニケーションをキーワードに、「頭のよい子が育つ家R」をはじめ「夫婦の距離のよい家」「介護より快護の家」「犬も猫も家族の家」「建築家の至高の家」という五つのライフデザインを提案しています。
     加えて「マスターアーキテクト」と呼ばれる松岡先生含む3人の建築家が、工務店の設計プランの設計監修を行います。工務店とライセンス契約を結んで研修と講座を受けてもらい、一定のクオリティが担保されると、松岡先生の門下生になります。これはフランク・ロイド・ライトのタリアセンアーキテクトを参考にしました。工務店の設計者のレベルを上げることが狙いです(図4)。
     実際の仕組みは、工務店から上がってきたプランに赤ペンを入れるというもの。「こうしたほうがより良いのではないか」と、マスターアーキテクトが第三者目線で指導してくれます。工務店は、優秀な建築家の先生がプランを添削・指導してくれるんですよというトークができるようになります。マスターアーキテクトシステムは始まったばかりですが、4月末に富山県と福井県で工務店を対象に説明会を開催したら、両県から工務店37社58名が参加され、強い関心を示していただきました。
     工務店はハウスメーカーの名前に負け、パワービルダーに価格で負けているという大変な立ち位置にいます。そこを何とかしようというのが「シジマコンセプト」の考え方であり、5%高く売れる工務店オリジナルブランド住宅の展開であります。そして家を買った方々に、セミナーや親子教室などのさまざまなサービスを提供して差別化するわけです(図5)。

    人財を育成するために「頭のよい子が育つまち」へ

     明治維新から終戦まで、日本は軍事大国として国を形づくり、それにふさわしい人材を求めました。戦争が終わると経済大国になり、米国からは「勉強のできる子」の育成を求められました。しかし今、国の仕組みは大きく変わり、教育制度も変わろうとしています。暗記問題から記述問題へ。いかにこれに対応していくかによって日本の将来は決まるでしょう。
     いよいよ令和となり、軍事大国、経済大国ときて次に何をすべきか。少子高齢化の今、私は「人財大国」しかないと思っています。子や孫たちが海外で稼いできてくれないと、われわれ大人がつくった借金は到底返せません。ツケは全部彼らにいきます。われわれ大人の誰もが等しくその責任を負っているのです。
     国際社会で活躍できる優れた人財になるために、海外でのコミュニケーション能力は重要です。そしてコミュニケーション能力は家と深い関係にある。これを私はずっと言い続けてきました。その結果、「頭のよい子が育つ家R」ができたわけです。多くの人が子どもの減少に危機感を持つ現在、もっと子どもたちを中心に考えたまちづくりをしようと、国と「頭のよい子が育つまち」という構想を練ってきました。子育て世代の減少に悩む地方自治体ではニーズが高く、福井県ではすでに具体的なプランができています(図6)。
     皆さまがつくる建材、その結果でき上がる家という空間が、日本の未来を決めるといっても過言ではありません。このご縁から、私の話が少しでも皆さまのお役に立てばうれしく思います。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -