私の建築探訪

  • 2021年10月20日
    神戸女学院(けんざい256号掲載)
    図書館は全面北向きの大窓
    図書館は全面北向きの大窓
    西宮北郊にある岡田山に立ち並ぶ、開放的なスパニッシュ・ミッションスタイルの学舎。神戸女学院岡田山キャンパスのヴォーリズ建築は1933(昭和8)年に竣工し、現存する12棟が2014(平成26)年に国の重要文化財に指定されました。戦争や震災の災禍をくぐり抜け、今も教育施設として大切にされ、愛されている名建築です。年に数回開催される建築ツアーも好評。 「けんざい」編集部

    関西を代表するヴォーリズ建築の一つ

     自然に抱かれた、緑あふれる岡田山の緩やかな坂道が正門に続いています。アメリカ人建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880-1964)の代表的な建築の一つである神戸女学院の学舎群は、第二次世界大戦と阪神淡路大震災に見舞われながらも生き延び、ほぼ当時のままの姿で使われ続けています。
     今回ご案内くださった、総務部総務課課長補佐の三枝卓馬さんは「神戸女学院の前身は、1875(明治8)年に2人の女性宣教師が神戸山本通に開いた私塾です。1933(昭和8)年にこの岡田山に、ヴォーリズの設計で新築移転しました。妻(一柳満喜子氏)が神戸女学院の卒業生だった縁もあり、ヴォーリズは特別な思いを込め、『美しい心を育むための品格ある建築』を目指して設計にあたりました」と、経緯を説明します。

    実用性を重視、地形も最大限に活用した設計

     学舎群は、中央に噴水のある広い中庭を囲むように建っています。中庭の四方には礼拝堂、講堂、総務館、図書館、文学館、理学館が並び、その東西南北に体育館や音楽館などが配置されています。クリーム色の外壁、赤みを帯びた瓦、窓や入口のアーチなどを特徴とするスパニッシュ・ミッションスタイルはヴォーリズ建築に多用されている建築様式です。

     随所に見られる幾何学模様のレリーフ、手すりや窓、照明具や調度などに施された装飾……ヴォーリズ建築の醍醐味が細かいところに散りばめられています。
     それぞれ違った形をしていながら見事な統一感を持つデザイン。眺めて歩いていると、目に心地よく、心が洗われます。造形が美しいのはもちろんなのですが、ヴォーリズは常に実用性を重視していました。例えば、壁と床が直角ではなく緩いカーブでつながれています。ほこりがたまりにくく、掃除もしやすそうです。「自然光をふんだんに取り入れられる大きな窓。図書館では本を読みやすいようにあえて反射光を多く取り入れています。各棟は渡り廊下でつながれているので雨でも濡れずに移動できます。色とりどりの瓦が、自然な風合いを見せ、壁面は表面の粗いスクラッチタイルです。これは後から部分的に修復を重ねても外見が変わらないようにするための工夫です。メンテナンスのことを考えて、必要以上に統一感をもたせることはしませんでした」。
     「12棟のヴォーリズ建築は『重要文化財 神戸女学院』という名称で国に指定されています。個々の建物だけではなく、自然環境や景観を含めて岡田山キャンパス全体が指定対象になっていると理解しています」と三枝さん。岡田山はいわば“自然のグリーンベルト”。周辺との約40mの高低差のおかげで音も響きにくくなっているそうです。

    戦争と震災に見舞われながら耐え抜いた強さ

     美しく、かつ実用的なヴォーリズ建築で忘れてはならない要素が、2度の大禍を乗り越えた強靭さです。第二次世界大戦中は、金属供出のためさまざまなものが失われましたが、補われてかつての姿を取り戻しています。阪神淡路大震災では、木造部分に大きな被害を受けながらも、致命的な崩壊はなく、一人のけが人も出しませんでした。壊れた部分は卒業生の募金活動も手伝って復興することができました。
     「文学館の屋根が崩落しましたが、これは、かつての空襲で焼夷弾を受けて一度焼失したものだったため、ダメージを受けやすい状態になっていたからです。他の校舎を見ても、構造的には十分地震の揺れに耐える強さを持っていました」。

    後世への伝承と自校教育のための建築ツアー

     現在も教育施設として使われていることもあり、校舎は一般公開されていません。しかし、ヴォーリズの思いや学院の歴史が刻み込まれた名建築を、多くの人に知ってもらい、後世に伝えていくことが必要だとの思いから、重要文化財に指定された2014年から建築ツアーが始まりました。
     「ガイドを務めるのは現役の大学生たちです。所定の研修を受け、『ツアー・マイスター』として活躍してくれています。現在ツアー・マイスターは約80人。参加者は日本全国から訪れ、満員になるツアーもしばしばですから、ツアー・マイスターの養成にもかなり力を入れています」と三枝さんは言います。
     2016(平成28)年度はすでに16回開催されました。建築ツアーは、教育の一環としての意義も大きいといいます。建築を大勢の人に案内することで、自分の大学の歴史にいっそう興味を持ったり、より愛着が深まったりするそうです。
     2017(平成29)年度は9日程度の日程が決まっているとのことです。普段は自由に出入りできないので、建築ツアー開催のときにぜひ足を運んでみたいものです。名建築とツアー・マイスターたちに触れれば、「芸術的な建築空間が豊かな人間性を育む」と考えたヴォーリズの思いをきっと体感できることでしょう。

    神戸女学院 【所在地】 兵庫県西宮市岡田山4-1
    【TEL】 0798-51-8505
    【URL】 https://www.kobe-c.ac.jp/
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -