私の建築探訪

  • 2022年12月10日
    こども本の森 中之島(けんざい277号掲載)
    内観(写真/伊東俊介
    内観(写真/伊東俊介
    重要文化財の大阪市中央公会堂や東洋陶磁美術館などの文化的施設が立ち並ぶ中之島一帯に、絵本や物語の文化が代々引き継がれていく「物語の聖地」が誕生しました。枝を伸ばし生い茂る森の木々のように人を包み込む、その名も「こども本の森 中之島」。3階層の巨大な吹き抜けを取り囲む本の壁は圧巻です。紙の本を手にとる機会が減った今、大人が与えるのではなく子どもが自発的に本に親しめるようにという思いのもと建設されました。 「けんざい」編集部

    建築家・安藤忠雄氏が自費を投じて提案・設計

     大阪都市部の中心に位置し、文化や学術の交流拠点として進化し続ける中之島エリア。堂島川沿いに緩やかなカーブを描いて建つのが「こども本の森 中之島」です。同施設は、コロナ禍中の2020(令和2)年7月にオープンしました。
     提案・設計は建築家の安藤忠雄氏で、建設費も自ら負担しています。約2万冊の蔵書は安藤氏が企業や個人に働きかけて募った寄附で購入したものです。「安藤さんはかねてより、子どもが本を読むための施設の必要性を感じておられました」と、館長の伊藤さんは言いま。「この国のこれからを支えていく子どもたちに、豊かな感性を育んでほしい。手軽で瞬時に情報を入手できるインターネットとは違い、読書は心の養になる──というのが安藤さんの考えです」。
     3階建ての建物内部は全ての壁が本棚になっており、名称通り「本の森」です。ぎっしりと並んだ本に包まれていると好奇心でわくわくしてきます。子どもならなおさらでしょう。子どもたちは直感的に本を選び、思い思いの場所でページをめくっています。「当施設は図書館ではなく『文化施設』として登録しています。図書館とは違って貸し出しは行わず、本に出会い、触れて親しんでもらうことを目的としています。静粛を求めていないので、気兼ねなく声を出して読み聞かせもできますし、幼児が泣いてしまって連れ出す必要もありません」と伊藤さん。

    独自のテーマ分けと子ども心をくすぐる仕掛け

     同施設の最大の特徴であり、図書館との最も大きな違いは、本の分類法です。通常の図書館で採用されている「哲学・宗教」「自然科学」「文学」といった図書分類法ではなく、同施設オリジナルのまったく新しい12のテーマ分けをブックディレクター幅允孝氏が考案し、これにって 配架しています。
     テーマは「1.自然とあそぼう」「3.動物が好きな人へ」「9.未来はどうなる?」など子どもの興味を喚起するものもあれば、「10.将来について考える」「11.生きること/死ぬこと」といった重く深いテーマもあります。各テーマの関連本が、科学や物語、漫画や絵本などジャンルや形態、対象年齢にとらわれず並べられています。
     「天井まで届く本棚の上方は、表紙を見せるためのディスプレイの役割をしています。ディスプレイ用の本と同じものが手の届く本棚下方に収められているので、表紙に引かれた本をすぐ手に取ることができるというわけです」。
     子ども心をくすぐり、飽きさせないための“仕掛け”も見どころです。一見普通の段差でしかないところに本が入っている隠し引き出しがあったり、壁だけでなく階段の下や狭いニッチな空間にも本が置かれてあったり、本棚の間にかくれんぼのように隠れられる細い空間があったり……。 トップライトから光が差し込むだけの、一見何もない円筒状の静寂な空間では、プロジェクションマッピングによって物語から切り取られた世界が壁に映し出されます。
     本の中から印象的な短文を抽出し、立体文字を空間に浮かべた「言葉の彫刻」は、ページをめくらずとも子どもの視線をとらえて本の世界に誘う効果があります。
     子どもの読書環境にも工夫がなされています。「北欧ブランドの子ども用スツールをはじめ、子どもの体になじむような高さのデスクを造作し、窓の位置も子ども目線にこだわっています。読書への集中を促すとともに、よい家具に触れてほしいとの意図もあります」と伊藤さんは言います。

    本との出会いを通して親子が時間を共有できる場所

     普段はなかなか見ることのできない珍しい本を多数揃えているのも大きな魅力です。名画の図録がまるで絵本や紙芝居を見ているような気分で楽しめる大型本や、さまざまな外国語で書かれた本、めくると立体的になる「しかけ絵本」など、大人でも開かずにはいられない本の数々。 また、子どもだけでなく大人の興味にも合う小説や作品集も大変充実しています。「当館では各自自由なスタイルでの読み方を推奨しており、天気のよい日であれば中之島公園内に1人1冊持ち出して読むことができます」。さわやかな季節は親子で本を読む姿が公園で見られるそうです。
     2階と3階を結ぶ大階段は、随時企画されるさまざまなイベントの観覧席となります。人気イベント「ABCアナウンサーによる『おはなしの森』」(本の読み聞かせ)のほか、クラシック演奏や文楽の上演も。同館では運営も個人や企業からの寄附で行われており、寄附金はこのような子ども向けイベントの開催資金としても使われています。
     「運営方法は自治体の方針に従い、相談しながら決めています。入館についても現在は事前予約などコロナ禍対応となっていますが、今後利用者の方々の声も聞きながら運用を模索していきたいと考えております」。
     足を運んで、手に取ってページをめくるプロセスを大事にする空間。本との一期一会を楽しむと同時に、親子の時間を育んでくれる場所です。

    こども本の森 中之島 【所在地】 大阪市北区中之島1-1-28(中之島公園内)
    【TEL】06-6204-0808(代表)
    【URL】 https://kodomohonnomori.osaka/
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -