私の建築探訪

  • 2020年3月10日
    大阪芸術大学(けんざい267号掲載)
    まるで丘の一部のように地形に優しくなじむ外観
    まるで丘の一部のように地形に優しくなじむ外観
    70年以上の教育実績を持つ大阪芸術大学のキャンパスに、2018(平成30)年、見たこともないようなユニークな形の校舎が完成しました。ガラス張りの筒を波打つ曲面が覆うこの新校舎は、最新のテクノロジーやサイエンスを生かしたアート表現者の育成を目指すべく新設されたアートサイエンス学科の拠点です。内と外が自然につながった構造で、周遊してみたくなるような建物でした。 「けんざい」編集部

    プリツカー賞受賞の妹島氏による丘の上の新校舎生

     大阪芸術大学は、西日本最大級の総合芸術大学です。大阪府南部に位置する南河内郡河南町に浪速芸術大学として拠点を移して以来、多分野にわたり発展を続け、小高い丘の上のキャンパスで15からなる学科を展開しています。
     その中で、ひときわ目を引く新しい校舎。何やらUFOのような、柔らかな曲線が木の葉か花びらのようにふんわりと重なった外観をしています。これが、2018(平成30)年11月に竣工した同大学のアートサイエンス学科新校舎です。
     設計者は日本を代表する建築家の一人で、建築界のノーベル賞とも言われる「プリツカー賞」を日本人女性で初めて受賞した、妹島和世(せじまかずよ)氏。一般によく知られる建築では、「金沢21世紀美術館」(西沢立衛氏との建築ユニットSANAA設計)があります。この校舎は、氏が日本国内で手がけた初の大学建築です。
     丘の上へと続く坂道は、通称「芸坂」と呼ばれています。芸坂を上りきったところに位置する新校舎は、丘と一体化するかのように、開かれた空間をつくり出しています。

    ひさしであり、テラスであり、通路ででもある曲面

     最も特徴的で、滑らかな生地のような曲線はコンクリートスラブで、内部空間を取り巻くように配置されています。よく見るとひさしのようであり、半屋外のオープンテラスでもあり、通路でもあることが分かります。ひさしは緩やかな曲線を描きながら地面にも接しており、その上を歩い て内部に入ることもでき、また上下階の導線にもなっています。
     この建築で設計者が目指したのは、内と外との自然なつながり。新校舎が丘の一部であることを感じさせるよう工夫したといいます。地下1階から2階までの3層構造の建物は、あらゆる方向からの出入りが可能です。
     ひさしは緩やかにうねって地面に沿い、まるで私たちを内部に誘い込むかのようです。地形に追従しながら広がっていく校舎の形状を眺めていると、設計者が地形を読み取って周囲との調和を強く意識していることが伝わってきます。

    テクノロジーを活用した新しいアートをつくる場

     新校舎は、2017(平成29)年のアートサイエンス学科新設に伴って計画・建設されました。アートサイエンス学科は、さまざまな先端技術が人々にとって使いやすいものとなったことを背景に、テクノロジーを組み合わせて全く新しいアートを表現する人材を育てることを目指して創設されたものです。
     「芸術」「情報」「社会」の3領域を横断しながら、21世紀型の新たなクリエイターを育成する場所であり、教員にはMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ教授・石井裕氏やチームラボ代表・猪子寿之氏をはじめ、世界で活躍するスペシャリストやクリエイターたちが客員教授として名を連ねています。
     校舎デザインのアイデアは、新学科のイメージを伝えた上で設計者の妹島氏に委ねられました。教員・学生全員が通るキャンパスの入口に相当する場所なので、話し合ううちに、自然に「誰でも自由に入れる」というコンセプトにたどり着いたそうです。
     構造的には、内部空間をガラスで囲い、周囲を三次元の曲面がぐるりと巻いています。それを太さの異なる円柱で支え、屋外にも耐震のためのブレースを配しました。難しかったのは、3次元の形状をどのように図面に確定させ、現場施工に反映させるかという点。BIM(コンピュー タ上で3Dの建築モデルを構築するシステム)による3Dデータを駆使して対応したそうです。

    どんなふうに生かされるかは学生次第

     内部は大きな空間で、講義室のほか、教員と学生が協働して制作や研究にあたるための「Lab(研究室)」、発表・発信の場となる広々とした展示スペース、音や映像を駆使して新しい表現をつくり出すためのスタジオを備えます。ガラス張りで建物内部からは360°景色を見渡すことができます。こうして内部からも外部との一体感が感じられるあたり、実によく考えられていると思います。
     当初は他学部も含め、学生たちの間で「こんなすごい校舎で授業を?」「こんな校舎見たことない、どうやって使うの?」といった反応が見られました。「誰にでも開かれた場所というコンセプトだから、使い方や過ごし方はみんな次第。自由に使って新しいアートを生み出してほしい。」と いうのが設計者のメッセージなのかもしれません。
     オープンな校舎は学生たちの交流の場にもなっており、コミュニティスペースで談笑したり、縁側のように半屋外テラスでくつろいだりと、思い思いに楽しんでいるようです。将来のアーティストやクリエイターたちが、ここで育っていくのだと思うと楽しみです。

    大阪芸術大学 【所在地】 大阪府南河内郡河南町東山469
    【TEL】 0721-93-3781
    【URL】 https://www.osaka-geidai.ac.jp//
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -