私の建築探訪

  • 2019年12月10日
    兵庫県林業会館(けんざい266号掲載)
    外観
    外観
    兵庫県林業会館は、兵庫県の林業や木材の情報収集・発信や木造普及促進の拠点。神戸市営地下鉄県庁前駅、JR・阪神元町駅からほど近く、学校や官公庁、オフィスや店舗が立ち並ぶこの界隈は防火地域に指定されており、木造建築を建てるには少しハードルが高い場所です。今年1月に建て替えられたばかりの同館は、主要構造にCLT(直交集成板)パネルを使用した都市型耐火木造オフィスで、建築業界から大きな関心を集めています。 「けんざい」編集部

    「都市木造ビル」のモデルとして誕生

     もともと同館は木造で3階以上が建てられない1972(昭和47)年に、RC構造で建設されたもの。四十数年の年月を経て老朽化し、耐震工事の必要も生じていたことから、昨年の3月から建て替え工事が行われていました。
     旧館の建て替えに当たって、兵庫県森林組合連合会はじめ兵庫県林業関係4団体では、神戸中心部の防火地域における中高層オフィスビルへの木材利用を推進することによって、兵庫県産材の利用拡大を図ろうと考えました。
     こうしてプロポーザルによって採用された案が、都市型木造ビルのプロトタイプとも言える現在の新館です。
     今回は、前記4団体の一つ、兵庫県木材業協同組合連合会参事の松田博文さんに詳しくご案内いただきました。
     「この建物の大きな特徴はまず、CLTの耐震壁と鉄骨フレームを接合した『CLT+鉄骨ハイブリッド構造』という新技術を使っていること、そしてCLT耐力壁を外観にはっきり現したことです。プロポーザルでは、耐火規定に阻まれて肝心のCLTが見えない案が多かった中、難点をクリアしてCLTを現し採用していた点を高く評価しました」と松田さんは言います。

    CLT+鉄骨のハイブリッドで耐震構造を実現

     設計・施工担当の株式会社竹中工務店が開発した「CLT+鉄骨ハイブリッド構造」は、鉄骨フレームがCLT耐震壁を拘束することで、鉛直力を鉄骨が支え、水平力をCLTが負担するという、筋交いのような機能で耐震性能を発揮します。この技術で、将来的には高さ60mを越える超高層建築への応用も可能だそうです。
     「ハイブリッド構造による高い耐震性能のおかげで細い鉄骨フレーム使用が可能となり、加えて床にもCLTを用いることで、通常の鉄骨造より躯体を約3割軽量化することができ、工期も短縮できました。軽いので基礎は既存基礎を残置して、その上に新しい基礎を設けることで、コストダウンにもなりました」。
     CLTは他の点でも工期短縮に貢献しています。「CLTの建て方はちょうど真夏の時期でした。これが鉄骨だったら熱で本当に大変なんですが、木なので熱さによる職人の負担がかなり違いました。また、CLTは工場で加工したものを搬入しますから、現場作業が軽減されるというメリットもありました。躯体の軽量化も相まって躯体工事は通常より約3割の工期短縮になりました」と松田さん。
     外に立って見るとよく実感できるのですが、目に入ってくる木の面積が大きいので、視覚的にも非常に特徴的で、木質感のある都市景観をうまく演出しています。耐火性能を確保するために、外皮としてガラスカーテンウォールを設置。防火地域においてCLT耐震壁を現しとする中層耐火建築物は日本初とのことです。

    同館を手本に都市型耐火木造建築の普及を

     CLT(耐力壁・間仕切り壁・床)はじめ木材には全て県産材が使われています。CLTは基本的にスギを利用し、外から見える耐力壁にのみ美観層として両側にヒノキを貼っています。外から見ると市松模様になっている耐力壁は、室内から見ても存在感があり、木の温もりを感じさせるオフィスになっています。
     鉄骨梁とCLT床パネルの組み合わせによる軽量効果で無柱の大空間が可能となった上、間仕切りが将来のレイアウト変更に対応しているので、オフィスビルとして使いやすいというのも重要なポイントです。
     新会館には、都市の中高層・大規模建築におけるCLTパネルの使用に先鞭をつけるモデル的役割が期待されていたため、着工の1年近く前から識者の助言を仰ぐ勉強会を開催するなどして、建物の方向性や基本設計の実証的検討、仕様検討を進めてきました。
     「当初から建築業界からの注目度は非常に高かったですね。昨年9月の構造見学会や今年1月の完成見学会は、ともに200人以上の参加がありました。CLT以外にも、どんな木材を使うかといった細かい打ち合わせがあり、50回以上は会議を重ねました。例えば1階のフローリングには兵庫県産のコナラ、館内サインやイスにも多様な県産材を使っています。トイレの壁の不燃木材は、実は私が提案させてもらいました」と松田さんは語ってくださいました。
     外からガラス越しに見える1階のフリースペースは旧会館時代には無かったもので、現在は林業や木造建築の情報を発信する展示コーナーが設けられています。子どもが木と触れ合って遊べる遊具も一角に置かれ、近隣の親子連れがよく訪れるそうです。今後セミナーやイベントなど、もっと多目的に使えるようにしていきたいと松田さんは言います。
     都市部における木材利用の新たな可能性を提案した同館が手本となって、県内のみならず全国に木材をたくさん使った都市型木造建築物が増えていってほしいものです。
    写真・図提供:(株)竹中工務店 
    取材協力:兵庫県都市木造建築支援協議会(http://hyougo-clt.com/)

    兵庫県林業会館 【所在地】 兵庫県神戸市中央区北長狭通5丁目5-18
    【TEL】 078-381-5425
    【URL】 http://www1.odn.ne.jp/hyogomokuren/
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -