私の建築探訪

  • 2019年6月10日
    太陽の塔(けんざい264号掲載)
    外観
    外観
    大阪モノレール「万博記念公園」駅を降りるとすぐ目の前に現われる太陽の塔。初めて見る者には強烈なインパクトを与えることでしょう。真ん中の「太陽の顔」は現在を、頂部の「黄金の顔」は未来を、背面の「黒い太陽」は過去を現しています。2016(平成28)年から始まった耐震補強工事と内部再生が2018(平成30)年に完了し、同3月から太陽の塔の内部公開が始まりました。万博当時から約半世紀を経て、塔は再び「人類の進歩と調和」を人々に語りかけます。 「けんざい」編集部

    テーマ「人類の進歩と調和」を表現するパビリオン

     取材に対応くださったのは、大阪府日本万国博覧会記念公園事務所企画課課長の平田清さん。まず塔について、素材の特徴や建設当時のことを聞きました。「岡本氏が制作した原型(模型)を原寸で忠実に施工するのは大変だったようです。特に微妙な曲線は表現し にくいのです。円をつないだ形を基本に、幾何学的な図形を集積させて図面化されました」と平田さんが言うように、かの芸術性豊かな岡本氏のイメージを実際に建設するのは苦労を要したに違いありません。
     材料には、チャレンジとも言うべきさまざまな工夫がありました。模型で表現された表面のザラザラした質感は、モルタルを吹き付けるショットクリートという施工法でつくり出しました。「両腕から雨漏りしないよう、腕の上半分のショットクリートの下地に『タールウレタン』を塗りました。当時実用化されたばかりで、しかも新築工事では使用実績のない新素材でしたが、20数年間雨漏りはありませんでした」。
     塔の真ん中にある「太陽の顔」は最も大事なパーツであるため、デリケートな表現ができるFRP(繊維強化プラスチック)を下地に採用しました。これも当時は建材として用いられていなかったそうです。背面の「黒い太陽」は約3,000枚の信楽焼タイル、「赤いイナズマ」と「緑のコロナ」はイタリア産のガラスモザイクです。
     一番上の「黄金の顔」には苦慮しました。金箔を貼るにも予算がなく、塗装では岡本氏から許可が下りない。そこで、耐用年数は未定でしたが、当時開発されたばかりの米・スリーエム社の「スコッチフィルム」という製品をアメリカから取り寄せ、顔のブリキ板に貼って金ピカに輝かせたのでした。

    岡本氏のイメージ忠実に表現、材料もチャレンジ

     取材に対応くださったのは、大阪府日本万国博覧会記念公園事務所企画課課長の平田清さん。まず塔について、素材の特徴や建設当時のことを聞きました。「岡本氏が制作した原型(模型)を原寸で忠実に施工するのは大変だったようです。特に微妙な曲線は表現し にくいのです。円をつないだ形を基本に、幾何学的な図形を集積させて図面化されました」と平田さんが言うように、かの芸術性豊かな岡本氏のイメージを実際に建設するのは苦労を要したに違いありません。
     材料には、チャレンジとも言うべきさまざまな工夫がありました。模型で表現された表面のザラザラした質感は、モルタルを吹き付けるショットクリートという施工法でつくり出しました。「両腕から雨漏りしないよう、腕の上半分のショットクリートの下地に『タールウレタン』を塗りました。当時実用化されたばかりで、しかも新築工事では使用実績のない新素材でしたが、20数年間雨漏りはありませんでした」。
     塔の真ん中にある「太陽の顔」は最も大事なパーツであるため、デリケートな表現ができるFRP(繊維強化プラスチック)を下地に採用しました。これも当時は建材として用いられていなかったそうです。背面の「黒い太陽」は約3,000枚の信楽焼タイル、「赤いイナズマ」と「緑のコロナ」はイタリア産のガラスモザイクです。
     一番上の「黄金の顔」には苦慮しました。金箔を貼るにも予算がなく、塗装では岡本氏から許可が下りない。そこで、耐用年数は未定でしたが、当時開発されたばかりの米・スリーエム社の「スコッチフィルム」という製品をアメリカから取り寄せ、顔のブリキ板に貼って金ピカに輝かせたのでした。

    常時公開のために耐震補強、「工作物」から「建築物」へ

     高さ約70m、直径約20m、腕は1本約25mという堂々たる姿。目前で見上げるとその大きさが一層際立ちます。あまりの威容に、これは一体……塔なのか?建築なのか?芸術作品なのか?と、不思議な気持ちに包まれます。閉幕後、パビリオンは撤去される予定でしたが、 1974(昭和49)年に保存する方針が決定されました。
     「大阪万博当時の太陽の塔は『仮設建築物』。保存が決まり、公園のランドマークとして管理していくために、『工作物』として建築申請しました。しかし常時公開に必要な建築基準法上の耐震基準を満たしていなかったので、内部は半世紀近く閉ざされていました。2016(平成28)年、『建築物』にすべく耐震補強工事がスタートし、同時に常設展示にするための内部再生も行いました」と平田さん。
     耐震補強工事では、塔内の空間いっぱいに枝を広げる「生命の樹」および樹上に現存する生物群を残したまま足場を組みました。塔の脇から下の部分は、内壁に設置されていた音響拡散板を撤去し、耐震補強のためのコンクリート壁を内側に20cm増し打ち。肩から上の部分は筋交いを入れて鉄骨の数を増やしました。大阪万博当時のエスカレーターを撤去し階段に変更することで、塔自体の軽量化も図っています。

    当時の技術ではできなかったことを実現

     内部は、33種類の「いきもの」で生命進化のプロセスを表現した「生命の樹」がほぼ完全に復元され、当時の地下展示室を再現した「地底の太陽」ゾーンも新たに設けられました。平田さんによると、「今回の再生事業では、岡本氏が『もし現代の照明、音響、造形技術があれば必ずや実現したい』と考えていたことに取り組みました。塔内で繰り広げられる、40億年の生命の進化を躍動的にするための照明演出効果、個々の生物群が持つ尊厳の表出、私たちに『何か』を訴える生物群の眼の表現などを意識して制作されています」とのこと。これも頭に入れて鑑賞したいものです。
     去年、2025年大阪・関西万博が決定されるというタイミングも重なり、1970年大阪万博のレガシーである太陽の塔は一層脚光を浴びています。かつての大阪万博を体験した人、していない人、それぞれに感動や発見を与えてくれることでしょう。

    太陽の塔(大阪府日本万国博覧会記念公園事務所) 【所在地】 大阪府吹田市千里万博公園1-1
    【TEL】 0120-1970-89
    【URL】 https://taiyounotou-expo70.jp/
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -