私の建築探訪

  • 2019年3月10日
    京都府京都文化博物館別館(けんざい263号掲載)
    京都府京都文化博物館別館の外観
    京都府京都文化博物館別館の外観
    旧・日本銀行京都支店を前身とする京都文化博物館別館は、19世紀後半のイギリス建築に多用された赤レンガと御影石のストライプを持つ外観は、辰野式建築として有名な様式です。今も銀行当時の姿のまま、地域のシンボルであり続ける博物館。ここに立つと、歴史ロマンの世界に入りこんだような不思議な気分に浸れます。  「けんざい」編集部

    古代からの歴史が刻まれてきた場所・三条通

      地下鉄烏丸御池駅からほど近く、町家や近代建築、現代建築が溶け合って洗練された景観を見せる三条通沿いに京都府 京都文化博物館別館が建っています。 1906(明治39)年に旧・日本銀行京都支店として竣工、昭和の時代に博物館として生まれ変わって以降も、「ぶんぱく」のシンボルと親しまれてきました。
     三条通に立つと、レンガの鮮やかな赤と御影石の白がつくるコントラストにまず目を奪われ、ドーマー窓を頂く重厚な左右対称の躯体に圧倒されます。
     今回は、同館学芸課の学芸員・村野正景さんがご案内くださいました。この界隈は縄文時代からの軌跡が残る非常に歴史ある地です。三条通は平安京から栄え、江戸時代に東海道の西の起点・終点となり、交通の要衝としても重要な役割を果たしました。
     「京都文化博物館のある場所には、室町時代に足利義満が祖母のために創建した曇華院(どんげいん)という尼寺が長らく建っていました。それが明治初期に移転し、跡地にできたのが旧・日本銀行京都支店です」と村野さん。名建築にふさわしい、由緒ある場所であることが分かります。

    銀行から博物館へ、名建築のあゆみ

      設計者は、明治建築界の帝王といわれる辰野金吾とその弟子長野宇平治。営業室をメインとする本館と離れの金庫棟で構成されていました。竣工から60年弱を経た1965(昭和40)年に京都支店は移転します。
     空き家となった建物は当時、ちょうど収蔵・展示のための研究所を探していた財団法人古代学協会がそのまま引き継ぎ、1968(昭和43)年に平安博物館としてオープンしました。翌年には国の重要文化財に指定されています。
     村野さんは「当時、京都にまだ博物館や美術館がほとんどない時代でした。歴史的、立地的に申し分なく、建築物の価値も高い、巨大な物も展示できるとあって、博物館にするにはうってつけだったのでしょう。建具を移動させたり仕切りを設けたりして博物館らしくカスタマイズしてはいましたが、建物自体には全く手を加えずに使っていました」と、平安博物館時代の様子も説明してくださいました。
     1986(昭和61)年に平安博物館は閉館し、建物は京都府に寄贈されました。修復・復元を経て、1988(昭和63)年、北隣に新設された京都府京都文化博物館の別館として再びデビューすることになりました。もちろん当時の姿はそのままです。
     「この建物は三条通のシンボルです。本館は、別館との隣接部分の高さが抑えられ、別館よりも高い部分は道路から後退させているため、“別館”といいながらもこちらが主役になるよう本館をつくっているのです。さらにいうと、この別館も一つの大きな展示物なのです」と村野さん。京都府京都文化博物館全体の玄関は三条通に面する別館の正面玄関であり、本館から別館へという動線が設けられています。

    内外装や材料など、往時の姿を細部まで味わえる

      別館正面玄関を入るとすぐ、開放感のある大きなホールが広がります。このホールはかつての営業室。長いカウンターは、かつてそこで窓口業務が行われ、奥にはたくさんのデスクが並んでいたであろう光景を想起させます。
     今では展覧会やコンサート等、貸ホールとして活躍しています。結婚式にも使われるそうです。音響効果が非常に優れていると好評で、コンサート会場には最適だというお話でした。
     ホールは、十分な採光ができるよう多数の窓が設けられ、天井にも大きな窓があります。屋根のドーマー窓から天井に光が送られてくるのです。うろこ型が印象的な屋根のスレート、赤レンガ、御影石、大理石、床などの材料は大部分が建築当時のままです。
     装飾のディテールも見どころの一つ。階段の手すりや通気のためのスリット、石の彫刻や銅板造の塔。重厚な姿に意匠の繊細さが際立っています。カウンターに並んだ小窓のしゃれた模様も、銀行ならではですね。
     2階には、かつて窓の開閉のために使われたと思われる回廊がめぐらされています。数年前に床の改造工事が行われ、回廊自体が耐震補強材としての役割も果たしているとのことです。(2階は通常非公開)

    周囲の歴史的建築物と共に形づくる景観

      向かって左側にはマンションがありますが、これも別館の存在感に影響を与えないよう、角を一部削る配慮がなされています。隣接の建物だけでなく、周囲の景観づくりに対する努力は並々ならぬものです。
     東西に伸びる三条通界隈は、京都市の「界隈景観整備地区」に指定されています。「中京郵便局や、辰野建築を再現したみずほ銀行京都支店など、多くの近代洋風建築が集中しており、歩いて建物を見るだけでも価値がありますよ」と村野さんも太鼓判を押します。
     京都府京都文化博物館を中心に、三条通から世界へ、歴史・文化・芸術を発信していってほしいですね。

    京都府京都文化博物館 別館 【所在地】 京都市中京区三条高倉
    【TEL】 075-222-0888
    【URL】 http://www.bunpaku.or.jp
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -