私の建築探訪

  • 2018年6月10日
    大阪工業大学 梅田キャンパス(OIT梅田タワー)(けんざい260号掲載)
    北側のメインエントランス
    北側のメインエントランス
    知の発信、透明性、歩行者の回遊性、コミュニケーションとにぎわいの創出、CO2の削減、防災拠点……さまざまなコンセプトを実現した、次世代の都市型タワーキャンパスが各方面の関心を集めています。今回の建築探訪は、このタワーをテーマに現地で行われた「建材情報交流会」内のプログラムの一環である「見学会」のレポートとしてお届けします。 「けんざい」編集部

    関西で最も高い都市型タワーキャンパスが誕生

     数多くの商業施設がひしめき合う梅田の茶屋町エリアの一角に、201(6 平成28)年11月、高さ125.15mの高層タワーが出現しました。学校法人常翔学園が設置する、大阪工業大学の梅田キャンパスです。同学園が2022年に創立100周年を迎えるため、「学園のシンボリック拠点」として建設されました。
     地上125.15mは、都市型のタワー型キャンパスとしては関西で最も高い建築です。鋭角なシルエットが、未来を担う“知”を世界へ発信するアンテナのように感じられます。大阪工業大学「Osaka Institute ofTechnology」の略称「OIT」を取って、「OIT梅田タワー」という名称が付けられました。
     OIT梅田タワーは、都心部によく見られる大学のサテライトキャンパスではなく、この1棟が全て大学の施設。約900人がここで学んでいます。地下鉄・JR・阪急の駅からこんなに近く、梅田の巨大な商業圏の一角にあるキャンパスに毎日通えるなんて、何て楽しいキャンパスライフなのかと、かつて大学生だった時代を振り返ってうらやむ人も多いのではないでしょうか。
     建築物として、同タワーは大きく二つの見どころがあります。一つは、同タワーが教育機関であると同時に、地域コミュニケーションの創出の場となるよう意図してつくられていること。もう一つが、省CO2技術を駆使した環境配慮型のビルであるということです。

    誰でも、いつでも入れて利用できる開放的キャンパス

     一つ目の見どころである地域コミュニケーション創出。誰にでも開かれた施設にするために、実にさまざまな工夫が練られています。  まず敷地の特性を踏まえ、周辺地域からの人の流れも考えて、設計段階から歩行者のネットワークづくりが計画されました。狭かった道路も併せて整備され、今はメインエントランス前に広い道路と広場が整備され、人の流れが生み出されていることが分かります。
     地上21階、地下2階のうち、1階から4階およびレストランのある21階は、地域開放型の「にぎわいエリア」、つまり誰もがいつでも入れるエリア。6階から20階が大学エリアとなっています。
     1階には明るく広大なエントランスホールが広がり、タッチパネル式のサイネージシステムなどによって大学からの発信が行われているほか、誰でも利用できるギャラリーが併設されています。2階にはレストランのほかセミナー室があり、一般利用が可能です。今回同時に開催した「建材情報交流会」も、このセミナー室で行われました。
     3階と4階は「常翔ホール」と呼ばれるコンベンションセンターで、576人が収容可能です。駅近高層ビルの中にこんな大きなホールがあることに驚きました。遮音層を二重に施し、遮音性能を高めているほか、壁や天井で音を拡散する部分、吸収する部分と分けて設計されているため、音響効果も非常に高くなっています。
     講演会や学会のほか、音楽イベントも行われますが、音楽イベントでは演者の方からも「音環境が非常によい」と好評価を受けているそうです。
     地下は駐輪・駐車エリアなのですが、地下街に通路で直結しているので非常に便利。1階でも、エントランスからフロアの真ん中を真っ直ぐ突っ切って向こう側の入口から出られるなど、タワーとその周囲を結ぶ動線がとてもよく考えられています。

    カーテンウォールは大学のオープンマインドの象徴

     大学エリアでは、学科や学年の垣根を超えて交流できる空間づくりが重視されています。6階にある2層吹き抜け大空間の「ラーニングコモンズ」は、図書館も兼ねた、学生の自発的な学びの場です。学生のための、いわば“知のにぎわい空間”です。
     8・9階にある「ロボティクス&デザインセンター」と「イノベーションラボ」は、「イノベーションを創出できる人材」の育成拠点。発案、検討、実験などの流れをワンストップで行える設備と空間があります。産業界や海外の大学などとの連携で、新しい教育研究活動を展開することが可能です。
     17階には空間デザイン学科の学生活動の拠点となる「デザインスタジオ」があり、デザイン用のデスクがずらりと並んでいるのですが……空間奥の壁に注目です。同タワーでは制震構造がとられており、たくさんの制震装置が設置されているのですが、学生の活動する空間に、あえて見えるように装置が表しになっています。学生の関心を喚起し、見て学んでもらえるようにとの配慮からだそうです。
     よく見ると、ここだけでなく、他の教室や廊下にも多数の制震装置を確認することができました。建物に伝わる地震エネルギーを吸収し上層階の揺れを制御します。災害レベルに応じた最新の耐震構造を備え、地域の防災拠点としての役割も担っています。
     実験室やスタジオはフレキシブルな無柱大空間になっています。それらの各フロアは、12階から20階までを縦に長く貫く「コミュニケーションボイド」という吹き抜け空間でつながれています。コミュニケーションボイドは北側の窓(カーテンウォール)に面しているので、カーテンウォールの構造もよく分かります。
     OIT梅田タワーの外観を最も特徴付けているのが北面高層部に設けられた1枚の巨大なカーテンウォール。幅42m、高さ87m、面積は3,654㎡です。この大きなカーテンウォールは、吊構造といって、最上部の軸組から吊るされた状態になっています。この構造によって鉛直部材を極限まで少なく細くし、壁面の透明性を確保しました。カーテンウォールの透明性は、まさにオープンマインドの象徴です。
     カーテンウォールの吊部材は、厚さ80mmで限りなく細く見せているそうです。また、この仕上げには大臣認定取得の耐火塗料が使われているとのこと。22階にあるヘリコプターの緊急退避用スペースからは、カーテンウォールが吊り下げられている様子が分かりました。これが8階まで吊られていると考えると、ものすごい迫力を感じます。

    省エネのための技術が結集した「エコキャンパス」

     もう一つの見どころ、省CO2技術は、見ただけではなかなか分からない部分ですが、今回の見学会によって隅から隅まで知ることができました。
     同タワーは、国土交通省の「住宅・建築物省CO2先導事業」に採択されている「エコキャンパス」。タワー型キャンパスの特性を活かした省CO2施策が採用されています。
     エネルギー利用は、パッシブデザインが基本。だから換気システムも、できるだけ外気を取り込んで自然換気を行っています。建物南側の外気取入口から外気が流入し、室内を自然の通風で換気した後、北面の吹き抜け(コミュニケーションボイド)を通って21階の換気窓から排出されます。  12階の吹き抜け階段の下に大きな排気ガラリが。これは、8~11 階の吹き抜け空間の空気をコミュニケーションボイド内へ導く換気口なのだそうです。
     外装は、南側でダブルスキン、北側で超高断熱ガラスを採用した「エコロジカルスキン」。ダブルスキンとは、建物外壁をガラスで覆う建築手法で、2重窓間の空気を季節に応じてコントロールすることで省エネ効果が期待できるシステムのことです。同タワーのダブルスキンは、太陽光パネルと庇が一体になった多機能ダブルスキン。グラデーションブラインドと自然換気ターミナルユニットも備え、高層ビルならではの自然エネルギー利用が可能です。
     照明は、自然採光とアンビエント照明(天井や壁、床など周辺を照らす照明)のバランスをとり、「人が感じる明るさ」を適切に制御しています。暗くなる時間帯では、人がいるところだけをセンサーで明るく照らしてくれます。タスクライト(作業のための照明)と組み合わせて、全般照明方式よりも省エネルギーにすることが期待できます。  吹き抜け空間のコミュニケーションボイドと、ボイドに隣接した大空間は、「ゼロ・エネルギー・スペース」(ZES)と名付けた、地球環境に優しい特別なエリアです。太陽光発電パネルの年間発電量とZES 内の空調・照明消費電力量を年間収支でゼロにすることを目指しています。
     この他にも多数の施策が取り入れられおり、それぞれの取り組みについて説明した「エコサイン」が、ビル内の各所に掲示されています。また、1階エントランスホールの一角にあるビジョンには、タワーの省CO2の取り組みが「見える化」されており、エネルギー状況をリアルタイムで知ることができるなど、細部にまで配慮がなされているのが印象的でした。

    大阪工業大学梅田キャンパス(学校法人常翔学園) 【所在地】 大阪市北区茶屋町1-45
    【TEL】 06-6147-6907
    【URL】 http://www.oit.ac.jp/rd/umeda/
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -