私の建築探訪

  • 2017年12月10日
    京都国際マンガミュージアム(けんざい258号掲載)
    風景
    風景
    京都国際マンガミュージアムは、2006(平成18)年に開設。総合的にマンガを扱う施設としては日本で初となりました。江戸中期から現代までのマンガ資料約30万点の蔵書を誇り、約5万点が「マンガの壁」と呼ばれる開架で公開されています。昭和初期建築の元龍池小学校をリノベーションした、レトロな味わいのある建物が見どころ。小学校を活かしながら、マンガに楽しく触れられる工夫が随所に凝らされています。 「けんざい」編集部

    図書館的機能と博物館的機能を併せ持つマンガの殿堂

      四方の壁を埋め尽くす、マンガ、マンガ、マンガ……こんな空間で、心ゆくまでマンガに埋もれて時間を過ごせたらどんなに素晴らしいだろうと、誰もが一度は夢見たことがあるのではないでしょうか。そんな夢のような場所が、京都にありました。
     京都市営地下鉄・「烏丸御池」を降りるとすぐ、昭和初期のレトロな雰囲気漂う建物に出会います。青く広がる芝生では、来館者が思い思いにくつろぎながらマンガを読んでいます。
     「まちの真ん中にマンガ文化を発信する施設をつくろう」――200(6 平成18)年11月に開館した京都国際マンガミュージアムは、京都市と京都精華大学の共同事業で、マンガ資料の収集・保管・公開、マンガ文化に関する調査研究、展示・イベントなどを行うことを目的とした施設です。広報担当の中村浩子さんがご案内くださいました。
     「もともと京都精華大学では、約40年前からマンガ文化に関する教育・研究を取り入れており、当館オープンと同じ年にマンガ学部の開設を実現しています。当館は、『読む』だけでなく、『見る』『知る』『つくる』ことでも楽しめる、いわば図書館的機能と博物館的機能を兼ね備えた、日本で初めてのマンガミュージアム。江戸中期の戯画浮世絵から明治・大正・昭和初期の雑誌、戦後の貸本から現在の人気作品、海外作品まで、約30万点の蔵書を保管・公開しています」と中村さん。

    昭和初期の小学校建築をリノベーション

     同館にはさらに特筆すべき見どころがあります。建物が、昭和初期に建てられた龍池(たついけ)小学校をリノベーションしたものなのです。192(9 昭和4)年建設の本館、193(7 昭和12)年建設の北館、192(8 昭和3)年建設の講堂・体育館という3つの校舎を、ほぼ原型を残した形で再利用し、その3校舎をつなぐ役割を果たす部分を新たに増築しました。
     アール・デコ風にも見える装飾が重厚な印象を醸し出しています。明治から昭和初期に建てられた京都の小学校には装飾が施されたデザインが多く、龍池小も当時の最先端建築である鉄筋コンクリート造のデザイン様式で建てられたと思われます。講堂、本館の建築はかなり多くの装飾が施され、その約10年後に建てられた北館は、装飾を抑えて縦のラインが強調されたモダンなデザインです。これら3校舎は、旧正門および塀と併せて重要文化財にも登録されています。
     1995(平成7)年の小学校統廃合により役目を終えた龍池小学校は、取り壊されずに地域のシンボルとして住民に大切に守られ、コミュニティスペースとして生きてきました。そして現在はマンガミュージアムとしてその役割を引き継いだのです。

    建物も材料も、小学校をほとんどそのまま再利用

     マンガがびっしりと並ぶ書架「マンガの壁」は、「小学校をそのままマンガの殿堂に」というデザインコンセプトを体現するかのような圧巻の光景です。古く懐かしい小学校の空間が、丸ごとマンガで占拠されているところが大きな魅力。
     校舎同士をつなぐ増築部分は吹き抜けとし、建物の中心となる空間をガラスのカーテンウォールで挿入。外壁がインテリアとなるような外観が特徴的です。
     かつて職員室だった「こども図書館」は、野山の風景を建築化し、周囲に段状の床、中央に池のくぼみ、雨露の形をした照明を設置して、子どもたちが気分を開放して楽しめるよう工夫されています。本館の1階には校長室が往時のままに残され、壁には小学校時代から時を刻んできた「大時計」も保存されています。
     「建築材料は、龍池小に使われていた材料が、極力そのまま使われています。あえて古いものを残しているのです。例えば館内の窓枠は、空調効率を考慮すると取り替えたほうがいいのかもしれませんが、昔の味わいを大事にするためにそのまま使っています。床材もそうです。傷もあれば隙間もあり、歩けばギシギシ音がなります。これは懐かしい小学校の雰囲気を一番出している材料でしょうね。こうした部分は、地域の方々の意向でもあるんです」と中村さんは言います。
     階段の手すりなどに使われているのは、テラゾーと呼ばれる石をモルタルで塗り込め、研ぎ出した材料です。今はこれをつくことのできる職人がいなくなってしまいました。当時は大理石の代用としてつくられたものですが、今は他に替えのない貴重な材料です。
     その他、新しい材料にした所はそれらを強く主張させず、ほとんどつやけし塗装や吹付けで色を合わせたのみです。また、講堂や階段にあった装飾は、多くが剥がれ落ちていたのですが、生き残っていた装飾を見本に、新たに人造木などを削り出してレプリカをつくり、設置しました。

    工房やワークショップなど楽しめる企画も多数

      音楽室や各教室が、ギャラリーや企画展示室となって生き返っています。プロとして活躍する京都精華大学卒業生がマンガ制作を実演する「マンガ工房」、似顔絵を描いてもらえる「ニガオエコーナー」ほか、事前予約で参加できるさまざまなワークショップなどアクティブ型の催しも随時開催されています。来館者の17%が外国人というだけあって、外国人の姿が非常に多く見られました。
     マンガファンや地域住民、外国人……マンガを媒介に集う人々に支えられ、今後ますます日本のマンガ文化を世界に発信していってほしいものです。
    (取材協力:類設計室)

    京都国際マンガミュージアム 【所在地】 京都市中京区烏丸通御池上ル(元龍池小学校)
    【TEL】 075-254-7414
    【URL】 https://kyotomm.jp
TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -