講演会 講演録

  • 2021年8月27日
    粤港澳(えつこうおう)大湾区(だいわんく)(広東・香港・マカオ グレーターベイエリア)」を知る!
    (KENTEN2021特別講演)
    香港貿易発展局
    大阪事務所長 リッキー・フォン氏
    (KENTEN2021特別講演)

    成長を続ける香港のGDP、日本との交易状況

     大湾区(GBA)とは、香港・マカオ・広東9都市で構成される一大経済圏のことです。ここに香港がどう関わっていくかというのが本講演のポイントです。
     われわれ香港貿易発展局は、日本と香港の相互の貿易促進を支援しています。最近は、日本の優れた製品を香港へ、もしくは香港を経由して第三国へ再輸出してもらうよう動くことが、仕事の大半を占めています。
     香港の一人当たりGDPはすでに日本を超えています。人口の100人に一人が富裕層(純資産5億5,000万円以上)であり、超富裕層(純資産33億円以上)の数はニューヨークに次いで世界2位です。つまり香港には、富裕層・超富裕層のマーケットが豊富にあるわけです。
     多数の日本企業が香港に進出しており、その数約1400社。昨年来、コロナ禍などさまざまな社会不安がある中、ほとんど撤退していません。日本から農林水産物の輸出が増え続けていることにも注目ください。日本からの農林水産物の輸出額は、16年連続で香港が1位です(22%)。従って香港は、日本にとって非常に大事な農林水産物の輸出先といえます。

    住居不足に対応するためのプロジェクトが進行

     香港の人口は約750万人です。香港政府は、2043年までに822万人に増えると試算しています。そうなると当然、住居の提供が必要になってきます。啓徳空港跡地でもすでに住宅地開発は行われていますが、それだけでは足りないので、香港では現在、大規模なプロジェクトが計画されています。
     一つが、ランタオ島東部で2025年に始まるEast LantauMetropolis(ELM)というプロジェクトです。約1,700ha(東京ドーム364個)の土地に、斜面建設の技術を駆使して約40万戸の住居を建設します。
     もう一つが新界(New Territories)という地域で進められている New Territories North Development(NTN)です。25万人の入居と21万人の雇用を見込んでいるほか、ここでは特にR&D(研究開発)分野での発展が計画されています。
     香港ではこのような大きなプロジェクトが、官民の協働で推進されています。おそらく不動産関係や建築関係は、当分安泰だと思われるため、投資家の方々はどんどん香港で投資し始めている状況です。

    香港は悲観すべき状況? 両国で見方にギャップ

     皆さんが懸念されている香港の現状についてお話します。確かにコロナ禍で香港経済は大きな打撃を受けましたが、決して日本で想像されているほど悲観的ではないと、まず申し上げておきます。実質経済成長率、小売売上高、労働市場など、徐々に持ち直しつつあり、渡航制限も少しずつですが改善しています。 日本のメディアは、どうしても負の側面を多く報道しがちです。在香港の日系企業に対して実施したアンケートでは、香港国家安全維持法下の状況に懸念は示しつつも、約7割が「影響は生じていない」と回答しています(図1)。にもかかわらず、日本の本社は香港の実情を悲観的に認識しています。最も多い理由が「日本国内での報道が悲観的過ぎるから」で、7割を占めました。同じ企業でも、香港駐在員と日本本社側では、反対の見方をしているわけです。
     実際に、日系の飲食店や小売店は次々と香港で店舗をオープンしていますし、建築デザイン業界も昨年より好調です。悲観的ではありませんよと改めて申し上げたいと思います。

    建築市場が期待できるこれからの大湾区(GBA)

     香港、マカオおよび広東省内にある珠江デルタ9都市からなる一大経済圏・GBAの人口は8,600万人、GDPは韓国に匹敵する約1.8兆ドルです(図2、3)。9都市を擁する珠江デルタでは、例えば深圳ならハイテク産業と、それぞれの強みを生かした役割を担います。
     GBA内でも西側地域へのアクセスが不便だったため、「1時間生活圏構想」のもと、2018年に広州-深圳-香港高速鉄道や、香港珠海澳門(マカオ)大橋を開通させ、移動時間を大幅に短縮しました。新たな道路も建設中で、交通インフラによる一体化が図られています。
     GBAには続々と香港企業が進出していますが、今注目したいのは老人ホームです。小さな設計事務所でも香港からGBAに進出してオフィスを構え、GBAのプロジェクトを手がけている建築家やデザイナーがいます。さらに、GBAにはこれから18の主要駅が建設されます。駅ができると周辺の整備が必要になるため、すでに18駅周辺の土地の争奪戦が始まっています。
     2025年の大阪万博以降、皆さまはどこに行かれますか?
     私は、将来のマーケットはGBAにあると考えております。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -