2007けんざい
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建材情報交流会ニュース

 第42回
「スマートウェルネスについて」

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
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「スマートウェルネスの狙い」
 近畿大学 建築学部長 教授 岩前 篤 氏

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■スマートウェルネス住宅事業の始動

 今回国交省が展開を始めた「スマートウェルネス住宅事業」。スマートウェルネス住宅とは、高齢者、障害者、子育て世帯等が交流し、安心・健康に暮らすことができる住宅のことです。これに本年度340億円の予算が付いていることは注目に値します。スマートウェルネス住宅は、住まいと省エネを目的とした「スマート」に加えて、安全と安心と健康を担うものだ、と定義してもいいでしょう。

 補助対象となる事業として、まずサービス付き高齢者向け住宅の整備事業(以下、サ高住)。これはサ高住および高齢者支援施設の建設ならびに買い取り費です。買い取りとは、現状使われているものを買い取って支援施設にすること。そして共同住宅の共用部分、加齢対応構造等及び高齢者生活支援施設の改良による整備費によって高齢化対応を進めるということです。

 次にスマートウェルネス拠点整備事業では、住宅団地等における高齢者生活支援施設・障害者福祉施設・子育て支援施設の建設・買い取り・改良費に対する補助。

 三つめのスマートウェルネス住宅等推進モデル事業。これは高齢者、障害者、子育て世帯の居住の安定確保及び健康の維持・増進に資する先導的な事業に補助金が出るというものです。

 要約すると、まず1つ目に高齢化社会への対応、サ高住の拡充など、2つ目に子育ての支援で地域拠点の整備。これが少子化対応ですね。そして3つ目の健康維持増進住宅の推進ですが、実はこれ、断熱リフォームの普及あるいは健康エビデンスの充実というアクションがとられることになっています。この3つでこれからスマートウェルネスが進んでいきます。

 今、私が直接関わっているのが3つ目です。この事業では公募もかかっています。各都道府県の地域協議会で選ばれ、これらを中心としたアクションがとられていきます。スマートウェルネスにおける健康実証調査モデル特定事業として、具体的には断熱リフォームをします。そのビルダーを中心に断熱リフォームを実施してこれに最大100万円の補助が出ます。断熱リフォーム前後の環境、屋内環境の調査と居住者の健康モニタリングも、医療と建築の専門家で行います。本年度は800件あり、来年度、再来年度とどんどん増え、1万件か10万件か、それくらいのトライアルをする壮大なプロジェクトの第一ステップとなります。(図1)

 「健康」は通常、厚生労働省の範疇であって、国土交通省というのは建物だけつくって省エネで頑張ればよい、というような状況だったわけですが、そこへ明確に健康の維持増進というキーワードが入り込んできました。特に今回は医療の専門家と厚生労働省ともタッグを組み、エビデンス収集を行います。(図2)

■“これからの住宅=スマートハウス”ではない

 省エネ住宅の三つの基本方策は「躯体の断熱強化」「設備機器の高効率化」「再生可能エネルギーの導入」です。高断熱化というパッシブ技術と、機械化というアクティブ技術がせめぎ合う状況です。機械化は目に見えるので分かりやすい技術ですが、高断熱化はユーザーにとっては見えにくくなってしまいます。さらには日本独自の「みんなでがまんして急をしのぎましょう」という考え方がまだあります。(図3)

 住宅はパッシブハウスからスマートハウスに変わりつつあるというイメージがありますが、それは間違いです。スマートハウスは建築以外のさまざまな業界が新しい市場のネタとしてつくり、それに新しい物好きのハウスメーカーが飛びついた結果として大きく関心を集めました。しかし決してすべての住宅がそうなるわけではないということを強く申し上げたいのです。

 そもそもパッシブとアクティブは対立概念ではなく二つの軸です。高断熱住宅をベースにしたスマートハウス、というイメージだけが語られますが、実際には断熱性能を高めるなかで、少しだけ機械を使うパッシブな住宅もあります。スマートとパッシブ、二つのビジョンで無限の組み合わせが広がります。ところがスマートハウスだけがこれからの住宅ですよ、というイメージが先行したせいで、住宅が誤った方向に向かっている気がします。住宅は人が住む場所であって機械の置き場じゃないんです。(図4)

 日本の場合、そもそも断熱はいらない、日本の住宅に向かない、という考えが根強いです。「夏をもって旨とすべし(住まいは夏の暑さ対策を基本につくれ)」という表現が今でも語り継がれています。死亡率の変遷という現実をみると、社会は大きく変わっていることが分かります。昔の日本は夏に最も死亡者が多かったのが、最近になるにつれ冬の死亡者が最も多くなってきています。欧米諸国でもほぼ同じような形で推移します。アジア、アフリカでは今でも夏の死亡者が多い。夏に多いのが古いパターン、冬に多いのが最近のパターン、この二つに大別されます。冬に多いパターンは経済発展国です。カナダ、スペイン、日本は「冬型」ですね。つまり冬にリスクが高まるのです。

 明らかな季節間変動が出る疾患がありますが、このような冬型のカーブを描きます。冬のヒートショックのイメージは、心筋梗塞、脳梗塞などの循環器系の疾患です。(図5)

 不慮の事故による死亡者でもっとも多いのは家庭内の事故です。これが増加する一方で、交通事故による死亡者は減少しています。しかし外より家の中のほうが危ないという認識を私たちは全く持っていません。家の中は外の3倍のリスクがあるということをしっかり認識すべきです。家庭内の不慮の事故には明らかに冬のリスクが現れています。昔と今で状況が変わったのです。冬のリスクに対する備えをなぜしないのか、今問われ始めています。

 わが国では、医療費は増加の一途をたどり、年間1兆円上がっているという大変な状況です。行政でも、従来の治療をベースにした医療体制から予防をベースにした医療体制に変えていく必要があるとしています。現在、日本のお金の使い方は、治療98%、予防2%です。せめて半々くらいまではもっていく必要があるでしょう。「食べ物、運動、生きがい」は長寿3要素といわれますが、もう一つ環境、具体的には住宅という要素が忘れ去られています。スマートウェルネスはまさにこの部分が大きな狙いかと思います。

■省エネ&健康のためには断熱性能の向上が必要

 私たちが以前から手がけていた調査の概要です。2002(平成14)年から2008(平成20)年の期間で高断熱の新築戸建て住宅に引っ越した方々を対象とした調査で、最終的には2万4千人になりました。転居後の新築の断熱性能を等級3(G3)〜5(G5)に分けています。いずれも症状に大きな改善効果がみられました。断熱性がかくも住まい手の健康改善に大きな影響を及ぼすのだということがデータからみてとれます。(図6)(図7)(図8)

 お風呂のヒートショックも確かに健康面で悪影響ですが、夜中に起きてトイレに行くという単純な行為も実は大変危険なのです。寝具内の温度と、寝室やトイレの温度差は20℃近くになるからです。トイレの場合寒くてもがまんするわけにいきません。そこに大きなリスクがあります。このようなことも含めてこれから健康改善を考えれば、冬のリスクが大きく低減できるはずです。合理的に温度を上げるには断熱性の強化しかない。省エネ、ゼロエネのため、かつ健康改善のために断熱性能を上げるのは非常に重要だと思います。

 G3からG4で改善率は増加しており、G4からG5ではもっと大きな効果が現れます。G5は次世代省エネルギー基準ですが、健康を考えるとその程度で満足してはいけません。より断熱性能をあげるべきです。(図9)

 海外ではリサーチがかなり進んでいます。例えばイギリスの住宅の健康安全性評価システムは世界の先進的な事例として非常に価値あるものです。年間50万件のデータを直接分析し、居住者の健康・安全の観点からリスクが高いと判断された建物に改善命令が出るという興味深いシステムです。ニュージーランドやアメリカでも興味深い調査事例やレポートがあります。

■断熱改修によって住まいのストレスを改善

 WHO でも2009(平成21)年に大きなレポートが出され、「低温は人体の健康に障害をもたらす」と明記されています。日本の医療業界でもそう扱われていますが、住宅と温度の関係は医者の領分でないため、言及されていないのです。健康というキーワードを新たにとらえ直すべきでしょう。スマートハウスとパッシブハウスは二つの軸であると言いましたが、これはエネルギーの話で、安全性、健康性の観点を加えると大きく変わってきます。健康安全リスクの低減はパッシブ性能に期待され、徐々にシフトする傾向にあります。

 新築で断熱化するのは容易ですが、既存住宅をいかにして断熱改修するのか。家全体を新築同様に断熱改修するのはビジネスとして成り立ちにくく、そもそもニーズも少ないと思われます。そこで、例えばリビングや寝室、部屋と部屋をつないだゾーンとして断熱改修すればいいと考え、ある80代後半の女性の家で、1階のLDK、廊下、風呂、トイレを一つのゾーンとして断熱改修しました。

 改修前、何も不便はないし特にがまんもしていないとおっしゃいました。改修前後で運動量などのデータを取って分かったことは、前は比較的不規則な生活だったのが、改修後は非常に安定した生活になったことです。そして夜のトイレの回数が増えました。以前は寒いからできるだけがまんしていたのですが、以後は目が覚めるとためらわずにトイレに向かえるようになったというわけです。印象的だったのは、その女性が断熱改修後に、自分はやっぱりいろいろがまんしたり、やりにくさを感じたりしていたようだ、とおっしゃったことです。

 日本のお年寄りは非常にがまん強い生活を送ってきたため、慣れてがまんしているという認識がないのです。それが断熱改修でストレスの少ない生活になったら、以前がしんどかったと分かったわけです。このトライアルではいろいろなことを学び、たくさんのヒントを手に入れました。断熱改修はスマートウェルネスの一つの方策ですが、これによって高齢者の暮らしが実際におっくうでなくなります。自由度が増すのは素晴らしいことだと思います。

■低温は万病のもと?健康と安全のための高断熱住宅

 スマートウェルネスという大きなテーマのなかにおいて、健康な生活をもたらす家ができるということをしっかりと考えていく必要があります。反対に、不健康な生活になる家もあるわけです。見かけの性能にとらわれた家はもしかしたら不健康をもたらすかもしれません。今、「低温が万病のもと」であることをさまざまなデータが物語っています。「寒さが万病のもと」は違うと思うのです。「寒さ」は認識しても、「低温」は認識していない場合があります。どうやら温度が低いというだけで病気に至る可能性が高くなるようです。

 だから「夏をもって旨とすべし」といつまでも言っている場合ではありません。言いたければ勝手に言えばいいわけですが、先ほどのようなデータを見た上でなお「夏を〜」なんて言う人はただの馬鹿です。そのリスクの大きさをよく考えたうえで判断するべきだと思います。

 健康と安全のための高断熱住宅は、決して見えない価値ではありません。ここでこうして聴いていただくだけで皆さんにとって大きな価値があるということがお分かりいただけると思います。「これからの住まいはパッシブ化だ、スマート化だ」といった言葉にあまり惑わされないようにしたいものです。もちろん利用するのはいいと思いますけどね。どんどん利用すればいいのですが、決してだまされては駄目です。無駄を省いてがまんはしない。おっくうでない生活を誰もが送れること。これはスマートウェルネスのもっとも大きな目標なので、それを実現化する調査がすでに今回始まりつつあるわけです。従来の延長かもしれませんがいろんな考え方を変えていって、それに合わせたビジネスの展開を考えていく時代がやってきたのではないかと思います。

 


「モルタル外壁での正しい通気構法」 且R中製作所 代表取締役 山中 豊茂 氏

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■一般的なモルタル外壁は直張り構法

 当社は「ラス」という、モルタル下地の金網を造っている会社です。モルタルRCであまり使わないので、基本は木造住宅の外壁が今回の内容です。モルタルは弱いというイメージを持たれています。阪神・淡路大震災の被害からも、地震ですぐに割れるんじゃないかと。しかし今はデザイン性の高いものを中心にけっこう使用されるようになってきています。

 従来の一般的なモルタル外壁は、図1の右側にあるような直張り構法が基本です。新築住宅で、防水紙の上に金網みたいなものが張られているのを見ますね。これが直張り構法と呼ばれるものです。建物の防水性には防水紙しかありません。雨が入ると下地を腐らせてしまいます。また、最近の次世代省エネ住宅になると屋根や壁内の結露問題が出てきます。その場合にこんな仕様にすると、湿気の抜けるところがないのです。

 雨水が壁内に浸入した場合、下地が腐ってボロボロになります。鉄骨では、壁内結露で断熱材から下地の鉄骨まで全部腐ってしまいます。木造と鉄骨を複合した下地では、鉄骨部分が結露をおこしてボロボロになります。また、ラスを留めるステープルを、モルタルを塗って見えないからと言って規定以外のものを使用した壁は、地震の時に壁が落ちたという事例もあります。

 直張り構法では雨水が浸入して抜けず、結露の発生や躯体の腐食の原因となり危険です。そのために最近では通気構法が使われるようになりました。

■ラスの種類とラスモルタル外壁の変遷

 ラスには図2のような種類があります。平ラス、コブラス、波形ラスは一般的に木造に使われます。リブラス、リブラスC、ラスシートは一般的に鉄骨の中で使われます。右下が通気構法用ラスです。通気工法用のラスはステープルというホッチキスの親玉みたいなもので止めます。ステープルにはいろいろな種類がありますが、上から見ただけではステープルの線径、長さは分かりにくいものです。釘のように頭の色で分けられているわけでもない。地震で落ちるようなものは、細すぎたり脚が短かすぎたりなど、適切なステープルが使われていないのです。

 モルタル外壁は明治時代に登場します。日本は木造住宅なので戦争で火をつけられると全部燃えてしまうということで、防耐火上、モルタル外壁が使われるようになりました。以降は、地震やオイルショックなどで素材が足りなくなって品質が悪い時代もありました。当初はメッキされてない線材、つまり鉄の素地だったのですが、1963(昭和38)年頃から溶融亜鉛メッキが登場、最近では100%近い割合で溶融亜鉛メッキの製品が使われています。次世代省エネ基準がうたわれた頃からようやく通気構法が採用され始めました。

 2009(平成21)年に国総研(国土交通省 国土技術政策総合研究所)との共同研究で全国アンケート調査を実施しました。直張り構法は71.5%、通気構法が15.9%でした。本来平ラスは使うべきではないのですが、まだ35.9%くらい使われていました。なぜ規定外のものが使われているのか。誰がそんな仕様を決めているのかというと、工務店は「左官屋さんに全部任せている」と。左官業者は「予算がないからこれでやってと言われた」といった具合で、責任のなすりつけ合いになっています。それでは困るので、左官業者も工務店も意識的に設計事務所がチェックや指導を行い、適正価格で契約するようにと、研究会などで周知しているところです。

■モルタル外壁の性能

 省エネ基準によって住宅の構造は違います。省エネ基準前は断熱材が入っていません。旧省エネ基準(1980年)で初めて断熱材が出て、新省エネ基準(1992年)になると、通気構法が推奨程度で出てきます。1999(平成11)年の次世代省エネ基準で通気構法が義務付けられ、2009(平成21)年度に省エネ基準が変わり、湿気が抜ける構造であればいいということになっています。

 通気構法は「外壁に通気層があって湿気が通り抜ける」「壁が呼吸する」などと思われていますが、それは大きな間違いです。高気密・高断熱にすると必ず結露が起こりやすくなります。断熱材の中に湿気が入ると困るんです。しかしどうしても入ってしまうので、それを抜くのが通気構法の役割です。2009(平成21)年度省エネの改善では仕様規定から性能規定になりました。断熱材の外側と室内側の透湿抵抗を抵抗比によって決めようということになりました。(図3) W・X地域なら2倍、V地域で3倍、I・U地域なら5倍、大阪は一般地域なので、だいたい2倍の透湿抵抗を用います。単純にいうなら、外に合板を1枚貼ると、室内側、石膏ボードを貼っている側に同じ構造の合板を2枚貼る。それぐらいの透湿抵抗を用いなさいということです。北海道はX地域なので外に貼る合板が1枚なら室内側に5枚貼りなさいというわけです。そうすると、仮に断熱材に湿気が入っても外へ出て行きやすくなります。

 枠組み壁工法の場合、床勝ちで断熱層に外気が入りにくい構造ですが、在来軸組の場合通し柱の壁勝ち構造となるため床下からの外気が入りやすい状態になります。そこで気流止めが必要になってきます。通気構法なら、モルタルの場合、胴縁の上にラス下地か構造用合板を貼る方法が一般的。これはサイディングと同じように胴縁をはって下地材を打ち、モルタルを塗るというものです。もう一つは胴縁の上に直接ラスを貼って塗る方法。「単層下地通気構法」と「二層下地通気構法」で分けられています。

■単層下地通気構法のポイント

 単層下地通気構法の事例です。サイディングと同じと思われがちですが、モルタルは現場で塗ります。ラス自体はペラペラの状態なので、きちんと下地を貼る必要があります。サイディングの場合は出隅(ですみ)・入隅(いりすみ)の間が空いていますが、ラスの場合胴縁を配置して角をつくります。窓まわりや下屋根部分にもきちんと胴縁を配置するのがポイントです。きちんと配置しないと、モルタルの塗り厚はばらつきがあるため、ステープルの打ち間違いなどで地震のときに剥落することもあります。

 胴縁の配置のピッチは、実験の結果、455mm、もしくは227.5mmがよいとのことです。ピッチを飛ばしすぎると、塗り厚の不均等が生じて割れの原因になります(図4)。当然のことですが、空気の抜けるところと入るところを作っておくのも大事なポイントです。ラスのはり方、ステープルの止め方も、適切な処置を怠ると割れの原因になるので注意が必要です。

 細かい部分に関しては、国総研のホームページでダウンロードできます。

■シートを使った割れにくい通気構法

 最近はシートによる通気構法(APM構法)があります。5mmの薄ものですが、温熱環境対策等級4、劣化対策等級3をとっています。胴縁通気より1.25倍の放湿効果があります。モルタルの直張りモルタルのデザイン性を活かした曲面など、直貼り工法と同程度の施工で通気構法が可能となりました。ラスは、従来の波形ラスではなくこのシート用に開発した「メタルリブ」です。下塗りで割らせて、上塗りで補修するというのが従来のモルタル塗りの考え方でしたが、これでは表面が割れたときに水が入ってしまう。極力割れないような施工にすべきだということで今回、下塗りでも割れないよう、波形ではないフラットな部分の多いラスをつくりました。

 建築基準法は構造強度や防火に重きを置いた法律で、通気構法の規定はありません。住宅瑕疵履行法は、防水紙やラスの規定などはうたっていますが、「できれば通気構法推奨でやってください」という程度です。基本的には住宅の性能評価のほうで通気構法を推奨しています。(図5)

 本来は建築基準法の防火をクリアした上で、品確法の防水をクリアし、その上で断熱性能上どうか、というハードルがあります。木造住宅の場合、防耐火の大臣認定は材料だけの認定ではなく、構造認定で取られているのが一般的です。住宅の構造、断熱材の種類と厚み、下地材、裏打ち材、ラス、モルタルの種類と厚みなどがセット構造として考えられています。申請された内容と違うものを使用すれば全部アウトです。断熱材の種類が変わっただけで基準法違反になるということです。よく間違えるので確認をして行ったほうがいいです。(図6)

■耐震やメンテナンスフリーにも貢献

 最近ラスモルタルのいろんな実験をしています。ものつくり大学でモルタルの耐久性の試験をしました。5Pの試験体をつくり、開口の大きさをいろいろと変え実験しました。ラスの縦ばりや横ばりも。モルタルって本当に落ちるのか、本当に危険なのか。最終的に壁倍率として評価した場合、ほぼラス下地板くらいの壁倍率0.5の強度がありました。地震に対してほぼ6割〜8割をまずモルタルのほうで受ける。モルタルが割れてから初めて構造が効いてくる形なのです。

 地震被害の調査に回ると、シロアリに食われて下地の柱がないのに倒れていない住宅があります。見ると壁があるんですね。全体にモルタルが塗られた壁でした。柱がなくても壁だけでもっていたわけです。腕や足の骨が折れたときにつけるギプス、モルタルはこのギプスのようなものだと考えることができます。適正な施工で、適正な塗り厚であればモルタルは非常に耐震に寄与します。長期優良住宅などは、ラスモルタルをきちんと施工するだけで耐久性が上がりメンテナンスフリーになります。

 モルタルは明治時代からあります。地震などで被害を受けているのは古いものが大半で、最近のものは残っている場合が多いです。適正に施工すれば、表面を塗り替えるだけで長期的なメンテナンスが楽になります。サイディングの場合は、耐久性上10年毎のコーキング、30年毎の張り替えメンテナンスが必要です。10年ごとにコーキングしなさい、30年目に張り替えなさいとありますが、壁を全部張り替えるのは大変です。モルタルの場合、初期の段階で断熱、気密、通気を考えて施工すれば、長期にわたって耐久性が保たれます。

 


「省エネ・健康換気システム」 潟}ーベックス 代表取締役 本田 善次郎 氏

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■ここ10年間で変化した空気汚染物質

 住宅で換気システムが義務化されたのは、2003(平成15)年の必正建築基準法が最初です。住宅内すべてを2時間で外気と入れ替えるというのが換気の条件でした。この背景にはシックハウス症候群がありました。原因は、合板の接着剤として使われていたホルムアルデヒドが原因だったということで、住宅内からホルムアルデヒドの量を下げるために、換気によって住宅内の空気を2時間ですべて入れ替えよ、となったわけです。

 しかしそれから10年が経ち、当時の健康障害をおよぼす有機化合物、いわゆる環境汚染物質と最近の室内での健康に障害をおよぼす空気汚染物質または大気汚染物質は全部変化しているはずです。にもかかわらず管理そのものはどんな方法でもいい、とにかく2時間で換気をすればいいという条件なのです。それはおかしいのではないかと私は考えます。

 例えば住宅性能表示制度。10項目に大別されています。構造躯体四つのうち「耐震性」「火災の安全」「劣化の軽減」「維持管理」は、木造住宅の場合は耐火がないので1〜3等級です。今の住宅は1等級が多いと思います。長期優良住宅になると3等級なのですが、構造躯体の場合はほとんどが最低基準の1。温熱環境は1〜4等級あり、4等級は次世代省エネ基準です。最近の家の半数ぐらいは次世代省エネ基準です。今は次世代省エネ基準よりレベルの高いものがありますが、等級としては4が最高等級です。2020年には義務化ですから、今の最高等級4のグレードは最低基準になります。(図1)

 空気環境は3等級まで。3等級はF☆☆☆☆(フォースター)の建材を使い、1時間0.5回換気すればとれます。しかし実際には空気汚染は以前と変わっていますから、室内空気環境でも4〜5等級相当があってもいいのではと考えています。このように、換気から考えた温熱環境について、そして空気環境の4等級、5等級について今回はお話しします。

■問題はシックハウスからカビやダニ、PM2.5へ

 人間には体重1kgあたりの1日の呼吸量があります。大人は体重1kgにつき0.3m3の空気を体内に取り入れ、子どもは倍の0.6m3。つまり体重50kgの人は20kgの空気を体内に取り入れている。大人が1日に食べたり飲んだりする量は3kg〜5kgですから、その4〜5倍の空気を体内に取り入れていることになります。

 われわれは健康食品やペットボトルの水などにはお金をかけます。最近は水道水でも十分飲めるんですが。しかし空気対策にお金をかけるという認識はまったくありません。5kgの赤ちゃんでも体重の80%に相当する空気を吸います。赤ちゃんは1日中室内にいますから、室内空気がいかに健康にとって重要か分かります。室内空気の汚染はホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、VOC、殺虫剤などが原因でした。ところが最近はカビやダニ、ウイルスのほうが注目されています。(図2)

 大気汚染といえば昔は工場や車の排気ガスでしたが、最近では花粉、2011(平成23)年の震災以降は放射能が問題になりました。去年はPM2.5がニュースをにぎわせました。換気が義務化されて10年経ち、状況はどうなったのでしょうか。例えばホルムアルデヒド。建築基準法では、0.08ppm以下と決められています。(一財)東京顕微鏡院のデータでは、8月に必ずピークがあることが分かります。気温が高いと建材に含まれているホルムアルデヒドが出やすくなるからです。0.08ppmを超えたときもあります。(図3)また、同じ家でも西日のあたる部屋は、他の部屋よりも室内のホルムアルデヒド濃度は高いようです。やはり室温の問題でしょう。しかし実際にはほとんどの家が0.08ppmをクリアしています。 最近の問題はアレルギーです。カビがあるところには必ずダニがいます。ダニの死骸がアレルギーを引き起こします。しかし室内にはカビや細菌が必ずいます。これをいかに少なくできるかが換気のポイントです。東京都教育委員会のデータがあります。1m2あたりのダニの数は、畳なら夏季で100匹、冬でも50匹で、床板なら50匹です。ダニがゼロという部屋はあり得ません。従来換気が義務化されていた背景にはホルムアルデヒドによるシックハウスがあったのですが、10年経つとVOC有機化合物から微粒子にシフトしてきました。花粉やPM2.5も注目を浴びています。(図4)

 花粉症患者は日本で2,000万人、スギ花粉だけで1,500万人います。国土の12%が杉林なのです。戦後、木材の量を増やすために成長の早い木を全国に植林しました。約30年で花粉が飛ぶので、1980(昭和55)年以降花粉が多くなって、おそらくこれから40〜50年は続くだろうといわれています。毎年433万人が花粉症になり、日本人の40%が花粉症になるのではという予測もあります。花粉症は排気ガスやPM2.5との複合で発症しやすいともいわれています。

■花粉の1/10の微粒子・PM2.5は毒ガスに匹敵

 中国の排気ガスから飛んでくるPM2.5は去年の春頃から問題化しました。スギ花粉が30μm(マイクロメートル)、PM2.5はその約1/10です。非常に小さいので体内に入ると最終的に肺まで到達してしまいます。PM2.5はぜんそくなどの呼吸器疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの循環器疾患、肺がんなどの健康障害を引き起こし、花粉と一緒に吸いこむとアレルギーの抗体ができやすくなり、花粉症にかかりやすくなります。複合作用です。北京大学が去年発表したデータでは、PM2.5による死亡者は年間9万人。PM2.5は毒ガスに近い存在だといっても過言ではないでしょう。

 こんな恐ろしい大気汚染物質に対しては、換気義務をとるべきだと思います。対策が取れている換気システムならどれでもいいのですが、全部のメーカーを探しても、こういう記述がなされた換気システムが見当たらないのです。今のところ、当社の換気システムはカビ、ダニ、花粉、PM2.5の対策に関する記述が入っている唯一の製品だと思います。

■電石フィルターと電圧でPM2.5を除去する換気システム

 当社の換気システム「澄家Eco」は各部屋の床に排気グリルがあり、空気をダクトで床下に集めて熱交換器を通して排気します。入れる場合はその逆です。換気の場合に注意すべきことは大気の汚染を部屋へ入れないことです。10年前のシックハウスのときにはいわれていませんでしたが、今は大気汚染が問題です。部屋にはフィルターを通して床下から1階に空気が入ります。普通はどこの製品でも花粉フィルターがついています。花粉フィルターなら99.8%の花粉が取り除けるのですがPM2.5はほとんど取れません。PM2.5は帯電しているので、電石フィルターでキャッチします。これなら目が粗くてもPM2.5を98%除去できます。(図5) とはいえ100%は除去できないので、床下に入ってきてしまったものはプラズマフレッシュというもので処理します。電極で7,000Vの電圧をかけるのです。落雷後の空気は非常にきれいといわれています。雷は10万Vから10億Vなので、当然打たれれば人間は死にますがウィルスも死にます。プラズマフレッシュは7,000Vの電圧で小さな雷をつくっています。こうして部屋に新鮮な空気を導入しています。通常換気システムは、天井の近くに排気ファンがあり、下から引いて上から排気しますが、当社の場合は逆で床から排気します。

 最近の室内汚染物質はアレルギー性花粉やカビ、ダニといった空気中の浮遊物質なので、床で排気するほうがよいのです。当社はたまたま昔から床面排気だったのですが、電石フィルターを使っているので空気清浄機と同じような換気システムになっています。このようなシステムは当社だけです。

■熱交換型換気システムで省エネも

 もう一つのポイントは省エネ。35坪の住宅では2時間に約290m3の室内空気を外気と入れ替える必要があります。1日なら50mプールの3倍相当の量になります。冬場に部屋を暖房すると、そのエネルギーがムダになります。排気するだけでなく熱交換すると、暖房エネルギーが約1/10ですみます。従って換気の省エネは、熱交換換気が必須だと思います。(図6) 次世代省エネ基準に近い住宅の場合、天井から9%、壁からは26%、サッシ・ドアが34%、床13%、換気で18%の熱損失があります。そのまま排気した場合はこれぐらいの熱ロスになってしまうのですが、熱交換することによって下げることができます。これが暖房の省エネ型の換気システムです。熱交換型の場合、熱だけでなく水蒸気の交換もあります。ヨーロッパでは水蒸気はあまり考慮せず熱だけの換気装置ですが、それを日本でやると湿度を交換しないため、温度が0℃から17.2℃になっても湿度は16.3%下がります。この場合は50%まで加湿する必要があります。日本では温度・湿度の両方の換気装置がいいのではと思います。もちろんこのタイプは各社から発売されています。前述では外排気型の場合には換気の熱損失が18%でしたが、当社のシステムなら標準タイプでも8%まで、スーパーというタイプなら5%まで熱損失が下がるというデータがあります。(図7) このように、今後は10数%の熱交換型の換気システムが増加していくだろうと思われます。実際にこの2〜3年、福島の原発事故以降、節電に対する関心が高くなり、熱交換型の換気システムが急激に増えているという事情もあります。

 各社からさまざまな製品が出ていますが、換気システムを入れる場合には、健康に配慮された換気システムなのか、省エネルギーの換気システムなのか、快適性が確保されているか、維持管理がしやすいか、といった点に注意して選ぶのがよいでしょう。


 


「高日射反射率(遮熱)塗料の最新動向」 エスケー化研梶@特殊塗料グループ 課長 原田 賢治 氏

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■京都議定書採択をきっかけに注目集める

 高日射反射率塗料(以下、高反射率塗料)は一般的に屋根に塗装し、その表面温度を下げることで室内温度の上昇を抑制し、エアコンの使用電力を抑えて省エネに貢献します。

 高反射率塗料と一般塗料の分光反射率の比較を示します。光の波長は紫外、可視、近赤外の三つに大別できますが、同じ色相で比較すると、可視光領域の反射率はほとんど同じになります。これに対し近赤外波長域の反射率は、高反射率塗料は非常に高く、一般塗料は低くなります。近赤外線領域の光は吸収されて熱エネルギーに変わりやすいので、この反射率の差によって表面の温度差が生じます。(図1)

 近年の市場拡大に応じ、製品のバリエーションも増えてきました。一般的には屋根や屋上防水など、太陽光の照射が大きい部位に使用されますが、最近では壁面でも高反射塗料の採用が増えてきています。また、窓用や道路の舗装面など、用途が拡大しています。高反射率塗料は、1997(平成9)年の京都議定書の採択が発端で広がり始めました。これをきっかけに、今後省エネ塗料に関心が高まると予想され、各メーカーが高反射率塗料を発売しました。当社も1998(平成10)年に発売しています。ところが実際に市場が拡大し始めたのは、京都議定書が発効した2005(平成17)年でした。 各団体でもいろいろな動きが出ました。公的支援の中で中心になったのは、環境省が2007(平成19)年度から実施した「クールシティ中枢街区パイロット事業」です。このクールシティで制定された規格をもとに、各自治体で独自に規格を設定して現在も助成金制度が行われています。大阪では規格の制定以外に、技術的な試みが多数なされています。のちほど紹介します。(図2)

 公的支援の一方で規格化も進みました。2008(平成20)年度から環境技術実証事業(ETV)が開始され、グリーン購入法特定調達品目として公共工事で採用されました。ともに環境省です。そしてこれらを統合する形でJIS制定委員会によってJIS規格が制定されました。JIS規格としては、試験方法のJISが2008(平成20)年に「JIS K 5602塗膜の日射反射率の求め方」として、製品のJISが2011(平成23)年に「JIS K 5675屋根用高日射反射率塗料」として制定されています。

■屋根用塗料で初めてのJIS規格

 JIS K 5675には大きく2つの特徴があります。一つは明度ごとに近赤外波長域の日射反射率規格が制定されていること。つまり色によって規格が違うわけです。明度を低明度・中明度・高明度の3つの領域に分け、それぞれに対して近赤外波長領域の日射反射率の規格値を決めています。破線で示されているのがJIS規格で、それを上回るものがJIS規格に合格します。

 ここで注意が必要なことは、高反射率塗料は同じ明度の一般塗料と比較すると反射率が高い、という点です。図中に高反射率塗料と一般塗料をプロットしていますが、一般塗料でも明度が高くなると、明度の低い高反射率塗料よりも反射率が高くなるというような逆転現象が起こることもあります。(図3) もう一つの特徴は、これが初めての屋根用塗料のJIS規格だということです。屋根は壁面と比較してより高い耐候性が求められます。そのため、同JISで適用された耐候性の規格は、現時点で最も厳しい規格となっています。また、耐候性だけでなく、酸性雨の酸や基材からのアルカリにも耐える必要があるため、耐酸性や耐アルカリ性などの耐久性にも優れている必要があります。加えて、耐汚染性に劣ると、時間の経過とともに付着したカーボンによって反射性能が低下するため、屋外暴露での反射率保持率という規格が設定されています。

 以上のように同JISに適合するためには、反射性能だけでなく、耐候性・耐久性・耐汚染性といったすべての塗膜性能を満たす必要があります。

■黒色の反射率を高めるのがポイント

 近赤外波長域の反射率を色相ごとに見ると、圧倒的に黒のカーボンブラックの反射率が低いことが分かります。他の色相は低くても50%以上の反射率がありますので、4%しかない黒の反射率を高める必要があります。

 黒の反射率を高める技術を2つ紹介します。一つは一般的に使われている加法混色という方法で、反射率が高い色を組み合わせることによって、絵の具を混ぜるように黒色をつくるものです。もう一つは遮熱顔料で、これ自身が反射率が高い黒の顔料です。一般的に

は2種類以上の金属からなる複合酸化物となっており、金属の種類や比率で反射性能や色相を調整しています。代表的な組成に鉄クロム、マンガンビスマスなどがあります。

 この加法混色と遮熱顔料という技術にはそれぞれ長所と短所があります。加法混色は反射率が高い顔料の組み合わせなので反射性能が非常に高くなり、JIS規格に対しても適合する色相範囲を広くとることができます。これが長所ですが、一方で顔料の組み合わせによっては変色のおそれがあります。遮熱顔料はそれ自体が黒ですから、変色がない上に、焼成しているため耐候性に優れるという長所があります。しかし加法混色と比較すると反射性能が劣るという欠点があります。

 ほかにも技術的な試みがいろいろ行われています。大半の色には白が含まれているので、白の反射率を上げることで全体の反射率を底上げしようという技術やオーカー、ブルー、アカサビなど反射率が低いものを、より反射率の高い顔料に替える技術が検討されています。このように高反射の技術は、いかに反射率が低い顔料から高い顔料に変更するかに集約されます。

■塗料は断熱だけでは効果が薄い

 最近話題になっているのが断熱塗料です。一般塗料は屋外から入ってきた熱が屋内に入るスピードが非常に速いのですが、断熱塗料は熱伝導率の低い塗膜を形成することで熱の移動を遅くすることができます。しかし、吹付タイルやモルタルと比べると確かに熱伝導率は低いのですが、一般的な断熱材と比較すると熱伝導率は倍以上高くなります。また、断熱材の厚みが40〜50mmであるのに対し、塗料では通常1〜2mm程度の厚みにしかなりませんから、熱貫流率を考えても断熱塗料単独では効果が低いわけです。

 高い断熱性能で室内温度を低減するとして売られている断熱塗料は、よく見るとすべて高反射と断熱を組み合わせた塗料です。高反射と断熱で効果があることを明記していれば問題はありませんが、断熱だけで効果を出しているような売り方には、私は疑問を感じています。

 しかしながら、断熱はそれ単独では効果が低いものの、効果がないわけではありません。また、放射や伝熱など、反射以外の技術も検討されています。現在の性能評価は反射率のみとなっていますが、これらの反射以外の技術も加味した、トータルでの省エネ技術を評価する方法が必要となってきています。このような背景により、2012(平成24)年、日本塗料工業会内に「省エネ塗料性能評価手法作成委員会」が発足しました。現在、測定装置の精度向上と省エネ性能基準の規格化が検討されています。(図4)

 装置(プロトタイプ)の概要図をご覧ください。室外と室内、二つの空間を想定し、間に塗膜があります。これに太陽光近似光ランプで光を照射します。外側と内側の温度はエアーを流して一定にしています。その際に外側から内側に流れる熱量を熱流量計で測定することによって省エネ効果を算出できます。これで測定すると、やはり反射率に比例して省エネ効果が得られることが分かりました。一方で断熱塗料も効果が少しはあり、厚みがあるほど効果は高くなることも分かりました。この方法、規格が制定されれば、反射だけでなく断熱、放射など、トータルでの省エネ性能を追求して効果を高めていく必要があり、技術の発展が期待されます。(図5)

■現場で塗られた塗料の性能を証明する二点校正法

 最後に、興味深い試みを実施している大阪HITECの活動を紹介します。一つは、二点校正法の設定です。現場でシロとクロの校正板を用いて各反射率を照度計によって測定、併せて実際に塗装された塗膜の反射率も測定します。

 シロ・クロの測定値とラボでの性能値を照合して検量線を作成し、現場の塗膜の反射率が適切かどうかを判断します。これは、現場で実際に塗られた塗膜が設計通りの性能を発揮しているかどうかを証明する唯一の方法だと思います。この手法の優れた点は、校正板をシート状にすればどんな形状の屋根でも測定できるところです。現在は大阪府が中心となっていますが、今後全国的に広がっていくと思われます。(図6)

 大阪HITECでは、他にも屋外暴露での汚染をラボで再現できる試験方法の設定や、光の再帰性(反射した光の行き先)などを研究しており、新しい試験方法の設定や知見が得られることが期待されます。

■高反射率塗料の今後

 高反射率塗料は、製品JISの設定によって大きな区切りを迎えたと感じています。今、各塗料メーカーはJIS取得に懸命になっていますし、前述のクールルーフやグリーン調達の採用基準もJISへの切り替えが進んでいます。また反射率以外の性能を厳格化したことで粗悪製品が排除され、反射率以外でも確かな性能が得られるでしょう。

 近年は高反射率塗料の出荷量の伸びが鈍化しているという現状があります。これまでは一般塗料からの置き換えで市場が拡大してきましたが、頭打ちになってきていると思われます。この問題に対してさらに高反射率塗料を普及していくためには、冒頭に紹介したような用途の拡大や、一年中高い効果が得られる東南アジアでの市場拡大を図るなどの取り組みが必要となります。また、設計の面から言えば、反射率やそれ以外の技術手法の確立やレベルアップによって一層の性能向上を図り、より多くの方に採用して頂けるような製品開発を行っていく必要があると考えています。


 


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