2007けんざい
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建材情報交流会ニュース
 第22回
“保存・再生”基礎免震による建物の保存

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
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「大阪市中央公会堂の保存・再生工事について」
 轄竭q建築研究所
  執行役員 大阪事務所副所長 宍道 弘志 氏

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■市民の寄付で建設された大阪の文化的シンボル
 「赤レンガの公会堂」として親しまれている大阪市中央公会堂は、1913年(大正2)着工、1918年(大正7)に竣工しました。きっかけは1911(明治44)、「北浜の風雲児」と呼ばれた株式仲買人・岩本栄之助から大阪市に寄付された100万円です。その後、相場に敗れた岩本が公会堂の完成を見ずに自殺を遂げたことも、有名な逸話です。(図1)
 建設に当たっては、設計競技(コンペ)が実施され、東京の明治生命館で有名な岡田信一郎の案が1等となりました。現在の建物は、この岡田案をベースに、辰野金吾・片岡安が実施設計したものです。なお、実施設計時になかった四隅の入口の庇が、「雨の日にお客さんが濡れないように」という岩本の申し入れで追加されたというエピソードが残っています。
 工事は1913年(大正2)からスタート。2年後の1915年(大正4)には、岩本にいろいろな助言を行った渋沢栄一男爵も招かれ、定礎式が行われております。
 当時の工事写真からは、柱が鉄骨、床はコンクリート、壁はレンガというこの建物の構造や当時の施工風景が分かります。また、1914年(大正3)に勃発した第一次大戦の影響で、レンガや鉄材などの価格が高騰したことも、資料に残されています。(図2)
 1918年(大正7)の竣工写真を見ると、西側のボイラー用煙突を除き、外観は現状とほぼ同じです。ただし、1階大集会室には当時、大きなシャンデリアがあり、床は平土間、座席も可動式でした。
 竣工後の公会堂は、府立図書館や旧大阪市役所、日銀大阪支店などとともに、中之島の重要な景観を形成します。また、大阪の文化的シンボルとして、シャリアピンやヘレン・ケラー、ガガーリン、ゴルバチョフなど、多数の著名人や劇団、オーケストラが訪れました。さらに、結婚式場としても人気で、かつては集団就職した若者の合同結婚式が行われました。現在でも挙式の申し込みは結構あるようです。
 この公会堂では、定期的に改修工事が実施されています。特に、1937年(昭和12)の改修はかなり大規模なもので、大集会室では舞台寄りのバルコニー席をふさいで投光室や調整室にしたほか、天井を吸音テックスに代えました。シャンデリアが天井直付照明になり、勾配床と固定式座席が導入され、冷房装置が付けられたのも、この改修の時です。
 また、1943年(昭和18)には、冷暖房装置やエレベーター、階段手すり、屋根の上にあった神像などが、戦時下の金属供出で撤去されています。
 戦後は、だいたい10年ごとに改修が行われています。暖房は比較的早く復活しましたが、冷房が再設置されたのは昭和50年代です。

■免震化によって保存と再生を果たす
 今回の改修工事は、1999年(平成11)3月から2002年(平成14)9月まで行われました。市民の寄付で建てられ、大阪の文化に大きな役割を果たしてきた貴重な財産を末永く「保存」し、多彩な催しが行える集会施設に「再生」するため、3つの改修を行いました。
 第1に「免震化による保存」。地震に対する耐震改修の方法として、すでに、ブレース(筋交い)などを使った補強と免震化の2つが比較検討されており、ブレース補強に比べて建物内部に大きな改造を必要としない免震化の方向が決定していました。免震装置の設置場所としては、建物の基礎部分に新たな免震層を設ける「基礎免震」と、既存の地下1階を免震層にする「地階免震」の2つの可能性が考えられます。しかし、地階の利用や建築的価値の保存を考慮して、基礎免震が選ばれました。掘削量は増えますが、地盤の液状化対策の深さは減るので、コスト的にもそれほど不利でないという判断です。免震化によっても、上部構造の補強は全くゼロとはならず、階段室周りのRC壁添え打ちや屋根部分の鉄骨ブレース追加などを行っています。
 第2は「建築的価値の保存」。正面ファサードの美しさを取り戻すとともに、大屋根上の神像の復元や3階の旧貴賓室の修復も実現しています。また、バリアフリーの観点から入口にスロープを付け、階段も改修しました。(図3)
 第3に「機能UPによる再生」。たとえば、大集会室に関しては、天井を明るくし、シャンデリアや最前列のバルコニー席を復活。空調施設・音響環境の改善、窓の二重化による遮音性の向上なども行いました。また、正面入口・階段室からの入口など5つあった動線を整理。正面入口・搬入口・地階入口の3ヶ所にまとめ、エレベーターも新設しています。
 なお、今回の工事では、施設管理者(大阪市中央公会堂)、設計・監理者(大阪市住宅局営繕部および坂倉・平田・青山・新日設設計共同企業体)、施工会社(清水・西松・大鉄JV)の3者の他、構造分科会と建築歴史分科会からなる「中央公会堂保存・再生プロジェクト技術検討会」を、大阪市さんに組織していただきました。特に、建築歴史分科会では、国の重要文化財指定に耐えうる改修を、ということでワーキンググループが月1回程度の定例会議を持ち、適切な助言をいただくことができました。

■既存の基礎の下を掘削し、免震層を形成
 今回の工事は、一体化された既存基礎の下に、礎盤と呼ばれる大型のベタ基礎を形成し、その間に免震装置を配して建物の全荷重を支え、地震にも備えることが目的です。(前ページ図4)
 工事はまず、[1]RC地中連続壁の打設[2]外部地下構築物の撤去[3]旧ドライエリア撤去[4]既存基礎底まで掘削(1次掘削)[5]アースアンカーの施工[6]補強基礎梁構築[7]PC鋼棒設置・緊張[8]舞台・玄関下受け換え、のプロセスから始まりました。
 [1]の目的は、建物地下の砂やシルト層に大量に含まれている地下水を堰きとめることです。そのために、地下約25mの粘土シルト層まで届く連続壁で建物の周囲をぐるりと囲みました。ただし、建物の外周平面に多少の凹凸があるなどの理由で、平面形状はやや複雑な形になっています。(図5)
 施工時には、まず地上にコンクリートのラインを2本造り、その間を特殊なショベルで掘削。できた穴に鉄筋製のかごを入れて、コンクリートを流し込んでいく。この作業を連続させて壁を造っていきます。その後、ディープウェルで水を汲み出し、中をドライにして工事を進めたわけです。
 [4]の段階では、ミニユンボを使って、狭いところまで掘削。その間、土圧による連続壁の傾きなどを防ぐため、[5]のアースアンカーを設置しました。
 [6][7]は、布基礎と独立基礎が併用されている既存基礎を、単一の塊にするための作業です。約3m角あった既存基礎を2m角まで削り、その外側に鉄筋コンクリートの補強梁を格子状に造りました。その際、壁にぶつかる部分は壁に穴を開けて貫通させています。次に、この補強梁と既存の基礎を、両側からPC鋼棒で締め付けて圧着。最後に、鋼棒の先端部をコンクリートの特製キャップで固めています。また、補強梁の底には、免震装置の上部床版のもとになる鉄筋が、要所に配置されています。

■鋼管杭を打ち込み建物荷重を仮受け
 次の工程は、[9]鋼管杭打設部掘削(2次掘削)[10]鋼管杭打設・建物仮受[11]建物外周部切梁設置[12]柱頭ジャッキによる不同沈下修正です。
 [9]では、補強梁の下を、人が立てるぐらいまで掘っていきます。掘った部分から[10]の段階に進み、補強梁の底と地面の間に500mmφ・高さ1.1mの鋼管杭を入れて、上部にセットした油圧ジャッキで下に押し込んでいきます。ストロークいっぱいまで押し込んだら、高さ20cmほどの鋼管リングをかませて、再びジャッキで押し込む作業を繰り返す。十分に押し込み終わったら、次の鋼管杭を上部に溶接し、また同じ作業です。これを繰り返し、地下9〜10mまで鋼管杭を打ち込んだ後、固定ジャッキをセットします。1本の打ち込みが終わったら、その周囲を掘り、次の鋼管杭を打ち込んで・・・・と続けて、次第に荷重を仮受けしていくわけです。
 この過程では、長さ約3.6m、直径約18cm前後の松杭が次々と出土しました。これは建設時に打ち込まれた3,935本の松杭で、打ち込みピッチは約60cm。すべて撤去されましたが、一部は樹脂を含浸させ、会議室の内装などに再利用しています。(図6)
 [11]の切梁のようなものは、仮受け中の建物の水平力を支えるために、周囲の連続壁の間に入れた水平補剛材です。実はこの工程の少し後で、鳥取県西部地震が起きまして、ここもかなり揺れたのですが、現場は無事でした。
 [12]の工程では、全部の仮受杭の頂部に油圧ジャッキを再セット。西側の方向へ20cm程度沈下していた建物をジャッキでコントロールしながらゆっくり持ち上げ、水平を取り戻していきました。

■礎盤上の免震装置に荷重を移す
 次は、[13]礎盤底の掘削(3次掘削)[14]礎盤構築[15]免震装置基礎構築[16]免震装置設置[17]免震階上部床版構築[18]地下階床版構築までの工程です。
 [13]では、建物の基礎底から約4m、低いところは8m近く掘っています。その後、鉄筋を全面施工し、[14]礎盤を構築しました。その際、後で行う免震装置プレロードのため、礎盤のコンクリートが仮受杭に接しないよう縁を切っています。同時に[15]免震装置の基礎も構築し、コンクリートが固まったら[16]免震装置を搬入・設置。周囲に油圧ジャッキをセットします。さらに、免震装置の上に接する[17]免震階上部床版を構築しました。(図7)
 なお、用意した免震装置(アイソレーター)は3タイプです。階段周りなど建物重量が大きい部分には鉛プラグ入り積層ゴムアイソレーター(1000mmφ)、比較的軽い部分には高減衰積層ゴムアイソレーター(800mmφ)、壁面に沿った部分にはやや小型の鉛プラグ入り積層ゴムアイソレーター(900mmφ)と鋼棒ダンパーを配置しました。(図8)
 これが終わると、いよいよ免震装置への荷重移動(プレロード)です。[19]免震装置プレロード[20]仮受杭切断・柱内部コンクリート充填[21]仮受杭貫通部グラウト[22]仮受杭貫通部補修[23]特殊サポートジャッキ部後処理[24]仮設材撤去となります。
 [19]〜[20]の過程では、建物荷重をきちんとアイソレーターに移した後で、仮受杭を切断する必要があります。まず、荷重を仮受杭から移すために、アイソレーター下部の油圧ジャッキをわずかにアップ。これでアイソレーターに荷重が流れますので、この状態を保つためにサポートジャッキで固定して油圧ジャッキを抜き、コンクリートで固めます。
 [20]では、分離されていた仮受杭と礎盤のすき間にコンクリートを充填し、両者を一体化。仮受杭の抵抗力を、耐震に生かす形にしています。
 以上で、免震化工事の全工程が終了したわけですが、全工程3年半の中で、RC連続壁の構築から仮受杭の切断・後処理まで2年以上を要しています。

■外壁は全面洗浄し、樹脂などで補修
 外壁補修その他の工事についても、簡単にご紹介しておきます。
 この建物は「赤レンガの公会堂」と呼ばれていますが、実際は化粧レンガという一種のタイルが使われています。また、石積みのように見える柱型や建物のコーナー部分も、下地モルタルの上に石粒を混ぜたモルタルを塗った擬石モルタルです。ただし、1階など、人の目に近いところ、防水が必要な窓回りなどは花崗岩の切石が使ってあります。(図9)
 これらの外壁に関しては、基本的に洗浄にとどめ、大規模な張り替えや塗り替えはしていません。ただ、この洗浄作業が大変で、基本的には高圧水で洗浄するのですが、どうしても汚れが取れない部分は、手作業でやらざるを得ませんでした。
 また、長年の使用により、外壁の浮きやクラックがかなり発生していました。これらは、作業員が外壁を順次たたき、仕上材だけが浮いているのか、下地材から傷んでいるかまで調査した後、樹脂注入とピン打ちによる固定で補修しました。たとえば、化粧レンガの部分については、目地部分に穴を開けて、樹脂を注入し、あるいはネジステンレス鋼棒のアンカーピンを打ち込んでいます。この樹脂注入については、後の報告で詳しいご説明があると思います。どうもありがとうございました。


「高減衰積層ゴムの特徴」
 東洋ゴム工業梶@ダイバーテックカンパニー TEC技術本部
  ゴム製品開発部 第3開発室 室長 大田 淳一 氏

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 積層ゴム支承とは、免震構造で使われる「支承材」の一種。通常、鋼棒ダンパーや鉛ダンパーなどの「減衰材」と組み合わせて建物を柔らかく支え、地震時の揺れをかわす役割を果たします。一般に普及している天然ゴム系積層ゴム支承は、薄い天然ゴム層と鋼板を数十層重ねて加硫接着したものです。(図1)
 積層ゴム支承は鉛直方法には非常に堅く、建物荷重をしっかり支えますが、水平方向には容易に変形します。水平剛性と圧縮剛性の比は、約1:3000。この水平バネ効果は、高速・高加速度・短周期の地震波を低速・低加速度・長周期の揺れに変換するとともに、各層の揺れをほぼ均一化し、建物の損傷と家具類の転倒を抑えます。さらに、ダンパー機能により短時間で地震の揺れを収束します。これらの機能により、生命・財産の危険の軽減を図るわけです。
 当社の高減衰積層ゴム支承は、こうした積層ゴム支承に減衰材の機能を付加したハイブリッド型支承の一種です。鉛のプラグと積層ゴムを組み合わせたLRBと違って単一の積層ゴムでできており、サイズも600〜1500mmφと多彩。ローコストかつコンパクトな免震構造を可能にしています。
 高減衰積層ゴム支承では、リニアな変形特性を持つ天然ゴムにシリカあるいは樹脂を配合し、ダンパーの性質を持たせています。当社の場合、せん断弾性係数0.35N/mm2という非常に柔らかいタイプで17%程度、0.39N/mm2というタイプで22〜24%程度のエネルギー減衰性能を発揮します。ちなみに今回納品した16基は、係数0.35N/mm2のシリカ配合タイプ、サイズ800mmφのものです。(図2)
 なお、当社では、すべての免震積層ゴム支承について、大型横剛性試験機による出荷前検査を行っています。最大の26MN試験機は、鉛直方向に2600トンの荷重をかけたまま、横剛性の試験ができます。
 また、ビル用以外に戸建免震用のスレンダーな高減衰積層ゴムデバイスも開発しております。これについては、大学、ゼネコンとの三者共同開発により、曲げ剛性・変形追随性を確保。高減衰ゴムの配合や中空構造の採用などで、低軸力や風にも対応できる製品となっています。実物大実験では、阪神淡路大震災と同じ800ガルの加速度を加えても、コップの水がこぼれない免震性能を確認しています。(図3)

「保存工事に使用される樹脂注入材」
 コニシ ボンド営業本部 建設事業部
  大阪建設部 マネージャー 大山 啓一 氏

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 今回の外壁補修で使われたエポキシ樹脂注入材は、石油を原料とする2液混合型接着剤の一種です。混合すると、エポキシ樹脂の主剤とポリアミンの硬化剤が架橋反応を起こし硬化します。化学式で書くと両端にエポキシ基を持つ、プラスチックの一種です。
 エポキシ樹脂の長所としては、良好な接着性(特に金属・コンクリートなどの無機質)や高強度(最大で約80N)、高耐久性(約40年の実績)、高耐薬品性、高寸法安定性などが挙げられます。半面、作業性(2液混合型)、耐熱性、耐候性(特に紫外線による黄変)にはやや難点があります。使用にあたっては、手動ポンプや低圧注入器などで注入するのが一般的です。
 外壁補修注入用エポキシ樹脂には、硬質系と軟質系があり、粘度によって低・中・高のタイプに分かれますが、今回の工事ではマヨネーズよりも少し柔らかい軟質系中粘度タイプを選びました。(図13)
 このタイプの特徴は揺変性で、ネバネバした抵抗感はないのですが、ダレてこない。もう一つの特徴は可とう性で、完全な硬質ではなく、多少の変形に追従します。いずれも、浮きが生じた外壁の空隙に注入するのにマッチした性質です。なお、注入用エポキシ樹脂の品質は、JIS A 6024規格で規定されています。
 一方、エポキシ樹脂の耐久性については、広島の原爆ドーム改修工事が好例といえるでしょう。
 当社は過去2回の改修工事を経験していますが、エポキシ樹脂は1967年(昭和42)の第1回改修当時から使われています。この改修工事で使われた樹脂については、ドーム内に試験体を保存し、10年単位で強度と経年変化を測定しています。(図14)
 測定結果を見ると、曲げ強度と圧縮強度については、施工時よりも材齢20年時、さらに30年時の方が上昇していることが分かります。一方で比重、質量、体積変化には、変化は見られません。こうした特性が、保存・補修工事に多用される理由です。
 近年、エポキシ樹脂はさまざまな補強工事でも使用されています。一例を挙げると、高速道路の柱や梁などを鋼板で補強する工事の接着剤として採用されました。また、炭素繊維シートを使った橋脚補強工事でもエポキシ樹脂が用いられるなど、応用範囲が広がっています。(図15)
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