2007けんざい
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けんざい228号掲載


関西学院大学

 関西学院大学といえば、阪神間ならではのモダンな雰囲気とミッションスクールとしての長い伝統で知られる関西有数の私立大学です。そのイメージをいっそう印象づけるのが、青々とした中央芝生を囲んでW.M.ヴォーリズが設計した白亜の建物が連なるキャンパス風景でしょう。80年以上もの歴史が刻まれた空間に出会うために、西宮市上ケ原の高台を訪れました。
「けんざい」編集部  木絢子


青々とした芝生と白亜の時計台に迎えられて
 阪急甲東園駅から西へ約15分。閑静な住宅街の坂道を登っていくと、道はやがて広々とした桜並木に出ます。一直線に伸びるこの道の向こうに、目指す関西学院大学はありました。建築家W.M.ヴォーリズが、キャンパスマスタープランから主要建築までを設計し、1929(昭和4)年に原田の森(現神戸市東灘区)から移転した西宮上ケ原キャンパスです。
 正門を抜けるとまず視界に飛び込んでくるのは、白亜の外壁と赤色のスパニッシュ瓦に、優美なアーチを持つ時計台。美しい中央芝生の向こうに、堂々たる存在感を見せています。その周囲には、同じく白壁とスパニッシュ瓦で統一された文学部・経済学部・神学部の学部棟や中央講堂、ランバス記念礼拝堂、学院本館などが、ほぼ左右対称に並んでいます。校舎を結ぶ小道や緑地の風景も、シンメトリックに配置され印象的です。
 「同じように見える建物ですが、ファサードなどは、一つひとつ微妙に違います。それを探すのも楽しみのひとつですよ」。そう語るのは、同大教育学部教授の田淵結先生。ヴォーリズに関する総合的プロジェクトのセンター長も兼任しておられます。
 先生のご案内で、いくつかの建物の中を見せていただきました。いずれも、スタッコ塗りの外壁とアーチ型の窓、高い天井や広い廊下が、刻んできた歴史を静かに語りかけてきます。使われた部材類の中には、海外から輸入されたものも少なくなかったでしょう。特別に入れていただいた文学部のチャペル(礼拝堂)でも、随所に施された木の装飾が印象的でした。
 「最初は敬遠している学生たちも、4年間学ぶうちに愛着を深めていき、卒業式はぜひここでといいます。これほど学生に愛されるキャンパスは少ないかもしれません」と田淵先生。滑らかな手すりの階段を上り、静かな廊下にたたずむと、81年にわたって、ここを行き交った人々の息づかいが感じられるようでした。

至るところに込められたヴォーリズの想い
 田淵先生によれば、西宮上ケ原キャンパスの最大の特徴は明快な中心軸の存在です。「道路から正門、中央芝生、時計台(旧・図書館)が一直線上に並び、その向こうには甲山が見えます」。聖書の詩篇をイメージさせるというこの構成には、さまざまな学問が神の高みに導かれるという大学の理念が込められているといいます。「当時、ここは大半が果樹園でした。何もない場所だったからこそ思い切った計画ができたのでしょう」。
 といって、堅苦しい印象はまるでありません。中央芝生のゆとりや25〜30尺(約7.5〜9m)に抑えた建物の高さ、豊かな緑がその理由でしょうと田淵先生。人を和やかに招き入れる大学の雰囲気は、“Mastery for Service(=奉仕のための練達)”をスクールモットーに掲げる関西学院の精神にも通じるように思えます。
 また、大学の一体感にも細心の注意が払われています。アーチのある白壁とスパニッシュ瓦で統一されたデザイン(スパニッシュ・ミッション・スタイル)はもちろんですが、「たとえば、経済学部玄関からは、中央芝生をはさんで、向かいの文学部玄関が正面に見えます。これは、他の建物についても同じで、大学としての一体感を視覚的に実感させます」。それは、学院の創始者ランバスをはじめとする、先人からのメッセージでもあると言います。
 「ミッションスクールだった関西学院大学は戦時中、苦難の道を歩みました。それでも、学院の精神が保たれたのは、キャンパス全体に込められたこの見えないメッセージのおかげでしょう。ある意味で、この建築こそが関西学院大学を守ったのだと、私は考えています」。田淵先生の言葉に、この大学がヴォーリズの傑作と言われる理由を、改めて確認した思いでした。





十字架のある小ドームをもつ神学部

ディテールの装飾も美しい


エンブレムを掲げる時計台正面

創始者にちなむランバス記念礼拝堂

静かなただずまいの中央講堂

関西学院大学の精神の象徴として
 誕生から80年あまりを経た西宮上ケ原キャンパスですが、実は新しい建物も相当数に上ります。「それができたのも、ヴォーリズの設計のおかげですよ」と語るのは、施設部の橋本恭雄課長。大学内の建物の新築や増改築、メンテナンスの責任者です。
 「キャンパス全体をかちっと造り上げるのでなく、時間をかけて完成に近づける設計になっているのです。増改築のゆとりが相当あったので、古い建物を保ったまま、新しい建物を建てていくことができました」。
 とはいえ、21世紀の今、古い建物の維持・補修を行いつつ、最新の教育環境を整えていくことは簡単ではありません。特に、今の関西学院大学の学生数は、移転当時の10倍、約2万人。今後は、キャンパスの一層の分散化や、既存の建物の改築も考えざるを得ないでしょう、と橋本課長は言います。
 「しかし、ヴォーリズが造り上げた中央芝生周辺の景観や、スパニッシュ・ミッションのスタイルは、これからも受け継がれていくはずです。この景観にこそ関西学院大学の精神が象徴されているのですから」。
 幸いなことに、同キャンパスの一部の建物は近年、国登録有形文化財および西宮市都市景観形成建築物の指定を受けました。西宮市民にとっても、日本国民にとっても、この景観は価値ある遺産となったのです。天国のヴォーリズも多分、喜んでいるのではないでしょうか。
 「大学とは学問を学ぶ場所であり、さまざまな人と出会う場所です。しかし、このキャンパスにはもうひとつ、歴史的な建物との出会いがある。建築もまた、学生を育む力を持っているのですよ」。お二人の言葉に、このキャンパスで学ぶ学生たちの幸福を思いながら、白亜の建物に別れを告げました。


ちょっとした風景にも風情がただよう

よく似たファサードを持つ経済学部(左)と文学部


田淵教授(右)、橋本課長(左)とともに

関西学院大学   
西宮上ケ原キャンパス/


所在地:兵庫県西宮市上ケ原一番町1-155
TEL:0798-54-6017(広報室)
URL: http://www.kwansei.ac.jp/


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