2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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ほたるまち

けんざい219号掲載


ほたるまち」全体の構成

 大阪の中心、中之島を南にのぞむ堂島エリアは、江戸時代、諸藩の蔵屋敷が連なり、おびただしい人とお金と情報が動いた場所。そんな都心の中の都心に、新しく生まれた街が「ほたるまち」です。
 2つの多目的ホール、超高層マンション、多彩な飲食店から放送局までがそろうこの街は今、大阪でも注目を集めている場所。私もワクワクした気分で取材にうかがいました。

株式会社 久我  森井恭子


朝日放送の谷浩司部長(右)と

■水の都・大阪の再生を目指す大型プロジェクト
 「ほたるまち」のプロジェクト名称は「水都・OSAKAαプロジェクト」。1993年(平成5)に移転した大阪大医学部付属病院跡地の約2.1ヘクタールの再開発事業で、2002年(平成14)には都市再生緊急整備地域にも指定されています。事業の中核的役割を担った独立行政法人都市再生機構(UR)西日本支社で、保田敬一郎マネージャーにお話をうかがいました。
 「かつての堂島は、各藩の蔵屋敷を経由して、全国の富と情報が集まった場所でした。それが、近松や西鶴を生み、懐徳堂や適塾を育てる力にもなった。慶応義塾の創始者・福沢諭吉が生まれたのも、ここです」。
 そんな歴史を持つ堂島には、どんな街づくりがふさわしいのか。打ち出されたのが、「水の都・大阪の復活につながる街づくり」という基本方針でした。

 「出発点は、大阪市が設置した懇談会が、事前に発表した提言。ビジネス拠点やショップだけの街ではなく、さまざまな目的を持った人が集まり、安らぎ、交流する水辺の街を創ろうということです」。
 この基本方針から生まれたのが「文化・情報を発信する」「水辺に人のにぎわいを呼ぶ」「都心に快適に居住する」という3つの機能。URを核に、コンペで選ばれた各企業がその具体化に取り組みました。
 「朝日放送さんは放送局と多目的ホール、カフェ&バー。ビープラネッツさんは、別の多目的ホールと高級賃貸住宅。オリックス不動産さんは、超高層マンションと商業施設。さらに、慶応大学・大阪芸術大学のサテライトキャンパスも誕生します。それぞれの持ち味が発揮され、『情報発信』『にぎわい』『都心居住』のすべてが、具体化していきました」。
 それにしても、気になるのが「ほたるまち」というネーミング。モチーフは「淀船の 竿の雫も ほたるかな」という与謝蕪村の俳句だそうですが・・・・。
 「きらびやかな光のような街ではなく、ほたるのようなやさしい光で水辺を照らし続ける街を目指そう。それが、この名前に込めた私たちの思いです」。
 だから、あえてカタカナの名前を避けたのですよ、とうかがって、私も納得しました。
 最後に、「ほたるまち」の未来について、保田さんの思いをうかがいました。
 「住む人が安らげる、訪れる人が楽しめる街になってほしいのはもちろんですが、水の都・大阪の再生の起点になってくれるとうれしいですね。川の眺め、川からの眺めを考え、水辺の触れ合いを大切にしているのが、この『ほたるまち』。その思いが人々に共有され、同じような街づくりが続けば、この付近の風景も大きく変わるのではないでしょうか」
 水の都・大阪の再生も夢ではないはずですよ、という保田さんの思いに、私も深く共感しました。


「ほたるまち」サイト

都市再生機構の保田マネージャー

西側の入口からは、緑豊かな遊歩道が続く

 

■美しい多目的ホール「堂島リバーフォーラム」

 「堂島リバーフォーラム」は、堂島川に面した多目的ホール。この街の「文化・情報発信」を担う施設の一つです。運営する株式会社ビープラネッツの池内順司ゼネラルマネージャーに案内していただきました。
 水平のラインが美しい外観がまず印象的です。白いサッシュが映える建物は、水辺にふさわしい涼しげな印象。川に面した壁面には、LEDが埋め込まれており、夜間は蛍のように柔らかな光を点滅させるそうです。
 入口の向こうは、堂島川の眺めが広がるガラス張りのホワイエ。その奥に、着席で1,200人、スタンディングなら2,000人入れるホールが広がります。
 「1・2 階の合計面積が約920m2で、天井高も約10.5m(一部約20m)。ライブから講演会まで、幅広く対応できる会場です」。
 マンションや近隣に住む人々のことも考え、防音も配慮されています。ホール周囲のホワイエも音を吸収する役目を果たすそうです。
 ホワイエの上は、「堂島リバーフォーラム〔CAFE´〕」。「“都会の中の非日常空間”をコンセプトに、ドリンクや食事を楽しめる空間に仕上げました」と池内さん。ホールとは独立して利用できるのも、うれしい心づかいです。
 気持ちよく仕上げられた楽屋、広く清潔なトイレ、眺めのよい4階のギャラリースペース・・・・白を基調とするこのホールでは、新しい文化発信拠点にふさわしい発想を随所に感じました。ホール上部は、屋上緑化されており、環境への配慮も行き届いています。
 もうひとつ、ぜひ訪ねたかったのが、同社が運営する高級賃貸住宅「リバーレジデンス堂島」。専有面積200m2を超える3LDKを見せていただいたのですが、広々とした空間、現代的なインテリア、大阪市街を見渡す眺望と、ため息が出るほどステキな空間でした。ちなみに、この部屋の家賃は月100万円超。他にも月25万円前後のプランなどいろいろあるそうです。
 池内さんは、こんな夢を語ってくださいました。
 「『堂島リバーフォーラム』以外にも、堂島には新しいABCホール、グランキューブ大阪(大阪国際会議場)、国際的なホテルがいくつもある。それらを各会場として有機的に結べば、たとえば国際的な学会や会議も開けるでしょう。パリコレのようなファッションショーも夢ではないはずですよ」。
 川に面した街を、最新のファッションで装ったモデルが闊歩する。いつか、そんな日が来ることを、私も期待したいと思います。

多目的ホール「堂島リバーフォーラム」

音響のよいホール内は、最大2,000人収容可能

堂島川がのぞめるガラス張りのホワイエ

ホテルの一室を思わせる、特別仕様の楽屋

「リバーレジデンス堂島」のモデルルーム

ビープラネッツの池内ゼネラルマネージャー
■都心の新ランドマークとなる超高層マンション

 「ほたるまち」でもひときわ目立つのが、地上50階建ての超高層タワーマンション「THE TOWEROSAKA」です。オリックス不動産株式会社の近藤和之課長にまずうかがったのは、なぜ、高層タワーマンションを選ばれたのか、ということでした。
 「いろいろありますが、最大の理由は『ほたるまち』にふさわしいランドマークを造ろうという思いですね。大阪の中心部に、これほどの街が生まれる。それなら、私たちのマンションも、大阪を代表する建物でなければ、という気持ちが強くありました」。
 その思いは、設計にも生かされています。たとえば、セミオーダーといってよい自由な間取りシステム。
 「1LDKからメゾネットタイプまで、相当自由な設計変更が可能になりました。固定したプランの中から選んでいただくより、ずっとフィット感の高い空間を提供できたと思います」。
 万一に備えた免震構造も充実しています。
 「竹中工務店さんの協力を得て、十分な免震性能を確立しています。あえて鉄筋コンクリート構造を採用したのも、その方が地震に強いためです」。
 一方、快適生活のための施設が集まっているのが、タワー1・2階のレストランフロアと隣接する商業施設。とりわけ、「堂島クロスウォーク」と呼ばれる商業施設には、レストラン、フィットネスクラブ、スーパー「大丸ピーコック」のほか、保育園、各種医院がそろうクリニックモールが入居しています。これらは、周辺地域からも要望の高かったものだそうです。
 「たとえば、各分野で一流のお医者さまをクリニックモールに招くなど、地域ニーズには可能な限りお応えするようにしました。『THE TOWER OSAKA』も『ほたるまち』も、地元に愛されてこそ発展できるわけですから」。
 そんな思いが伝わったのか、分譲480戸はすぐ完売。100倍以上の抽選になった住戸もあったそうです。
 「『THE TOWER OSAKA』もさることながら、『ほたるまち』全体の街づくりが評価されたのでしょう。私たちも喜んでいます」。
 最後に、「ほたるまち」の未来について、うかがってみました。
 「たくさんの人が集い、暮らし、楽しむ街というのは、年を経ても老朽化しない。むしろ活性化し、若返っていくものです。『ほたるまち』がそういう街に育ってくれれば、一番うれしいですね」

地上50階建ての「THE TOWER OSAKA」

1・2階には、有名レストランなどが入居

商業施設「堂島クロスウォーク」

オリックス不動産の近藤課長
■カフェとデッキのある水辺の放送局

 最後に訪れたのが、朝日放送の新社屋です。実は放送局に足を踏み入れるのは、これが初めて。谷浩司・部長マネージャーが案内してくださいました。
 建築家・隈研吾さん設計の新社屋は、中庭と屋上庭園のあるL字型の建物。再生木材の外壁を通して差し込む光が、ロビーに柔らかな影を落としていました。吹抜の大階段の向こうに中庭があったり、建物の中層に巨大な風穴が開いていたりと、自由で開放的な発想があちこちに息づいています。中庭に続く川沿いのリバーデッキには、ロイヤルホテルが運営するカフェ&バー「リバーサイドテラス」もオープンしています。
 「密閉されたスタジオを中心に持つ放送局は、閉ざされた空間になりがちです。こんなに柔らかで、開かれた建築を生み出した隈さんの発想に脱帽です」。
 テレビ用4つとラジオ用5つのスタジオに、各種の送受信設備、さらに編集ブースやオフィス、資料庫、美術倉庫まで備えた新社屋は、とにかく巨大です。関係者の数も、日中で800人以上になるとか。その熱気は、見学中の私にも伝わってきました。
 面白かったのは、場所によって廊下や階段の内装が変えてあること。実は、ロケ現場にも使えるように、という放送局ならではの工夫なのだそうです。
 「ある時は病院、ある時は警察署。同じ建物でも、内装が違えば、別の場所に見えるというわけです」。
 一方、別棟のABCホールは、最大258席の大きさ。放送以外にもさまざまな活用が可能です。
 「たとえば、地元の若手アーティストのライブなど、地域の拠点としての活用を考えているところです」。
 見学の終点は新社屋の地下です。驚いたことに、巨大なゴムのような免震装置が建物を支えていました。実は、大都市圏の民放基幹局で初の免震構造で、使われている免震装置は4種類・96個もあるそうです。
 「災害への迅速な対応は、放送局の使命。自家発電装置なども完備し、将来の大地震に備えています」。
 淡々とした谷さんの声が、かえって印象的でした。
 最後に、「ほたるまち」についてうかがうと、こんなお話がかえってきました。
 「この街の周囲には、まだまだレトロで味のある界隈が広がっています。それらも含めて、大阪っていいところだなあ、という声が、この『ほたるまち』から広がっていってほしい。私たちの放送局も、そういう声をどんどん発信していくつもりですよ」。
 取材を終えて、「リバーサイドテラス」で一服しました。目をあげれば、堂島川沿いのゆったりした風景。船が発着する新しい港も生まれています。すでに開業したレストランやカフェに続き、マンションへの入居が本格化すれば、もっとたくさんの人が、周辺を行きかうのでしょう。その時、どんなにぎわい、どんな安らぎ、どんな文化が、この「ほたるまち」から生まれるのか。当分、この街からは目が離せないようです。


建築家・隈研吾氏が設計した朝日放送新社屋


スタジオにもなるABCホールは最大258席

光と影が美しい1階ホール

新社屋を支える免震装置

「ほたるまち」より土佐堀川周辺を望む

ほたるまち
(水都・OSAKAαプロジェクト)


所在地:大阪市福島区福島1丁目
TEL:06-6969-9883
    福島一丁目地区再開発協議会
    ※独立行政法人都市再生機構西日本支社内
URL: http://www.suito-osaka-alpha.com/
音響のよいホール内は、最大2,000人収容可能
竣 工:2008年(平成20)5月(まちびらき)


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