2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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長楽館 けんざい209号掲載
  明治42年(1909)、実業家・村井吉兵衛によって円山公園内の一画に建てられた迎賓館が長楽館だ。古都のまちなみを借景にした静寂なたたずまいのなか、凝った意匠やクラシックな調度品がさりげない存在感を見せる。トーソー株式会社大阪支店の三本千春さんが取材した。

三本レポータとオーナーの土手さん


傷みはてた状態から見事に復活往年の輝きを取り戻した長楽館

 ロココ調、ヴィクトリア調、英国系ネオクラシック、そして和室…各部屋で異なったスタイルを楽しめる珍しい建物が、ここ長楽館である。
 
 京都・祇園は円山公園の中にある、洒落たルネサンス様式の洋館をまったく知らなかった。日本初の両切り紙巻き煙草で財をなし「煙草王」と称された明治時代の実業家・村井吉兵衛の別邸として明治42年(1909)に建てられ、国内外の政財界実力者をもてなした。設計は赤坂・青山両御所の設計で知られ、立教大学学長でもあった米国人建築家、J・M・ガーディナー。
 英国ウェールズ殿下、米財閥ロックフェラー、西園寺公望、山県有朋、大隈重信らが当時の来客として名を連ねていることから、いかに村井氏が実力者であったかがうかがい知ることができる。
 今はホテル、レストラン、カフェとして訪れる客人たちにつかの間の非日常を提供している。長楽館のオーナー、土手素子さんが案内してくださった。
 先代のオーナーである土手さんの義父は昭和27年(1952)、この建築にいたく惚れ込んで購入した。当時、同館はすでに別人の所有になっていた。第2次世界大戦が終わり、進駐軍の接収を経ていた同館はかなり傷んでいたという。「ぼろぼろの幽霊屋敷みたいだったんです。なぜ義父がこんな建物を欲しがったのか、そのときは理解に苦しみました」。この建物をどう使おうなどという構想も全くないまま、先代オーナーは私財を投じてひたすら修復に情熱を傾けた。各部屋が元の形を取り戻すにつれ、何となく「京都を訪れた人に、ここで休憩してコーヒーでも飲んでいってもらえたら」と思うようになり、少しずつ今のようなスタイルができ上がっていったそうだ。

サンルーム。今はお茶と
デザートを楽しむパティスリー

ロココ調の応接室。漆喰に
繊細な装飾が施されている

喫煙室として使われていた
中国風趣味の部屋

2階客間
 


趣の違う各部屋に合った調度品に囲まれ極上のひとときを楽しむ

 建物は、1、2階ともに中央の広間を中心に部屋が配置されている。1階にあるロココ調の応接室は、同館最高のもてなしの場。午後からはティールームとして優雅な気分でコーヒーを楽しめる。
 もとサンルームだったという陽光いっぱいのパティスリー、そして書斎に食堂、こちらはヴィクトリア調だ。夕食前のひとときを過ごすための半地下のスペースは球戯室を利用したもので、かつてはここで紳士淑女がビリヤードに興じたという。
 2階もまたユニークだ。喫煙室だった部屋はインテリア、調度品、美術品すべて中国風。ほかにはパーティスペースとなる客間3室と美術室。賓客の奥方たちのために用意されたという貴婦人室では、大きな窓から円山公園の風情ある景色を堪能できる。
 3階はすべて和室である。普段は立ち入り禁止のところを特別に入れてもらった。3階への階段を上ると別世界。茶室、桃山書院といわれる書院造、中央には2重折り上げ天井の客室がある。豪華絢爛な部屋ばかり見てきたせいかほっと落ち着いた。贅沢で華やかな洋館の中にこんな空間が存在することに驚いた。
 
 スタイルの違う各部屋にはそれぞれにふさわしい様式の家具が置かれ、その多くが建築当初のものだ。しかもどれをとっても本物の逸品だ。昭和61年(1986)に建物と家具30点が京都市指定有形文化財に指定されている。
 土手さんは「このようなスタイルになったのは、設計者が米国人だったことも関係しているでしょう。おそらくフランス人だったらフランスだけの、英国人だったら英国だけの様式になっていたのではないでしょうか」と言う。
 再来年には竣工100周年を迎える古い建築であるが、基礎は非常にしっかりしているという。また、大理石や木の丸柱、漆喰などが時を経てますます深い味わいを醸し出す。
 「この館に遊ばば、其の楽しみやけだし長(とこし)へなり」 同館の完成直後訪れた伊藤博文がこのように感想を述べ、ここを「長楽館」と名付けた。中には彼が館名を揮毫した扁額も飾られている。
 紅葉の季節にまたとない極上の時間をここで味わってみてはいかがだろうか。 (記:三本千春)

かつてはビリヤード台が
置かれていた球戯室

書院造の和室。窓からの
眺望がすばらしい

ここは美術品が
飾られていたという

優雅な気分で
コーヒーをいただきます

長楽館

/ 場所 京都市東山区祇園円山公園
    TEL 075-561-0001
    交通 京阪四条駅・阪急河原町駅下車徒歩10分
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