2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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逸翁美術館 けんざい206号掲載
 

逸翁美術館は明治、昭和、大正の実業界で活躍した小林一三氏(1873〜1957)の旧邸である。ここでは小林氏が収集した美術コレクションを展示している。多くの重要文化財を含む収蔵品は5,000余点にのぼる。美術品だけでなく建物、インテリア、庭や茶室すべてが貴重な芸術である。サンケイビルテクノ大阪営業部濱田留美子さんが取材した。


正面玄関の長屋門


天性の審美眼をしのばせる美的空間 芸術と生活が融合した雅俗山荘

 大阪府池田市、自然豊かな五月山公園からほど近い傾斜地に逸翁美術館がある。
 この建物は、阪急電鉄をはじめ阪急百貨店、東宝などの阪急東宝グループの創業者である小林一三氏の自邸として昭和12年(1937)に建てられ、32年(1957)に美術館として開館した。館名の「逸翁」は小林氏の雅号で、別名「雅俗山荘」とも呼ばれる。生活の場であると同時に芸術のための空間を自邸で実現させた、芸術と生活が融合した空間である。
 
2階吹き抜けの客室は空間の
広がりを感じさせる。
階段からは部屋を一望できる
 宝塚歌劇の創設や演劇・映画における芸術活動からうかがえるように小林氏は芸術全般に優れた審美眼を持ち、20歳代から美術品のコレクションを始めた。邸宅には2階にギャラリーなどを設け、自分が楽しむだけでなく、愛好者にも楽しんでもらおうとした。
 財団法人逸翁美術館理事・事務局長の伊藤武さんにすみずみまで案内いただいた。
 とても不思議な建物だ。和風でもあり、洋風でもある。
 能勢から移築したという長屋門をくぐると、美しく手入れされた庭木越しに美術館本館、つまり雅俗山荘の正面が見える。外観でもっとも印象的なのがこの正面(ファサード)だ。玄関まわりはごつごつした石積みで開口部の入りがとても深く、どっしりとした土蔵を思わせる。2階の壁にはりめぐらされた木製の柱や梁にも目を奪われる。イギリス由来のハーフ・ティンバーと呼ばれる構法を取り入れているとのこと。装飾性を抑えた鉄製の窓格子の造作も味わい深い。

1階展示室はもと食堂だった。
展示ケースが乗っているのは実際ここで
食事に使われていたダイニングテーブル

ギャラリーへと向かう階段に立つ濱田さん。
「公開されていない部屋も見てみたい…」

2階のギャラリー。
奥は書庫だったらしい

 瓦葺きの切妻屋根はよく見ると日本家屋のそれとは異なり、半円形のスペイン瓦を互い違いに組み合わせてある。外壁はリソイドという調合左官材料で淡黄色に仕上げている。スペイン瓦の屋根、淡黄色の塗り壁をもつ建物の特徴は総称してスパニッシュ様式という。旧スペイン植民地であったアメリカ南西部から20世紀初頭に日本に伝わり、和洋を巧みに折衷させるのに都合のよい手法として人気を集め洗練されてきた。大邸宅のひとつの典型として大正中期から昭和初期にかけて大流行したそうだ。
 室内の見どころは2階吹き抜けの客室。1階から2階天井まである巨大なガラス窓に驚き、窓の外側にある電動シャッターが竣工当時のままで今も現役ということにさらに驚く。
 部屋を一望できる階段を上っていくとギャラリーがある。2階には展示室以外にも当時の和室、寝室、応接室があり、非常に興味を覚えたが、公開はしていないとのこと。
 
屋根のスペイン瓦、2階外壁の
ハーフティンバーが印象的な
美術館と、立礼式茶室「即庵」
(写真右)
 
もと京都にあったと伝えられる
2畳の茶室、「費隠」

3つの茶室がつくる清閑な空間 
「親しみやすい茶道」を貫く

 小林氏は茶道をこよなく愛した。邸内には庭園を囲むように3つの茶室「即庵」「費隠」「人我亭」がある。なかでも「即庵」は、伝統的な3畳台目を囲む敷瓦に椅子を置いた立礼式で、昭和の名席の1つと言われている。当時珍しかったという立礼式の茶室に、茶道をお堅いものとは考えず、誰もが気軽に楽しむべきだという理念が見てとれる。小林氏は折りにふれ茶会を催し、そこで収蔵品を披露していた。
  今ではもちろん来館者がお茶を楽しむこともできるし、「人我亭」は貸茶室として利用することもできる。
  建築やインテリアの美しさ、貴重な美術品、庭園と茶室の醸し出す清閑な雰囲気、そのすべてをまるごと堪能できる実にぜいたくな空間だ。 (記:濱田留美子)

逸翁美術館

/ 場所 大阪府池田市建石町7-17
    TEL 072-751-3865
    交通 阪急宝塚線池田駅下車、徒歩約15分
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