2007けんざい
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都立旧岩崎邸庭園

けんざい198号掲載

 

江戸時代には越後高田藩榊原氏、明治初期には舞鶴藩牧野氏の屋敷だった地に三菱を創設した岩崎家が本邸を建てた。平成13年(2001)、その建物と庭園は一体として「旧岩崎邸庭園」と名づけられ、一般公開された。
本郷台地の上、5,500坪の敷地に洋館、和館、撞球室の3棟が現存し、重要文化財に指定されている。今回は三菱化学産資株式会社複合材事業部の武井玲子さんが訪ねた。


コロニアル様式の二層式ベランダ(南側)。
列柱は1Fがトスカナ式、2Fがイオニア式

最高の建築資材と絶妙の建築手法 コンドルのセンスと日本の職人技が光る

 旧岩崎邸庭園は表門から本邸入口へと続くアプローチが緩やかな坂道になっている。本邸入口を入り、シュロの木ごしに見る洋館は異国のような、別世界に入り込んだような感覚を呼び起こす。
 岩崎家本邸として完成した明治29年(1896)、当時の敷地は今の約3倍(1万5,000坪)もあった。本邸の主であった岩崎久彌は三菱財閥の三代目で、明治27年(1894)に三菱合資会社を設立した実力者だった。
 現存する3棟のうち洋館と撞球室の設計は、上野の国立博物館や鹿鳴館で知られる「日本近代建築の父」ジョサイア・コンドル(英・1852?1920)が手がけた。彼は明治政府に招聘されて東大で教鞭をとり、辰野金吾、片山東熊らを育てた。こよなく日本文化を愛し、日本女性と結婚して日本で没した。
 岩崎家がおもに来客を迎えるために使用していた洋館は地下1階と地上2階の木造、明治期の上層階級の邸宅建築を知るうえで重要な資料でもある。アーチを多用し、屋根の四角ドームや透かし模様のパラペット、ステンドグラスやドーマー窓など、装飾性に富んだ意匠にジャコビアン様式(17世紀初頭、ジェームズ1世時代のイギリスルネッサンス様式)の特徴が見てとれる。ジャコビアンはジェームズのラテン名ヤコブ(Jacobus)に由来する。邸内も細部まで余すところなく施された装飾が目を楽しませる。1階・婦人客室の装飾デザインはイスラム風の紋様で、布張りの天井一面にシルクの刺繍がしてあって絢爛という形容がふさわしい。


洋館2Fの客室の壁全面に豪華な
「金唐紙」が貼られている

婦2Fベランダに立つ武井さん。
2Fに並ぶこれらの列柱は
イオニア式

撞球室はスイスの山小屋風

和館の欄間をはじめ、家紋で
ある「三階菱」を基調にした
装飾が多くみられる

 2階客室の壁には金唐紙というオランダ起源の豪奢な壁装材が貼られている。現在それを作る技術を持つ職人は世界でただ1人(日本人)しかいないという、最高に貴重で高価な壁紙なのである。何しろ1?30万円、客室1部屋で約1億円かかるそうだ。ここは客の寝室として使われていたらしいが、あまりにきらびやかすぎて私など落ち着いて寝られないに違いない。
 驚いたことに、この洋館には全く直線がないという。リファインメントといって、直線部分をほんの少しだけ曲線にすることによって錯視を誘い、より立体的な印象を与えるのだ。パルテノン神殿にもこの手法が使われているが日本ではここだけだそうだ。わずか2?5mmの世界。屋根、窓枠、柱など素人の目には直線にしか見えない。コンドルと日本の大工の腕による絶妙な仕掛けに感動する。


ジャコビアン様式の装飾で飾られ
た大階段。末端がツルを巻く
ような形状が特徴のひとつ

婦人客室はイスラム風紋様が刺繍
された布張りの天井に注目

和館では、長く続く畳廊下
の天井板・鴨居・長押に
単材を使用

黒大理石の暖炉(洋館1F)。
暖炉は各部屋全て
デザイン・材質が異なる


高級木材をふんだんに使った和館 豪奢な住まいに明治の財閥をしのぶ

岩崎家の日常生活に使われていた和館は、名棟梁大河喜十郎の指揮下で建てられた。洋館とは渡り廊下でつながっている。書院造りを基調とし、随所に菱紋(岩崎家の家紋)がモチーフとして配されている。桐の欄間、杉や檜の大木を使った天井、鴨居、長押?どの部材を見ても節目ひとつない。壁、襖には日本画家橋本雅邦の筆になる障壁画が四季折々の景色を見せる。
 
書院造りの広間前には
わずかに明治期の和風庭園の
なごりが見られる
 芝に覆われた広大な庭はかつて小径や植木によって美しく造園されていた。戦後GHQに接収された際に運動場になってしまったため、今ではその面影を見ることもかなわない。
 建物は昭和22年(1947)に国の所有となり、GHQから返還後は最高裁判所司法研究所などとして使用されていた。その後、重要文化財に指定されたが、平成13年(2001)に東京都の管理になるまでは非公開であった。今では誰もが自由に、近代建築の粋を集めた建物に触れ、明治期を生きた財閥の人々の生活に思いをはせることができる。私も今日だけはちょっぴり貴婦人の気分を味わった。同時に、ほかにもあるであろう日本の閉ざされた財産ともっとオープンに出会える日が来ることを強く願った。 (記:武井玲子)

都立旧岩崎邸庭園

/ 場所 東京都台東区池之端1-3-45
    TEL 03-3823-8340
    交通 営団地下鉄千代田線湯島駅下車徒歩3分
営団地下鉄銀座線上野広小路駅下車徒歩10分
都営地下鉄大江戸線上野御徒町駅下車徒歩10分
JR山手線御徒町駅下車徒歩15分
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