2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
ホーム お問合せ
会員団体出展者専用ページ 協会の概要 会員名簿 業種別名簿 品目・業種別分類表 統計資料 関連リンク
建材情報交流会ニュース

 第40回
「ダイビル本館」の建て替えの概要と設計主旨を含めた見学会」

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会 にお問い合わせください。



 

「建物概要説明」

 ダイビル梶@建設・技術統括部 技術課課長 上田 貴幸 氏

資料は当日配布のみです。

 
■旧ダイビルを継承する一大プロジェクト
 1923(大正12)年10月、大阪商船(現在の商船三井)、と宇治川電気、日本電力の3社の共同出資によってダイビルの前身・大阪ビルヂングが設立されました。旧ダイビル本館建設のプロジェクトは前年の1922(大正11)年から大阪商船主導でスタート。設計監理は渡辺建築事務所で、設計監督渡辺節氏、製図主任村野藤吾氏、構造設計内藤多仲氏という布陣でした。(図1)
 1925(大正14)年に竣工した旧ダイビル本館の外観はオリエント風のネオロマネスク様式。1階にはギリシャ風の彫刻を設置しています。内外の装飾はおおむね簡素ですが、要部に多種の彫刻を施して建物全体を特色づけています。また材料は採算性を重視し、国内産のものを使っています。(図2)
 1階の中央部分には「鷲と少女の像」を設置、その左右に石を彫刻した灯籠が並んでいます。下部に並ぶ柱は、兵庫県播州産の黄竜山石です。エントランスロビーの床はタイル、壁は日華石、天井は石膏装飾で仕上げられています。
 当街区では、1988(昭和63)年に共同開発の検討を開始、1997(平成9)年に、弊社、関西電力、関電不動産の3社で共同開発の基本協定を締結しました。2004(平成16)年関電ビルが完成、その後2期工事として2009(平成21)年に中之島ダイビルが完成。そして2013(平成25)年の2月にダイビル本館と中之島四季の丘が完成しました。
 中之島3丁目共同開発の敷地は約21,000m2です。この中に旧ダイビル本館と新館、旧関電ビルディング、南側に中之島変電所と関電ビル別館があるという状態でした。まずは変電所跡地に関電ビルディングを1期工事として建設、その後旧関電ビルディングの跡地に中之島ダイビルを2期工事として建設し、3期工事としてダイビル本館と中之島四季の丘を整備しました。
 ダイビル本館の基本設計は2008(平成20)年10月から14ヶ月かけて進めました。建物調査の結果をもとに建材の再利用方針を決定し、2009(平成21)年11月から地上解体工事に着手しました。並行して実施設計を14ヶ月かけて進め、2010(平成22)年から地下解体工事および新築工事に着手。2013(平成25)年2月に竣工致しました。
 ダイビル本館は、地上22階地下2階、鉄骨造延床面積が約48,000m2、最高高さが108mのビルです。4階の一部と5階から上がオフィスで、3階は電気室と機械室。1、2階は商業ゾーンで、地下連絡通路を介して京阪渡辺橋駅と連結しています。(図3)
 ダイビル本館と関電ビルディングとは、2階デッキで接続しています。こちらは中之島3丁目歩道橋を堂島川に向けて新たに設置し、大阪市の主導する中之島西部地区開発構想に基づく緑道ネットワークの形成に寄与する計画になっています。
 ダイビル本館は、歴史的な建築物の新しい再生・利用のあり方を示した先駆的な事例ということで、大阪市の「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」に選定されました。
 中之島四季の丘は関電不動産と共同で整備したもので、ダイビル本館、関電ビルディングと2階レベルでつながるデッキを含め約1,000坪(3,300m2)の規模があり、四季折々の自然を感じられる広場としております。



「設計趣旨説明」

   鞄建設計 設計部門 設計部長 勝山 太郎 氏

資料は当日配布のみです。


■約18万個のレンガを取り外し、再利用
 私からは、歴史の継承というテーマでご説明させていただきます。まず外装は、レンガ、石材レリーフ、テラコッタの3要素で構成されており、それらを再利用する計画を進めました。
 レンガはスクラッチレンガです。90年の歴史を刻んだ独特の風合いを持つこの材料をなんとか再利用したいと考えました。そこでレンガを取り外せるかどうかを確認するため、まずクレーンを使って調査を行いました。ドリルを使って部分的に取り外し、試験を行い、それが可能なことが分かったのです。
 そしてすべてのレンガを取り外し、バラバラにしたあと目地のモルタルを除去し、中圧洗浄してきれいなレンガに戻したのです。その数約18万個。途方もない作業で、取り外しだけでも約2カ月かかりました。敷き並べて一つひとつレンガを見ると、昔のレンガは赤いものから黒いものまで、色調に大変幅があることが分かりました。こんな絶妙な色のばらつきを持ったレンガは、今はなかなか焼けるものではありません。旧ダイビルの風合いのある姿は、まさにこのような手づくりの味わいで生みだされていたのだと、改めて思い知らされました。本当にいい色なんです。(図4)
 一部旧レンガではなく新規レンガを焼いてつくった部分もあります。旧レンガとの色調を合わせるために何回も焼き直しました。
 再利用にあたってはまず、レンガ自体の品質を確認するために試験所でさまざまな試験を行いましたが、90年前のレンガでありながら、今のJIS規格基準からみてもまったく問題のない、高品質なものだとわかりました。次の課題は、このレンガをどう積むかでしたが、耐震性も考え、性能実験を行って、中空積みという現代の技術で90年前のレンガを積み上げました。
■石材レリーフ、テラコッタも新材料とともに再利用
 次に足もとの石材レリーフの再利用です。ここは、かつての台風による浸水対策のため、道路整備で一度デザインが変わった経緯があります。そこで今回の再生にあたっては完成当時のオリジナルデザインに戻して再生することにしました。まず石の状況を確認し、補修が必要なものをチェックし、取り外しの具体計画を立てました。かなりの部分が再利用できることが判明しました。「鷲と少女の像」はまわりの躯体ごと切り取りました。
 石材工場で修復し、一部必要となった新規石材の加工も行いましたが、古い材料と隣り合っても違和感のないよう、エイジングも行いました。こうして新館でも往時の雰囲気をかなり再現することができました。(図5)
 3番目のテラコッタです。頂部のテラコッタは、コンクリートと完全に密着していて取り外せなかったため、再利用を断念しました。しかし華麗な装飾模様をもつ意匠を再現するために、石膏で型をとりました。レンガや石材と同様に、味わいのある色ムラを再現すべく、焼きムラをつけたりエイジング作業を行ったりしました。
 内部のエントランスホールでは、床タイル、手すりや郵便受けなどの金物、天井の石膏レリーフ、この3点で再利用を考えました。前者2点は、取り外して再利用しています。石膏レリーフは、うまく取り外しができなかったため、先ほどのテラコッタと同じく型をとって再現しました。
 そのほかの材料再利用は、破砕したレンガを混入して新たに焼き直したタイル。そして旧ビル8階にあったサロンの仕上げ材が一部残っていたので、カフェテリアに再利用しました。こうして本物の材料を使ったことによって、街の景観や内部空間に歴史の厚みを加えることができたと思います。
■外は往時の姿を再現、内部は最新鋭のビル
 最後に当ビルを現代に活きるビルとして再生するために掲げた3つのテーマについてご説明いたします。
1.「環境への十分な配慮」
 最新鋭のビルとして、現在の技術を活かして環境のためにさまざまなことを試みました。まず大きくは建設材料の再利用。レンガや石材、タイルなどを再利用して廃棄物をなくす、それ自体が一つの貢献になると考えます。また、河川水利用の地冷を利用した省エネも行っています。そして中之島四季の丘における十分な緑化。
 高層部でも、窓で断熱性を高めたり、自然換気を取り入れたり、大きなガラスで光をふんだんに取り入れながら自動で照度をコントロールする調光システムを採用するなど、環境配慮の工夫を行いました。
2.「低層部に最新オフィス機能を融合」
 低層部の外装は旧材料で再現しましたが、内部は新たに新しい機能を組み入れるため色々な工夫を試みました。昔の建物は階高が3.45mと今のビルとしては非常に低かったので、階高に十分なゆとりをとりながら、床の位置を調整することで外観の窓位置を守っています。
3.「新旧の対比・光に満ちた最新オフィス空間」
 昔の意匠を再生した重厚な低層部のエントランス空間から一歩足を踏み入れたオフィス空間は、光に満ちた現代的な空間として対比させようと考えました。古いロビーを再生した入り口の奥に光を受けて様々な表情をつくるモダンな積層ガラスの壁を配して、場面を切り替えることを意識。さらに奥に進むと、南側から光が入り、緑に包まれた気持ちのいい1階ロビー空間が広がります。エレベータホールも、エレベータシャフトをガラス張りにして自然光を入れ、眺望が楽しめるロビーにしました。オフィスは足もとから天井までの大きなガラスを使い、眺望の広がる開放的な空間に仕上げています。(図6)


 

  

建 材情報交流会ニュース一覧へ
 

 


Copyright (C) 2007 JAPAN BUILDING MATERIALS ASSOCIATION. All rights reserved.