2007けんざい
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建材情報交流会ニュース
 第35回
「スマートハウスの可能性と展望」

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
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 ”持続可能な社会の実現”に向けたスマートハウスの取り組み」
 積水ハウス
  技術部 主任 高木 淳一郎 氏
 

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■積水ハウスの事業は、建物づくり・まちづくり
 昨今、「スマートハウス」や、「スマートコミュニティ」が注目されています。本日は弊社の考えるスマートハウスの取り組みを、専門的な話よりは、全体的に浅く広く紹介したいと思います。
 まず弊社の事業について。住宅メーカーなので当然、住宅事業がメインです。軽量鉄骨造の戸建住宅(2階建)が弊社の主力商品です。それ以外にも、都市部向けに3階建の重量鉄骨造の住宅も販売しています。さらに、木造住宅も多く造っており、2階建、3階建の「シャーウッド」という商品があります。いろいろテレビCMも展開しておりますので耳にされたことがある方も多いのではないでしょうか。
 また、共同住宅にも力を入れています。こちらは2階建あるいは3階建の低層アパートを販売しておりまして、「シャーメゾン」というブランド名で商品展開しています。
 建物単体だけではなくて、面的な開発事業、つまりまちづくり系の取り組みも全国で行っています。代表的なのは、福岡アイランドシティの「照葉のまち」、神戸の六甲アイランドシティなどです。また、ここ数年は、海外の開発事業にも乗り出しています。現在、オーストラリア、中国、アメリカ、シンガポールの4カ国で事業を行っており、デベロッパー的な部分だけではなく、中国では瀋陽に鉄骨住宅の工場を建設するなど、本格的に事業を展開しています。

■住宅に求められる4つの質
 弊社の取り組みを1960年代から現在まで俯瞰すると、住宅の質に関して「安全・安心」、「健康・快適」、「生活の豊かさ」、「環境社会価値」、この4つの考え方があるといえます。(図1)
 第1の「安全・安心」でまず念頭に浮かぶのは耐震性能です。弊社では創業以来「ユニバーサルフレームシステム」という、同じ構造システムを一貫して、2階建の戸建中心に使い続けています。阪神・淡路大震災では全半壊ゼロでした。東日本大震災でも、少なくとも地震における倒壊はありませんでした。
 また、耐震構造については、「シーカス」という制震システムを広く販売しています。これは粘弾性制震ダンパーを使って建物の揺れを吸収するシステムで、これを使うと、建物の変形を約1/2に抑えられるので、内装関係の被害を大きく抑えることができます。
 第2の「健康・快適」については、まずユニバーサルデザインが挙げられます。京都の学研都市にある弊社の総合住宅研究所で、いろいろな建物のハード的な部分からソフト的な部分まで、日々研究を行い、成果を商品につなげています。そして省エネ。業界でいち早く遮熱断熱ペアガラスを導入したり、換気でも、ハイブリッド換気システムという省エネ設計のシステムを導入しています。健康面では、千葉大学と共同研究を行い、シックハウス予防のためのプロジェクトに参画しています。
 第3に「生活の豊かさ」。まず幅広いデザイン展開、そして多様化するライフスタイルへの対応です。ペットとの暮らしや、ミュージックライフ、キッズデザイン、お子様の子育てを支援するためのプログラムなど、家族構成を前提にし、先まで見越したプランニングや、可変性を持たせたご提案をしています。
 第4に、「環境社会価値」について。これは、「エコ・ファースト」企業としての約束、CO2排出量削減、ゼロエミッションの拡大などです。

■環境配慮型住宅「グリーンファースト」の誕生
 未来に向けてどういった住宅の質が求められるか。それは、安全・安心、健康・快適、生活の豊かさ、環境の社会価値、この4つの質の向上です。つまり「長きにわたり安全安心、健康快適で、多様化する家族とライフスタイルに柔軟に対応し、地球環境や地域社会の持続可能性に寄与することで、資産価値が向上する住まい」ということになるでしょう。
 2009(平成21)年に、住まいづくりに対するこれまでの取り組みの集大成として、快適性、経済性、環境配慮を同時に実現する環境配慮型住宅「グリーンファースト」を発売しました。弊社では太陽光発電ないしは、燃料電池を搭載したものをグリーンファーストと呼んでいます。
 これだけで、80年代の一般的な住宅に比べると、60〜80%のCO2排出量の削減になります。太陽光発電と燃料電池の両方を搭載している「グリーンファーストプレミアム」では100%のCO2削減が可能になります。 2011(平成23)年度の受注実績は、戸建住宅に関して、太陽光発電システムが11,225棟、燃料電池が5,356棟です。新築の戸建のグリーンファースト比率は、2011年度実績では77.9%です。(図2)
 さらに昨年の8月、「グリーンファースト ハイブリッド」を発売。これは「太陽光発電+燃料電池+蓄電池」を搭載し、これらを連動させたものです。3電池連動の電力供給システムを備えた、自立できる住宅の実用化は世界初です。
 この電池はリチウムではなく鉛の蓄電池で、8.96kWhの大型蓄電池。安い夜間電力を蓄電池に貯めておき、日中のピーク時間帯に不足する分を蓄電池から供給します。災害時に電力が断たれても、電力供給できるよう、蓄電池の容量は必ず半分残すようになっています。またガスが無事ならば燃料電池も使えます。太陽光発電もそのまま使えるので、この3電池を搭載することによって、いざというときにも自立した生活を送れるわけです。

■積水ハウスが考えるスマートハウスとは
 スマートハウスとは、1980年代にアメリカで提唱された住宅の概念と言われます。家電や設備機器を情報化配線などで接続し、最適制御を行うことで、生活者のニーズに応じたさまざまなサービスを提供するものとされています。米国では2010年代に、スマートグリッドの取り組みをきっかけとして、地域や家庭内のエネルギーを最適制御する住宅として再注目されているそうです。
 スマートハウスの定義は各方面でされており、解釈は今のところまだいろいろあると思います。弊社の考えるスマートハウスは、「グリーンファースト+ネットワークテクノロジー」。それによって、「快適性」「経済性」「環境配慮」を同時に満たすことを目指しています。
 弊社がスマートハウスの実証を行っている建物が2棟あります。一つは、「サステナブルデザインラボラトリー」という、東京・国立市にある実証棟です。もう一つは横浜市の「みなとみらい21地区」にあるスマート・ネットワークプロジェクト「観環居」。前者は都市型、後者は郊外型の住宅を想定しています。それぞれの取り組みをご説明することで、積水ハウスのスマートハウスの内容をご紹介できると思います。

■都市型スマートハウスの試み、国立市実証棟
 (国立市)のサステナブルデザインラボラトリーは2006(平成18)年に、都市エリアでサステナブルな生活をおくるためのさまざまな提案や実証要素などを織り込んだ形で建てられた実験棟です。ここで重視しているのは、日本古来の風土や住文化と新技術をうまく融合させて、サステナブルな生活を行うための形を生みだすことです。
 当時の住宅産業では、高気密、高断熱といった、がちがちのスペックの話が中心でした。その中で、パッシブハウス的な考え方や、日本古来の住宅のよさの取り入れ方を検証していたわけです。(図3)
 サステナブルデザインラボラトリーでは、センシング、モニタリング技術を用いた住環境コントロールの実証を行っています。各部屋と屋外に温湿度センサーを設置、降雨センサーも合わせて、省エネで快適な居室の温熱環境を制御します。夏は強い日差しを遮蔽して、室内に涼風を招き入れることで冷房負荷を軽減する。さらに冬は縁側空間を利用して、暖かな日差しをしっかりと採り入れることにより、暖房負荷を軽減するわけです。日本古来の住宅で経験的に取り入れられてきたことを、いろいろなセンシング、モニタリング技術を合わせて機能的に実現できることを検証しています。
 また、「健康・見守りRT(リモートターミナル)」という取り組みは、非接触、非拘束型生体センサーシスんざい236号 2012年4月テムといって、ベッドに横になるだけで心拍、呼吸、体動など生体情報を計測したり分析したりすることができるものです。データを健康管理サーバーに蓄積すれば、日々の健康管理ができますし、ネットワークで病院につながっていれば、医者の方から直接往診ができます。(図4)

■郊外型スマートハウスの試み、「観環居」
 (横浜の)「観環居」は、総務省から採択された、スマート・ネットワークプロジェクトの一環として建てられた住宅です。このプロジェクトは弊社含め4企業が幹事企業となって進めていました。ホームICT、EV(電気自動車)連携、EVを支えるサービス基盤で使用される通信規格の標準化、などの実証を行いました。プロジェクトとしては昨年の3月で終了し、その後は民間のコンソーシアムとして引き続き実証実験を行っています。(図5)
 「観環居」で行われているのは、センシング、モニタリング技術を用いた住環境コントロールです。室内外の明るさや温熱環境を、センシング技術によって自動的に感知し、お住まいの方に対して快適で省エネな状況をつくり出します。
 もう1つの目的であるEV連携の実証は、他企業と組んで行いました。EVを利用し、充電だけではなくて、充放電が可能となった場合を想定した実験を行い、20%超のCO2削減効果があるという見通しを得ました。新たなステップとして、日産自動車のリーフを使った取り組みを行っています。
 「観環居」ではまた、ITやRTで得られるさまざまな快適生活情報の収集・制御が大きな目的でした。設備機器コントロールやエネルギーの見える化、家歴情報、生活情報、家族や地域とつながるコミュニティ情報などが、家電や設備とつながることで、制御できるようになります。

■生活情報のすべてを「見える化」する
 スマートハウスでは、それを実際にお住まいの方が見る、あるいはコントロールするためのインターフェイスが重要です。イメージとしては、リビングのテレビ画面をインターフェイスとして使い、AVコントロールを中心に、設備機器、エネルギーの見える化、家歴情報、天気予報、交通情報。そして家族や地域とつながるコミュニティ情報などが表示されることを想定しています。順次簡単にご紹介いたします。(図6)
○設備機器コントロール
 住宅のプランから設備機器の位置まで全部分かるようになっており、照明や空調、セキュリティ関係の稼働状況が一目で見て取れます。それぞれのオン・オフも画面上でできます。空調の温湿度も画面に明示され、温度管理、湿度管理ができます。外出先からスマートフォン、携帯電話でもコントロールできるという想定です。
○エネルギーの「見える化」
 太陽光発電の発電量や、EVの充電状況と現時点での走行可能な距離、さらには電力会社との電力の売買などがすべて見て取れるようになっています。電気代や水道代などもチェックでき、売電している場合には、売った金額がマイナス表示され、その分が差し引かれた合計額が出ます。(図7)

■遠隔コミュニケーションで情報交換
○コミュニティ情報
 たとえば遠隔コミュニケーションでは、離れて暮らす生活者と画面を通じてつながり、さまざまなコミュニティ情報が見てとれるようになっています。おじいちゃんが今からどこどこへ行ってくるよとか、今日何々をしたよ、といった情報を掲示板的にアップできるわけです。
 さらに、おじいちゃんの家の電気、ガス、車の稼動状況がリアルタイムに見られる画面も提案しています。車がなければ外出中、電気ガスがついていれば、おじいちゃんは今家にいるとわかります。逆につけっぱなし、消えっぱなしで丸一日経過していれば、何かあったのではないかと、最悪の事態になる前に気付くことができる、そんなことも考えています。先ほどご紹介した、センシングによる生体情報のリアルタイム情報も、全部ここで表示できます。
 また、学校や自治会など地域とつながるさまざまなコミュニティ情報として、いろいろな学校や自治体からのお知らせや、回覧板もリアルタイムに見ることができます。お住まいの住宅を中心とした地図を表示して、そのエリアのいろいろなお買い物情報、例えば近所のスーパーの最新のチラシなども即座にチェックしたり、特売日の情報を入手したりなどもできるのです。
 さらに、防災拠点の位置や避難可能な経路の情報も地図で即座に見られます。何かあったときにそちらへアクセスすれば安全に避難し、自立した生活を送ることができると考えています。
○家歴情報
 一般的に言われる住宅履歴情報のことです。用意されたメニューに沿って操作すると、住宅の図面・仕様書や、実際に使っている設備の仕様書、取扱説明書、いろいろなお手入れ情報などをすべて見ることができます。
 また、弊社のアフターサービス部門へのアクセスも想定しております。設備の更新時期や定期点検のお知らせをしたり何か困ったことがあったときには、「リフォーム」や「ちょっと相談」などのインターフェイスを使って、担当者に連絡や打ち合わせができるわけです。

■スマートハウスからスマートコミュニティへ
 今弊社の実証棟で実験を行っている、いわゆるスマートハウス的な取り組みをいろいろご紹介させていただきました。結局それを総合すると、こういうことになると思います。(図8)
 リビングテレビなどの情報端末をインターフェイスとして、家中の家電や設備とつながり最適な制御を行う形です。センシング、モニタリング技術などを用いて、エネルギー削減と住まいの快適性を実現する住宅が、弊社の考えるスマートハウスのイメージです。
 さらに、スマートコミュニティセンター(仮称)とつながることによって、住宅単体だけでなく、コミュニティや地域への情報展開も図れます。スマートハウスを起点に、いわゆるスマートコミュニティへの展開が可能だと、弊社では考えています。
 このスマートコミュニティセンター(仮称)では、各スマートハウスから集まってきた情報がつながり、一元管理されます。地域の防災拠点や集会所、避難所のように、コミュニティの中心にある建物を想定していますが、このようなところで一元管理をすることによって、さらに広域エネルギーネットワークともつながって、電力の需給に関するいろんなコントロールが可能になると考えています。(図9)
 先ほどのコンテンツでご紹介しているように、エネルギーだけではなくて、住宅のメンテナンスや、病院や、セキュリティ会社などともつながって、地域を円滑に管理できる社会がスマートコミュニティだと考えています。弊社は住宅メーカーなので、当然まちづくりを行う上で、自然とのつながりや、コミュニティを形成するためのいろいろな仕掛けや空間を設計する、場のつながりも重視しておりますので、この3つを合わせてスマートコミュニティであると弊社はとらえています。
 もちろん、スマートハウスやスマートコミュニティのイメージは、今後の技術の方向性や社会情勢、あるいは住まい手のライフスタイルなど、状況によって多少変わる部分はあると考えています。積水ハウスは、住宅供給会社として、あくまでも生活者視点でまちづくり、住宅づくりを推進していくという視点を失わないように、日々企業活動を進めたいと考えています。


「大阪ガスが考えるスマートハウスと実証実験の取組み」
 大阪ガス梶@リビング開発部 技術企画T
  マネジャー 田中 敏英 氏
 

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■「スマートハウスにはガスのシステム」という発想
 スマートハウスが語られるとき、太陽光発電や蓄電池、家電との連携などの話が多く、ガスはあまり出てきていないように見受けられます。ガス抜きでもスマートハウスは成立するのでしょうけれど、ガスのシステムが加わればどんなことができるのか、スマートハウスの価値がさらに広がるのではないか、というのがこの報告のメッセージです。
 例えば、大阪ガスでは、スマートハウスでキーとなる創エネのシステムについて、ガスによる発電とその際に発生する熱を再利用する、環境性に優れた家庭用コージェネレーションシステムを「エコウィル」や「エネファーム」という商品で販売しています。また、太陽光発電や蓄電池などをガスのシステムと組合せることで、さらなる付加価値向上を目指すことができます。本日はこのあたりについてご報告したいと思います。

■環境にやさしいガスコージェネレーション
 エコなエネルギーというと電気を連想される方が多いと思います。しかし、現状の発電システムの効率は、火力発電所で40%ぐらい。残りの約60%は、発電時の温排水や排気、送電時のロスで失われています。これは、熱エネルギーから電気エネルギーへの変換に伴う物理法則上の制約等があるため、ロスをなくすことは困難です。(図1)
 一方、われわれがご紹介している家庭用コージェネレーションシステムでは、まずガスにより自宅で発電し、そのときの発電効率は、最新の燃料電池タイプの「エネファーム」で38.5%になります。そして、その時に出る排熱はすぐお湯に変えて、お風呂や暖房に使えます。これで、元のエネルギーの55.5%も再利用でき、トータルで94%のエネルギー効率を達成できます。上手に使えば、ほとんどロスなく一次エネルギーを利用できるのが、家庭用コージェネレーションの大きなメリットです。
 この「エネファーム」は、燃料電池と言われるものです。水に電気を流すと水素と酸素に分解されますが、このプロセスを逆にして、天然ガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を取り出します。理論的な発電効率は、ガスを燃料させて発電機を回す従来の方式より高いとされています。(図2)
 また、「エコウィル」という、ガスエンジンを用いた家庭用コージェネレーションシステムもあり、200(3平成15)年から発売しているものです。発電効率は「エネファーム」より多少落ちますが、総合効率は92%とこちらも90%以上ものエネルギー効率が達成可能です。

■環境負荷をさらに低減する「ダブル発電」
 さらに、もっと環境に貢献できるものとして提案しているのが、コージェネレーションシステムと太陽光発電を組合せた「ダブル発電」です。二つを同時に使うことで、発電量が増大し、「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」「見える化」などがより効率的に達成でき、現時点でわれわれが提案できるスマートハウスのシステムの典型だと考えています。(図3)
 また、「ダブル発電」は、非常に経済性の高いシステムとなります。現在、太陽光発電の余剰電力は、固定価格買取制度(フィードイン・タリフ: FIT)で比較的高単価で買い取ってもらえます。そこで、売電が認められていないエネファームの発電で電力需要の大半をまかない、太陽光で発電した分はなるべく余剰電力として売電する。こうすると、経済性が非常に高まるわけです。
 また、今盛んに言われているピークカット(ピーク時の電力抑制)にも、「ダブル発電」は大きく貢献できるものと言えます。

■ダブル発電の経済性・環境効果を比較する
 ここで、[エネファーム+太陽光発電]のダブル発電と、[オール電化+太陽光発電]との比較をご紹介します。戸建住宅の4人家族、太陽光発電は3.6kWという想定です。
 まず、年間の光熱費はダブル発電が3万円。オール電化に比べて約8万円弱のメリットがあるということです。次に、電力の収支ですが、ダブル発電はエネファームの発電量が多く、太陽光発電もあるので、発電量にかなり余裕があり、売電分を多くすることができます。一方、[オール電化+太陽光発電]の場合、発電するのは太陽光だけですから、それを家庭での使用に回すと、必然的に売電分も少なくなります。(図4)
 それから、省エネ性と環境負荷について試算しますと、ダブル発電は[オール電化+太陽光発電]より年間約40%の省エネとなります。なぜこんなに効くかといえば、これもコージェネレーションの総合的な効率の高さに起因します。また、エネルギー消費が少ないために、CO2の排出量も少なくなるということです。

■「見える化」を可能にする意外な端末
 次に、スマートハウスの見える化ですが、実は今のご家庭でも普及している、隠れたインターフェースがあります。何かと言うと給湯器の端末です。台所などにあるこの端末に、電力使用量やガス使用量、それらの目標値などを表示すれば、それだけでエネルギーの見える化が達成できます。この端末は「エネルックリモコン」という名称で現在販売しております。
 さらに、大阪ガスでは、これからのホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)として、「エネルックPLUS」という商品をご提案しています。2010(平成22)年10月から販売しており、お客様のパソコンや携帯電話でエネルギーの見える化ができるもので、専用端末を新たにご購入いただく必要がないというものです。おかげさまで、昨年暮れのエコプロダクツ大賞エコサービス部門の環境大臣賞という非常に名誉ある賞をいただくことができました。
 この「エネルックPLUS」には、1)お客様のパソコンや携帯電話でエネルギーの使用量が見える他、メールによる見せる化(お知らせ)も可能、2)ご家庭の使用状況に応じた省エネアドバイスができる、3)外出先から住宅設備のON ・OFFができる(ただし、対応機器に限られます)、4)大阪ガスに連絡すると遠隔でガスを遮断できる、という4つの機能があります。
 とりわけ、2)の省エネアドバイスは、ご家庭のガスや電気の使用データがインターネットで大阪ガスに送られ、その分析に基づいてお客さまの使用実態に即した効果的な助言ができるというものです。エネルギーの見える化では一般的に5〜15%くらいの省エネ効果があると言われていますが、こういう方法でもっと省エネ効果を向上させることを目指しています。

■3電池を使った「スマートエネルギーハウス」
 ここからは、大阪ガスが次世代のスマートハウスとして開発中の技術「スマートエネルギーハウス」についてご紹介します。(図5)
 概要図に「3電池を活用」と書いていますが、これは燃料電池、太陽電池、蓄電池の3つです。これらを使って、省エネ性と快適性の両立、系統負荷の軽減、停電対応などを効果的に実現しようとするものです。
 ここで用いられる燃料電池は、現状のエネファームで採用している固体高分子形(PEFC)ではなく、もう1ランク発電効率の高い固体電解質形(SOFC)の燃料電池を想定しています。これはあまり時間がかからないうちに、商品として販売することを予定しているものです。
 もう一つの柱である家庭用蓄電池は、一般的に大きく2つのタイプに分けられます。
 まず、独立タイプですが、これは家電製品とほとんど同じと考えていただいて結構です。蓄電池を家のコンセントにつないで充電する、放電時や停電時は蓄電池についている放電用コンセントに電気製品をつなぐ、という形です。
 一方、系統連系タイプと申しますのは、蓄電池の充放電を家の配線の中に埋め込んで行う、系統の電気と連系するタイプです。設置については電力会社さんのご了承をいただく必要があります。系統連系タイプのよさは、専用コンセントではなく普通の状態で使える点です。購入電力もあれば蓄電池からの放電電力もある形になりますし、停電時も、今の家の配線を使って給電できます。もちろん、蓄電池の放電分に限った電気容量の電気製品しか使えませんが、これはどちらのタイプも同じです。
 「スマートエネルギーハウス」では系統連系タイプの蓄電池を活用し、燃料電池とも連系させています。

■カギは「燃料電池+蓄電池」による相乗効果
 ところで、蓄電池には、停電対応とかピークカット効果などのせいか、何となくエコ商品のイメージがありますが、ややこのあたりが誤解されているのではないかと思っています。
 まず、当然の話ですが、蓄電池は自分でエネルギーを生み出す装置ではありません。電気を充電して放電させるだけの機械です。しかも、充電した電力を100%放電できません。必ずロスが発生します。充放電時にそれぞれ10%程度がロスされると言われており、トータルでは20%以上もの電気が失われることになります。言い換えれば、使えば使うほどトータルの消費エネルギーは節約どころか増えるわけです。
 では、そんな商品を使ってなぜ、省エネができるのかということですが、その効果を説明したものがこの図です。(図6)
 左は蓄電池がない場合の通常の燃料電池(SOFC)の運転状況、右はそれに蓄電池を加えた場合です。燃料電池だけの場合は、定格出力700Wを上限として、電気負荷に応じて運転します。しかし、蓄電池があれば、定格運転で燃料電池をフルで動かして、発生する余剰電力を蓄電し、電気を購入していた時間帯で放電することができます。このときの充放電でも当然ロスが発生しますが、これは燃料電池のフル運転で効率よく発電した電気を利用できること、さらに、再利用できる排熱も増えることで十分カバーでき、トータルのエネルギー効率は向上するわけです。
 要するに、蓄電池が燃料電池のポテンシャルを最大限に引き出し、そのポテンシャルが蓄電池の充放電ロスをカバーしてくれる。それが、3電池システムの「スマートエネルギーハウス」技術の核心です。シミュレーションの計算結果では、ガス給湯器だけをお使いの住宅のCO2排出量100%に対して、燃料電池導入で28%減、さらに太陽電池を加えたダブル発電で78%減、そして蓄電池が加わると84%減になるという結果になっています。

■2棟の実験住宅で実証実験を継続
 以上はシミュレーションの結果ですが、本当のところを確認するには、やはり実証実験が必要です。現在、大阪ガスでは、機械を技術的に評価する「技術評価住宅」と、その機械を人が実際に居住しながらデータをとる「居住実験住宅」という、2棟の実験住宅を建設し、実証に当たっているところです。(図7)
 実験住宅の主な設備は、発電ユニットと貯湯ユニットで構成されたSOFCタイプの燃料電池、容量3.5kWhのリチウムイオン蓄電池、5kWクラスの太陽光発電です。さらに省エネ家電や電気自動車(EV)も備えています。
 また、ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)としては、タブレット端末を活用した実証用装置を導入しています。エネルギーの見える化や機器の操作、省エネアドバイスなどをこれで行っています。3電池の状況が確認できるほか、1分ごとの「エコエネ率」も確認できます。エコエネ率が上がっていれば、創エネ・省エネがうまくいっている、下がれば購入電力が増えているということが分かります。
 実際に計測されたデータを分析してみると、燃料電池と蓄電池の組み合わせにより、住宅の電気負荷の相当部分を賄えることが分かってきました。燃料電池は本来、家の電力負荷より多く発電することが許されていませんが、3電池システムなら負荷の多少に関わらず定格運転ができ、高効率の発電ができるわけです。
 また、実験で得られたデータを分析したところ、3電池なしの住宅のCO2排出量約3,200kgに対し、3電池がある住宅の排出量はマイナスになりました。トータルで112%のCO2が削減されたことになります。(図8)
 なお、これらの住宅では、創エネ、省エネ、CO2削減効果以外にも、さまざまな課題に取り組んでいます。一つ挙げますと、電気自動車(EV)に関して、燃料電池とのカップリングを研究中です。現状のEVは、充電時の入力が3kWなどに固定されているのですが、これでは最大出力700Wの燃料電池だけでは間に合わず、電気を購入しなければなりません。しかし、EV側で充電時の入力W数を絞ってもらえれば、すべての充電が燃料電池で可能になり、CO2の削減にもつながります。自動車側の開発も含めて、そういう仕組みを構築できないかという話です。
 今後の取り組みですが、技術評価住宅で次世代の挑戦的な実験も含めて行い、一定の効果が得られれば居住実験住宅で実証するという形を続けていきます。課題はいろいろありますが、2013(平成25)年頃までの3年間で主要課題の技術確立を目指しているところです。

 
 
 
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