2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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建材情報交流会ニュース
 第28回
“住まいの快適設計とエネルギー高効率化”

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
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「快適な睡眠環境について」
 京都大学 大学院工学研究科 建築学専攻
  教授 鉾井 修一 氏

資料はこちら(PDFデータ)


■はじめに:情報化社会における睡眠
 情報が飛び交う現代社会では、人体の情報処理装置である脳の維持管理が重要になってくるわけですが、それには適切な睡眠の確保が必要です。疲れた状態ならばどんなときでも寝られるものですが、同じ寝るのならばぐっすり気持ちよく眠りたいですね。
 快適な寝心地の要因としては、まず精神的・身体的要因、そして寝室環境、次に寝具の機能です。寝具の機能は重要で、寝返りがうちやすく、肌触りがよい寝床でなければなりません。また保温性があって湿度が調整されているという基本的性能が要求されます。
 私はもともと、結露など建築空間の温湿度環境を研究してきましたので、この観点から快適な睡眠環境を明らかにすることを試みました。ここで注目したのは、寝室内や寝具内の温熱環境です。熱は温かいところから冷たいところへ移動し、その快適性は熱水分の移動に左右されることになります。
 寝つきの度合いを測定する尺度として“体動”(睡眠中の寝返りや手足の動き)に注目し、人の睡眠を測定した奈良女子大学の梁瀬・宮沢両氏の研究では、寝つきと温湿度との関係が明らかになりました。そして快適な睡眠には、汗など、布団の中の水分の移動プロセスや温湿度の予測が重要であると結論づけています。

■寝具による吸放湿
 同じく奈良女子大の登倉氏らの研究で面白い実験が報告されています。睡眠中の汗は平均皮膚温を上昇させ、かえって発汗を促すというものです。
 実験では、温度33℃湿度45%の室内で被験者を綿わた敷布団とポリエステルわた敷布団に2時間寝かせ(ともに掛布団なし)、背中と敷布団の中心、敷布団の下側の温度変化を測定、解析しています(図1・2)。イメージ的に、綿わたのほうが汗をよく吸って眠りやすい気がしますが、実験結果はむしろ逆でした。
 綿の場合、背中の温度は37℃を少し超える程度まで上がり、布団の中心部は39.5℃まで上がりました。成人の平均体温36.5℃に比べると相当な高さです。一方、ポリエステルでは背中の温度は綿よりわずかに低く、布団中心の温度は37℃とずいぶん低くなっています。
 これは、被験者がかいた汗が布団に吸着され、冷える過程で潜熱を放出し、背中の温度を上げたためと考えられます。かいた汗がすべて外に出れば、冷やすという本来の役割を果たすのですが、布団内部に吸着され熱を発生してまた帰ってきたため、せっかくの発汗効果が台なしになったわけです。敷布団の吸水性に限れば、ハンモックのように汗を全部下に出してしまえる状態がいちばんといえるでしょう。寝具は汗を吸う必要がありますが、ためればよいわけではない。それが、このデータから分かる興味深い結果だと思います。 綿わたの方が温度が高いのは、ポリエステル以上に汗を吸着するためと考えられます。同時に測定された布団の重量変化データによれば、綿の重量がかなり増加しているのに比べ、ポリエステルはあまり変化がありません。さらに、被験者の体重変化を見ると、綿の場合の減少量が大きく、被験者によってはポリエステルの2倍の発汗が見られました。汗をかくのは悪いことではありませんが、一方で疲労も増します。少なくともこの実験では、同じ時間寝ていても、綿わた布団の方が体にストレスを与える結果になっています。
 この実験を簡単なモデルで再現・説明するために、「Two node model」という人体の温熱生理モデルと、布団の熱水分同時移動モデルを用いて解析モデルを作り、計算を試みました(図1・2参照)。実験値とは異なりますが、素材の違いによる温度上昇の傾向や、綿わた敷布団の中心部が39℃ぐらいになることも計算できており、大体の予想はできると分かりました。
 以上の結果は、寝室の状態、敷布団の熱と水分、人体の生理が相互に作用していることを示しています。寝室の環境を考える際には、温湿度の状態、寝具の性質、そして人体の側がそれにどんなレスポンスをするのかを総合して考える必要があるわけです。

■快適な睡眠環境を目指して
 今、就寝時にはエアコンなどを使うことが当たり前になっています。そこで、寝室、寝具、人体の3つが合わさって形成される環境に、空調をどのように組み合わせればよいのかを考えてみました。
 当然ですが、睡眠中はエアコンの設定を変更したり、服を脱ぎ着するなど、主体的な温熱環境の操作はできません。しかし、人の快適な睡眠条件(深睡眠の割合が高い・寝返りが少ない・中途覚醒をしないなど)、室内の温熱環境条件(温度・湿度・輻射温度・気流など)、温冷感(皮膚温度・深部温度・皮膚表面熱流など)の3者の関係を明確にすれば、エアコンをどのようにコントロールすればよいかが分かってきます。
 温熱環境を制御するには、人体の状況から睡眠時の温冷感を予測し、エアコンの設定温度にフィードバックできるようなシステムが必要です。手順としては、@部屋の環境や寝具をこんなふうにすると人体はどんなレスポンスをするだろうか、ということを知るための「人体熱モデル」の確立Aそこから人体が暑いと感じているのか、寒いと感じているかを知る「温冷感予測モデル」の確立Bそれらをモデル化できたらエアコン運転プログラムに適用する、という形になります。
 そこでまず、寝室を模した実験室で睡眠実験を行ないました。測定項目は、人体各部温度、寝具および室内の温湿度、血流量、発汗量、体動、体重変化量、脳波、眼球運動、頤筋電図、起床時アンケートなどです。一方、「人体熱モデル」では、人体を頭、胴、手、足部分に分け、なおかつ皮膚の部分、内部、筋肉と分けて計算しました(図3)。その結果は、実験データをそこそこ説明できるものとなりました(図4)。
 実験は、同一被験者について夏季に4回行なったのですが、うち2〜4回の内容を解析してみたところ、約6時間の睡眠時間中の温度変化がよく分かりました。額温度を見ると、3回とも眠り始めてから徐々に下がり、起床時にほんの少し上がっていきます。実験では細かいギザギザが見られますが、解析値はそれを平均的に再現できています。背中温度では、上がったのち下がるという傾向が見られますが、これも計算でほぼ再現できました(図4)。皮膚温度も同様です。
 この実験のように、適切な人体熱モデルがあれば、理想的には睡眠時の快適な温熱環境を制御するのに、人体各部の温度を測定する必要はありません。部屋の温度から計算して「今、人体は○℃です。暑く感じているはずですからエアコンを下げましょう」というようなことができるわけです。

■最後に:睡眠に関する補足
1)覚醒時と睡眠時の深部体温の違い
 快適な睡眠というのは、深部体温が眠り始めてから下がっていき、起きる前に少し上がるような状態だといわれています。だから寝ているときにそうなるようにすればよいのだという解釈になるのですが、実験データでは、被験者が横になった後、睡眠前と睡眠中の直腸温変化の傾きに違いが見られません。これはどういうことかといいますと、単に代謝量(活動量)の違いが深部体温に表れているだけと解釈されます。つまり、体温が下がればよく寝られるというより、寝て体を動かさなくなったから深部体温も自動的に下がっただけで、快適な睡眠環境とはあまり関係がないと言えましょう。
 同じことが人間の1日の温度サイクル(サーカディアンリズム)にも言えるかもしれません。サーカディアンリズムの温度曲線は、朝方最低になって日中に上がり、また下がっていくのですが、よく見ると下がって、キュッと上がって下がります(図5)。これは、朝起きて動き始め、日中は大体一定していて、夜になるとまた活動量が減るという、人間の代謝の変化を表しているだけと見ることもできます。活動量の変化を考慮し、その分を差し引いてもなお、ほぼ24時間周期の変動があるなら、それこそが人体に備わったサーカディアンリズムなのだと思いますが、これまでの実験データを見るかぎり、あまり考慮する必要はないのではないか、と私は思っています。
2)快適な睡眠環境の個体差をどう考えるか
 暑さ・寒さの感じ方には個体差があります。多くの被験者に好みの室温を選んでもらった実験データでは、26、27℃を選ぶ人が最も多い一方で、24℃や30℃を選ぶ人もいます。これほど感じ方に差があると、個々に快適性を追求するのは非常に難しいと思われるかもしれませんが、私の考えは逆で、睡眠環境の研究というのは自由度が高くてやりやすいと思っています。個体差は、あるのが当たり前です。それを前提にしかるべき寝室や布団を設計するのは、とてもやりがいのあるものです。
 個人差のあるものを設計するのは、設計者にとって夢のあることだと思います。バラつきがあることがすなわち面白いからです。もしなければ、ひとつのものを設計すれば事足ります。人には色々な好みがあるゆえに、どうすればそれに対応できるかと頭を使うのが、まさに設計行為の醍醐味でしょう。そういう意味で、睡眠環境というのは面白い対象だと感じます。


「エネルギー効率に配慮した住宅設計について」
 大和ハウス工業梶@総合技術研究所
  地球温暖化防止研究グループ
   省エネルギー技術研究チーム
   課長 工藤 隆一 氏

資料はこちら(PDFデータ)


■「家庭の省エネ=冷暖房の節約」か?
 家庭の省エネというと、多くの人は冷暖房による消費が最も大きいと考え、その節約が大事だと答えます。実際には、一番多いのは照明・家電など(37%)で、冷暖房(29%)は給湯(27%)と同レベルです。
 さて、われわれ住宅メーカーが商品の省エネを考える場合、ベースとなるのが熱損失係数(W/uK=Q値)を指標とする住宅の省エネルギー基準値です(図1)。現行の基準は1999(平成11)年に出された「次世代省エネ基準(等級4)」ですが、そのW・X地域(関西など)に適合する数値は、約30年前の「旧省エネ基準(等級2)」で一番厳しい数値と変わりません。要求水準がそれだけ上がっているわけですが、これをクリアしているのは戸建住宅全体の20%程度でしょう。
 住宅の省エネ化には、熱損失が最も大きい開口部の高断熱化がいちばん効果的です。しかし、いくら窓に高断熱・高遮熱ガラスを使っても、日射エネルギーの40〜50%は入ってきます。また、断熱性を高めても、そのためにエアコンを使いっぱなしにすれば、やはり省エネにはつながりません。当社の場合、夏の日射そのものをさえぎる外付けロールスクリーン、風をコントロールするためのトップライトや涼ナビという風路などを設け、住まい全体の省エネに努めています。

■高断熱高気密の省エネから総合的省エネへ
 先にも触れましたが、家庭の消費エネルギー中、冷暖房が占める割合は約30%。ですから、冷暖房の節約につながる高断熱高気密化の効果も、せいぜい3分の1から半分程度です。今後は、給湯や照明・家電を含む総合的な省エネ対策を考えていく必要があります。
 こうした発想から、去年の改正省エネ法では「住宅建築事業主の判断基準」が制定されました。これは、年間150棟以上の建売住宅を建設している事業主に課せられる届出義務となっていますが、断熱性能に加え空調、照明、給湯設備も考慮して一次エネルギー消費量を算定し、省エネルギー性能を評価するというものです。その評価は「基準一次エネルギー消費量(GJ/年・戸)」を「評価対象住宅の一次消費エネルギー消費量(同)」で割った基準達成率(%)で行われます。
 実際に、新省エネ基準(断熱性能=Q値4.2)と次世代省エネ基準(同2.7)で、達成率をシミュレーションした結果があります(図2)。新省エネ基準をベースにしたex-1では達成率は84%ですが、次世代省エネ基準まで断熱性能を引き上げると、他の性能はすべて同じでも達成率は96%(ex-2)となり、給湯をエコキュートに換えると107%となります(ex-3)。こうした総合的な省エネ性能の評価は、今後のわれわれが重点的に取り組んでいかねばならない分野だと考えています。
 一例となるのが、当社の越谷レイクタウン(埼玉県・戸建住宅132戸+マンション500戸)です。ここでは、街区全体でCO220%削減を目指し、地域の自然を最大限活用した全体計画を策定。環境省の「街区まるごとCO220%削減事業」にも採択されました。

■「設備の省エネ」にも積極的な取り組みを
 住まいの総合的な省エネを考えるには、設備の省エネも重要です。たとえば、エアコンの場合、機器効率(COP)が高いのは、能力(Kw)の小さい機種です。つまり20畳の部屋なら、6.3Kwの20畳用エアコン1台を低負荷運転するより2.5Kwの10畳用2台をフル稼働させた方が省エネになるということです(図3)。また、断熱性能が高い住宅では、大型エアコンは必ずしも必要ではありません。
 さらに、住まい方によっても冷房エネルギー消費は大きく異なります。関東圏の当社住宅5世帯で8月の冷房エネルギー消費量を調査したところ、建物規模も断熱仕様も気象条件も同じなのに、最多世帯と最少世帯では10倍の開きがありました。最少の世帯にヒアリングしたところ、別にガマンをしているわけではなく、風通しがとてもよく涼しいから、とのことでした。このお宅では、トップライトを開けて風を通しておられたのですが、そういうことをご存じないお客さまも多く、当社の情報提供の不十分さを痛感しました。
 こうした経験から、当社では「ECO研究レポート」「今月のCO2家計簿」など、省エネサポートサイトを展開。オーナーの方々に向けて、省エネのための暮らし方提案やアドバイスを発信しているところです。

「住宅向け高効率設備の最新傾向」
 ダイキン工業
  空調営業本部 カスタマーサポートセンター
  環境サポートグループ 武内 伸勝 氏

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 住空間には、快適性と省エネ性を両立した室内環境が必要です。私たちは、人の健康、家の健康、安全・安心、省エネ・環境などをキーワードに、空調の“温度・湿度・気流・清浄・高効率”を高次元でコントロールした商品を提供し、社会のニーズにお応えしたいと考えています。

■気流技術:ムラなく風を送る「4方向気流」
 当社では、気流、湿度、温度、清浄・清潔という空気調和の4要素を高い次元でコントロールする理想のエアコンを目指しています。しかし、エアコンの8割は部屋の隅に置かれ、部屋の形状もさまざまです。お客さまからも、設置場所や部屋の形に関わらずムラなく空調したいなどの「不満」の声が多数上がっています。
 そこで開発されたのが、従来の気流に無風感気流や左右からの気流も加えた「4方向気流」です。部屋全体を包み込む気流が、風を感じさせずに快適環境を実現する「風ストレスフリー」空間を提供します。
 実証実験では、外気温2℃、室温2℃の部屋で暖房を開始し、室温22℃になるまでの時間を比較。従来モデルに比べて、温度ムラもなく約15分早く快適温度に到達し、約20%の省エネ効果もありました(図1)。

■調湿技術:「うるおい加湿」「自動除湿切り替え運転」
 適度な加湿は体感温度に好影響を与え、ウイルス抑制やのど・鼻の粘膜保護にも有効です。しかし、24時間換気が義務づけられている一般住宅では、冬場の乾燥が問題です。当初50%だった室内湿度が12時間後には34.5%まで低下するという測定結果もあります。
 そこで当社が採用しているのが、デシカント式の「うるおい加湿」です。空気中の水分を気体のまま取り入れ、温風にのせて室内に送るため、給水の手間も不要です。
 一方、除湿技術では内外の湿度によって自動的に運転を切り替える機能をエアコンに搭載しています。冬は「給気除湿」、梅雨や夏の夜間は「再熱除湿」、真夏は「冷房除湿」と、自動で切り替えるエアコンは当社だけです(図2)。

■気流技術+調湿技術:省エネ性向上と美肌効果
 人の体感温度は、湿度や風に影響されます。たとえば、湿度50%の部屋では、冷房時の設定温度が28℃でも体感温度は25.7℃に下がり、暖房時には逆に上がります。また、風速が毎秒1m増すごとに体感温度は約1℃ずつ低くなります。つまり、湿度と気流を制御すれば、快適さを保ったままの省エネが可能です。当社の最新製品では、「4方向気流」と「うるおい加湿」の融合により、一層の快適・省エネを目指しています。
 また、エアコンによる乾燥は、シワなどの悪影響をお肌に及ぼしますが、当社の「美肌暖房」「美肌冷房」では、通常の加湿暖房や除湿冷房より約5〜10%湿度をアップ。風を感じさせずに加湿でお肌に潤いを与え、キメの整った状態に保ちます。こうした“お肌に良いエアコン”も、当社のコンセプトのひとつです。

■ヒートポンプ技術:省エネ基準の達成にも貢献
 改正省エネ法の施行に伴い、省エネ基準の達成率が建売住宅にも義務づけられるようになりました。当社も空調メーカーとして、建売住宅への省エネ設備の導入が重要になってくるだろうと考えています。
 注目しているのが、当社のヒートポンプ技術を活かして省エネ性を高めた家庭用エコキュートです。今は家庭用給湯器全体の11%を占めるだけですが、オール電化の普及による一層の発展を期待しています。
 また、環境性能にすぐれたヒートポンプ式温水床暖房システムも開発しており、この面でも省エネ基準の達成に貢献できるのではないかと考えています。

■ストリーマ技術:新型インフルエンザにも対応
 当社では、秒速2,000km相当の高速電子でウイルスや有害化学物質を分解・除去する「光速ストリーマ」技術を開発しました。これは、一般的なグロー放電の1,000倍以上もの分解性能を持つストリーマ放電を利用した空気清浄技術です。
 実証実験では、3時間で鳥インフルエンザウイルス、4時間で新型インフルエンザウイルスをほぼ100%除去しています。
 当社では、この技術を家庭用の空気清浄機やエアコンに搭載。吸引したウイルスや化学物質を吸着分解し、クリーンな空気を放出します(図3)。また、人の集まる場所でのニーズが高いことから、オフィス向けの業務用エアコンにも展開しています。
 
 
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