2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
ホーム お問合せ
会員団体出展者専用ページ 協会の概要 会員名簿 業種別名簿 品目・業種別分類表 統計資料 関連リンク
建材情報交流会ニュース
  第12回 建材情報交流会 建築材料から“環境”を考える
 「安全・安心 PART-V” −これからの耐震を考える−」

*機関誌「けんざい」掲載分です。ホームページ用に再編集しておりませんのでご了承ください
  
掲載情報は全て著作権の対象となります。転載等を行う場合は当協会にお問い合わせください。

「より高度な耐震建築を目指して」
 −性能明示による建築耐震設計の高度化と合理化−

 京都大学 防災研究所地震災害研究部門
 教授 中島正愛 氏
要求と能力の相対関係によって決する「安全」
本日は5つのトピックに沿って話します。
1. 兵庫県南部地震による建築被害の様相
2. 東南海・南海地震への備え
3. 建築構造物の耐震能力評価に資する実験研究
4. 免震・制震建築の仕組みと実践
5. 究極の耐震性能実験
10年前の阪神・淡路大震災で奪われた約6,400の尊い命の90%は、建物の倒壊によるものでした。また10兆円以上とも言われる物的被害額のうち約6兆円が建物関連であったことからもおわかりのように、この震災における建物の責任は重大です。
何が「安全」で何が「危険」なのかは、すべて相対的なものです。「安全」とは、要求(地震力)よりも能力(抵抗力)が大きいことで、同じ強さの建物でも地震が大きすぎると安全ではなくなります。一方同じ地震の揺れでも、建物が弱すぎるとやはり安全は確保できません。
先の大震災の被害でも、隣同士の建物が10倍も違う大きさの地震を受けたかのように壊れ方に差がでた例があります。また、外見は無傷でも内部の壁が大きな被害を受けている場合もあります。これは二段階の地震力を考える日本の耐震設計特有の事情で、大きな地震に対してはある程度の被害を許容しています。
大地震への備えとしての実験情報の蓄積
江戸時代以降の記録では、ほぼ100年に一度の周期で東海、東南海、南海地震が繰り返されており、21世紀なかばまでにこれら大地震が再来することはほぼ間違いありません。これら大地震が来るまえに、人命保護や資産保持の立場から、我々にはいろいろな備えが必要です。特に、日本の町中に溢れる膨大な建築ストックの耐震性向上、これから造る建物に対する耐震設計施工の高度化は焦眉の課題です。
そこで重要な役割を果たすのが実験研究です。特にこれからの実験研究に求められるのは、建物が最終的に壊れてしまうまでの耐震能力に対する詳細なデータの蓄積です。設計ではこれだけの力に耐えるように設計しなさいと規定しています。ただ、例えば100の力に耐えるように設計するとして、その先はどうなるのでしょうか。101の力でもろくも倒れてしまうのか、それとも200や300の力まで大丈夫なのか。「これ以上」と規定されている先にどれだけの余力があるのか。つまり人の命を守れるぎりぎりの限界がどこにあるのかを常に意識しなければなりません。これからは「これだけの力に耐えられるから大丈夫」と言うだけでは不十分で、ここまでしか耐えられませんという上限にも目配りが必要です。
構造物の耐震力を調べる実験には幾つかの方法ありますが、静的実験が最も一般的で、たぶん構造実験の99%を占めるでしょう。例えば、柱に地震力に相当する力をぐいぐいとかけていき、どこまで耐えるかを調べる実験です。震動台実験は、地面に見立てた台を揺すり、上に置いた模型が壊れていく様子をみるという、仕掛けは至極単純ですがとても高価な実験法です。震動台実験装置は世界各地にありますが、そのなかでも最も大きな4基は日本にあります。
この2つの中間的な実験にオンライン応答実験という方法もあります。これは、コンピュータによる数値解析と静的実験を組み合わせて構造物の揺れをゆっくり再現するものです。
技術の検証と新技術の導入
多数の柱や梁からつくられる構造物の挙動は複雑で、柱や梁一本を対象とした部材実験からだけでは分からないことも多いのです。また縮小模型では、最後に崩壊していくさまを正しく再現できないので、実物大の実験が必要です。京都大学構造実験棟には、実大規模の建物を載荷できる実験装置があります。ここでは、床を揺らすのではなく油圧ジャッキで揺れを模擬します。一昨年私達は、この装置を使って実大3層鉄骨骨組に対する実験を実施し、崩壊に関する実験情報を得ました。
実験情報の蓄積がなぜそれほど大事なのでしょうか。耐震力や地震による建物の揺れを予測するために、解析や数値計算などさまざまな予測手段が提供されていますが、いかなる手段もその「確からしさと限界」は検証されなければならず、そこでは蓄積した実験データとの照合が不可欠です。
次に、耐震設計や施工の高度化には何が必要でしょうか。どんな新技術もそれが実践に供されるためには、社会に受け入れられなければなりません。ところが新しい技術というのはなかなか受け入れられません。それは値段が高くなるからです。値段は変わらないけれども高い安全性が得られるのだという確証が得られたとき、初めて実践に使われます。また新技術が受け入れられるためには、技術の成熟、装置、製造、流通などに関する人的物的資源の確保も必要です。「もっとお金を使えばよいものができる」などと言っている段階では、実践に対して何らアピールすることはできません。
国家的命題である防災技術の普及と実践
「究極の検証手段」を提供する施設として、兵庫県三木市の防災公園内にある兵庫耐震工学研究センター(通称E-Defense)が挙げられます。このセンターがもつ世界最大の震動台は、実大規模の木造住宅や数階建ての鉄筋コンクリート建物がどう揺れてどう損傷し、崩壊するのかをとことん調べることができます。20m×15mの震動台を3方向からアクチュエーター(動力を加えるもの)で動かします。縮小模型ではなく実際の建物を対象とし、単純化した載荷ではなく実際の揺れを与えることから、まさに「本物の情報」を獲得することを可能とします。この施設は今秋から本格稼働する予定です。
防災技術の向上には多大な人的物的投資が必要です。またいくら「造る」技術があっても、それを実践に反映させるためには、技術を駆使できるポテンシャルをもつ産業界の存在が不可欠です。この多大な投資を社会が許容するかどうかが、冒頭に示した東海・東南海、南海地震への備えを決します。

「木造軸組用接合金物の現状と今後」
 (株)タナカ 住宅資材事業部
 開発部 課長代理 松浦建二氏
資料はこちら(PDFデータ)
大震災を境に接合金物が注目
10年前まで、つまり阪神・淡路大震災を経験するまでは金物業界というのはあまり注目されていなかった、というよりも見向きもされていませんでした。震災を境に住宅の補強用金物などが注目され、どんどん出始めました。
昨年の新潟県中越地震の揺れや規模は神戸のときと同じくらい、いやそれ以上、などいろいろと言われていますが、建物や死傷者数でみた被害のひどさは、世帯数・地域の大きさなどで違ってはきますが、大体神戸を100としたとき、その3%ほどでした。
断言はできませんが、10年前より補強金物が普及し、家を補強する対策がとられていたからだろうと予想されます。
神戸の震災では、一般の民家で地震を想定した補強などしていなかったため、かなりの家があっけなく壊れ、大きな家具や壁の下敷きになって亡くなった人が多かった。今や、「接合金物」は必要不可欠になっています。
5年前の平成12年(2000)に「木造軸組工法の継手及び仕口の構造方法」について出されたのが、いわゆる建設省告示1460号です。ここでは筋かい端部の接合方法、柱脚・柱頭の接合方法について仕様が明確化されました。この告示に定められた仕様はあまりに細かく、ここまで決められてしまったら家が建たないと言われたほどでしたが、その仕様には従わなければなりません。
昭和50年頃から財団法人日本住宅・木材技術センターが認定しているZマーク金物および同等認定品でも、告示1460号の規定に対応していれば使えることになっています。当社の製品でいうとZマークが「引き寄せ金物S-HD」「筋かいプレートBP-2」、同等認定品が「ホールダウンU」(前者と同等)、「ニュー2倍筋かい金具」(後者と同等)などです。
告示1460号の厳しい仕様どおりに施工しようとすると確かにオーバースペックになってしまい、やりづらいのが事実です。そこで、簡易的な計算方法のN値計算をすることによって、告示1460号のオーバースペックを若干軽減することができます。また、構造計算をすることによって、さらに軽減できると思われます。
従来3階建てでは当然していた構造計算をそれよりも低い建物でも行ない、しっかりと証明してから家を建てるようにするべきであるという国の意図が同告示にはあると思われます。
用途にあった金物を決められた使用法で施工
現場での金物の使われ方をみると、決められたように取り付けていないことがよくあり、特にZマーク金物に多いのです。これは接合具がそれぞれ別売りのため起こります。正しい取り付け方をしないと明示された性能が出ず、筋かいが外れたり柱が抜けたりとんでもないことになってしまいます。こうしたことを避けるため、これまで別売りされていたものが一緒に売られる方向になりつつあります。
商品として金物単体は残っていくでしょうが、新築は減ってくるので、これからはリフォームで考えることになるでしょう。ただ、現在リフォームの世界は実用的な部分がメインで、展示会などをみても構造的な部分のブースは限られています。いずれにせよ、リフォームで耐震を講じるならば、耐震診断の結果、家のバランスをもとに補強ポイントを考えるなどの細かい検討が必要でしょう。
今後は、他品種の建築材料に応じた適切な金物の選定、使用法・施工法の理解という2つの基本的なポイントを心がけていきます。当たり前のことですが、いちばん重要です。

「免震住宅について」
 大和ハウス工業(株) 総合技術研究所
 主任研究員 森 俊之
資料はこちら(PDFデータ)
「揺れ」そのものを低減するのが免震
日本列島は地表の4枚プレートがひしめきあうところに位置しています。大阪府下の断層系地震で想定される被害は表1(大阪府の表)のようになっています。地震は必ず起こるという認識のもとに、個人レベルを含めさまざまな対策が必要です。
耐震構造と免震構造の違いを簡単に説明すると、歯を食いしばって揺れに耐えるのが「耐震」、さらりと揺れを受け流すのが「免震」です。耐震構造の家は筋かいを使って補強しています。振動は家にそのまま伝わり、大きく揺れます。免震構造は建物と地面の間に免震装置を組み込み、建物の揺れは抑えられます。
免震構造の種類は3方式に大別されます。1つめは積層ゴム方式といい、ゴムの弾性によって揺れを殺すものです。同方式はビル、マンション、橋脚などで多くの採用実績がある一方、戸建てのような軽量構造物には不向きと言えます。
2つめはすべり方式。基礎と上屋の間に樹脂製のすべり材やすべり板を組み込み、地面の揺れに応じて板がスライドします。これは軽い建築向きです。摩擦の度合いが高いので免震性能は比較的低いが強風のときは動きにくいという点があります。
3つめの転がり方式は、免震部分にボールが装着されており、それが転がって揺れを抑えるものです。これも軽い建築向きで、摩擦が少なく高い免震性能を発揮します。ただ、強風のとき動きやすいのでストッパーが必要です。
免震で神戸クラスのゆれが約10分の1に
神戸の地震で住宅被害が著しかったのはご承知の通りですが、当社も含めた工業化住宅を手がける主要プレハブメーカーの家で全半壊はなかったことは自負しております。とはいえ揺れ自体は相当激しいものでしたから、家具が倒れ、室内は散乱して住人に大きな影響を及ぼしました。近い将来来る地震に備えるためには、免震住宅が必要なのです。
当社の免震住宅で実物大振動実験を行なったところ、阪神・淡路大震災クラスの地震が起こった場合、免震していない住宅と比べて約10分の1も揺れを小さくできるという結果がでました。これは震度でいうと、震度6強が震度4相当まで低減されていることになるのです(表2:神戸波実験結果の図)。
大阪近辺でも南海地震そのほかの地震の脅威はあり、備えは絶対的に必要です。阪神・淡路大震災級の揺れを約10分の1に抑えることができる免震住宅をもっと普及させるためにはさらなるコストダウンが必要であると同時に、建設地盤条件が緩和されることも必要だと思います。

「内装ボードの耐震不陸調整接着工法」
 コニシ(株) ボンド事業本部
 大阪住宅資材部 福良正臣氏
資料はこちら(PDFデータ)
地震でも脱落しない内装が接着剤だけで
本日は耐震がテーマなので、当社の内装ボードの耐震不陸調整接着工法をご紹介します。これは「ボンド・アジャスター工法」といい、「ボンド・アジャスター」(写真)を壁の躯体面に取り付け接着剤を注入して、そこにいろいろな内装ボードを取り付けるという新しい工法です。
M7.2の阪神・淡路大震災で、耐震対策がなされていなかった多くの住宅の内装材がことごとく脱落してしまったことを背景に開発されてきました。
同工法は、「ボンド・アジャスター」を1次接着と2次接着の過程をふんで壁に吸着させますがその手順は極めて単純です。そして上からじかに仕上げ材を貼り付け面全体の不陸(高さ違いがあること)を調整します。注入する接着剤は弾性を保ち続けるので振動があっても躯体の動きを吸収してくれます。したがって、外壁に面した内壁、間仕切壁、マンションの界壁、階段室、エレベータ回りなど動きのある躯体面に大変有効です。
簡単・高性能・安全を兼ね備える
同工法の特長について、もう少し詳しく説明します。
まず第1に施工が簡単です。アジャスターは特殊両面テープで躯体面にくっつきます。アジャスター本体内部に専用弾性接着剤「ボンドRS-1」を注入、これで躯体と勘合部への接着剤一発注入ができます。そして内装材と接するアジャスターの面にも接着剤を塗布し、内装材を貼り込むのです。GL工法などはボンドを水で練ることから始めなければならず、手間でしたがこちらの場合は少ない労力と接着剤で最大の効果を出します。養生時間は一晩で工期が短くてすみます。
アジャスターは躯体面を不陸調整するので、タイプによって最大32mmまで、20mmの不陸に対応します。
第2にその性能。面内変形追従性能といって、接着剤の弾性で建物が振動しても内装ボードとの応力を緩和し、脱落しにくくなる。ALC(SDR縦壁構法)という下地を用いた大型面内変形試験でもその性能は確認されています。
さらに同工法で施工した壁は遮音性能、断熱性能も高く、結露を誘発することがありません。施工時も特別な工具は一切使わず接着剤だけですから当然無音です。
第3に、安全性にも優れていると言えます。結露が生じない理由はプラスチック材料を使用しているためです。加えて施工のときに水は使わないのでカビが発生するのを抑えることができます。
接着剤という性質上、施主にシックハウスへの不安が生じるかもしれませんが、「健康住宅研究会」の優先取組物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、可塑剤、木質保存剤、防蟻剤など)、厚生労働省指針値策定の13物質は一切使用していません。また労働安全衛生法・消防法でも危険物の規制を受けませんし、F★★★★で使用面積制限もないので安心して使っていただけます。
「ボンド・アジャスター工法」をご紹介したのは、地震の際に内装ボードの破損や脱落を防止する対策として、ぜひ知っておいていただきたかったことと、100年以上の耐久性を求められる現在の建築で不可欠なリフォームという点においても、躯体を傷めずに取り外せるものを使うことも建築材料を選ぶときの大事な条件ではないかと考えたからです。
建材情報交流会ニュース一覧へ

Copyright (C) 2007 JAPAN BUILDING MATERIALS ASSOCIATION. All rights reserved.