2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
「アジアと生きる、今がチャンス!」
— 台頭するアジアの諸国にどう向き合うか、KEYは内なる国際化と多様で個性的な付加価値創造 —

関西日本香港協会 副会長 田中 義次 氏

地球規模で急速に進む価値観の変化
 今、価値観の変化が地球規模で起こっています。市場や商品、経営、技術、情報……ローカルからグローバルへあるいは少品種大量から多品種少量へ(図1)(図2)。
 物流の活性化を考えるとき、最近顕著で恐ろしいことがあります。人がどんどん減ってくる一方で「アマゾン」「セブン&アイ」「アリババ」などが伸びています。百貨店は四苦八苦です。アマゾンなどによってどれだけ物流が変わったでしょうか。買いたい服があれば、百貨店で試着してアマゾンで買うなどは珍しくありません。これから百貨店はますます大変になるでしょう。
 銀行も同様です。支払い方法がどんどん変わってきている。銀行業界は人気が落ちて、採用が減っています。変化の背景はインターネット。最近は特にそう思います。販売も、日本だけではなく一瞬にしてタイやアメリカで売ることが可能です。
人流の活性化で大阪のエネルギーアップへ
 京都に美山という所があります。あまり知られていない場所でしたが、今行くと台湾の人が大勢押し寄せています。最初に訪れた数人の台湾人観光客がSNSに載せたことがきっかけだったとか。今は新聞やテレビを見ない人が多いので宣伝効果も薄く、メディアの位置付け自体も変わってきていると思います。
 私には“アジアの中の大阪”への思いが強くあります。大阪は徹底的に東京と違う考え方を持ったほうが良いと思います。このほうが東京と大阪の強みがさらに発揮でき、両立の中で日本の推進力が増大すると考えます。関西には京都、奈良、和歌山と素晴らしい世界遺産があり、関西特有の力で関西なりの自立が可能です。そして、「関西広域連携」がKEYですが、そのわりには、今までの私鉄同士と同じでちぐはぐな連携(同床異夢)が少なくありません。これが変革されれば、大阪のエネルギーは格段にアップすると思います。2019年の大阪なにわ線での阪急・JR・南海の連携に大いに期待しています。
 今は東京より大阪の方が外国人に人気があります。黒門市場には東南アジア人が多いです。皆さんもたまには歩いてみてください。全然違う世界かもしれませんが、違う世界とコラボするからこそ新しい発想が生まれるのです。建築だからこうだ、という考え方でやっていては将来はないでしょう。どう発想を変えて展開していくかが大事です。
中国を知る・中国の中に入っていく
 関西日本香港協会は中国だけでなく、アジアとのゲートウェイとなる組織ですが、やはり中国人の存在は無視できません。中国人のマーケットを引き込むか、入り込むか。入り込むならどんな手法をとるのか。中国という場所にふさわしい戦略を身に付けなければなりません。
 私が中国に駐在していたときに感じたことですが、海外では日本人同士で固まっていることが多いのです。もっと中国人の中に入っていかないといけないのに。そのためには語学が必要です。「この歳になって……」などと言っていられないと思います。
 人脈は重要です。人・モノ・金・情報の四原則の一つ。日本では会社を退職すればつながりがなくなる人が多いですが、ビジネスの場においてだけではなく、人とのつながりは大切です。中国では、オーナー的な企業としての考え方の中で仕事をしている人が多い。特に華僑がそうです。華僑はアジアに約3,000万人おり、個々がものすごいチャンネル(販売経路)を持っています。
 深圳(しんせん)は私が行った当時、まだ人口数百万人程度でしたが、今や約2,000万人です。いいか悪いかは別として、現実に人口が増えて経済が興り、ビジネスが発生しているのです。欧米は完全にそこに入って行っています。日本も、こんなに近くにあるのだからもっと入って行けるはずです。中国を研究している人は多いですが、実践的ではありません。大学研究者は世間とずれています。大学の学者・研究者の意見の中には学者の立場もあるのでしょうが世間の実情をあまり考慮されていない場合が少なくありません。私も10年ほど大学で教鞭をとったことがありますが、痛感しています。この意味で産官学の実戦的で具体的な連携が地方を含め新しい形で推進されることが必要と考えます。
 実際に現場を見てきた人たちがリーダーシップをとるべきでしょう。そして、スティーブ・ジョブズも言っていましたが、やはり若者が変えていかねばなりません。日本を動かした人物、例えば吉田松陰は32歳、坂本龍馬は35歳でした。
クルーズやクルーズトレインに見る材料と匠
 クルーズに乗ったことがある方はいるでしょうか。8年ほど前に大阪府立大学で池田良穂教授が「日本クルーズ&フェリー学会」を立ち上げ、私もメンバーになりました。それを機にクルーズに興味を持ち始めたのですが、世界の豪華客船に日本の技術や部品が全く生かされていないのです。もちろん日本郵船のクリスタル・シンフォニーなどの例はありますが。皆さんのような方々が、部材や部位などを考えてくれないだろうかと思います。
 これからもっとクルーズは増えてくると思います。造船会社が一度倒れかけて、持ち直したのはクルーズ船の製造があったからです。
 九州のクルーズトレインに見られる匠の技術や素材は、地域から掘り起こしたものです。皆さんそうして工夫されています。ぜひこのような取り組みを通して地域との関係性を深めてもらえればと思います(図3)。
 航空機も、今や3分の1くらいは日本でつくられています。鉄よりも強く、300℃でも燃えない炭素繊維強化プラスチックが非常に有名です。釣竿にも使われている材料です。このような、色々なところへ柔軟に多様性を求めていくということは皆さんの業界でも研究会が持たれているかもしれませんが、産官学連携で、実際に材料に携わる皆さんがブレインストーミングしたほうがいいのではないかと考えます(図4)。

海外市場を目指す日本ブランド
 今、日本茶が海外で売れています。ただお茶だけを売ればよいのではなく、付加価値が大事です。「『モノ消費』から『コト消費』への転換」といわれるように、お茶そのものを育てるところを外国人が観光しに来るというケースが増えています。
 大事なのはお茶の売り方です。外国人に日本のものを知ってもらうことによって、日本の文化に引き込む方法もあると感じます。飲み方や味わい方を知るとお茶の文化を理解してもらえるし、お茶によるイメージアップができるのです(図5)。
 京都での事例です。着物の帯をガラスコーティングして食卓に敷くのがフランスで人気だそうです。かなり高価なものです。
 同じく京都、風呂敷や手ぬぐいの老舗・永楽堂。そこの14代目が当協会の仲間なのですが、彼の親の代で会社経営に大きな問題を抱えたとき、ある機会に蔵に眠っていた昔の版下を掘り出してみたそうです。すると江戸時代の素晴らしいものが出てきた。そこで素晴らしい新しい展開に結び付いたようです。それら風呂敷や手ぬぐいのデザインを、色々なものの装飾に広げていきました。
 廃れてきた和傘を電球のシェードとして再利用し、インドでの販売に成功した例もあります(図6)。大切なのは、ある物を見てどこまで発想を広げられるかということです。
 最近、グローバルとローカルを合わせた「グローカル」という言葉をよく聞きます。「田舎だからグローバルなんて関係ない」なんて、あり得ません。今は日本の地方が海外の地方と直接リンクできて関係を深めることができます。それを情報源として活かさない、販売先として考えない手はありません。
日本の財産と価値をしっかり認識する
 日本で一番古い会社は金剛組です( 578年創業)。そういうことを一生懸命研究しているのがアメリカのハーバード大学です。アメリカ人は「絶えず変化し続けていかねばならない。その中に生きる道がある」と考えます。確かに変化することは大事で、そこにブランドの真髄があるのですが、日本は意外とその辺りが抜けており、そこを研究されてしまって負けるわけです。多様性を理解するのは難しいですが、日本人が持っている宝はたくさんあります。
 東京オリンピックの年には訪日外国人を4,000万人に、という目標が掲げられています。どんな人が来てどんな反応をするのか。皆さんの業界でも、外国人に日本の家を見てもらえるよう引き込んではいかがでしょう。ビジネスにつながるはずです。
 観光庁のように、「来てもらうだけで」喜んでいる方々もまだ多いのです。しかし、彼らにはどんな特徴があって、どんなふうに買い物や日本の生活をとらえているのでしょうか。
 中国人は2回来ると、そのうち8割はリピーターになっています。香港の人は、5人に1人が年に5回来ます。台湾も多いです。また最近は、特に韓国からは子連れが多くなっています。日本が安心・安全の国だからです。これは日本人の財産といえましょう。
 この財産に気付かない、つまり当たり前だと思っている若者が多い。われわれの先祖が延々と築き上げた財産の価値を、感謝を持って認識すべきだと思います。日本人の普段の姿を見たい、日本人が普段行くところで買い物をしたい、そう考えるアジア人は非常に多く、アジアではまだ日本の優位性はあると思います。
呼び込みたいなら、ターゲット国を体感すべき
 大阪観光局の方が中国の人をもっと呼び込みたいという検討会に参加したことがありますが、そのために色々なことを考え、パンフレットなどを発行されていました。色々と見せてもらったのですが、現在は中国人の意見ではあまり官公庁が発行するものを見る機会は少なく、SNSで個人が発信したものを見るほうが分かりやすくて早いのです。情報の発信には現状の実態を常に把握した効果的な方法が求められるようです。
 中国には約56の少数民族があり、一つの民族で約3,000万人いる場合があると言われています。このような民族に対する感覚を日本人は持っていません。全く異なる民族といってもいいぐらいで。別の国の人に近いかもしれません。北海道と沖縄の差以上と私は感じました。国を体感するのは難しいものです。体感する中で、魅力の発信のしかたや創意工夫ができてくるものだと思います。
 旅行会社も今必死です。これまで手数料でやってきていたものが、旅行者がダイレクトに航空会社など交通機関とつながると、旅行会社としての存在意義がなくなります。宿泊施設も、インターネットで簡単に探せて、料金の比較もできて、予約ができます。特に若者の間では、自らのスタイルで旅行計画を立て、従来の著名な観光地を巡るだけではなく、五感で経験して自らの可能性を旅で見つけ出そうとする指向が高まってきました(図7)。旅行会社側はこの流れへの対応が遅かった。「そうはいうものの……(まだ大丈夫だろう)」という意識から抜け出せなかったのです。
シェアビジネスと個を重視したサービス
 シェアの文化が近年広まっています。ライドシェア(相乗り)サービスのUbe(r ウーバー)や自分の家の部屋を貸すエアビーアンドビー(Airbnb)。まだ色々な問題はありますが、確実にシェア文化は強まってきています。若い人の考え方、価値観がどんどん変わってきているのだと思います。多品種・少量をもっと極端にして、一人ひとりの個性に対応しないと商売が成り立たなくなってきます。
 Airbnbには旅館業が敵対しており、旅館業の事業計画の中にAirbnbを制約するようなことを書いているのを見たことがありますが、反対にタイアップできないのかと思います。
 私は大手ハウスメーカーに頼んで家を建てましたが、家内が非常に不満がりました。家を設計する場合、昼と夜でどう違うか、周囲の家はどんな感じか、さまざまな環境や要素を見てデザインする必要があります。ただ建てても、それは単なる箱に過ぎません。家という生活空間を楽しめる設計ではなかったわけです。大手他社では、担当者が完成後も毎年要望をうかがいに訪れると聞いて、私は自分の担当者に「お宅は建てたままで、後は何のフォローもないんですね」と言いました。するとようやく去年からそれを始めました。そのことによってそのハウスメーカーのビジネスは広がるわけです。
平等、均等、一律の時代は終わりつつある
 格差が広がるのはやむを得ないでしょう。例えば勉強をする人としない人の格差。ニューヨークに住んでいたことがありますが、ニューヨークでも、裕福なエリアには警官の数も多く、パトロールもきちんと行われ、保険料が低いのです。スラム街では当然警官も少ないわけですが、日本ではそんな不平等なことは許されないでしょうし、大きな社会問題になります。
 いいのか悪いのかは別として、日本でもいよいよ、みんな平等、均等、一律というのが無理な時代にさしかかっています。厳しい言い方をするなら、競争の世界に飲み込まれているのだから、それが嫌なら教育、訓練をせざるを得ないのではないかと痛感するのです。アメリカでもヨーロッパでも、そのような人々を尊敬する世の中もあるのです。とはいえ、日本ではなかなかそうはいかないかもしれません。
 少し中途半端になってしまいましたが、この辺りで締めさせていただきます。皆さん、ぜひ大阪のために頑張ってください。
 
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