2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
「おかねの話」

AT コンサルティング 辻 哲彦 氏(元独立行政法人ジェトロアジア研究所IDEAS教授)

信心にもとづく価値、それがおかねの本質
 本日の副題は「私の見るおかねの世界」です。仕事での海外経験から学んだことをお話いたします。
 おかねの価値は、“支払いに使える”という約束にもとづく信心です。素材が金、銀、紙、液晶画面であっても、信用が刻印されたものがおかねなのです。そして価値は使う人が自分で決めるものであって、発行体が具体的な価値を保証するものではありません。つまり信心がなくなれば価値が消滅するはかないもの、それがおかねの本質です。でも、そういうものに人間は踊らされています。
規制緩和で、悪しき構造がつくられたアメリカ
 2011(平成23)年の『フォーブズ』誌に、世界のかね持ちが発表されていました。1位はメキシコの通信王で資産がなんと5.52兆円。2位がビル・ゲイツで4.88兆円です。4兆円、5兆円といえば、リビア、スーダン、クロアチアのGDPに相当します。
 リーマンショック前に稼いだアメリカ人のリストもあります。2007(平成19)年の年収です。ゴールドマンサックスの会長が7,370万ドル、リーマンブラザーズのトップが7,190万ドル。みんな破綻した会社です。破綻した会社の人がこんなすごい金額の報酬を受け取っていたんです。
 1億280万ドルを稼いだ、カントリーワイドという大手住宅ローン会社のアンジェロ・モジーロは、ご存じのサブプライムローンを売りまくったとんでもない人物です。返せるあてのない人に、うまいことを言ってローンを売っていたのです。
 会社というものは、後々必ず爆発する時限爆弾のようなリスクを抱えていても、その場その場で、もうかっていれば払ってしまいます。それを取り返す方法はありません。金融緩和された制度下では、法律違反にならないんです。アメリカでは、日本のように、モラル的におかしい、といった判断はされず、法律に違反しているかいないか、それだけです。
 なぜ規制が緩くなったのでしょうか。そこにはアメリカの“悪のトライアングル”があります。アメリカにも、たとえば財務省のような金融規制当局があります。ところがそこの長官やトップの人間たちは、みんな金融界からの引き抜きです。そして規制当局での役目を終えると、また金融界へ戻り、高額の報酬を受け取ります。アメリカではこれを“回転ドア”と表現しています。そこにからんでくるもう一つのトライアングルの一角が学界です。ハーバード大学やコロンビア大学といった立派な大学の教授が、金融緩和を検討したり、新しい金融商品の開発に携わったりしています。このトライアングルが悪しき構造をつくってきたというわけです。
 一方で、世界には1日1ドル以下で生活している人が10億人もいます。なぜこんなべらぼうな差が生まれるのか。突き詰めていえば、おかねの過剰流動性にあるでしょう。
おかねの過剰流動がバブルとバブル崩壊を招く
 世界のGDPと世界の金融資産を比較したデータがあります。2002(平成14)年、世界のGDPは33兆ドルであるのに対し、世界の金融資産は123兆ドル。その差3.7倍です。実体経済をはるかに超えて、おかねが過剰に流動している現状があります。(図1)
 おかねの渦は、人間の強欲、貪欲というエネルギーとして還元されます。人間の強欲、貪欲に伴なって現れる現象は、「はしゃぎ」と「恐怖」です。つまり、バブルとバブル崩壊が繰り返されるのです。この繰り返しの中で、プロはさっさと逃げ、素人が悪いカードをつかむわけですね。
 バブルの本質は、過剰流動性の結果です。そしておかねのもう一つの現象、インフレ。ケインズは「政府はインフレによって恣意的に市民の富を没収できる」と言っています。政府は本質的に財政拡大志向です。そうさせないために、近代国家運営では独立した中央銀行を設立しました。日銀がインフレ目標などといっていますが、本来日銀はインフレと戦い通貨を安定させ、経済を活性化する役割を持つべきなのです。
お金の歴史——信用経済の拡大と金本位制
 次に、おかねの歴史を見てみます。おかねの定番である金、銀、銅などの金属は、資源の希少性から通貨としての適性を持ち、通用するようになりました。15世紀前後の、スペイン繁栄のもとは南米からの銀でした。おかねと金属の関係が断ち切られる時代が来て、紙のおかねが流通し始めます。しかし通貨の供給量が増大すると、副作用としてインフレが起こります。そしてインフレ対策としてまた金本位制になり、第一次・第二次の世界大戦を経て、ニクソンショックが起こります。結果、主要な経済国は1973(昭和48)年から変動相場制に入り、今日に至ります。
欧州を危機に陥れたギリシャ危機の顛末
 進行中のギリシャ危機ですが、発端は2009(平成21)年10月の政権交代。財政の粉飾決算が明るみに出て、ギリシャの国債が暴落。これでは償還できないという懸念が起こり、金利も高騰しました。
 いろいろあって、ギリシャを救済すべく、さまざまな手段が講じられました。ユーロ圏ではいろんな意見があって、足並みがそろわない。そのうち、ギリシャだけでは終わらないという話になった。ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペインにまでも波及し始めたので、騒ぎが大きくなりました。そして、ギリシャ国債を大量保有する欧州銀行群が危機に陥ります。もう一国の問題ではなくなってしまったのです。
 ようやく2012(平成24)年3月、ギリシャ国債の民間所有者までが、7割もの価値を放棄し、小康状態になります。そして消費税増税、公的年金削減、公務員給与削減、財政支出削減といった緊縮策が実行されました。
 ギリシャ危機の背景は、一言でいえば稼ぐ以上の浪費です。そして経常収支赤字、政府の放漫財政政策。ひとつ大きいのは、ユーロに加入したおかげで、立派な兄貴分たちのご威光により、低利でおかねが借りられたということです。
経常収支は国(政府ではない)の家計簿
 国際収支というのは、経常収支、資本収支、外貨準備収支、誤差脱漏を合わせたものです。実は国際収支を全部足すと、ゼロになります。経常収支は、稼いだものから支出を引いたもの、あるいは貯蓄から投資を引いたものです。イソップ童話風に言えば、ギリシャはキリギリスの生活をし、日本はアリの生活をしていたというわけです。
 経常収支は今、中国がトップです。2位が日本で3位がドイツ(2010年)。ワースト1位はアメリカです。しかし、借金をしているからといって、その国がダメだとは一概にはいえません。借金ができるのは、信用されているということ。借金は、将来返してもらうおかねを貸すわけですから、何らかの魅力がないと貸してくれません。だから日本がおかねを持っていることと、必要なときに借金できる力があるかということは、別問題なのです。
家計の金融資産はどこにある?
 では、今度は日本を数字で見てみましょう。家計保有金融資産が1,483兆円もあります。対外純資産は3兆1,000億ドルあり、このため日本はかね持ちだ、かね持ちだといわれていますが、得意になっていてはいけません。政府の借金(国債+借金)が945兆円あります。国債を持っているのは、国内の金融機関とわずかな海外投資家です。
 家計の金融資産1,483兆円のうち、現金預金残高は839兆円です。これが、日本の発行する国債の購入原資になりますが、大半が銀行や郵貯経由国債購入に使われ、もうないんです。そして今、国の償還原資はどこにあるか。税金です。ということは、国に返してもらうお金は、自分が払う税金なのです。
円高の結果、産業空洞化が深刻に
 今、日本が直面しているお金の問題は、円高と産業空洞化です。働くほどに円高になる。預金しかない日本のかねが円に滞留して円高がどんどん進む。それをいいことに政府は借金三昧。成長路線や競争力強化をとると、さらなる円高を招く。私はこれを「円高ののろいのサイクル」と呼んでいます。
 その中で心配なのが産業空洞化です。円高の帰結としてやむを得ないのですが、製造業が海外に進出すると雇用が流出する。産業を日本にとどめ置こうとすると、低賃金の輸入になる。
 深刻なのは空洞化で、最悪は逆輸入。海外に出て行った日本企業より、日本に入ってきた外国企業のほうが日本経済に貢献します。だから対外純資産増加——すなわち債権国になったということ——で喜んではいられないのです。2010(平成22)年の日本の対外直接投資額は570億ドルというすごい金額ですが、同じ年に、海外から日本に投資した金額は、マイナス14億ドル。海外資本が日本での投資を引き揚げたのです。国内の雇用機会がそれだけ失われたということです。
 今は経常収支の赤字化が懸念されています。経産省は、2015(平成27)年に経常収支が赤字化するという試算を出しています。
 そうなると今度は円安に直面します。経常収支が赤字になると、資金が海外へ流出して円安に、円安になるとインフレ、インフレになると金利が上昇、上昇すると国債価格が下落する。そして海外投資家が跳梁跋扈します。
 国債価格が下落すると、国内金融機関が壊滅します。国内金融機関の国債保有が601兆円ですが、仮に国債が10%下がると、60兆円の損害が出ます。これは国内金融機関の自己資本と同じ。ということは、国債が10%下がると、自己資本が全部吹っ飛ぶのです。
経常収支の赤字化で、円安、インフレ……
 金利と国債価格も相関関係にあり、国債が10%下がると、金利が2.34%上がります。逆もまた真なりで、金利が上がれば国債価格が下落します。
 われわれはどうすればよいのか? 良質な指導者の登場を待つ? また、IMFに来てもらって外圧で大改革する? 政治家でも、日本のことを易しく考える人では大改革できません。IMFの官僚は専門家ですから、情け容赦なくやります。子どもたちは国際化して、どこでも食べていけるように教育する。何が起こるか分からないから、手持ちのおかねは分散投資。そして証券会社の言いなりになってはいけません(笑)。
 「どうすればいいの?」に対する私の考えはこうです。まず、経常収支が黒字の間に旅行、外貨投資など、外貨を使いまくって円安にしましょう。楽しんで円高を止めて、国内産業の空洞化を防ぎましょう。そのうち経常収支が赤字になると、円安になって、国内産業の競争力が回復します。
 私の反省点は、稼いだものをため込む一方で円高を引き起こし、自分で自分の首を絞めたことです。もっと海外に投資すべきだったなあ、もっと遊んでおかねを使っておくべきだったなあと、この世代を代表して反省している次第です。
 
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