2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
Grounding Architecture 建築と環境の新たな関係を目指して

芦澤竜一建築設計事務所 代表 芦澤 竜一 氏

人と人、人と環境をつなぐのが建築
 私は、環境、建築、人間をいかにつなげていくかをテーマにしています。10近くのプロジェクトに取り組んでいますが、その内容を紹介します。

●VAJARA FOREST (竣工2000、大阪)
 独立当初に手がけた美容室(ヘアサロン兼カフェ)です。私は、フランスの画家・ルソーが描く森のような、人・動物・花・木が同等の存在感を持ってキャンパスに表現されているような世界をインテリアでも作り出せないかと思いました。
 美容室では鏡が必需品です。普通、鏡の周りはお互いの視線が交錯しないような、プライバシーが保たれた空間が構成されます。しかしここでは空間を遮断せず、なおかつ多少目線が行き交っても気にならないような美容室をつくりたいと思いました。着色した大型のガラスを各所に配置し、鮮やかな木漏れ日があふれる空間を演出しました。それらのガラスは可動のパーテーションとして、使い手が動かして空間を自在に形づくることができます。
 日本人の建築感は、西洋のそれが永続的かつゆるぎないものに対してフレキシブルでやわらかいものです。それをこの美容室でも実現してみたかったのです。

●SENSORY ILLUMINATION(設計06、マドリード)
 LED照明を用いてコンテナをデザインするという課題のコンペでした。人が近づくと明かりが灯る仕掛けです。人間の痕跡(こんせき)を光とミストで演出しようと試みたものです。

●SETRE CHAPEL(竣工2005、神戸)
 ホテルをリノベーションした際に増築したチャペルです。海に面し、明石海峡大橋への眺望が開けたところです。波、太陽光、そして光の反射ノノ海の表情はさまざまです。眼前の環境を空間で体感できるような工夫を施しました。チャペルですがキリスト教的要素(十字架)を用いず、水や空という環境を最大限に生かした誓いの場をつくることにしました。チャペルは、明石海峡大橋のある西側に臨み、夕日が落ちるさまを楽しめます。また、自然光と水面に反射した光が室内に入り込み、時間とともに、そして太陽や雲の動きによっても、色の雰囲気が変化します。

●PLANTED TABLE(2005)
 プロダクトと自然を大胆に合体させた例です。テーブルに花を生けるだけでは、自然の扱いが随分と人間勝手で小さく感じます。もっと自然の存在を感じるためには、いっそのことテーブルと植木鉢を一体化させてはどうかという発想から始まったものです。テーブルにトクサ(水草の一種)を植え、人はトクサをかき分けてコミュニケーションするという、ユニークな一例です。

●ROOFTOP GARDENING(07〜、大阪)
 私の事務所の屋上庭園です。屋上で野菜を育て始めたのがきっかけでリサイクルの重要性に気づきました。野菜を育て、自分たちで食べ、廃棄物はコンポストして土に返してまた別の野菜を育てるというように、この屋上で環境を循環させているわけです。今回のテーマでもあるGrounding Architectureの原点ともいえるでしょう。建築と環境がつながっていく、そのサイクルに人間も入っていくことを目指す。GroundingArchitectureはまさに今の私のテーマです。

●SPIRAL CIRCULATION(設計06〜、大阪)
 9坪ほどの敷地に、植物と共存できる住居をつくるという現在計画中のプロジェクトです。構造は、地面かららせん状に、階層が分断することなく連続して伸びていく8層スパイラルのユニット。そして構造体のなかに設備を内包させてゆきます。
 外壁を設けず、風を遮断するカーテン状の膜材で外からの視線をさえぎることができます。これは人間が環境に合わせて服を重ね着する感覚からヒントを得ており、素材は現在研究中です。
 さらに、限られた敷地でエネルギーをまかなえるよう、太陽熱、雨水、風力、地下水、地熱などの自然エネルギーを利用した循環型エネルギーシステムを考えています。都市の中でいかにサイクルのバランスを取り戻すかを考え、樹木のような循環システムを持つ建築の増加によってバランスの修復を試みるものです。

●SECRET GARDEN(竣工09、群馬)
 4人家族の住宅で、機能によって異なった容積と色を持つ12の箱をリング状に配置しました。キッチン、寝室、居間、子ども部屋など、それぞれの箱はつながっており、家族はリング状になった回廊をぐるりと歩きまわることができます。リングの中央部には中庭、隣の敷地との境界線にも庭をつくって、さまざまな場所で内と外がつながるという計画をたてました。
 子どもが独立してライフスタイルが変わったときのことを考え、四隅の間のみRC造とし、ほかは木造です。四隅には、ガレージ、寝室、バスルームなど、ここの施主にとって将来も変わらない機能を持つものを配しています。将来、木造部分の箱をなくして庭にするなどの変更が可能です。
 箱はあえて平屋にし、屋上果樹園をつくることによって、地域にとってもガーデンになるようにしています。ちょうど周囲の2階建ての家から、四季折々の花や実が楽しめます。隣近所と自然の恵みや楽しみを分かち合うというのがこのプロジェクトの目指すものでした。

●GREEN FILTER(設計08〜、沖縄)
 周囲に住宅が建て込んだ山の斜面に計画中の住居です。夏の暑さが厳しく、台風の多い沖縄ではRC造で周りを生垣で囲んだ平屋が伝統的です。97%がRC造であり、木造は向いていないという先入観がありますが、工夫すればきっと大丈夫と思い計画したものです。
 伝統的な住宅で見られる生垣を変形、現在の都市生活や環境に応じて3次元的に配するのがポイントです。屋内空間を、緑化したメッシュ状の壁で覆って半屋外空間をつくるわけです。緑化することで日ざしや強風から住宅を守ります。風向を考え、風の向きもコントロールして暑さをしのぎます。夏場の水不足は雨水をためて中水利用します。沖縄はユニークな地場素材が豊富なのでそれらの特性を生かした工夫ができます。

●SPIRAL FIELD(設計08〜、大阪)
 既存の駐車場の上部をコミュニティの場にしようというプロジェクトです。都会には町じゅうに駐車場があります。その空間を利用して、地域の人々も使える駐車場兼レンタル農園ができないかと考えました。
 駐車場の上の空間を、前述の8層スパイラルの住居と同様のコンセプトで循環型の菜園をつくるという計画です。大地からつながる人工地盤に土を盛り、自然の水をキャッチして緑を育てます。ここには将来的に建築物をつくる構想があるので、いずれ解体して移築できるようなシステムを提案しています。都会に点在する駐車場をこのような農園に変え、人と自然が共存するコミュニティづくりに貢献できればと思います。

●GREEN WALL(現在施工中、シカゴ)
 街の空き地に緑化した壁をどんどん展開して、さまざまな用途に利用するというプロジェクトです。
 壁を、「分け隔てる」ものではなく「つなぐ」ものとしての役割を与えようと私は考えました。つまり、人と人、もしくは人と環境をつなぐのです。壁を伸ばしていくことでそれは広がります。根鉢、花壇、菜園、子ども向けのお絵かきスペース、休憩所、貯水タンク、温室、トイレなど、さまざまな人のための機能を壁の中に形づくります。自由に使えるパブリックスペースが不足している地区でしたので、人の集まるコミュニティを目的として提案しました。

●WATER CYCLE SYSTEM(設計08〜09、ドバイ)
 周りを超高層ビル群に囲まれた24haの敷地にモニュメンタルな展望台をつくる計画です。航空規制のため180m程度の高さにしかできないという条件のもと、出色のアイデアがないだろうかと思案した結果、水を集めて循環させる機能を持たせることになりました。水のないドバイでいかに水を得るかを研究し、霧や建物の結露から水を回収するシステムを考えました。展望台でもあり、水をつくるシンボルでもあるモニュメント。自然の力で水を増やし、ゆくゆくはアラビア半島に森をもたらすことができればと思います。

●AQUA METROPOLIS OSAKA2009
MIZUBENO BUNKAZA (竣工予定09.8、大阪)
 8月から始まる「水都大阪2009」における、中之島の博覧会建築の設計を担当しました。題して「水辺の文化座建築群」。さまざまなイベントやワークショップが計画されている水都大阪の中心的施設です。
 「水辺の文化座」の広場には、竹で造った空間を展開します。竹はひとつの新たな試みでした。ここで使う竹は、生態系が乱れてしまって荒れ果てた竹林から切り出したもので、竹に関しては学生らと調査しながら色々と試行錯誤しました。使用した竹は52日の開催期間を終えても廃棄せず、再利用することを検討しています。ぜひ足を運んで、壮大な竹の空間をご覧ください。

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