2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
鉄筋コンクリート造建築物の環境配慮

社団法人日本建築学会近畿支部材料施工部会主査 二村 誠二氏

地球温暖化がもたらす危機
 南極の氷に閉じ込められた過去1000年の空気を分析しますと、1800年代の産業革命期以後、人類は典型的なエネルギー消費を続けていることが分かります。このエネルギー消費増が続くと最大で5.8℃、増加をストップさせても2℃近く平均気温は上昇するというのが、IPCCの予測です。大した変化ではない、と感じる方もいるでしょうが、2℃弱の気温上昇でマラリア被害は約2.5億人、水不足で苦しむ人は、人類の3分の1を超える約30億人に及ぶと言われています。
 地球温暖化は、エネルギー資源の問題とも絡み合っています。現在の予測では、石油はあと40年、ウランも70年、石炭も200年少しで枯渇してしまう。一方で、世界人口は2022年で80億人、2050年ごろには100億人を超えるだろうと予測されています。その3分の2は、アジアの人口になるともいわれています。
 温暖化への問いかけは、「今の世代の豊かさのために、次の世代の豊かさまで犠牲にしていいのか」ということでもあるわけです。
地球環境に対する建築界の取り組み
 1997(平成9)年、日本建築学会はCOP3京都会議に向けて、「地球環境行動計画」を発表し、「生涯二酸化炭素(温室効果ガス)排出量の30%削減」と「耐用年数の3倍増(100年以上)」を提言。「建物の基本的な骨格をなす部分(サポート部分、スケルトン)と変化対応部分(インフィル)を分離して構成する」などの具体案を表明しています。
 また、2000(平成12)年6月に、建築関連5団体が共同で制定した「地球環境・建築憲章」の中で挙げた5項目の中でも、「建築は世代を超えて使い続けられる価値ある社会資産となるように、企画・計画・建設・運用・維持される」と長寿命への取り組みを掲げ、「維持保全しやすい建築の構築」「変化に対応する柔軟な建築」「高い耐久性と更新の容易性」という方針を示しました。ただ、これらがわれわれの中で十分に機能しているかは、かなり疑問があると思います。
鉄筋コンクリート造(RC)建築物の環境配慮
 2008(平成20)年9月、日本建築学会は「鉄筋コンクリート造建築物の環境配慮施工指針(案)・同解説」を出しました。ここでは、環境配慮の型を「省資源型」「省エネルギー型」「環境負荷物質低減型」「長寿命型」の4つに分類。「部材および構造体の設計」「資源の採取」「材料の製造」「建築物の施工」の各段階で、それぞれの目標が達成されるよう仕様を定めるとしています。その概略を、分類型ごとにご紹介しましょう。

○省資源型/「原材料に占める再生材料の割合を多くし、かつ再利用可能な材料の割合を多くする」。その際、リサイクル材料の利用程度やリニューアルに伴って増える廃棄物の問題まで考える必要があると思います。
 たとえば、RC建築物の原材料である鉄は今、約100億トンが蓄積され、その3%が鉄くずとして再生されています。しかし、もう一つの原材料であるコンクリートは、完全なリサイクルがきわめて困難です。ですから、RC建築物については、長寿命で使うことが、資源の有効利用になると考えています。

○省エネルギー型/「原材料の採取から材料の加工・製造の段階において、エネルギー消費が少ない材料を選定する」。ただ、RC建築物の材料である鉄やコンクリートは、もともと大量のエネルギーを消費しますから、これは簡単に減らせない。むしろ、建築物を長いスパンで使うことで、総体としての省エネルギーを図る発想が必要だろうと考えられます。

○環境負荷物質低減型/「資源の採取から材料の製造の段階で発生する環境負荷物質(CO2、NOx、SOx、粉じん、ばいじんなど)の少ない資材を選定する」。しかし、RC建築物の場合は、廃棄による環境負荷物質の発生が大きい。社会資本としての建築をどうとらえ、どう生かしていくのか。われわれ自身が考えていかなければならない問題でもあります。

○長寿命型/「設計段階で長寿命型の仕様を定める」。古代ローマのパンテオンは、当時のコンクリート建築ですが、2000年近く前のもの。日本最古のRC建築である三井物産横浜支店も、90年前の1911年(明治44)竣工ですが、関東大震災を経て、いまだに現役です。
 現代でも、2009年2月、改訂された「JASS 5」の計画供用期間にも、およそ200年を想定した「超長期」という級が新たに入りました。RC建築物は、厳密に造られればそれほど丈夫だ、ということです。

RC構造物の長寿命化と技術的問題
 先ほども出ましたが、RC構造物の長寿命化の基本は、構造躯体(スケルトン)と内装・設備(インフィル)の分離です。たとえば、皆さんがイタリアの古い街に行かれたら、骨組みは400年500年前の石造のままです。しかし、中の生活環境は非常にすばらしい現代の環境に作り変えてある。欧州の伝統的なコミュニティも、そういう街の中で守られているわけです。
 その上で次のような問題を考える必要があります。

○構造体などの安全性確保/100年200年を経た構造躯体の耐久性を心配する声がありますが、住宅品質確保法(品確法)の構造安全等級を、通常の1から3に上げれば、500年に1度ぐらいの地震にも対応できる。また、免震・制震技術の利用も有効です。これは、非構造部材や設備機器の安全性確保でも同じです。

○居ながらリニューアルの構法開発/リニューアルのたびに、生活の基盤をどこかに移すのは、住む人にとって非常に負担です。やはり、居ながらにして、リニューアルをする構法を考える必要があります。

○RC構造物のリノベーション/建物の長寿命化を考えるなら、基本設計の時点でリノベーションという発想も含めることが必要でしょう。そのために大事なのが、設計段階で計画供用期間を明確に示すことです。
 日本では、計画供用期間が明示されず、維持保全への意識も低いため、耐用年数が短く見られがちです。しかし、RC建物の耐用年数というのは、本当にそんなに短いのか。建物の初期性能を極端に高めなくても、定期的に維持保全を行い供用中の性能を常に高めれば、今の技術でも長寿命化は十分可能だと考えています。
 なお、計画供用期間に関して「JASS 5」では、建築主(発注者)または設計者の考えによって定め、特記することとしています。これは今後、建築物の発注者・設計者責任が問われることを意味する、というのが、私の解釈です。

○3000年RC建築物/古代ローマのパンテオンが2000年近くもったのなら、3000年もつRC建築物は造れますか、という人がいます。これは、そんなに難しい話ではありません。要は、中の鉄筋にさびないステンレスを使えばいい。今、これはJIS化されていますし、海水で練ったコンクリートを使った実験データも出ています。だから、3000年RC構造物を造る技術はもうある。それを使う使わないは、日本の街づくりをどうするかという問題かもしれません。
 また、ステンレス鉄筋の使用は、鉄資源の有効利用にも関係してきます。仮に日本のステンレス鉄筋需要を、欧米よりやや低い0.25%と想定すれば、年間25,000トンの需要が考えられる。その分、鉄のリサイクルも、より安定化していくと考えられます。

RC建築物のひび割れと耐久性
 RC建築物のひび割れは非常に嫌われます。しかし、コンクリートの中性化、鉄筋腐食など、RC建築物の劣化現象には、常にひび割れが存在する。その意味では、人間の発熱と同じく、建物に隠された問題点を示すサインだとも言えるわけです。嫌われてしまうのは、入ってほしくない場所までひびが入っていくからで、どこかにひび割れを吸収させたり、きちんと処理する仕組みを作ってやればいいわけです。
 それから、こういう対応や処理技術を、消費者まで含めた関係者が理解するには、専門家から一般の人まで共有できるカルテが欠かせません。建築の異常をきちんと記載し、その原因を解明できるようなカルテを作る人、解説する人が実際に必要かな、と思います。
 こうした発注者、設計者、監理者、施工者、消費者が、ひび割れについて共通認識を持てるようなマニュアルを目指したのが、今日ご購入いただいた「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ対策マニュアル─2009年版─」です。今回の2009年版は、2008年版から若干見直し、「設計における対策」「材料・調合・製造における対策」「施工における対策」を非常に分かりやすく示しています。技術者はもちろん、一般の発注者もこれを持っていただき、発注した建物のひび割れ対策がきちんとされているか、ご自分の目で確認していただければ、と思います。

※この後、山ア順二氏(株式会社淺沼組大阪本店建築部)の司会により、白沢吉衛(株式会社日建設計構造設計室)・小倉信樹(太平洋セメント株式会社関西支店技術部)・松井亮夫(株式会社淺沼組大阪本店建築部)の3氏が、「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ対策マニュアル─仕様規定に基づくひび割れ対策マニュアル2009年版─」の要点を解説した。

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