2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
「地震などの巨大災害の減災について」

京都大学 防災研究所巨大災害研究センター長・教授 河田 惠昭氏

常に巨大災害を想定しなければならない
 大阪は昔から繰り返し高潮にあってきましたので、その対策はしっかりしています。しかし、津波となるとどうでしょう。1854年の安政南海地震では、地震の2時間後に津波が襲来して、市内で約900人が亡くなりました。地震ではなく津波で。大阪には地下街がたくさん展開していることも知っておいてください。こういう都市が巨大災害に見舞われるとどうなるか、常に想定しておく必要があります。1896年の明治三陸津波では約2万2,000人の死者が出ました。地震の震度はわずか2〜3でしたが、2、30分後、最大31mもの大津波が押し寄せ、沿岸の集落は全滅してしまったのです。このように揺れのわりには津波が大きい地震のことを津波地震と呼びます。そして、来たるべき南海地震も津波地震である可能性が無視できないのです。津波警報は2m以上の津波が予測されるときに出されます。日本は先進国だからとたかをくくっていると10万人規模の犠牲になりかねません。げんに1923年の関東大震災では10万人以上が亡くなりました。旋風による火災が原因でした。関東大震災以来、地震対策はイコール火災対策となりました。しかし「火災にさえ気をつければ大丈夫」というこの考え方は、阪神・淡路大震災で覆されました。全壊・倒壊による死者が圧倒的に多かったからです。
本当に恐ろしいのは複合災害
 伊勢湾台風(1959年)が引き起こした最大3.5mの高潮では5,100人が犠牲になりました。干拓地に高潮が入り、一瞬で水没。この大惨事には伏線がありました。その6年前に大型台風による大被害を受けていたのです。貧しい時代だったため復旧が遅れていました。弱っていたところを伊勢湾台風が襲ったというわけです。このように異なる要因が重なってもたらされる災害を複合災害といいます。今最も懸念されているのが複合災害です。福井地震は、その後に襲来した台風のために市街地が水没した状態で起こりました。洪水と地震のダブルパンチという複合災害でした。南海地震は、複合災害になる可能性が非常に大きいと考えられます。日本の巨大災害は地震・津波・高潮・洪水世界では、1万人以上死者が出ると巨大災害ですが、日本では1,000人以上で十分巨大災害といえます。近年、わが国で心配されている超巨大災害は、巨大地震・津波災害、巨大高潮・洪水災害(複合災害)でしょう。東海・東南海・南海地震の複合災害(死者2万8,000人、81兆円の被害)、首都直下地震(死者1万1,000人、112兆円の被害)、上町断層地震(死者1万2,000人)、そして十勝沖・根室沖地震、これはM8.5クラスが予想されています。約500年間隔で発生しているもので、前回は17世紀でした。首都直下地震の震源も、湾岸地帯にあるというだけで、詳しくは公表されていません。本当に必要な情報が少ないのが現状です。地下は危険!弱くても地震を感じたらすぐ地上へ大阪の地下鉄御堂筋線では、梅田から淀屋橋に向かう途中、「電車が傾く」と注意を促すアナウンスが流れます。まず右に、そして左に傾く。なぜだか分かりますか?昭和初期、土佐堀川と堂島川に、コンクリートのケーソンを埋めるときにずれてしまった。本当はストレートに入ってくるはずだったのに。淀屋橋から梅田へ向かうときはストレートで、傾かないのです。ということは、次の南海地震が起こったときにそのずれた箇所が危ないというのは誰が考えてもわかります。みなさん、淀屋橋あたりの地下をうろちょろしていてはいけませんよ(笑)。地下は危ないのです。震度6の揺れが来て、堂島川と土佐堀川の水が御堂筋線に入ってきたらもう下水道です。でも慌てるのが一番ダメ。堂島川から津波が押し寄せても水深はせいぜい数10cmですから、落ち着いて地上に上がれば絶対大丈夫。しかし地下は水没です。中央線も水没しますよ。大阪の地下鉄は1日で水没してしまいます。とにかく地上に上がることが先決ですね。津波に弱い地域というのがあります。地震のマグニチュードが大きくなると津波も極端に巨大化してしまうところです。津波の高さは湾の形状に左右され、100m離れるだけで波の高さが倍違うことがあります。リアス式海岸のように湾形がイレギュラーなところは要注意といえます。大きな津波を起こす地震は揺れも長く、1分以上揺れます。みなさん、揺れが小さくても3分続いたら「南海地震だ!」と思ってください。津波は2時間でやって来ます。みなさんがどこにいようが2時間。河川敷や地下にいればすぐさま避難してください。
あらゆる「起こるかも知れない」を考える
 わが国の最近の災害環境はどうなっているでしょうか。地震では、活断層がわかっているだけで約2,000、潜在断層が約8,000あり、地震活動期に突入しています。また超過洪水の頻発で従来の治水対策では限界があります。東海・東南海・南海地震による津波の発生や台風特性の変化による超過高潮の発生も懸念されています。その他、異常降雨による土砂災害、噴火、海岸侵食など危険な要素がたくさんあります。公的な防災は限界があります。自分の命は自分で守らなければいけないのです。これからの巨大災害の特徴は3つです。まず広域化。スマトラ沖地震・インド洋大津波に見られるような広域な災害が、東海・東南海・南海地震で予想されます。次に複合化。複数の要素が重なった複合災害になることが最も恐ろしいのです。南海地震で怖いのは亀の瀬の地すべりです。この対策は国土交通省の直轄事業ですが、もし地震で亀の瀬が地すべりを起こすと、大和川がせき止められてしまい奈良盆地は湖になってしまいます。もちろん対策は講じられていますが、複合災害は想定されていません。危機管理は、あらゆる「起こるかも知れない」を考えねばならないのです。3つめが長期化です。少子高齢化社会では、災害の長期化が懸念されます。巨大震災の人的被害発生の目安があります。巨大震災が起こると都市被災地人口の0.1%が死亡するというのが一般的なデータです。表でもわかる通り、ほぼ0.1%になっています。このデータから考えると、東海・東南海・南海地震で5万人が死亡するおそれがあります。また、中山間地、沿岸域で約5,000集落が孤立するおそれもあります。首都圏地震では被災地人口が3,000万人すなわち3万人の死者がでるうえ、約700万人の被災者すべてを公的な避難所に収容できないという事態が予想されています。行政は、避難勧告を出しても住民が逃げてくれないと言いますが、全員逃げたとしても、それだけの避難所を用意できないのが実状です。大阪市の対応はまだまだ不完全。治水の難しさ、人工構造物のコントロールの難しさが大阪の課題です。
南海地震で大阪は陸の孤島になる
 東海・東南海・南海地震災害の特徴は、1)スーパー広域災害、2)高齢災害、3)複合災害、4)ライフライン被害の長期化、および、5)津波対策の重要性の5つです。高齢者のような災害弱者の割合が多いと、地震が直接の死因ではない、震災関連死が激増します。高齢者比率の高かった新潟県中越地震では、震災関連死の割合が阪神・淡路の3倍にものぼりました。狭い車での不自由な生活を余儀なくされて血流障害を起こしたり、ストレスから体調を崩して病気になったり、地震が終わってからもそういうことが続くわけです。南海地震発生時に考えられる大阪府の被害はどんなものでしょうか。まず全域が長期間停電し、そのため鉄道も止まります。当然水道、ガス、電話サービスが長期間中断します。高速道路が通行止めになり、国道、府県道をはじめ市道の信号が停電で機能せず、大渋滞が起こります。つまり大阪は一瞬にして陸の孤島になってしまいます。首都圏の大規模災害のポイントは首都直下地震と複合災害です。首都直下地震による被害の特徴は首都中枢機能障害による影響と膨大な人的・物的被害の発生があげられます。しかしまだまだ私たちはそこで起こる被害の全容を把握しているわけではありません。いろんなことがたくさんあります。少なくとも湾岸地帯に震源があるということだけは覚えて帰ってください。
広域におよぶ危機管理体制が重要
 アメリカのハリケーン・カトリーナはまだ記憶に新しいですね。秒速70メートルの強風で引き起こされた高潮による死者は約1,400人と想定されています。なぜ「想定」なのかというと、逃げた50万人のうち20万人しか帰ってきていないのです。行き先も生死も不明。このときは前日に避難命令が出され、市民の85%が市外に避難していました。一般的には巨大災害の死者は人口の約0.1%なのに、ニューオーリンズでは人口の1%が亡くなりました。ちなみに日本では、「避難命令」ではなく「避難指示」といいます。「指示」ならば、強制はしていないので避難せず被害にあっても法的に問われることがないからです。気象庁が使う用語は誤解を招きやすい。一般国民にしてみれば、警報や注意報や避難指示などいろんな用語があってどれが緊急度の高いものかがさっぱりわからないのです。しかし、重大なことが起こらないかぎり、決して変えようとしませんね。何も起こらなければそのままでよいという考え方は、悪弊ですよ。アメリカのニューオーリンズでは、巨大ハリケーンに耐えられないことがわかっていながら何も対策をしていませんでした。わが国は、ハリケーン・カトリーナから教訓を得ました。1つめは、最悪のシナリオを想定し、それを対策に結びつけること。2つめは、ゼロメートル地帯の長期湛水を防ぐこと。3つめは広域対応を可能とする危機管理体制をつくることです。少なくとも何らかの努力をすれば今よりは被害は減るという考え方で動かなければいけない。そうなると戦略が必要です。大阪府でも和歌山県でも奈良県でも、長いスパンを想定した防災戦略をたて、アクションプランも作成してどういう政策を展開するか考えています。そして5年後の数値目標を立てる――たとえば耐震化率を2%上げる、そうしたら何人の命が救えるか、など――こういう地道な努力を継続することが大事なのです。
弱いところはどこかを知る
 阪神・淡路大震災では、都心はやはり危ないといわれましたが、2004年の新潟県中越地震で中山間地も危険だということが発覚した。つまり都会も田舎も危険だと。国家の災害脆弱化です。ということは、外力が大きくなくとも巨大災害になるということです。抵抗力が弱っているのです。忘れがちなのが、どこが一番やられるかです。弱いところがやられるのです。それが一般的に言うと高齢者、女性、子ども、ハンディキャップを持った方、日本語の分からない外国人などの災害弱者なのです。ファンダメンタルが脆弱になっているという視点がこれからの国土づくりにいるでしょうね。そして私たちの住んでいるところにどんな災害が起こるのか――敵を知る、そしてどこをやられるか――己を知る。孫子の兵法、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」です。
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