2007けんざい
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講演会の予定・講演録
  「アメリカ大統領選挙と日本」講演録
産経新聞社 編集局長 名雪雅夫氏
ブッシュの支持者は宗教的右派

 去年11月の米大統領選挙は、共和党のブッシュ勝利に終わりました。レーガンが就任した1981年以降24年間、民主党の大統領はクリントン1人であることから、米国は保守化の傾向にあると言えます。

 メディアによる出口調査の「何を問題として投票したか」という質問では、選挙の争点がイラク、テロ問題であるという大方の予想に反し、1番が「倫理、道徳的価値観」(22%)で、そのうち79%がブッシュに投票した。一方、経済を重視する人の80%、イラク問題を重視する人の74%がケリー派でした。

 別の調査で、教会に行く頻度をたずねたところ、「週2回以上」と答えた人の64%がブッシュ、35%がケリーに入れました。「月1回」では半々、「行かない」ではブッシュ35%、ケリー64%。つまり、ブッシュは宗教心に篤い人々に支持されて当選したのです。宗教的倫理観がなぜここまで重視されるのかは、日本人には理解しにくい点です。

 前回の大統領選で、ブッシュは当時副大統領のゴア(民主党)に辛勝しました。フロリダ州で500票差まで迫られた接戦の原因が何だったのか、選挙のプロである政策・戦略担当のカール・ローブ大統領上級顧問は探りました。

 ブッシュを支えるのは、全米で1,900万票を数える宗教右派のコア集団です。前回、このうち400万票を逃してしまったため、今回その分をいかに獲得するかを考えた結果、ローブの400万票掘り起こし戦略がキーとなり勝利を決めました。では、なぜ成功したのか。

 ブッシュ陣営は2点に着目し、それを争点に仕立てあげました。一つは同性愛者。90年代、米各州、市では相次いで同性愛者同士の結婚を認めました。もう一つは妊娠中絶です。宗教的右派は中絶は殺人であるという信念を持っています。ブッシュは今回同性婚と妊娠中絶への明確な反対姿勢を選挙戦で打ち出しました。というのもケリーは同性婚賛成の立場であり、同性婚を禁止する法案に議員として反対を表明していました。この法案は96年に可決しましたが、各州での束縛力を持たないのです。そこで「結婚は男女間に限る」を前面に出し宗教的保守派をターゲットにして、相手との明確な差別化を図りました。

 ブッシュ陣営による宗教的右派掘り起こし戦略は、各地でのメガチャーチ(巨大教会)の増加が背景にありました。2,000?3,000人もの信者が礼拝に訪れるメガチャーチは普通の教会とは違って、マッサージ、スポーツジム、保育施設、図書館、集会所、映画館まで完備された一つの複合施設です。

 30代以上、40代中心で中から上階層の白人を対象とするメガチャーチは各地で増えてきました。倫理観を立て直そうというムードが高まってきていたからです。ブッシュ陣営はそこに着目しました。

 フロリダ州のタンパという町に、1万人の信者が集まるアイドルワイルドという教会があります。ブッシュ陣営は彼らを選挙のために組織化していました。まず信者からリーダーとして特に熱心な300人を選び、その親戚や周囲の票を固めます。リーダーはほかの信者に支持者を5人集めるように呼びかけ、さらに電話でも支持を呼びかけます。「同性婚に賛成するケリーは神を冒涜している」と礼拝の中でもはっきり言います。

 英国から渡ってきた新教徒が建国した米国はプロテスタントが主流で、カソリックは25%です。民主系はそのカソリック教徒の70%の票をとりますが、今回はカソリックの50%以上がプロテスタントのブッシュに投票しました。ブッシュはカソリックの支持をも多く集めたことになります。これにはやはり倫理・道徳に対する危機感が背景にあったと言えます。結局ブッシュはフロリダ州で前回より105万票多く獲得しました。レーガン以来続いてきた保守の流れがブッシュを後押ししました。

レーガンと似たブッシュのやり方

 レーガンとブッシュには共通点が多い。@キリスト教に基づく道義・倫理を重視する。A国益・主権を断固として擁護する。B規制を少なくして市場経済を推進する「小さな政府」の信奉者である。C個人の自由・民主主義を普遍的価値として世界中に拡大すべきと考える。

 最後の「自由」はとりわけ独特で、彼らの外交の基本です。これを押し進めると必ずいろんな軋轢が起こりますが、その場合の強硬手段も辞さない。

 一党独裁だったソ連を、レーガンが「悪の帝国」と呼び、今ブッシュはイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んでいるように、“悪か味方か”という明快な政策を展開します。

 レーガンはソ連と直接武力衝突こそしませんでしたが、ミサイルを衛星が感知して上空から撃ち落とす「スターウォーズ作戦」にソ連は脅威を感じました。お互いの核兵器による双方拡張破壊を避けるため相手を攻撃しないという核抑止力が働いているのに、この作戦が実行されたらソ連のミサイルは撃ち落とされて米国からの攻撃を受けるだけになり、抑止力が壊れてしまうからです。ソ連は反発しましたがレーガンはやると主張。ソ連には対抗できる国防費がなく、結局崩壊につながりました。私は当時あちらにいて、ソ連が崩壊していくのをこの目で見て体の奥底から震えを覚えました。

 核抑止力理論が成り立つのは自分を守りたい気持ちがお互いに働くからであって、テロリストにはこれが通用しません。ではテロ行為が事前に察知できたらどうするか?ブッシュの考えは先制攻撃しかないというものでした。これに対し仏、独は国連で激しく非難しました。

自由と民主主義の国家をつくるためのフセイン排除

 これまでゲリラ的テロに国家的攻撃はしませんでしたが、今は違う。いつどんな形で自国が攻撃されるか分からず、9.11テロの後も炭疽菌などで脅かされる。想像もつかない恐怖感に包まれているのです。国民を守れない無能な為政者になりたくないというのは理解できなくはありません。もちろん、だからといってイラクに対する攻撃が正しいかどうかは別です。

 私は87?93年、テヘランにいました。イランではイスラム原理主義によるイスラム革命が起こり、イラクは自国への波及を恐れて攻撃し、イラン・イラク戦争が起こりました。フセイン政権は84年、4,000人ものクルド人を化学兵器(青酸ガス)で虐殺しました。あのような残虐行為ができるフセインの心のメカニズムは常人に理解できるものではありません。決定的な証拠こそ見つかりませんでしたが核開発をしていたのも事実です。

 ブッシュ政権が考えるフセインへの脅威は、フセインとアルカイダが結びついたらどうなるか想像すると、ある程度は理解できます。ブッシュの目的は、フセインを倒すことだけではない。イラク、アフガンの地で自由と民主主義の国家をつくれるはずだと考え、そのために独裁者を除外する必要があると考えたのです。その考えが正しいか否かはまた別の話です。

決断を迫られている、日本は覚悟を決めよ

 基本的に米国の政策は変わっていませんが、パウエル国務長官やアーミテージ補佐官など日本をよく分かった人が辞任を表明したことは日本にとって打撃です。日米間で微妙な問題が起こったときにダメージになる懸念はあります。今は日米間に摩擦の要因はなく、外交的にはうまくいっています。2000年に815億ドルだった対日貿易赤字が03年には660億ドルに減りました。

 日米関係は、長い目でみれば変わっています。米国は海外の米軍を減らし、軽くするぶん機動力を高めようとしています。在日米軍に関しては、東アジア?インド?中東、米国曰く「不安定の弧」で部隊編成を図るようです。日本にしてみれば、日本にいる米軍がそんな広範囲に活動するのは日米安保に反するのではと考えますが、米国はやるといったら否応ないのです。

 米国では日米安保の考え方が変わってきて、このように兵力をもっと広範囲に機動的に、という方向になっています。そして今、「日本はどうする?」と米国から突きつけられている状態なのです。日本はいかなる対応をとるのか?経済封鎖されて北朝鮮が米国を攻撃したら日本はどうするのか、その判断を迫られているわけです。かつての社会党のように「平和を」と叫んでいればよい状況ではなくなっている。冷戦時代のように核抑止力で安定を保っていられる時代でもなくなったのです。日本のすぐ近くで大きな脅威が生まれている。かつての平和主義ではやっていけない、覚悟を決め決断しなければならない、そんな時代が来ていると思います。

名雪雅夫氏略歴: 1949年東京都生まれ。73年産経新聞社入社、社会部・外信部、テヘラン・ワルシャワ・ワシントン・モスクワ特派員、モスクワ支局長などを経て03年大阪本社編集局次長、昨年6月から現職。「毛沢東秘録」(共著)で菊池寛賞受賞(99年)。
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