2007けんざい
社団法人日本建築材料協会
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講演会の予定・講演録
  「競争力の構築」講演会録」
神戸大学経営学大学院教授 加護野忠男氏
新ビジネス−さまざまな手法で勝ち残る

今再び、競争力をつけた企業が勝ち残る時代になり、日本の企業、とりわけ関西より西の企業が元気を盛り返しつつあります。各社の戦略について、いくつか例をとりあげてみます。

まず、新しいビジネスのしくみを作った会社です。四国の穴吹工務店は、アフターサービスの工務店として勢いを上げています。今まで建築業界では、建物を施主に引き渡したらもう近づかないのが原則でした。クレームに対応していると、コストがかかって利益が下がるという考えからです。ところが穴吹はアフターサービスを徹底しました。

ほかにこのしくみで利益をあげているのが愛媛のボイラー屋、三浦工業です。ここの利益の3分の1は売ったボイラーの保守点検によるものです。ボイラーが故障したらそのお客さんは仕事にならず、非常に困ります。絶対壊れないボイラーなどないのですから、プリベンティブ・メンテナンスを有料で行なって予定外の故障を減らす、というしくみで収益を上げました。

会社がつぶれることも真面目に考えたほうがよろしい。会社がつぶれると、借金が減る、従業員の給料を下げられる、というコスト面でのメリットが生じます。神戸市内にあったカワムラサイクルは、一度つぶれて強くなった会社です。自転車業界は非常に厳しく、中国製に完敗している。成功のもとは車いすを作りはじめたことでした。それも従来とは全く違ったやり方でした。車いすは一人ひとりの身体に合ったものがすぐに必要です。カワムラサイクルはたった1週間で客のニーズに合う車いすを作ることによって復活をとげたのです。

鳥取三洋電機は作り方を変える戦略をとりました。従来、電気製品はライン生産でしたが、注文を受けてから一つずつ作るセル生産(現場では屋台生産という)に転換し、即納体制をとりました。受注したものだけ作って無駄を無くすことによって競争力を維持した例です。

まず、なぜ負けているのかを認識する

日本は国際競争にどんどん負けています。建築は、国内で施工するから国際競争はないと思われていましたが、違います。海外での施工も行なわれています。住宅を作って大きなコンテナで日本に運ぶというやり方で、国内での施工コストを徹底して抑えている企業が実際あります。

自分たちが何に負けているかを認識するのは重要です。

中国や韓国になぜ負けているのか?多くの人は人件費だと考えますがもう古いです。中国・韓国の企業は急激に技術水準を上げています。例えば金型の技術は中国に完全に負けている。中国の家電大手のハイアールでは金型の価格が日本の4分の1なのに納期は2分の1です。工場のコンピュータには全て三次元キャドが入っています。勝負になりません。後から来た会社は、その時の最先端の技術を得られるので、先に進んだ企業よりいい技術を持っている可能性があります。技術の後進国的先進性といいますが、中国はまさにそれです。

これに気づいたのが四国の今治造船でした。造船では、今や世界のトップ5のうち4社までが韓国です。トップ5になんとか入っている日本の1社が今治造船です。日本と違い韓国の造船所は最先端の設備を取り入れているため技術で負けている、これでは勝てない、ということを調査の末知りました。三菱重工など大手造船をとび越えて中堅の今治造船が世界のトップ5に入っているのは、なぜ韓国に負けているかを徹底して研究したからにほかなりません。負けを正確に認識するには、とにかく勝っている会社へ実際行ってみないとわからないものです。そうして初めて、見えてくるものなのです。

オンリーワンの技術こそ最大の強み

こんな状況になってきたからには、より価値のある製品開発が求められます。技術・技能を深めて生き残る―この点では、ジーンズ用デニムのカイハラ(広島県府中市)が面白い。今、世界の高級ジーンズの2着に1着はカイハラのデニムです。デニム独特の風合い・色合いを追求するため、紡績・紡織・染色全てを自社でやるようになりました。そこにしかできないオンリーワンの技術を持つ、これほどの強みはありません。金属加工の技術を極めた好例では、三井ハイテックがあります。トヨタのハイブリッドカー、プリウスのモーターを製造しているのですが、これを作るためには磁性鋼板を3mmに成型する高度な技術が必要です。この加工技術はここにしかありません。トヨタが頭を下げて作ってくれ、と頼むわけです。

独自技術を高めた例では泉佐野市の不二製油でしょう。植物性油に味をつけるという技術です。ヤシ油から作るコーヒーフレッシュのスジャータは不二製油の独自技術があったから生まれたのです。

しかし苦心して開発された独自技術が漏れることがあります。これは常に気をつけねばならない問題です。

京都の村田製作所が生産するセラミックフィルタは95%のシェアを誇ります。ここもほかで作れない技術を持っています。だから技術を漏らさないための研究もしているのです。この会社は不特定多数の業者とは一切つき合いをしません。特定の業者だけです。それは、材料や部品や製造機械から技術が漏れる可能性があるからなのです。

技術が漏れた典型的な例が半導体です。これは転職者・退職者によって筒抜けになったものです。シャープでは、勝手に海外へ行くことができないように会社が技術者のパスポートを管理しています。どこも、技術を漏らさないための努力を一所懸命しています。

まねのできない技術と「由緒」で生き残る

そうなると、まねの難しい技術が必要になってきます。京セラの場合、多数の平凡な工夫の組み合わせが強みです。多くの人の本当にちょっとした工夫を全て集めた技術というのはちょっとやそっとではまねできない。

日本のゲームやアニメは品質の良さで海外で高い評価を受けています。日本人の描くあの絵は、彼らに決してまねできないものなんです。こういうものは、文化に支えられた仕事といえます。

一方、コストで勝負しようとしても、海外製品の安さには到底勝てません。ですから値打ちを高めることはとても重要です。値打ちを高めるための手法では「京都商法」が良い例です。京都人は大阪人よりもつまらないものを高く売るのがうまい。京都では利益をあげるためにコスト削減などはせず、その分高く売ります。どうやって高く売るのか?それは、原価ゼロのものを付加して値段を上げることです。その原価ゼロこそが「由緒」というわけです。

みんなが「もうかる」と思う方向と逆へ行く手法が逆張り戦略です。「スマイルカーブ」というのが電機業界では言われています。川上から川下までを横軸にとり、どこが利益を上げているかを見たとき、川上―部品をつくる会社と、川下―サービスをする会社の両側が上がっていて、真ん中下がっているカーブのことです。真ん中のアセンブリ(組み立て)はもうからないのが常識でした。ところがここに徹底したのが大阪の船井電機です。もうからないとみんな逃げたあとで収益をあげました。

兵庫県の企業顕彰制度で受賞した各社にも学ぶところが多々あります。神戸の神島組は、土木の分野で独自技術を開発し、経営革新賞で大賞を受賞しました。山が崩れやすい神戸は地面の下に大きな岩が埋まっていることが多いのですが、神島組は土の中で岩を割る技術を開発し、特許も取得しました。

中国のコストの安さをもっと利用する

日本が世界市場で勝つために、中国をもっとうまく利用すべきでしょう。昔、大東亜共栄圏という言い方をしましたが、今、日本が経済的に中国に進出している(占領している)という意味で、新しい大東亜共栄圏ができていると言えます。日本は中国とともに国際競争をしてるんですね。

うまいやり方の代表例がユニクロ(山口)です。一つの工場で同じ色・サイズの服を大量に作る。人件費は日本の30分の1、商品の原価はタダみたいなものです。

京都のある貸衣装の会社も、中国を利用してうまくやっています。ここでは、客に衣装をあげてしまう。使用後のクリーニング代を考えると、中国で作った方が安くつくからです。

われわれの周辺で、元気の良い会社の例を見ると、色んな経営上のヒントがつかめるのではないかと思います。今日はいくつかの具体的な例を紹介しましたが、このような身近なところでうまくやっている例、それも違う業界で成功しているところから知恵を借りる―創造的借用というのですが―というやり方をとれば、この時代、浮上するチャンスがあります。ぜひみなさんも新しい事業展開にチャレンジして下さい。

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