講演会 講演録

  • 2021年8月26日
    木造住宅のリニューアル時における耐震化
    (KENTEN2021特別講演)
    協力:一般社団法人大阪府建築士事務所協会
    株式会社古木屋 立野 弘憲氏

    世界有数の地震大国・日本

     日本の面積は世界の0.25%、人口は1億2,000万人です。これほど小さく人口密度の高い国土に、世界中の地震(M6以上)の約21%が集中しているわけですから、日本の地震リスクは世界有数の高さです。
     日本で発生する地震には、東日本大震災のような海溝型と、阪神大震災のような内陸直下型の2種類があります。長周期で揺れる海溝型に対し、内陸直下型の揺れは短周期で激しく、木造住宅にとって脅威です。
     また、大地震が頻発する活動期と比較的少ない静穏期が、50~100年周期で繰り返すのも特徴です。過去100年では20世紀前半が活動期、後半が静穏期とされていますが、阪神淡路大震災(1995年)・鳥取西部地震(2000年3)以後は再び活動期に入った模様です。
     度重なる大地震は、建築基準法の耐震基準改正につながっています。現行法では、1950年(制定時・旧耐震基準)、1981年(新耐震基準)、2000年が大きな節目です。1981年には耐震力を高める壁量の増加、2000年には接合部の強度向上が新たに導入されました。

    木造住宅の4つの弱点とは

     日本の木造住宅は、地震に対して4つの弱点を持っているといわれます。順次ご説明します。
    ○壁量が少ない
     誤解されがちですが、住宅の耐震力は柱ではなく、壁量で決まります。特に新耐震以前の住宅の多くは壁量が少なく、耐震力不足が懸念されます。(図1)
    ○壁構造のバランスが悪い
     住宅には重心と剛心(耐力壁の剛性の中心)がありますが、2つの間のズレ(偏心距離)が大きいと倒壊しやすくなります。日本の住宅は南向きに大きな開口部を取ることが多く、偏心距離が大きくなりがちです。
    ○接合部が弱い
     壁量増加を定めた新耐震の導入後、地震によって柱の根元が抜けるホゾ抜け被害が相次ぎました。分析の結果、強い壁にはそれに対応する強い接合部が必要だと判明。2000年の改正につながっています。(図2)
    ○材料・部材の劣化が多い
     年数の経った木造住宅は、一見正常に見えても、白アリや腐朽菌にやられている例があります。床の傾斜・雨漏り・基礎のひび割れなどは要注意です。

    建物耐震診断と耐震診断書

     当社では数多くの住宅の耐震改修を手掛けてきました。その前提となるのが的確な建物耐震診断です。
    ○建物居室調査
     古い住宅では施工図面がない場合も多く、実地見分による情報は貴重です。間取り(寸法)、各部屋の壁材の確認(材質・厚みなど)、開口部の位置・大きさ、柱の位置、雨漏り・結露などによる劣化、水回り部のタイル・目地のクラック、などが主なポイントです。
    ○建物外周調査
     屋根瓦の割れ・ズレ、棟線の下がり・波打ち、バルコニー取付け部のクラック、外壁のクラック(長さ・深さ)、基礎部換気口の状況、基礎のクラック(長さ・深さ)、戸袋裏の仕上げ状況などを確認します。
    ○小屋裏調査
     躯体構造がよく見える箇所です。筋交いの有無、柱頭・柱脚金物の確認、羽子板ボルトの有無・サビ・緩み、火打梁の確認、火打ちボルトの有無・サビ・緩み、雨漏りなどによる劣化を重点的に点検します。
    ○床下調査
     小屋裏と並ぶ重要箇所です。筋交いの有無、柱頭・柱脚金物の確認、基礎鉄筋の有無、基礎のクラック、蟻害・腐朽による劣化などは、特に要注意です。
     調査が終わったら、耐震診断書を作成します。安全の目安は総合評点1.0。これを下回る住宅ほど、地震(特に震度6以上)による倒壊の危険性が高まります。また、診断書には「東西方向の壁量が25%不足」などの情報が数値で明記されています。これを検討することで、効果的な補強計画につなげることができます。

    補強計画作成のポイント

     木造住宅の倒壊は壁(特に1階)の変形に起因します。したがって、基礎に問題のある家屋でも、壁補強を優先するのが鉄則です。併せて補強箇所の引き抜き力を計算し、適切な接合金物を選定・施工します。
     補強箇所としては、出隅の壁よりも中間壁の補強を優先します。また、連続壁の補強や押入・納戸の活用を優先し、工事コストを少しでも抑えます。その他、2階が乗っている壁の補強や、出隅の柱のホゾ抜け対策も重要なポイントです。
     上記の補強だけで目標評点に達しない場合は、建物の軽量化、壁の新設、基礎の補強なども検討します。特に屋根の軽量化は、耐震性能を1.27倍向上させる効果があるため、実施をお勧めします。(図3)
     建築に携わる者として、自分が設計・施工した建物で人が命を落とすことがあってはなりません。今後とも住宅の耐震性能向上に貢献したいと考えています。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -