講演会 講演録

  • 2021年8月26日
    建築のデザインについて
    (KENTEN2021特別講演)
    協力:公益社団法人大阪府建築士会
    株式会社イワギシ
    取締役 岩岸 克浩氏

    建築物省エネ法の概要と改正点

     2021年4月から、改正建築物省エネ法(「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」)が完全施行されました。これは、2030年度までにCO2などの排出量を2013年比25%削減するというパリ協定の目標達成のために導入されたものです。下記参考資料をもとに、大まかな内容をご紹介します。
     建築物省エネ法では、建築物を住宅と非住宅に分け、それぞれを大規模(床面積2,000m2以上)・中規模(同300m2以上2,000m2未満)・小規模(同300m2未満)に分類。6つのカテゴリーごとに、以下のような対応を定めています。
    ○非住宅建築物の場合
    ・大規模(特定建築物):省エネ基準への適合判定(適判)を義務付け(適合義務)。適判をクリアしない場合、建築確認済証・完了済証が交付されず、着工もできないため、特に注意が必要。
    ・中規模:着工の21日前に所管行政庁に対する省エネ計画の届出を義務付け(届出義務)。不適合の場合、所管行政庁が指示・命令などを行う。
    ・小規模:省エネ基準への適合に努力することを義務付け(努力義務)。
    ○住宅の場合
    ・大規模・中規模:届出義務の対象。
    ・小規模:努力義務の対象。

    「改正建築物省エネ法」の主なポイントなど

    ○非住宅建築物の場合
    ・中規模:届出義務の対象から適合義務の対象に移行。
    ・小規模:努力義務に加え、建築士から建築主に対して、省エネ基準への適否などの説明を行うことを新たに義務付け(説明義務)。
    ○住宅の場合
    ・大規模・中規模:届出義務の対象(改正前と同じ)。ただし、不適合建築に対する指示・命令などを強化。
    ・小規模:努力義務および説明義務の対象。(図1)
     適合義務が中規模建築物(住宅以外)にも拡大されたのは、このカテゴリー全体のエネルギー消費量が多いためです。同じくエネルギー消費量が多い小規模住宅も、いずれ適判対象となることは必至と思われます。
    ○計画変更や増改築への対応
     適合義務の対象建築物で建築確認取得後に建築計画を変更した場合、適判を受け直すか、軽微な変更説明書などの作成・提出が必要です。手続きをせず、完了検査で設計図書通りでないと判断された場合は、検査済証が発行されない恐れもあるのでご注意ください。
     また、既存建築物を増改築して省エネ適判を受ける場合、既存部分のBEI(一次エネルギー消費比率、基準は1.0)を1.2と仮定し、新旧部分の面積按分で全体のBEIを算出することが定められています。
     なお、建築物省エネ法の内容・手続き・講習などの情報は、国土交通省の専用HPで公開されています。

    建築物省エネ法の計算および申請方法

     省エネ適判では建物全体のBEIの算出が求められますが、建築研究所HP掲載のプログラムを利用することで必要なデータが得られます。おおまかな手順は、1)建築研究所HPの該当ページで、申請建築物の概要に合った「モデル建築法入力シート」(エクセル版)をダウンロード→建物概要・仕様を入力し、CSVデータとして出力 2)同じHPの「モデル建物入力支援ツール」を立ち上げ、CSVデータを入力 3)出力されたPDFデータを他の書類とともに申請、となります。なお、このプログラムは頻繁に改定されますので、必ず最新版を使ってください。(図2)
     戸建住宅の場合、BEI基準に加え、UA値(外皮平均熱貫流率)とηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)に基づく外皮性能基準もクリアする必要があります。計算ルートは4つありますが、いずれも建築研究所HP掲載のプログラムで算出可能です。
     共同住宅では、住戸ごとに外皮基準の適合性を判定した上で、全住戸と共用部の合計でBEIの適合性を判定します。ただし、あまりにも複雑なため、基準をフロアごとに簡略化した簡易評価方法(フロア入力法)も導入されています。計算手順は上記と同じです。
     なお、非住宅建築物では外皮性能は問われません。しかし、外皮性能を高めることはBEIの向上にも寄与するので、検討をお勧めします。評価基準は、ペリメータゾーン(建築物の窓や外壁に面するゾーン)の年間熱負荷計数(PAL*)の元に外気に面する部分の断熱性能を向上させることが重要です。(図3)
     省エネ設計の実際については、下記の出版物が参考になります。住宅メーカーや素材メーカーのHPにも有益な情報が多いので、併せてご参照ください。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -