講演会 講演録

  • 2019年6月7日
    GDP 1.8 兆米ドルを誇る「粤港澳大湾区 広東・香港・マカオグレーターベイエリア」を知る!
    (KENTEN2019特別講演)
    香港貿易発展局 大阪事務所 マーケティング・マネージャー リッキー・フォン 氏 

    香港貿易発展局HKTDCとは

     香港貿易発展局HKTDCはその名のとおり、香港の対外貿易促進組織です。日本でいえばJETROに相当する団体ですが、違うのは自国製品の輸出を促すだけでなく、他国からの輸入推進にも力を入れている点です。おたくの国の製品をどんどん売り込んでください、投資もたくさんしてください、という立場です。
     GDP構成を見ると分かるのですが、香港には製造業も資源もほとんどありません。GDPの大半は貿易です。貿易で成り立っている地域だからこそ、輸入にも輸出にも力を入れているわけです。
     香港の人口は約740万人。面積は札幌市とほぼ同じ約1,100km2ですが、開発可能面積はわずか400km2ほどです。一方、個人の豊かさを示す一人当たりGDPはここ数年上昇を続け、2018年は48,958米ドル。小さな都市ですが、暮らしは豊かだということです(図1)。
     香港にとって日本は、中国・米国・台湾に次ぐ4番目の貿易相手国です。約500億米ドルにのぼる対日貿易総額は香港の輸入超過ですが、輸入された品物は、農水産物であれ真珠であれ、多くが中国などへ再輸出され、新たな利益をもたらします。これは日本の輸出品の品質が高いからできることです。また、日本の輸出が多いときは訪日香港人も増える傾向があり、昨年の訪日香港人は約220万人、約3人に1人に上りました。

    世界三大ベイエリアをしのぐ「粤港澳大湾区」

     世界の三大ベイエリアといえば、東京湾・サンフランシスコ湾・ニューヨーク湾ですが、4つ目になるのが、広東(粤)・香港(港)・マカオ(澳)を結ぶ「粤港澳(えつこうおう)大湾区」です。面積・人口・年間貨物取扱量(空港・コンテナ)などは三大ベイエリア以上、予想GDP約1.8兆米ドルは、インドネシア一国分に匹敵する巨大市場です。
     世界最大の海運・空運ハブ機能、生産拠点としての条件が完備していること、金融センターの優位性、という3つの強みを持つ「粤港澳大湾区」には、香港のほか、広東省の9つの市とマカオが含まれます。それぞれの位置付けを簡単にご紹介しましょう(図2)。
    ○広州:空路・陸路のハブであり、技術の集積地です。香港との結び付きも強いものがあります。
    ○仏山:家具産地として知られてきましたが、今後はロボット・AI産業の集積が見込まれています。
    ○肇慶(ちょうけい):ベイエリア西南の玄関として、低コストの生産拠点としての発展が期待されています。
    ○深圳:EVメーカー・BYEやファーウェイなどが本拠を置く「中国のシリコンバレー」。近年はAI・ITを使った新産業創出に力を入れています。
    ○東莞:製造業が集まる「世界の工場」であり、若手起業家のイノベーション基地です。
    ○恵州:情報通信技術の集積地である一方、エコやグリーンシティへの取組みも始まっています。
    ○珠海:港珠澳大橋が完成したこともあり、香港のサブポートとしての発展が予想されています。
    ○中山:珠海と同じく、香港・マカオ・深圳を結ぶ物流ハブとしての役割が期待されています。
    ○江門:広東省の副省都となることが計画されており、政府の積極的な投資が見込まれます。
    ○マカオ:観光業やMICE機能が充実。ポルトガル語圏とのリンケージでも注目されています。
     「粤港澳大湾区」では昨年、中国版新幹線や港珠澳大橋などの交通インフラが整備され、地域の一体化が急速に進みました。特に、エリア内のどの市へも1時間圏内にある香港では、地域会社の設置などがますます盛んになっております。

    香港における再開発プロジェクト
     一方、香港市内でも3つの再開発プロジェクトが動き出しています。以下、簡単にご紹介しましょう。
    ○西九文化区:West Kowloon Cultural District
     昨年、中国版新幹線の終着駅「香港西九龍」駅が誕生した西九龍地区・約40haを、アートと文化の融合拠点として再開発するもの。総開発額は216億香港ドル以上と見込まれています。
    ○九龍東:Energizing Kowloon East
     かつて都市型工業地域だった九龍東地区約194haを、中心業務地区(CBD)として再生中です。「最もスマートなシティ」をテーマに、環境に配慮した建材・設計・交通システムなどが導入される予定です。
    ○啓徳:Kai Tak Development
     旧・啓徳空港跡地約320haに、11万トン級の客船が接岸できるクルーズ・ターミナルや、病院、スポーツ複合施設、約12万人分の住居、約86,000人が働ける商業施設・公共施設などが整備されます。グリーン技術やスマート・コミュニティ技術の導入が期待されており、今後の開発モデルになると見られています。
     ちなみに2017年1月の香港行政長官の市政方針演説では、2028年までに約55万4,000戸の住宅を供給する方針が打ち出されました。このうち民間供給分約9万4,000戸の大半は富裕層向けになると予想されており、日本のエコ建材や空間設計にも好機となりそうです。

    「2030+ 香港」に向けて

     さらに香港では、2030年以後に向けた2つの開発プロジェクトが動いております。その1つ・ELM(East LantauMetropolice)は、香港最大の島・ランタウ島東岸に浮かぶ3つの無人島周辺を埋め立て、約1,700haの都市をつくるもので、政府投資額は史上最大の約6,240億香港ドル(約8.8兆円)に上る予定です。将来的な街の規模は約40万戸・約110万人、就業人口は34万人と予想されています(図3)。
     もう1つのNTN(New Territories North Development)は、従来ほとんど手つかずだった香港北部を開発し、住宅・高付加価値物流ハブ・各種研究開発拠点やグリーン産業などの育成拠点をつくるもの。開発可能面積は約720haで、将来は人口約25万5,000人の街と約21万5,000人の雇用が生まれるとされます。これらの計画によって、2043年に822万人まで増えると予想される香港の人口を吸収するとともに、新たな雇用につなげようというのが、香港の基本方針です。

    日本の「和」を香港へ、更にその先へ
     HKTDCでは日本企業の皆様に、暮らしや住宅における「和」の輸出をご提案しています。というのも、香港では和食・和文化が浸透しており、一部の富裕層の間では「和住居・和空間」を自宅に取り入れるのが、一種のステータスになっているためです。
     KENTENを主催する日本建築材料協会様が一昨年、香港の展示会に出展された際は、会場に設営したお茶室でのお手前が好評でした。HKTDCではこうした展示会場において、建築・建材関係のしかるべき人々(主要学会・業界関係者・大手企業役員など)を招き、日本側とのセミナーやVIPランチョン・ディスカッションなどの設定、人脈づくりや商談などのアレンジまでお手伝いしております。特にデザインや設計など、高い付加価値を持つ企業の方々はぜひ、香港市場への進出をお考えいただければと思います。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -