講演会 講演録

  • 2019年6月7日
    『うめきた2期地区』の再開発について
    (KENTEN2019特別講演)
    三菱地所株式会社 執行役専務 岩田 研一 氏 

    三菱地所のまちづくりの原点・丸の内

     「うめきた2期」のお話に入る前に、私たちのまちづくりの原点である「丸の内エリア」をご紹介します。
     丸の内エリアとは東京屈指のビジネスエリア、丸の内・大手町・有楽町地区の総称です。面積約120ha(延床面積約810ha)、人口約28万人、事業所数約4,300を擁するこのエリアには約100棟の建物が連なりますが、うち約3割が当社の所有・管理物件です。
     私たちにとって丸の内とは、約100年にわたる都市開発の実証実験の場でもあります。特に1998年以後の「丸の内再構築プロジェクト」では、「丸の内を世界一のビジネスセンターに」を合言葉に、13棟の超高層ビルを開発・整備し、今日に至っています。
     このプロジェクトでは、街全体の価値を高めるため、商業施設(飲食・物販)や高級温泉旅館、長期滞在者向けのサービスアパートメントなどさまざまな機能を誘致。さらに、日本最高となる高さ約390mのタワーが建設される「東京駅前常盤橋プロジェクト」(2018年1月着工)など、面としての丸の内の魅力向上に努めています(図1)。
     また、ベンチャー企業・インバウンド企業の育成・サポートを目指し、サービスオフィスの提供やエリア内の既存企業・金融機関とのビジネスマッチングなどを実施。環境負荷を低減し街の美観価値向上に貢献する皇居外苑濠の浄化や三菱一号館美術館(2010年開館)の運営など、環境・文化活動にも力を入れています。
     私たちは1995年の阪神・淡路大震災後、所有ビルの耐震力診断と強化を実施するとともに、首都圏直下型地震を想定した大規模防災訓練を毎年行ってきました。2011年の東日本大震災では多くのビルを開放し、一時避難所として毛布や食料を提供。その後も要救護者の保護体制の強化、電力と水の自立型システムの導入などを実施し、丸の内エリアの防災力強化に努めています。

    丸の内の経験を生かした「グランフロント大阪」

     丸の内における経験を生かし、大阪の新たなまちづくりに挑んだのが、「うめきた」地区の先行開発区域「グランフロント大阪」です。
     「うめきた」地区とは、JR大阪駅北側に隣接するJR梅田貨物駅の跡地(約24ha)です。私たちは2004年7月に策定された「大阪駅北(うめきた)地区まちづくり基本計画」に基づき、東側約7haにおいて、「グランフロント大阪」のまちづくりを推進してきました。開業から6年を経た今、年間来場者数は5,000万人以上、累計来場者は3億人を超えています。
     「大阪最後の一等地」と呼ばれる圧倒的なポテンシャルを持つ「グランフロント大阪」において目指したのは、「多様な人々の交流や感動との出会いが新しいアイデアを育む」まちづくり。そのビジョンは、オフィス・商業・ホテル・住まいという多様な都市機能が集積する4つのタワーの設計・デザイン、水と緑あふれるランドスケープデザイン、多様な人々の「知」「感性」「技術」の融合を促し、新たな価値創出を目指す「ナレッジキャピタル」などに生かされています(図2)。
     またエリアマネジメントについては、一般社団法人グランフロント大阪TMOが中心となり、まちの在住者・在勤者・一般来街者とともにまちを育てていく参加型のまちづくりを推進。その活動は、地区内の公共空間の一元管理と利活用、街ににぎわいを呼ぶ独自イベントの開催やオープンカフェの実施、エリア内交通サービス「UMEGLE」の運営など多岐にわたり、街ブランド形成や不動産価値の維持・向上に努めています。さらに約18種類に及ぶOOH(屋外広告)を駆使することで、エリアマネジメント財源を確保するとともに、まち全体を新たな情報発信拠点とする「街メディア」としても活用しています。

    2024年のまちびらきをめざす「うめきた2期」

     「うめきた地区」では、「グランフロント大阪」に続くまちづくりとして、「うめきた2期」の開発計画が進行中です。私たちは2020年秋ごろの本格着工を経て、2024年夏ごろの地区概成を目指しています。
     まちづくりの方針として示されたのが、「みどり」と「イノベーション」の融合です。多彩なものづくりの蓄積を持つ関西の中でも卓越した立地ポテンシャルを持つ「うめきた」地区において、単なる公園や緑地確保にとどまらない、世界に比類なき魅力を備える「みどり」の空間を構築すること。それが世界中から優秀な人材と資本を集積させ、都市・環境・人間との新しい関係性の中から創造的・革新的なイノベーションを生み出し、アジアのゲートウェイとしての大阪、関西、ひいては日本全体の国際競争力をもたらす──そのようなまちづくりが要請されました。
     これに対し、私たちが提案した事業コンセプトが「希望の杜─Osaka “MIDORI” LIFE 2070の創造─」です。それは、「みどり」の自然の営みが人々のインスピレーションを促し、産業・文化のイノベーションを生み出すとともに、一人一人にとっての幸せな人生=QOLの実現を可能とする杜です。その実現には、日本の四季を感じさせるみどりと多様性に富んだランドスケープの形成や、職・遊・学・住が一体化したまちづくり、きめ細やかで継続性のあるタウンマネジメントなどが重要となります。以下では、私たちの事業計画を、5つの要素に分けてご紹介します。
    ●都市空間
     「うめきた2期」全体を多様性を持ち活力を生み出す「みどり」の大地と見立て、新産業創出の拠点としての北街区と国際交流拠点を目指す南街区とにゾーニング。職・遊・学・住・泊などの都市機能や、コンベンション施設・市民交流施設などを配置します。また、まちのシンボル空間として、東西を貫くにぎわい軸と南北を結ぶシンボル軸を設けます(図3)。
    ●「みどり」
     未来へのひらめきと原動力となる「みどり」が文化・経済活動と一体化した新たなライフモデル「”MIDORI”LIFE」を発信します。そのために、「みどり」と「イノベーション」の融合を生む「共創キューブ」の設置・運営や、公民の「みどり」の長期的・一体的で寛容的な運営などを提案しています。
    ●中核機能
     「共に考え、一緒に創る“with”イノベーション」をコンセプトに、シーズとニーズを「みどり」が結び付ける「うめきた共創エコシステム」を構築。「グランフロント大阪」の先行実績やネットワークを土台に、内外の研究者・起業家・市民が共創するイノベーションシティ・大阪を発信します。
    ●マネジメント
     新たなタウンマネジメント組織MMOが、まちを一体的に管理・運営。公民の垣根を超えた「みどり」の管理やグランフロント大阪での実績を活かした公園でのイベント実施等を提案しています。
    ●環境防災
     持続可能な開発目標(SDGs)の観点を取り入れ、環境と防災を包括したまちづくりを提案。環境負荷を低減するシステムの導入、災害共助体制の構築と実践、BCP(事業継続計画)を視野に入れた自立分散型電源の導入などを進めていきます。
     2024年の先行まちびらきを目指している「うめきた2期」周辺では、2023年春のJR新駅開業、2025年の大阪万博など、大型プロジェクトが目白押しです。「うめきた2期」の誕生がその結節点となり、梅田、大阪、関西、さらに日本の発展の源となれるよう、私たちは今後もこのまちづくりに取り組んでまいります。

    *「うめきた 2 期」についての内容はすべて計画中のものであり、変更される可能性があります。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -