講演会 講演録

  • 2019年6月6日
    建築物の省エネについて~現在の状況と今後の展望~
    (KENTEN2019特別講演)
    協力:公益社団法人大阪府建築士会 

    株式会社イワギシ 取締役 岩岸 克浩 氏

    建築物省エネ法の概要

     「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(以下、建築物省エネ法)は、それ以前の「省エネ法」に対し、建設部門における省エネルギーの抜本的対策強化が必要であるとして打ち出されたものです。昨年から施行され、同時に建築物の確認申請と連動するようになりました。
     省エネ基準の適合義務は、現在延べ面積2,000㎡以上の非住宅つまり「特定建築物」に限られています。確認申請とも連動しているので、今や省エネ適判(適合性判定)をクリアした書類が整わないと確認申請が下りません。
     300㎡以上2,000㎡未満の建築物や住宅は、省エネ適合に関して書類の届出のみで大丈夫です(図1)。これらの規制はいわば「アメとムチ」のムチの部分で、代わりに税制優遇や容積の緩和を行うといったアメ部分もあります。

    非住宅だけでなく住宅にも求められる省エネ性能

     最終エネルギー消費の推移を部門別で見ると、産業部門は年々減少、運輸部門で横ばいを維持している一方で、業務部門と家庭部門では突出して増加していることが分かります。行政側とすればこの増加を抑えていきたい。そのために建築物省エネ法が動いているのです。省エネ法成立は1979(昭和54)年で、届出の義務化が発生したのが2003(平成15)年です。それから時を経て現在、義務が拡大し、2,000㎡以上は法に適合させなければならないようになりました。
     パリ協定を踏まえて、掲げられた住宅・建築物における地球温暖化対策の目標値は、CO2排出量で約40%、最終エネルギー消費量で約20%(5,030万kW)。目標達成のための方策は、新築建築物の省エネ性能の向上や既存住宅の断熱改修の推進などです。今までは非住宅だけでしたが、住宅にも波及する見込みです。
     これに対応するため、非住宅については2020年までに新築公共建築物などで、2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現を目指すことになっています。非住宅だけでなく住宅でも平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)実現を目指します。そして新築住宅・建築物について段階的に省エネルギー基準への適合を義務化していこうという流れになっています。

    一次エネルギー消費量と外皮性能による基準値

     省エネ基準は、一次エネルギー消費量と外皮の熱損失量が基準値を下回らなければなりません。つまりエネルギーを抑え、かつ高断熱の建築が求められます。省エネ性能向上のための取り組み例として、太陽光発電、高断熱のサッシやガラス、LED照明、高効率空調設備などがあげられます(図2)。
     次に建築確認および省エネ適合性判定の手続きの流れですが、確認申請の手続き→確認済証の交付→適合性の判定→施工→完了検査となります。適合性判定を受けた計画に変更を行った場合は、工事の着手前に変更届を出します。
     建築物省エネ法が適用される範囲は基本的に、外気に接する居室部分であるかどうかで判断します。要は外気に建物が触れるところには断熱材が必要と考えれば、ほぼ間違いなく性能向上が可能です。これは覚えておいてください。
     届け出るだけでよい300㎡以上の住宅・建築物の場合は、着工日の21日前までに省エネ計算書を届け出します。届出率は年々上昇しており、2017(平成29)年度の中規模の届出率は、住宅69.3%、建築物79.2%になっています。これだけの建物で省エネ基準の届け出がなされているということです。

    モデル建築法で算出した結果を用いて申請

     省エネ性能の計算は、通常「モデル建物法」を使います。モデルの建物にはモデルケースが想定されており、そこに建物の外皮や設備仕様を入力して算出した数値が、想定された基準値を下回れば合格です。数値はクラウド上で自動的に出されます。
     書式は国立研究開発法人建築研究所のホームページの「省エネ基準」をクリックすると「建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報」というページに移るので、「モデル建物法」を選んでエクセルシートをダウンロードします。毎年少しずつ変わるので、必ず最新版を使うようにしてください。
     ダウンロードしたエクセルシートに全て入力したら、「CSV出力」ボタンをクリックしてデータ出力します。次にモデル建物法入力支援ツール使用ページに飛び、CSV出力データを読み込ませて計算ボタンを押すと結果が出てきます。手間はかかりますが全く難しくありません。この計算結果を確認申請の書類に添付して提出します。住宅の場合は、ヒートブリッジに関する細かい計算が必要で非住宅とは全く異なるので注意が必要です。
     確認申請があれば当然完了検査もあります。一般社団法人住宅性能評価・表示協会のホームページにある「完了検査マニュアル」で完了検査の手続きや内容について詳しく示されています。
     実際の完了検査は、必要に応じて事前相談を行い、関係書類を提出してチェックを受け、申請時の書類との整合性が確認されます(外皮、空調、換気、照明など)。天井などで覆われる部分は、仕様、厚み、型番など写真で記録しておきます。完了検査時に追及されたときの証明になります。

    省エネ性能向上のための技術や取り組みはさまざま

     実は建築物省エネ法の一部改正が令和に入ってから成立しました。最大ポイントは面積の下限が2,000㎡から300㎡に見直されたこと。前段で説明した適合義務の対象がかなり拡大されることになりました。また戸建住宅で、設計者(建築士)から建築主に対して省エネ性能に関する説明が義務付けられることになりました。大手ハウスメーカーに対しては基準がさらに厳しくなっています。改正法は6カ月~2年以内に施行されます(図3)。
     また「アメとムチ」のアメの部分ですが、支援施策や優遇措置がいろいろとあります。建築主にとっては融資や税の緩和など有利なことが多いので、ぜひ活用していただければと思います(図4)。今後の展開はZEBとZEHが中心となるでしょう。活性化促進のために支援補助金も導入されています。
     省エネ性能向上のための取り組みや技術にはさまざまなものがあります。例えば遮熱塗料、外皮性能向上のための技術、樹脂窓などです。ビルダーの方々は、こういった技術や工法を取り入れ、あるいは支援や補助も狙いながら、省エネ性能向上のための開発を行っていってほしいと思います。

TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -TEKTON - 日本建築材料協会デザイン委員 -